【完結】落ちぶれ後天性アルファと踊り子オメガの小夜曲

柏木あきら

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欲望の街【ダスク】

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 その街はラスタ国首都の東側にあった。多くの人が行き交う歓楽街から少し外れた路地。街灯の電球が切れかかっていてチカチカする中、映し出されるのは客引きの肌を過度に露出した女たち。いや女だけではない。臀部が半分はみ出たようなショートパンツを着た男も通り過ぎる人々に媚を売っている。
 彼らを気にすることなく、黒のフェイスベールをつけたカークが歩いていると声をかけられた。
「そこの背の高いお兄さん、アルファでしょ? フェイスベールをしててもかっこよさが滲み出てるよ」
 勝手に腕を馴れ馴れしく組んできた男はまだ少年といった風貌だ。それなのに、腕を引っ張り自分の股間に慣れた手つきで押し付けてきた。スパイシーな安っぽい香水の香りを至近距離で嗅いでしまい、思わずむせてしまう。
 香水と動物の肉の焼ける匂い、タバコそしてアルコール。なんとも言えない匂いがこの街の夜に充満していた。
「……手を離してくれないか」
 カークは明らか様に嫌な顔を彼に向けると、ねっとりとした夏の風がフェイスベールをまくった。ベールの下の顔を見た彼は目を見開き、素直に腕を離した。さっきまでのヘラヘラした顔が嘘のように怪訝な顔つきとなる。
「なんだあ、よく見たら『落ちぶれアルファ』じゃないか。愛想よくして損した。とうとうこの街に来たんだね」
「……」
 彼はカークを軽蔑の眼差しといやらしい顔つきで、煽るように大声で叫んだ。
「ようこそ、欲望の街【ダスク】へ!」

 【ダスク】は身分の低い者や貧困層の人々がたむろし、泥酔者による暴力事件が多発するため一般人からは敬遠されている。そんな街で体を売るのはオメガが大半で客はほとんどベータだ。アルファがこの街を好んで歩くことはない。裕福な彼らは首都の西側にある一流の店や老舗がひしめく高級歓楽街を利用する。アルファであるカークもかつては数年前までその街で取り巻きたちに接待されていた。悪酔いすることのない、高級なぶどう酒に甘美な果物。街は清潔に保たれていて、ゴミ一つ落ちていなかった。以前のカークであればこの街に近づくことすらしなかった。だが今は西側の高級歓楽街に通っていたことが遠い過去のように感じている。
 先ほどの男はカークを煽ったあと、笑いながら走り去り路地裏へと消えていった。侮辱されることはもう慣れていたが香水だけはいつまで経っても慣れない。カークは匂いを消そうと頭を振る。そしてたまたま視線の先に街灯にぼんやりと照らされた扉を見つけた。黒みを帯びた赤色の扉。興味を持ったカークはまるで光に吸い寄せられる蛾のようにそれに向かって歩いた。
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