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接見
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「……三年だ。【リナッシタ】の事故原因追求および新薬を開発する時間はそれだけだ」
【リナッシタ】を開発したとはいえ、それすら五年はかかった。三年で出来るはずもない――後方で話を聞いていたミズキは息を呑む。しかし反論は許されない。むしろよく三年も研究塔を使わせてもらえるものだ、と感謝せねばならないだろう。
「承知しました。必ずや実行いたします」
「……お前の頭脳が必要だと、ミズキがうるさくてな。――だが研究塔も魔法塔もお前の存在はタブーだ」
つまりいないものとして勤務しろということだ。もしカークを戻したことが知られたらきっと国王ですら、弾劾されるだろう。
「畏まりました」
一礼したあと顔を上げると、国王はカークを見つめ立ち上がる。その顔が少しだけ慈しむような眼差しに見えたのは気のせいだろうか。
接見の間から移動し研究塔へ向かう。人がほぼいない城城の奥へ進むにつれ、空気はどんどん冷たくなる。久々に嗅ぐ薬草の香りが、懐かしい記憶を呼び覚まして最上階に到着すると扉の前でミズキが足を止めた。
「ここ、知ってるよね」
「……ああ。研究塔の軟禁部屋だろ」
この奥の部屋は寝泊まりができるようになっていた。その昔、ここで軟禁され新薬を開発したのちに過労で亡くなった研究者がいたという噂だ。道具も何もかも揃えてあり――つまり誰とも、顔を合わさずに済むのだ。
「身の回りのことは僕と信頼おける使いのものがやるから。あと君が戻ったことを知ってるのは魔法士のドニーだけだ。覚えてる?」
「ああ。首席だったな」
「いまは魔法塔の副責任者になってるよ。 彼がきみの居場所を秘密裏に探してくれたんだ」
「そうか。……ミズキ、ありがとう」
「何? お礼を言われるようなことをしたかな」
「君が俺を信頼してくれていたから、ここに戻れた」
研究塔での立場もあっただろうに。もしかしたらカークを庇うあまり、エリートコースを外れてしまったのかもしれない。しかし、ミズキは微笑しカークの手をとった。
「僕と君の仲じゃないか。当たり前だろ」
ミズキから鍵を受け取り部屋に入る。少しだけカビ臭さが残る部屋は出窓が一つある。窓の向こうには街が一望できた。朝日に照らされた街は煙突から煙が出ている。人々の活気が満ち溢れた風景。
だがその街の向こうには、今から眠りにつく【ダスク】がある。
【リナッシタ】を開発したとはいえ、それすら五年はかかった。三年で出来るはずもない――後方で話を聞いていたミズキは息を呑む。しかし反論は許されない。むしろよく三年も研究塔を使わせてもらえるものだ、と感謝せねばならないだろう。
「承知しました。必ずや実行いたします」
「……お前の頭脳が必要だと、ミズキがうるさくてな。――だが研究塔も魔法塔もお前の存在はタブーだ」
つまりいないものとして勤務しろということだ。もしカークを戻したことが知られたらきっと国王ですら、弾劾されるだろう。
「畏まりました」
一礼したあと顔を上げると、国王はカークを見つめ立ち上がる。その顔が少しだけ慈しむような眼差しに見えたのは気のせいだろうか。
接見の間から移動し研究塔へ向かう。人がほぼいない城城の奥へ進むにつれ、空気はどんどん冷たくなる。久々に嗅ぐ薬草の香りが、懐かしい記憶を呼び覚まして最上階に到着すると扉の前でミズキが足を止めた。
「ここ、知ってるよね」
「……ああ。研究塔の軟禁部屋だろ」
この奥の部屋は寝泊まりができるようになっていた。その昔、ここで軟禁され新薬を開発したのちに過労で亡くなった研究者がいたという噂だ。道具も何もかも揃えてあり――つまり誰とも、顔を合わさずに済むのだ。
「身の回りのことは僕と信頼おける使いのものがやるから。あと君が戻ったことを知ってるのは魔法士のドニーだけだ。覚えてる?」
「ああ。首席だったな」
「いまは魔法塔の副責任者になってるよ。 彼がきみの居場所を秘密裏に探してくれたんだ」
「そうか。……ミズキ、ありがとう」
「何? お礼を言われるようなことをしたかな」
「君が俺を信頼してくれていたから、ここに戻れた」
研究塔での立場もあっただろうに。もしかしたらカークを庇うあまり、エリートコースを外れてしまったのかもしれない。しかし、ミズキは微笑しカークの手をとった。
「僕と君の仲じゃないか。当たり前だろ」
ミズキから鍵を受け取り部屋に入る。少しだけカビ臭さが残る部屋は出窓が一つある。窓の向こうには街が一望できた。朝日に照らされた街は煙突から煙が出ている。人々の活気が満ち溢れた風景。
だがその街の向こうには、今から眠りにつく【ダスク】がある。
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