【完結】落ちぶれ後天性アルファと踊り子オメガの小夜曲

柏木あきら

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月光に照らされたアルファとオメガの物語

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 薄暗い部屋の中で二人は視線を交わした後、シチャが目を閉じそしてカークが口づける。甘く切ない口づけに思わず声が漏れた。
「ん…」
 もぞもぞと体をゆらしながら、やがてシチャがカークの体を抱きしめた。
「……こんなこといったら、嫌われてしまうかもだけど」
「なに?」
「あと少しで、ヒートがくるんだ。だけど、僕がヒートになる体の前に……」
 そこまで言うと、今度はカークがシチャの手を握ってきた。その手が熱い。シチャの言わんとしていることが分かったからだ。カークもいつかは体を重ねたい、と思っていたがこんなに早く願いが叶うとは。しかし無理は禁物だ。
「……いいのか? 急ぐことはない――」
「お願い、カーク」
 シチャはカークの頬をゆっくりと指でなぞる。ゾクゾクっと体が粟立つ。
「……あなたと、で繋がりたいんだ」
 誘うその瞳にカークはもう抗えない。もう一度口づけたあと、耳朶に舌を這わせながら胸元を弄り始めた。
「俺も触れたかったよ、ずっと」
「嬉しい……あ……っ」
 胸元の突起に手が触れた時、シチャが思わず身をくねらせた。その後もカークが触れるたびに彼は全身を震わせる。
 元々感じやすいのか、自分が触れているからなのか。それはあえて聞かないことにした。どうしても拭えない、今まで触れてきたであろう客やルモンドの影。だがそれを口にしてしまえばシチャは深く傷ついてしまう――。
 だからカークは心に決めた。過去を上塗りして忘れてしまうくらい――俺が深くたくさん愛してやる。
「んんっ……そこ、だめ……」
 乳首を舐めながらシチャのそそり立つものを手にして扱く。先端を突くと小さく抗う仕草を見せた。これから知ることになるであろう、彼の『弱いところ』にカークはゾクリとしながらシチャの言葉と真逆にそこを執拗に攻めていく。
「だめ、じゃなくて、好きなんだろう?」
「……意地悪っ」
 そう言うと、シチャは魚のように体を痙攣させ、カークの手の中には生暖かい白濁した液体が流れた。
 そして、シチャの艶めかしい姿にもう我慢の限界と言わんばかりに、カークは羽織っていた衣服を脱ぎ捨てる。自分のものとは比べ物にならないほど大きく血管が浮き出したカークのそれを目の当たりにしてシチャは息を呑んだ。
「痛くないように、優しくするつもりだけど……」
 青い瞳が野獣のように鋭い視線を見せた。いつも冷静なカークが感情を露わにしている。それをさせているのは、他でもない自分なのだ――シチャは手を伸ばしカークの顔を引き寄せ口付けた。
「優しくなくてもいいから……深くたくさん愛して」
 後孔を指で解している間にもシチャの甘い声にカークはたまらず何度も彼の褐色の肌に噛み付いた。やがて充分に潤った孔に自分のそれを擦り付ける。シチャはカークの体を挟み込むような格好で挿入される様子を、潤んだ瞳でみつめ……
「あ、ああっ」
 ヌルリと侵入してきたカークの熱いそれを感じ、思わず大きな声を出す。ゆっくりと腰を動かすと水音と共に先ほどよりも大きな快楽が体を支配していく。
「んっ……はあ……ッ」
 激しくなっていく動きにシチャはたまらなくなりカークにしがみつく。その様子にカークは満足げに微笑む。
「気持ちいい?」
「気持ち、いい……」
 キュウウと締まるシチャの中に危うく持っていかれそうになりつつ、さらに強く打ちつける。
「ひ……あああっ、やあ……っ、激し……ッ」
 シチャは堪えきれず、背を反らせた。カークの動きがさらに深く届く。ふたりとももう余裕がない。室内に響く音は肌同士が打ちつける音と、出し入れする粘膜の音。そして甘く蕩けそうなシチャの嬌声だ。
「カーク、もぅ、僕……イッちゃう」
「俺もだ……ッ」
 二人は繋いだ手をギュッと繋いで――カークが最奥に腰を振った瞬間。
「あああ――っ……!!」
 ビュルっとシチャのものがあたりに放出され、その後カークが唸るような声を出して達した。そして気がつけばシチャの頬から涙が流れていた。息を整え、恐る恐るカークが尋ねる。
「大丈夫?」
「違うの、これは嬉しい涙。まさか本当にこうなると思ってなかったから――」
 三年前、廃墟での一度だけの口付け。それだけで充分だと自分に言い聞かせていたのに、まさか体を重ねるなんて。シチャの呟きにカークはおでこに口付けた。
「君に会えて本当によかった。――後天性オメガとアルファには番はできないと聞いているけど、俺にとってシチャは運命の――番だ」
 カークはそっとシチャのうなじに手を触れた。
「……噛んでもいいかな」
「うん。カークに噛んで欲しい」
 そっとカークが口を当てて歯を立てる。ガリっと音がしたとき、シチャは痛みを感じだがそれ以上の多幸感が体を包み込んだ。
 あなたは僕の――大切なひとだから。うなじの痛みはカークの深い愛情の証。いつまでもそばにいて欲しい。繋いでいた手を強く握り返した。

 カークとシチャが城を訪れたのはそれから数週間後。城を訪れるにあたり民族衣装を新調したシチャはアイボリーのマントを身につけている。伸びた赤い髪は後ろでくくり、二十七才の青年らしい精悍な顔つきになっていた。城にある庭園のベンチでカークはドニーとミズキにシチャを紹介した。
「見事な赤髪だね、僕の周りにはいないから新鮮だ」
 城の研究塔の関係者、しかも役員であるミズキに話しかけられて、シチャは若干慌てて頭を下げる。
「それにしても――よくこの国を出ることを決意したね」
「――はい」
 『一緒に住むなら、いっそのこと旅をしながら暮らさないか』そんな提案をしてきたのはカークからだった。それはいままで【レイヴン】と自分の部屋しか知らなかったシチャに色んな街を見せてやりたいという思いからだった。
 街を転々として――気に入った場所に落ち着いたらそこで暮らそう。その提案にシチャが断る理由はなかった。
 しばらくシチャとミズキが話しているとドニーが窓辺にいたカークに話しかけてきた。
「ハルカス国王からだ。自分の故郷にもちゃんと戻るようにと」
「……そうか」
 自分の意思で来たとはいえ、十五才のカークをひとりこのラスタ王国へ連れてきてあのような事件に巻きこんでしまったことに国王は罪悪感を持っているようだ。
「それと、たまにはここに帰ってこいと」
 その言葉に胸の奥が熱くなる。色んなことがあり自暴自棄にもなったがいま、こうしてシチャに出会えた。それもここに来たからなのだ。
「国王に伝えてくれ。ラスタ王国で暮らせて、幸せでしたと」
 金色の髪が風に靡く。カークの穏やかな笑顔を見てドニーも口元を緩めた。

 月が大きく輝く夜。鳥の鳴き声しかしない森の奥の湖畔で二人は踊る。カークの腕がシチャを支え体を密着させて。青い瞳がシチャを優しく見つめるとそっと背伸びをして唇を重ねた。シチャの腰を強く引き寄せ抱きしめ、二人のダンスは中断された。
「……今夜は、ここまでだ」
 月光に照らされたシチャの体を慈しむように触れる。それがくすぐったくてシチャは思わず笑う。
「――ねぇ、カークの故郷はとても良いところだね」
「そうだろう。この湖畔はお気に入りだったんだ」
 カークの小さな頃を想像しながら、シチャは月を仰ぎ見た。月光は湖面を輝かせあたり一面青白く照らされている。どこからか風が吹いて赤い髪を揺らした。
「この景色を、シチャに見せることができて嬉しいよ」
 カークはシチャの手をそっと握る。するとシチャは強く握り返した。多くの人に翻弄された人生だったが、これからは愛しいカークがいる。なんと幸せなことか。
「ありがとう、カーク」
 シチャの太陽のような笑顔は月に照らされ一層輝いていた。

 【了】
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感想 7

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みんなの感想(7件)

yuーchi
2025.11.30 yuーchi
ネタバレ含む
2025.11.30 柏木あきら

ずっと追っかけていただき、ありがとうございました!そして素敵な感想、嬉しいです!いままで切ない系の話をあまり書いていなかったので、難しいなと思いつつ、書き上げることが出来て自信につながりました( ´∀`)ほんと、みんな幸せになりますように…!

解除
yuーchi
2025.11.29 yuーchi

前話のシチャの最後のセリフでどうなってしまうかと思ったわ。二人とも苦しい想いがずっとあったけど素直な気持ちを伝えられてよかった。

2025.11.29 柏木あきら

言葉にするということの大切さを二人は気がついたんだろうなあ、と…
ほんと良かった!

解除
yuーchi
2025.11.27 yuーchi

真実が明らかになってよかった。新薬に関してカークの名前は出さないとのことだけど本人納得済みだものね。目的はあくまでもシチャを救うこと。今、どうしてるんだろう。大丈夫かな。ミズキの想いが切ないね。気づいているかもしれないドニーの優しさに心があたたまりました。これから二人が引っ張って頑張っていってほしいです。

2025.11.28 柏木あきら

ドニーはいい奴だから言葉にせずに支えていくだろうね〜
次は研究塔編から最終編になります!お楽しみにー、

解除

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