4 / 12
4.
しおりを挟む
咄嗟に思いついてそう言うと少年が気の毒そうな顔をしてきたので、いたたまれなくなる。
「だから、色々ここの世界……じゃなかった、国のこととか教えて欲しいんだ」
そう言うと、少年はコクリと頷いた。そして扉を開けて外に出るよう促す。
「家、来たらいいよ。ここは家畜の小屋だから」
「家畜……」
二人は小屋を出て、砂浜を歩いていく。その間、少年はポツリポツリと話はじめた。
少年の名前はアピチェ、年齢は十七歳で潤より十歳年下だった。十七歳の割には童顔のアピチェは今、城の護衛兵として働いている。この国、【カゼマーキ王国】にはユウ三世が君臨しており、昔は隣国などと争いもあったが今は平和に皆暮らしていると言う。ユウ三世の外交手腕と、大臣たちの政治手腕によるものだった。しかし平和とはいえ、まだ護衛兵など兵士がいるあたり、油断はできないのだろう。二人が街に入り歩いていると馬に乗った騎士を目にしたり、城の近くで護衛兵を見かけた。
それにしてもアピチェの年齢で護衛兵になるなんて早いなと潤が言うと、アピチェは不思議そうに答えた。
「十五になったら成人の儀式を行って、大人としてみなされるよ。親と分かれて生活して生計もたてるんだ」
「はや」
十五歳といえば中学生。まだまだ親に甘えていた時期なのにな、と潤は思いながらアピチェの横顔を見た。こんがり焼けた肌は、城の外にいるからだろうか。腕の刺青が焼けた素肌にくっきりと浮かび上がる。その白の刺青は護衛兵の証だという。
カゼマーキ王国の陽射しは厳しくて、まるで赤道直下の国のようだ。街の様子はまるで昔、やっていたロールプレイングゲームの様な感じで潤はキョロキョロ辺りを見回した。賑やかな街を抜けて、少し緑の多い丘が見えてきた頃。
「着いたよ」
ようやく足を止めたアピチェが指差した先に煉瓦造りの家があった。アイアンの取っ手を持って扉を開けて中に入る様にアピチェは手招きした。家の中はリビングにあと2つ部屋がある。一人で住むには十分な広さだ。
「座りなよ。疲れたでしょ」
そうアピチェに言われて目の前のソファを腰掛けた。そんなに柔らかくないソファだが、疲れ果てていた潤にとっては羽毛のような癒しだ。眼鏡を取って目頭を指で押していると、アピチェがジッと顔を見つめていた。不思議に思っていると視線が眼鏡にあることに気づく。
(眼鏡が珍しいのか)
「かけてみる?」
手にした眼鏡を、アピチェに渡すと、みようみまねで自分の耳に眼鏡をかける。オッドアイがフレームの奥で揺れていた。
(なかなか似合うな)
潤がそう言おうとした瞬間、アピチェはフラフラと千鳥足になって、その場に座り込んだ。どうやら眼鏡の度数が目に合わず目眩を起こしたのだろう。裸眼でも過ごせる潤の眼鏡はそんなに度数が高くないはずなのだが。
アピチェは慌てて、眼鏡を外して周りを見渡した。それを見て潤は思わず吹き出す。
「潤、これ魔法?」
「ごめんごめん。キツかったな」
笑いを堪えながら、潤はアピチェから眼鏡を受け取った。不思議そうな顔をしながら彼は立ち上がり台所に向かう。
こうして潤とアピチェの不思議な日常が始まった。
***
こちらにきて、潤は時間の概念がなくなった。
まず時計がない。日が上がり始める頃に起き、日が暮れる頃に夕飯をつくり、真っ暗になれば寝る準備をする。かと言ってこの国の人達が呑気に暮らしているわけではない。アピチェは朝支度をして城に『出勤』するし、市場のように野菜や魚を売っているところは、朝早くから開いている。夜も居酒屋のように灯りをつけた店があることを潤はあちこち散歩をしながら、知ったのだ。
「だから、色々ここの世界……じゃなかった、国のこととか教えて欲しいんだ」
そう言うと、少年はコクリと頷いた。そして扉を開けて外に出るよう促す。
「家、来たらいいよ。ここは家畜の小屋だから」
「家畜……」
二人は小屋を出て、砂浜を歩いていく。その間、少年はポツリポツリと話はじめた。
少年の名前はアピチェ、年齢は十七歳で潤より十歳年下だった。十七歳の割には童顔のアピチェは今、城の護衛兵として働いている。この国、【カゼマーキ王国】にはユウ三世が君臨しており、昔は隣国などと争いもあったが今は平和に皆暮らしていると言う。ユウ三世の外交手腕と、大臣たちの政治手腕によるものだった。しかし平和とはいえ、まだ護衛兵など兵士がいるあたり、油断はできないのだろう。二人が街に入り歩いていると馬に乗った騎士を目にしたり、城の近くで護衛兵を見かけた。
それにしてもアピチェの年齢で護衛兵になるなんて早いなと潤が言うと、アピチェは不思議そうに答えた。
「十五になったら成人の儀式を行って、大人としてみなされるよ。親と分かれて生活して生計もたてるんだ」
「はや」
十五歳といえば中学生。まだまだ親に甘えていた時期なのにな、と潤は思いながらアピチェの横顔を見た。こんがり焼けた肌は、城の外にいるからだろうか。腕の刺青が焼けた素肌にくっきりと浮かび上がる。その白の刺青は護衛兵の証だという。
カゼマーキ王国の陽射しは厳しくて、まるで赤道直下の国のようだ。街の様子はまるで昔、やっていたロールプレイングゲームの様な感じで潤はキョロキョロ辺りを見回した。賑やかな街を抜けて、少し緑の多い丘が見えてきた頃。
「着いたよ」
ようやく足を止めたアピチェが指差した先に煉瓦造りの家があった。アイアンの取っ手を持って扉を開けて中に入る様にアピチェは手招きした。家の中はリビングにあと2つ部屋がある。一人で住むには十分な広さだ。
「座りなよ。疲れたでしょ」
そうアピチェに言われて目の前のソファを腰掛けた。そんなに柔らかくないソファだが、疲れ果てていた潤にとっては羽毛のような癒しだ。眼鏡を取って目頭を指で押していると、アピチェがジッと顔を見つめていた。不思議に思っていると視線が眼鏡にあることに気づく。
(眼鏡が珍しいのか)
「かけてみる?」
手にした眼鏡を、アピチェに渡すと、みようみまねで自分の耳に眼鏡をかける。オッドアイがフレームの奥で揺れていた。
(なかなか似合うな)
潤がそう言おうとした瞬間、アピチェはフラフラと千鳥足になって、その場に座り込んだ。どうやら眼鏡の度数が目に合わず目眩を起こしたのだろう。裸眼でも過ごせる潤の眼鏡はそんなに度数が高くないはずなのだが。
アピチェは慌てて、眼鏡を外して周りを見渡した。それを見て潤は思わず吹き出す。
「潤、これ魔法?」
「ごめんごめん。キツかったな」
笑いを堪えながら、潤はアピチェから眼鏡を受け取った。不思議そうな顔をしながら彼は立ち上がり台所に向かう。
こうして潤とアピチェの不思議な日常が始まった。
***
こちらにきて、潤は時間の概念がなくなった。
まず時計がない。日が上がり始める頃に起き、日が暮れる頃に夕飯をつくり、真っ暗になれば寝る準備をする。かと言ってこの国の人達が呑気に暮らしているわけではない。アピチェは朝支度をして城に『出勤』するし、市場のように野菜や魚を売っているところは、朝早くから開いている。夜も居酒屋のように灯りをつけた店があることを潤はあちこち散歩をしながら、知ったのだ。
0
あなたにおすすめの小説
給餌行為が求愛行動だってなんで誰も教えてくれなかったんだ!
永川さき
BL
魔術教師で平民のマテウス・アージェルは、元教え子で現同僚のアイザック・ウェルズリー子爵と毎日食堂で昼食をともにしている。
ただ、その食事風景は特殊なもので……。
元教え子のスパダリ魔術教師×未亡人で成人した子持ちのおっさん魔術教師
まー様企画の「おっさん受けBL企画」参加作品です。
他サイトにも掲載しています。
天使のような子の怪我の手当てをしたら氷の王子に懐かれました
藤吉めぐみ
BL
12/23後日談追加しました。
=================
高校の養護教諭の世凪は、放課後の見回り中にプールに落ちてしまう。カナヅチの世凪は、そのまま溺れたと思ったが、気づくと全く知らない場所にある小さな池に座り込んでいた。
ここがどこなのか、何がどうなったのか分からない世凪に、「かあさま」と呼んで近づく小さな男の子。彼の怪我の手当てをしたら、世凪は不審者として捕まってしまう。
そんな世凪を助けてくれたのは、「氷の王子」と呼ばれるこの国の第二王子アドウェル。
冷淡で表情も変わらない人だと周りに言われたが、世凪に対するアドウェルは、穏やかで優しくて、理想の王子様でドキドキしてしまう世凪。でも王子は世凪に母親を重ねているようで……
優しい年下王子様×異世界転移してきた前向き養護教諭の互いを知って認めていくあたたかな恋の話です。
異世界から戻ってきた俺の身体が可笑しい
海林檎
BL
異世界転生で何故か勇者でも剣士でもましてや賢者でもなく【鞘】と、言う職業につかされたんだが
まぁ、色々と省略する。
察してくれた読者なら俺の職業の事は分かってくれるはずだ。
まぁ、そんなこんなで世界が平和になったから異世界から現代に戻ってきたはずなのにだ
俺の身体が変なままなのはどぼじで??
ヤンデレ王子と哀れなおっさん辺境伯 恋も人生も二度目なら
音無野ウサギ
BL
ある日おっさん辺境伯ゲオハルトは美貌の第三王子リヒトにぺろりと食べられてしまいました。
しかも貴族たちに濡れ場を聞かれてしまい……
ところが権力者による性的搾取かと思われた出来事には実はもう少し深いわけが……
だって第三王子には前世の記憶があったから!
といった感じの話です。おっさんがグチョグチョにされていても許してくださる方どうぞ。
濡れ場回にはタイトルに※をいれています
おっさん企画を知ってから自分なりのおっさん受けってどんな形かなって考えていて生まれた話です。
この作品はムーンライトノベルズでも公開しています。
魔王に転生したら幼馴染が勇者になって僕を倒しに来ました。
なつか
BL
ある日、目を開けると魔王になっていた。
この世界の魔王は必ずいつか勇者に倒されるらしい。でも、争いごとは嫌いだし、平和に暮らしたい!
そう思って魔界作りをがんばっていたのに、突然やってきた勇者にあっさりと敗北。
死ぬ直前に過去を思い出して、勇者が大好きだった幼馴染だったことに気が付いたけど、もうどうしようもない。
次、生まれ変わるとしたらもう魔王は嫌だな、と思いながら再び目を覚ますと、なぜかベッドにつながれていた――。
6話完結の短編です。前半は受けの魔王視点。後半は攻めの勇者視点。
性描写は最終話のみに入ります。
※注意
・攻めは過去に女性と関係を持っていますが、詳細な描写はありません。
・多少の流血表現があるため、「残酷な描写あり」タグを保険としてつけています。
おすすめのマッサージ屋を紹介したら後輩の様子がおかしい件
ひきこ
BL
名ばかり管理職で疲労困憊の山口は、偶然見つけたマッサージ店で、長年諦めていたどうやっても改善しない体調不良が改善した。
せっかくなので後輩を連れて行ったらどうやら様子がおかしくて、もう行くなって言ってくる。
クールだったはずがいつのまにか世話焼いてしまう年下敬語後輩Dom ×
(自分が世話を焼いてるつもりの)脳筋系天然先輩Sub がわちゃわちゃする話。
『加減を知らない初心者Domがグイグイ懐いてくる』と同じ世界で地続きのお話です。
(全く別の話なのでどちらも単体で読んでいただけます)
https://www.alphapolis.co.jp/novel/21582922/922916390
サブタイトルに◆がついているものは後輩視点です。
同人誌版と同じ表紙に差し替えました。
表紙イラスト:浴槽つぼカルビ様(X@shabuuma11 )ありがとうございます!
惚れ薬をもらったけど使う相手がいない
おもちDX
BL
シュエは仕事帰り、自称魔女から惚れ薬を貰う。しかしシュエには恋人も、惚れさせたい相手もいなかった。魔女に脅されたので仕方なく惚れ薬を一夜の相手に使おうとしたが、誤って天敵のグラースに魔法がかかってしまった!
グラースはいつもシュエの行動に文句をつけてくる嫌味な男だ。そんな男に家まで連れて帰られ、シュエは枷で手足を拘束された。想像の斜め上の行くグラースの行動は、誰を想ったものなのか?なんとか魔法が解ける前に逃げようとするシュエだが……
いけすかない騎士 × 口の悪い遊び人の薬師
魔法のない世界で唯一の魔法(惚れ薬)を手に入れ、振り回された二人がすったもんだするお話。短編です。
拙作『惚れ薬の魔法が狼騎士にかかってしまったら』と同じ世界観ですが、読んでいなくても全く問題ありません。独立したお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる