ゲイバーを出て目覚めたら異世界でした

柏木あきら

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 咄嗟に思いついてそう言うと少年が気の毒そうな顔をしてきたので、いたたまれなくなる。
「だから、色々ここの世界……じゃなかった、国のこととか教えて欲しいんだ」
 そう言うと、少年はコクリと頷いた。そして扉を開けて外に出るよう促す。
「家、来たらいいよ。ここは家畜の小屋だから」
「家畜……」 

 二人は小屋を出て、砂浜を歩いていく。その間、少年はポツリポツリと話はじめた。
 少年の名前はアピチェ、年齢は十七歳で潤より十歳年下だった。十七歳の割には童顔のアピチェは今、城の護衛兵として働いている。この国、【カゼマーキ王国】にはユウ三世が君臨しており、昔は隣国などと争いもあったが今は平和に皆暮らしていると言う。ユウ三世の外交手腕と、大臣たちの政治手腕によるものだった。しかし平和とはいえ、まだ護衛兵など兵士がいるあたり、油断はできないのだろう。二人が街に入り歩いていると馬に乗った騎士を目にしたり、城の近くで護衛兵を見かけた。
 それにしてもアピチェの年齢で護衛兵になるなんて早いなと潤が言うと、アピチェは不思議そうに答えた。
「十五になったら成人の儀式を行って、大人としてみなされるよ。親と分かれて生活して生計もたてるんだ」
「はや」
  十五歳といえば中学生。まだまだ親に甘えていた時期なのにな、と潤は思いながらアピチェの横顔を見た。こんがり焼けた肌は、城の外にいるからだろうか。腕の刺青が焼けた素肌にくっきりと浮かび上がる。その白の刺青は護衛兵の証だという。
 カゼマーキ王国の陽射しは厳しくて、まるで赤道直下の国のようだ。街の様子はまるで昔、やっていたロールプレイングゲームの様な感じで潤はキョロキョロ辺りを見回した。賑やかな街を抜けて、少し緑の多い丘が見えてきた頃。
「着いたよ」
 ようやく足を止めたアピチェが指差した先に煉瓦造りの家があった。アイアンの取っ手を持って扉を開けて中に入る様にアピチェは手招きした。家の中はリビングにあと2つ部屋がある。一人で住むには十分な広さだ。
「座りなよ。疲れたでしょ」
 そうアピチェに言われて目の前のソファを腰掛けた。そんなに柔らかくないソファだが、疲れ果てていた潤にとっては羽毛のような癒しだ。眼鏡を取って目頭を指で押していると、アピチェがジッと顔を見つめていた。不思議に思っていると視線が眼鏡にあることに気づく。
 (眼鏡が珍しいのか)
「かけてみる?」
 手にした眼鏡を、アピチェに渡すと、みようみまねで自分の耳に眼鏡をかける。オッドアイがフレームの奥で揺れていた。
 (なかなか似合うな)
  潤がそう言おうとした瞬間、アピチェはフラフラと千鳥足になって、その場に座り込んだ。どうやら眼鏡の度数が目に合わず目眩を起こしたのだろう。裸眼でも過ごせる潤の眼鏡はそんなに度数が高くないはずなのだが。
 アピチェは慌てて、眼鏡を外して周りを見渡した。それを見て潤は思わず吹き出す。
「潤、これ魔法?」
「ごめんごめん。キツかったな」
 笑いを堪えながら、潤はアピチェから眼鏡を受け取った。不思議そうな顔をしながら彼は立ち上がり台所に向かう。
 こうして潤とアピチェの不思議な日常が始まった。

 ***

 こちらにきて、潤は時間の概念がなくなった。
 まず時計がない。日が上がり始める頃に起き、日が暮れる頃に夕飯をつくり、真っ暗になれば寝る準備をする。かと言ってこの国の人達が呑気に暮らしているわけではない。アピチェは朝支度をして城に『出勤』するし、市場のように野菜や魚を売っているところは、朝早くから開いている。夜も居酒屋のように灯りをつけた店があることを潤はあちこち散歩をしながら、知ったのだ。
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