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天使は甘いキスが好き
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自分に都合の良い様に、現実から眼を逸らした。これは『罰』なのだ。恵を、我が子からの信頼を裏切った報い。この忌々しい罪悪感の、拭い切れぬ絶望。
「倉木君。済まないがもう…」
太一の言葉を倉木が微笑んで遮る。
「部長、私妊娠しましたの」
「!?」
太一は息を呑んだ。
「ま、さか。私は」
「気付きませんでした? ゴムに小さな針で前以って穴を開けるぐらい、珍しくありませんわ」
太一は脚が震えるのを感じた。
ーーーな、にを、云ってるんだ? この女は? この女は今何を云っている?
足許が闇に紛れて蟻地獄に吸い込まれそうな錯覚を感じる。
「私、愛してますの。部長を。だから、あなたの子供を私に下さい」「そ、」
云い掛けて、言葉を呑んだ。エレベーターの扉が開いたのだ。倉木は優雅に降りると、自分のお腹に手を当てた。
「大人の秘密。ご心配無く。この子は私が育てますから」
倉木は微笑むと、閉まる扉に太一の蒼褪めた顔を一瞥した。
「まあ、お帰りなさい」
かおるは病室に入って来た太一に気付くと、読み掛けの本をサイドボードに置いた。今日は気分が良いのか、いくらか顔色が良い様だ。
「中々来れなくて悪い」
太一は小さなピンクの花束をかおるに手渡すと、かおるの頬にキスをした。かおるは嬉しそうに微笑んで、花束をサイドテーブルに置く。他の患者とはこの時間カーテンで区切られているが、太一は自ずと声を低くした。
「今日も残業だったの?」
「あぁ。でも出来の良い部下が揃っているから、今日は早く終わった」
「そう…無理はなさらないでね? そういえばついさっき恵達が帰った処なの。会わなかった? あの子試験勉強あるから来れないって云ってたけど、一緒が良いって伊吹が強請るみたい」
太一の横顔をかおるは見つめる。
「仕事大変なの?」
かおるの右手が太一の手に触れる。潔癖で心優しい男。それでいて寂しがり屋さん。
「私ね? 恵が頑張った褒美に手紙を書こうかと思うの」
太一は一抹の不安を覚えた。
「おいおい、なんか縁起悪いな」
「あら、どうして? いつも伊吹の面倒を見てくれているわ。素敵なお兄ちゃんよ? きっとあなたに似たのね? 面倒見の好い所」
かおるは微笑んで太一を見詰めた。面会時間のアナウンスが流れる。太一は腰を上げた。「おやすみ」を太一が云い、「おやすみなさい」とかおるが云う。額に頬に、唇にキス。太一は病室を後にした。パフュームの移りがを残して。かおるは胸に手を当て、枕に頬を押し付けた。二人のキスはそれが最後だと知らずに。
翌日。恵からのきついお達しで、『英治って奴には近付くな』の言葉に、伊吹の心はどんより雨雲状態。空はカラッと嫌味な程の晴天。
「どうしたの? 着いたわよ?」
十和子は自分の後ろに隠れて、保育園内に入ろうとしない伊吹を、困りかねて見下ろした。
こんな事は今までなかった筈だ。
「おはよう! いぶきっ」
同じクラスの【ばら組み】、成田克幸が伊吹の肩を抱き寄せた。伊吹はほっとして、漸く微笑が出る。恵からは、【英治】しか云われていない。と、いう事は成田克幸なら良いのだ。
「おはようございます、細川さん」
成田の母親が十和子に挨拶する。 克幸の母親は看護師をしている。
「おはようございます、成田さん。良かったわ、この子ったら珍しく園内に入らないの」
それは珍しいと云い、自分が伊吹を一緒に連れて行くからと十和子に云い、十和子は言葉に甘えて伊吹を頼んだ。
「ぐあいでもわるいのか?」
成田はいつもとは違う伊吹の様子に、首を傾げた。
「そうじゃないけど……」
伊吹は困って靴を脱ぐと、可愛い四段になった下駄箱に靴を置き、上履きに履き替えた。職員室から同じクラスの桃ちゃんが、伊吹達へと掛けて来る。
「ねぇ、きょうあたらしいおともだちが【ばら組み】にはいるんだって!」
「倉木君。済まないがもう…」
太一の言葉を倉木が微笑んで遮る。
「部長、私妊娠しましたの」
「!?」
太一は息を呑んだ。
「ま、さか。私は」
「気付きませんでした? ゴムに小さな針で前以って穴を開けるぐらい、珍しくありませんわ」
太一は脚が震えるのを感じた。
ーーーな、にを、云ってるんだ? この女は? この女は今何を云っている?
足許が闇に紛れて蟻地獄に吸い込まれそうな錯覚を感じる。
「私、愛してますの。部長を。だから、あなたの子供を私に下さい」「そ、」
云い掛けて、言葉を呑んだ。エレベーターの扉が開いたのだ。倉木は優雅に降りると、自分のお腹に手を当てた。
「大人の秘密。ご心配無く。この子は私が育てますから」
倉木は微笑むと、閉まる扉に太一の蒼褪めた顔を一瞥した。
「まあ、お帰りなさい」
かおるは病室に入って来た太一に気付くと、読み掛けの本をサイドボードに置いた。今日は気分が良いのか、いくらか顔色が良い様だ。
「中々来れなくて悪い」
太一は小さなピンクの花束をかおるに手渡すと、かおるの頬にキスをした。かおるは嬉しそうに微笑んで、花束をサイドテーブルに置く。他の患者とはこの時間カーテンで区切られているが、太一は自ずと声を低くした。
「今日も残業だったの?」
「あぁ。でも出来の良い部下が揃っているから、今日は早く終わった」
「そう…無理はなさらないでね? そういえばついさっき恵達が帰った処なの。会わなかった? あの子試験勉強あるから来れないって云ってたけど、一緒が良いって伊吹が強請るみたい」
太一の横顔をかおるは見つめる。
「仕事大変なの?」
かおるの右手が太一の手に触れる。潔癖で心優しい男。それでいて寂しがり屋さん。
「私ね? 恵が頑張った褒美に手紙を書こうかと思うの」
太一は一抹の不安を覚えた。
「おいおい、なんか縁起悪いな」
「あら、どうして? いつも伊吹の面倒を見てくれているわ。素敵なお兄ちゃんよ? きっとあなたに似たのね? 面倒見の好い所」
かおるは微笑んで太一を見詰めた。面会時間のアナウンスが流れる。太一は腰を上げた。「おやすみ」を太一が云い、「おやすみなさい」とかおるが云う。額に頬に、唇にキス。太一は病室を後にした。パフュームの移りがを残して。かおるは胸に手を当て、枕に頬を押し付けた。二人のキスはそれが最後だと知らずに。
翌日。恵からのきついお達しで、『英治って奴には近付くな』の言葉に、伊吹の心はどんより雨雲状態。空はカラッと嫌味な程の晴天。
「どうしたの? 着いたわよ?」
十和子は自分の後ろに隠れて、保育園内に入ろうとしない伊吹を、困りかねて見下ろした。
こんな事は今までなかった筈だ。
「おはよう! いぶきっ」
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「おはようございます、成田さん。良かったわ、この子ったら珍しく園内に入らないの」
それは珍しいと云い、自分が伊吹を一緒に連れて行くからと十和子に云い、十和子は言葉に甘えて伊吹を頼んだ。
「ぐあいでもわるいのか?」
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「そうじゃないけど……」
伊吹は困って靴を脱ぐと、可愛い四段になった下駄箱に靴を置き、上履きに履き替えた。職員室から同じクラスの桃ちゃんが、伊吹達へと掛けて来る。
「ねぇ、きょうあたらしいおともだちが【ばら組み】にはいるんだって!」
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