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天使は甘いキスが好き
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「ううん。なんか…呼ばれた気がした…」
「疲れてるんだよ。ソファーに横になって、少し寝とけ。約束通りカレーは俺が作るから」
恵は眠そうな眼で平片に微笑む。昨夜は、太一の事と、かおるの事でよく眠れなかった。
「悪い。じゃ…少しだけ」
欠伸をして、クッションに抱き付いて横になる。恵は直ぐに睡魔に誘われて静かな寝息を立てた。その時恵の携帯がテーブルの上で鳴る。
「ん…」
平片は恵を起こさない様に、直ぐ携帯に出た。着信表示に【龍之介】と出ていた。
「…もしもし?」
平片はぶっきら棒に電話に出る。場所を移動して自室へ向かった。電話の向こうで、一瞬息を呑むのが解る。内心高揚感を感じた。
【…君はさっきの?】
「あぁ、南川先輩でしたっけ? どうも先程は。恵に何か?」
【これは恵の携帯だ。何故君が出る?】
平片は大人の落ち着きとやらに苛付いた。平片が恵の携帯に出たのは驚いた様だが、その刹那、大人の匂いを醸し出して来た。不快に口角が下がる。
「恵は疲れて今寝てます。言伝なら聞きますが?」
【疲れて? 恵は具合が悪いのか?】
平片は肩を竦めた。
「知らないんですか? 恵は両親の事で悩んでるんですよ」
そんな事も聞いてないのかと、安易に言葉の中で響かせる。
【そうか。…後でまた電話すると伝えてくれないかい?】
「えぇ。俺が忘れて無ければね」
【今夜…恵は君の家に泊まるのか?】
平片は眼を細めた。
「えぇ。二人だけで。俺、恵の事本気ですから」
電話の向こうで、龍之介が押し黙る。
「解るでしょう? あなたは確か教育学部だと聞きました。将来は教師? 大人が子供に手を出しちゃまずいっしょ?」
【…俺は、恵を大切に想っている。君がなんと思おうが、俺達二人の問題だ】
「っ! あ、そう。でも俺諦めないんで」
会話の途中で携帯を一方的に切ってしまった。
「何が大切だっ俺の方がお前よりももっと、早くから恵を見守って来たんだっっ!」
誰が渡すものか。嫉妬が胸をいびつに歪ませる。
平片は恵の眠るソファーに近付くと、苦しげに眉根を寄せる恵の唇に、自分の唇を触れさせた。ゾクリと背筋に電流が流れたかの様な錯覚を覚え、平片が震える。
「ん、龍之介さん?」
苦しげだった寝顔は、安らかな寝顔へと変わった。平片は唇を噛み締めた。
「恵…」
自身の変調に平片は、身体を熱くする。触れれば、平片は熱い息を呑み込んだ。
「恵」
自身へ手を伸ばし、慰める。
「恵…」
頭の中が真っ白になって、平片は鼓動の速さに切なさを感じた。
「どうして、俺じゃないんだよ…恵?」
恵は熟睡しているのか、幸福そうな寝顔で龍之介を再び呼んでいた。
眼が覚めると、恵は外が夜になっていたのに気付いた。柱時計は既に十九時を回っている。
「起きたか?」
ぼんやりとした頭を振って、平片を振り返った。
「あれ?」
恵は寝ぼけているのか、夢の中で会っていた龍之介を、無意識に眼で探した。
「よっぽど疲れてたんだな。昨夜眠れてなかったのか?」
「あ……」
恵は此処が平片の家で、自分は遊びがてら泊まりで来たのだと思い出す。
「うん。実は」
「おばさんもう直ぐ出産だしな。心配もあるだろうけど、睡眠はちゃんと取っておけよ?」
平片の言葉に、恵は笑う。
「うん。うわぁカレーの良い香りがする。お腹空いたぁ」
キュウッと小さくお腹が鳴る。
「ちょうどできた処だ。今食うだろ?」
「うんっ」
恵はテーブルの上に置いていた携帯を手に、フラップを開く。
「あれ?」
「…お前が寝てる間に電話が鳴ったんだ。起こさない様に変わりに出ておいた。悪いな」
「そんな事気にしてないよ。サンキュウ」
返事をしながら、恵は着信履歴を見る。恵は【龍之介】の文字に胸が高鳴った。
「疲れてるんだよ。ソファーに横になって、少し寝とけ。約束通りカレーは俺が作るから」
恵は眠そうな眼で平片に微笑む。昨夜は、太一の事と、かおるの事でよく眠れなかった。
「悪い。じゃ…少しだけ」
欠伸をして、クッションに抱き付いて横になる。恵は直ぐに睡魔に誘われて静かな寝息を立てた。その時恵の携帯がテーブルの上で鳴る。
「ん…」
平片は恵を起こさない様に、直ぐ携帯に出た。着信表示に【龍之介】と出ていた。
「…もしもし?」
平片はぶっきら棒に電話に出る。場所を移動して自室へ向かった。電話の向こうで、一瞬息を呑むのが解る。内心高揚感を感じた。
【…君はさっきの?】
「あぁ、南川先輩でしたっけ? どうも先程は。恵に何か?」
【これは恵の携帯だ。何故君が出る?】
平片は大人の落ち着きとやらに苛付いた。平片が恵の携帯に出たのは驚いた様だが、その刹那、大人の匂いを醸し出して来た。不快に口角が下がる。
「恵は疲れて今寝てます。言伝なら聞きますが?」
【疲れて? 恵は具合が悪いのか?】
平片は肩を竦めた。
「知らないんですか? 恵は両親の事で悩んでるんですよ」
そんな事も聞いてないのかと、安易に言葉の中で響かせる。
【そうか。…後でまた電話すると伝えてくれないかい?】
「えぇ。俺が忘れて無ければね」
【今夜…恵は君の家に泊まるのか?】
平片は眼を細めた。
「えぇ。二人だけで。俺、恵の事本気ですから」
電話の向こうで、龍之介が押し黙る。
「解るでしょう? あなたは確か教育学部だと聞きました。将来は教師? 大人が子供に手を出しちゃまずいっしょ?」
【…俺は、恵を大切に想っている。君がなんと思おうが、俺達二人の問題だ】
「っ! あ、そう。でも俺諦めないんで」
会話の途中で携帯を一方的に切ってしまった。
「何が大切だっ俺の方がお前よりももっと、早くから恵を見守って来たんだっっ!」
誰が渡すものか。嫉妬が胸をいびつに歪ませる。
平片は恵の眠るソファーに近付くと、苦しげに眉根を寄せる恵の唇に、自分の唇を触れさせた。ゾクリと背筋に電流が流れたかの様な錯覚を覚え、平片が震える。
「ん、龍之介さん?」
苦しげだった寝顔は、安らかな寝顔へと変わった。平片は唇を噛み締めた。
「恵…」
自身の変調に平片は、身体を熱くする。触れれば、平片は熱い息を呑み込んだ。
「恵」
自身へ手を伸ばし、慰める。
「恵…」
頭の中が真っ白になって、平片は鼓動の速さに切なさを感じた。
「どうして、俺じゃないんだよ…恵?」
恵は熟睡しているのか、幸福そうな寝顔で龍之介を再び呼んでいた。
眼が覚めると、恵は外が夜になっていたのに気付いた。柱時計は既に十九時を回っている。
「起きたか?」
ぼんやりとした頭を振って、平片を振り返った。
「あれ?」
恵は寝ぼけているのか、夢の中で会っていた龍之介を、無意識に眼で探した。
「よっぽど疲れてたんだな。昨夜眠れてなかったのか?」
「あ……」
恵は此処が平片の家で、自分は遊びがてら泊まりで来たのだと思い出す。
「うん。実は」
「おばさんもう直ぐ出産だしな。心配もあるだろうけど、睡眠はちゃんと取っておけよ?」
平片の言葉に、恵は笑う。
「うん。うわぁカレーの良い香りがする。お腹空いたぁ」
キュウッと小さくお腹が鳴る。
「ちょうどできた処だ。今食うだろ?」
「うんっ」
恵はテーブルの上に置いていた携帯を手に、フラップを開く。
「あれ?」
「…お前が寝てる間に電話が鳴ったんだ。起こさない様に変わりに出ておいた。悪いな」
「そんな事気にしてないよ。サンキュウ」
返事をしながら、恵は着信履歴を見る。恵は【龍之介】の文字に胸が高鳴った。
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