天使は甘いキスが好き

吉良龍美

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天使は甘いキスが好き

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「そうだぞ? 元カノの美加ちゃん? 南川が男に走るかよ」
 龍之介の友人のひとりが云う。恵は胸がズキンと痛んだ。
 ーーーこの人、元彼女さん? 
でもまだ龍之介さんに未練ありありなのがまる見え…。
「そう? 俺ならこの子でも良いな」
 誰かが恵の腕を掴む。
「よして下さい。恵、行くぞ?」
 平片が、怒って恵の肩を抱き寄せて歩き出す。
「恵っ!?」
 龍之介の呼ぶ声に、思わず恵が振り返る。仕方なく、平片は溜息を吐いて振り返った。
「俺、こいつの親友で平片裕太っていいます。俺らも今日二人で、パーティして泊まりなんで」
「平片!?」
 何もそれを云わなくてもと、恵が眉根を寄せて睨む。
「…二人で?」
 龍之介は真顔になる。
「あ…」
 何か云わなければと、恵は声を出そうとしたが、平片が無理やり恵を連れて歩いた。
「平片? ねぇ、何どうしたんだよ?」
 恵は平片に訊き、後方を振り返る。龍之介が恵を見詰めていた。
 ーーー龍之介さん…。
 美加が龍之介の腕を引っ張る。
「あの二人意外と付き合ってたりして?」
 龍之介が眼を細める。
「それはないよ」
 美加がムッとした顔で、見上げて来る。
「どうしてそう云い切れるの?」
 龍之介は訊かれたが、答える必要は無いと、自分のマンションへ向かう。
「もう、龍君! 待ってようっ」
 美加も友人達も龍之介の後を連いて行った。


「平片っ」
 恵の腕を漸く放した平片が恵を見る。
「あいつか?」
 恵は首を傾げた。
「何?」
「あいつが……何でも無い…」
 平片は口篭もって、恵の横顔を見る。だが、当の恵は困惑した顔で駅の方を振り返っていた。
 ーーー追い駆けても来てくれないんだ…。
 男同士の秘密の恋など、仕方がないのだろう。龍之介は大人で大学生で、恵はまだ中学生の子供なのだ。でも、やはり辛いのだ。
 ーーー綺麗な人だったな…あの人。
 美加と呼ばれた女性は、恵と変わらないぐらいの身長だろうか。黒いロングヘアが艶やかで、日本人形の様だった。平片は複雑な思いで、俯く恵を見詰めていた。


 マンションに着いた龍之介達は、まずキッチンに料理組みと、リビングに酒とつまみを用意する組に分けた。
「龍君、さっきの子本当に家庭教師と教え子の仲?」
 美加がしつこく龍之介に訊く。
「なんだ美加、南川が恋しくなったのか? 今の彼氏どうした」
「あいつは美加とは別れたんだ」
 龍之介の言葉に皆が驚いた。
「なんだ、結婚話してなかったか?」
「あんなやつ嫌よ。別れて気が付いたの。龍君が【最高の男】だって。それに、龍君が一番だって解ったのよ」
 皆が口笛を吹く。龍之介は止めろと遮った。
「悪いが、今は大切にしている子が居るんだ。その子しか考えられない」
 美加は双眸を見開き、唇を噛んだ。
「なんだ、南川も隅に置けない奴だな。どんな可愛い女の子だ?」
「内緒。ほらお前ら、支度だ支度」
 龍之介は溜息を吐く。
「俺ちょっと電話」
「おう。早く戻れよ?」
 龍之介は、腕に纏わり付く美加をさり気無く解いて、自分は寝室へ行く。中から鍵を掛けて窓辺に歩み寄った。携帯を手に自らの唇に当てる。
「恵…」
 ーーー確か、友人と勉強と云っていたよな? 二人でパティー? 泊まり? …まさか。


 恵はハッとして、リビングを見渡した。
「どうした?」
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