49 / 98
天使は甘いキスが好き
しおりを挟む
今朝、恵をエスコートする様に、恵の手を取って車から降ろした。その光景に、女子達が『平片裕太のライバルだ』と、あっという間に学校に広がったのだ。
クリスマスまで後少し。かおるの喪の事もあって、派手には出来ないが伊吹の為に、平片は顔でも出すかと窓の外を眺めた。次の授業のチャイムに、平片が席に戻る。英語の教師が教室に入って来た。
一日の授業が終わると、恵は平片に先に帰ると云って、昇降口に向かう。龍之介の車が廊下の窓から見えていた。恵が手を振って掛けて行く。龍之介はナビシートのドアを開けて、恵を乗せると自分はドライバーズシートに乗り込んだ。
「あれじゃぁ、はっきり恋人ですって云ってるもんだよな」
「何が?」
「うわっ!?」
耳元で囁かれ、平片が飛び上がる。他の生徒達が驚いて、細川鈴に挨拶をした。
「こんにちわ、鈴先輩」
「こんにちわ。今日も可愛いね君達」
鈴が微笑んで褒め言葉で返事をする。
「や~ん。本当の事いっちゃ」
女子達がきゃあきゃあ騒いで、帰って行く。
「何が『可愛いね』だ。なんで鈴が此処にいんだよ?」
恵の従兄弟だが、何処も似てはいない。母親がアメリカ人で、鈴の眼は母に似て青いし、髪の色は父親に似てサラサラの黒髪だ。
「一応僕は君の先輩なんだけどな。此処へは来年の新入生歓迎会の報告に来たんだけど」
ツンとして鈴は外を眺めた。
「歓迎会って。まさかまた鈴、生徒会に入ったのか?」
「推薦されてね。秋に予選で勝って今は生徒会長の引継ぎ中。三年生は大学進学で猛勉強だから。来年頭に今のメンバーは生徒会を引退なんだよ」
「生徒会様かよ」
鈴は眼を細めて、溜息を吐く。
「クリスマス…」
「は?」
帰ろうとする平片の背中を見詰めて、鈴は呼び止める。
「叔父さんの家でクリスマスやるって。裕太は行くの?」
「あぁ」
鈴は微笑みかけて、次に平片の言葉で唇を噛む。
「恵は家庭教師と勉強旅行。伊吹が寂しがらない為に顔でも出すさ。双子も居るしな」
「…そう。じゃあ当日に」
鈴は踵を返して職員室へ向かう。
「なんだ? あいつ」
平片は振り返ったが、直ぐに階段へ向かい下りて行った。鈴は脚を止めて振り返る。
「馬鹿男…」
鈴は自分の素直になれない性格が恨めしい。せめて恵の様に素直になれたら。いや。それでもこの恋は叶わないだろう。きっと。さっき此処へ来る途中恵の嬉しそうな横顔を、遠くから見詰めて鈴は双眸を閉じた。
「恵は良いな。素直で」
鈴は素直になれない自分が大嫌いだった。だから擬似恋愛をする。危険な行為。夜には街へ出て、男女問わずの夜遊びだ。一晩のだけの恋人を探しに。鈴ひとりだけの秘密の行為。相手を平片と思う事で、心を慰めて来た。
誰も知らない『秘密』は、鈴の心の中に閉じ込めた。鈴は職員室のドアをノックする。清く正くを求められる生徒会役員の顔で。
かおるの初七日を終えて、翌週の水曜日。朝から初雪が降っていた。
「ホワイトクリスマスだ!」
伊吹は保育園で作ったクリスマスカードを、かおるの位牌の横に置く。
「恵? 先生がお迎えにいらしたわよ?」
十和子が玄関から二階へ恵を呼ぶ声が聞こえる。伊吹はハッとして玄関へ駆け出した。南川龍之介。恵の家庭教師で、今日二人で那須高原へ勉強合宿? らしい。伊吹は恵をひとり占めするこの龍之介が嫌いだ。
「おはよう伊吹君」
「…おはようです」
伊吹は十和子の後ろに隠れて、ジッと龍之介を見上げた。
「お待たせ」
二階からボストンバッグを手に恵がやって来る。
「ご迷惑を掛けない様にね? 恵」
「解ってるって。忙しい時にお祖母ちゃんに甘えてごめん。大晦日には帰るから」
「気にしないで行ってらっしゃい。かおるさんの葬儀とかで疲れたでしょう? ゆっくり身体を休めるといいわ」
「うん」
恵は龍之介と眼が合い、目許を染める。
「いいなぁ。ぼくもえいじくんのところにおとまりいこうかな」
恵は靴を履き玄関を出ようとしてハタと止まった。
クリスマスまで後少し。かおるの喪の事もあって、派手には出来ないが伊吹の為に、平片は顔でも出すかと窓の外を眺めた。次の授業のチャイムに、平片が席に戻る。英語の教師が教室に入って来た。
一日の授業が終わると、恵は平片に先に帰ると云って、昇降口に向かう。龍之介の車が廊下の窓から見えていた。恵が手を振って掛けて行く。龍之介はナビシートのドアを開けて、恵を乗せると自分はドライバーズシートに乗り込んだ。
「あれじゃぁ、はっきり恋人ですって云ってるもんだよな」
「何が?」
「うわっ!?」
耳元で囁かれ、平片が飛び上がる。他の生徒達が驚いて、細川鈴に挨拶をした。
「こんにちわ、鈴先輩」
「こんにちわ。今日も可愛いね君達」
鈴が微笑んで褒め言葉で返事をする。
「や~ん。本当の事いっちゃ」
女子達がきゃあきゃあ騒いで、帰って行く。
「何が『可愛いね』だ。なんで鈴が此処にいんだよ?」
恵の従兄弟だが、何処も似てはいない。母親がアメリカ人で、鈴の眼は母に似て青いし、髪の色は父親に似てサラサラの黒髪だ。
「一応僕は君の先輩なんだけどな。此処へは来年の新入生歓迎会の報告に来たんだけど」
ツンとして鈴は外を眺めた。
「歓迎会って。まさかまた鈴、生徒会に入ったのか?」
「推薦されてね。秋に予選で勝って今は生徒会長の引継ぎ中。三年生は大学進学で猛勉強だから。来年頭に今のメンバーは生徒会を引退なんだよ」
「生徒会様かよ」
鈴は眼を細めて、溜息を吐く。
「クリスマス…」
「は?」
帰ろうとする平片の背中を見詰めて、鈴は呼び止める。
「叔父さんの家でクリスマスやるって。裕太は行くの?」
「あぁ」
鈴は微笑みかけて、次に平片の言葉で唇を噛む。
「恵は家庭教師と勉強旅行。伊吹が寂しがらない為に顔でも出すさ。双子も居るしな」
「…そう。じゃあ当日に」
鈴は踵を返して職員室へ向かう。
「なんだ? あいつ」
平片は振り返ったが、直ぐに階段へ向かい下りて行った。鈴は脚を止めて振り返る。
「馬鹿男…」
鈴は自分の素直になれない性格が恨めしい。せめて恵の様に素直になれたら。いや。それでもこの恋は叶わないだろう。きっと。さっき此処へ来る途中恵の嬉しそうな横顔を、遠くから見詰めて鈴は双眸を閉じた。
「恵は良いな。素直で」
鈴は素直になれない自分が大嫌いだった。だから擬似恋愛をする。危険な行為。夜には街へ出て、男女問わずの夜遊びだ。一晩のだけの恋人を探しに。鈴ひとりだけの秘密の行為。相手を平片と思う事で、心を慰めて来た。
誰も知らない『秘密』は、鈴の心の中に閉じ込めた。鈴は職員室のドアをノックする。清く正くを求められる生徒会役員の顔で。
かおるの初七日を終えて、翌週の水曜日。朝から初雪が降っていた。
「ホワイトクリスマスだ!」
伊吹は保育園で作ったクリスマスカードを、かおるの位牌の横に置く。
「恵? 先生がお迎えにいらしたわよ?」
十和子が玄関から二階へ恵を呼ぶ声が聞こえる。伊吹はハッとして玄関へ駆け出した。南川龍之介。恵の家庭教師で、今日二人で那須高原へ勉強合宿? らしい。伊吹は恵をひとり占めするこの龍之介が嫌いだ。
「おはよう伊吹君」
「…おはようです」
伊吹は十和子の後ろに隠れて、ジッと龍之介を見上げた。
「お待たせ」
二階からボストンバッグを手に恵がやって来る。
「ご迷惑を掛けない様にね? 恵」
「解ってるって。忙しい時にお祖母ちゃんに甘えてごめん。大晦日には帰るから」
「気にしないで行ってらっしゃい。かおるさんの葬儀とかで疲れたでしょう? ゆっくり身体を休めるといいわ」
「うん」
恵は龍之介と眼が合い、目許を染める。
「いいなぁ。ぼくもえいじくんのところにおとまりいこうかな」
恵は靴を履き玄関を出ようとしてハタと止まった。
0
あなたにおすすめの小説
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
はじまりの朝
さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。
ある出来事をきっかけに離れてしまう。
中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。
これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。
✳『番外編〜はじまりの裏側で』
『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。
鈴木さんちの家政夫
ユキヤナギ
BL
「もし家事全般を請け負ってくれるなら、家賃はいらないよ」そう言われて鈴木家の住み込み家政夫になった智樹は、雇い主の彩葉に心惹かれていく。だが彼には、一途に想い続けている相手がいた。彩葉の恋を見守るうちに、智樹は心に芽生えた大切な気持ちに気付いていく。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
宵にまぎれて兎は回る
宇土為名
BL
高校3年の春、同級生の名取に告白した冬だったが名取にはあっさりと冗談だったことにされてしまう。それを否定することもなく卒業し手以来、冬は親友だった名取とは距離を置こうと一度も連絡を取らなかった。そして8年後、勤めている会社の取引先で転勤してきた名取と8年ぶりに再会を果たす。再会してすぐ名取は自身の結婚式に出席してくれと冬に頼んできた。はじめは断るつもりだった冬だが、名取の願いには弱く結局引き受けてしまう。そして式当日、幸せに溢れた雰囲気に疲れてしまった冬は式場の中庭で避難するように休憩した。いまだに思いを断ち切れていない自分の情けなさを反省していると、そこで別の式に出席している男と出会い…
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる