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鬼畜オオカミと蜂蜜ハニー
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振り返ったリオラは双眸を見開き、慌てて掴まれていない手で両目を覆った。
「離してっ!」
「驚いた。なんと不思議な」
「離して下さい!」
男の開いた方の手で、リオラの顎が掬い上げられる。色の違う双眸が、男の精悍な面立ちを映していた。
「なんと美しい」
リオラは泣きながら、此処に来るのではなかったと後悔した。この男は間違いなく父の客人だ。
「君はなんという名前なんだ」
「許して…この手を放して」
足許には籠と薬が転がっている。
「なんと美しい少女だ」
「僕は男だ!」
リオラはカッとなってどなった。思わず男の脚を蹴り、油断した処でリオラは飛び退いて睨み上げた。男は驚いて数秒程固まったが、直ぐに大笑いした。リオラは呆気に取られ、真っ赤になって踵を返す。
「すまぬ、許してくれ」
リオラの跡を追うと、その男の馬もついて来る。
「来るな!」
「そう云わず機嫌をなおしてくれないか?」
ついて来られてはリオラは困る。外へ出ない約束だ。危険を承知で飛び出してしまった自分を呪いたい。
「この辺に住んでいるのかい?」
「あなたに関係ありません」
「つれないな」
リオラは溜息を零して振り返る。
「この眼は呪われている。死にたくなければ仲間の許へ戻られよ」
「…処でさ、君何処かで見た事があると思ったら、そうか伯爵邸に在った奥方の肖像画に似ているのか」
ぎくりとした。リオラはまだ一度も母の顔を見た事が無いのだ。
ーーーどうしょう見たい。
「眼の色はご両親の色を両方受け継いでいるのだな。君は伯爵の子供? でもあの屋敷で君を見掛けていないけど…それに紹介もされていない」
リオラは震えて唇を噛んだ。
「ロバート殿!」
「っ!」
父親の声が聞こえてリオラは顔を引き攣らせた。逃げなくては、早くあの小さな家に帰らなければ。なのに震えて脚が動かない。
「あぁ。ちょうど良かった、君の父上殿だよ?」
「ロバート殿、こちらにおられ…」
馬上からリオラを見下ろした父親のガスバートは、すっと氷のような眼でリオラを一瞥した。
「ガスバート伯爵、あまりの暑さに水浴びをしました」
「水浴び? 今は鷹狩の最中ですぞ」
「申し訳無い。あまりにも美しい泉でしたので」
さっぱりとした顔で云う青年に呆れて、リオラに向き直った。
「先に行かれよ。…リオラ」
ロバートは名残惜しげに、リオラを気にしながら歩み寄ってきた馬にまたがり、去って行く。そして何年かぶりに呼ばれた名前に、リオラは淡い期待を込めて顔を上げた。が。
ひゅんと風が鳴り、リオラの右頬に刹那の痛みが走った。
「っ!」
あろう事か、ガスバートが馬上から馬の鞭で我が子の頬を叩いたのだ。
「ばあやから、今日は外へ出るなと云われなかったか?」
「話しを聞いています…すみません、僕は約束を…」
「二度とこのような事無きようにいたせ。よいな!?」
「はいっ…」
惨めに俯くリオラを見て満足したのか、ガスバートは馬の腹を蹴り、走らせた。呆然と頬に手を当てるリオラは、父親を怒らせてしまったと悲しくなった。
「リオラ様」
乳母が泣きながら帰って来た事に、申し訳無さでいっぱいになった。
「ごめんなさいばあや。ばあやも父上に怒られたよね? 約束破ってしまったから」
「そんな事よりも、お顔をよくお見せ下さいまし。まぁ、可哀想に、水で冷やさなかったのですか? せっかくの綺麗なお顔に傷などと」
乳母が鼻を啜りながら、水を取りに外へ桶を持って出て行く。
「綺麗? 僕はこんなにも醜いのに」
リオラは部屋に在る大きな鏡に自信を映し出した。明日で十一歳になるリオラは、少女の様に愛らしく美しい。だが、ジンや乳母がどんなにリオラは美しいと褒めても、リオラの心に震えは来なかった。何故なら、リオラ自身が醜いのだと思い込んでいるからだ。
「離してっ!」
「驚いた。なんと不思議な」
「離して下さい!」
男の開いた方の手で、リオラの顎が掬い上げられる。色の違う双眸が、男の精悍な面立ちを映していた。
「なんと美しい」
リオラは泣きながら、此処に来るのではなかったと後悔した。この男は間違いなく父の客人だ。
「君はなんという名前なんだ」
「許して…この手を放して」
足許には籠と薬が転がっている。
「なんと美しい少女だ」
「僕は男だ!」
リオラはカッとなってどなった。思わず男の脚を蹴り、油断した処でリオラは飛び退いて睨み上げた。男は驚いて数秒程固まったが、直ぐに大笑いした。リオラは呆気に取られ、真っ赤になって踵を返す。
「すまぬ、許してくれ」
リオラの跡を追うと、その男の馬もついて来る。
「来るな!」
「そう云わず機嫌をなおしてくれないか?」
ついて来られてはリオラは困る。外へ出ない約束だ。危険を承知で飛び出してしまった自分を呪いたい。
「この辺に住んでいるのかい?」
「あなたに関係ありません」
「つれないな」
リオラは溜息を零して振り返る。
「この眼は呪われている。死にたくなければ仲間の許へ戻られよ」
「…処でさ、君何処かで見た事があると思ったら、そうか伯爵邸に在った奥方の肖像画に似ているのか」
ぎくりとした。リオラはまだ一度も母の顔を見た事が無いのだ。
ーーーどうしょう見たい。
「眼の色はご両親の色を両方受け継いでいるのだな。君は伯爵の子供? でもあの屋敷で君を見掛けていないけど…それに紹介もされていない」
リオラは震えて唇を噛んだ。
「ロバート殿!」
「っ!」
父親の声が聞こえてリオラは顔を引き攣らせた。逃げなくては、早くあの小さな家に帰らなければ。なのに震えて脚が動かない。
「あぁ。ちょうど良かった、君の父上殿だよ?」
「ロバート殿、こちらにおられ…」
馬上からリオラを見下ろした父親のガスバートは、すっと氷のような眼でリオラを一瞥した。
「ガスバート伯爵、あまりの暑さに水浴びをしました」
「水浴び? 今は鷹狩の最中ですぞ」
「申し訳無い。あまりにも美しい泉でしたので」
さっぱりとした顔で云う青年に呆れて、リオラに向き直った。
「先に行かれよ。…リオラ」
ロバートは名残惜しげに、リオラを気にしながら歩み寄ってきた馬にまたがり、去って行く。そして何年かぶりに呼ばれた名前に、リオラは淡い期待を込めて顔を上げた。が。
ひゅんと風が鳴り、リオラの右頬に刹那の痛みが走った。
「っ!」
あろう事か、ガスバートが馬上から馬の鞭で我が子の頬を叩いたのだ。
「ばあやから、今日は外へ出るなと云われなかったか?」
「話しを聞いています…すみません、僕は約束を…」
「二度とこのような事無きようにいたせ。よいな!?」
「はいっ…」
惨めに俯くリオラを見て満足したのか、ガスバートは馬の腹を蹴り、走らせた。呆然と頬に手を当てるリオラは、父親を怒らせてしまったと悲しくなった。
「リオラ様」
乳母が泣きながら帰って来た事に、申し訳無さでいっぱいになった。
「ごめんなさいばあや。ばあやも父上に怒られたよね? 約束破ってしまったから」
「そんな事よりも、お顔をよくお見せ下さいまし。まぁ、可哀想に、水で冷やさなかったのですか? せっかくの綺麗なお顔に傷などと」
乳母が鼻を啜りながら、水を取りに外へ桶を持って出て行く。
「綺麗? 僕はこんなにも醜いのに」
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