飛竜誤誕顛末記 番外編

タクマ タク

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天敵 ※ネタバレ要素あり。第三章を読了後に読むのをお勧めします。

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私には天敵がいる。

ケイタと出会ったあの森で、ケイタに懐いて拾われたソレ。
あの時は何とも思っていなかった、取るに足らない存在だと思っていたソレ。
それが、今やこんなにも嫉妬を煽られる存在になるとは。

「エリー」
愛おしいあの子が、愛情深い声で呼ぶのは私の名前では無い。
差し出された小さな手に、忌々しい茸が当たり前のように飛び込んでいった。
心の中でさえも、名前を呼ぶのすら嫌だと思う。
ケイタが愛おしそうに名前を呼ぶ度に、舌打ちが溢れそうになる。
何故、私の屋敷に走り茸なんぞが居るのか。
何故、ケイタの寝室を走り茸なんぞが我が物顔で走り回っているのか。
何故、走り茸如きがケイタと共に寝ているのか。
私は我慢していると言うのに!

それもこれも、あの時私が石礫を投げたのがいけなかったのだ。
あの時は、ただケイタを喜ばせてやろうとしか考えていなかった。
走り茸を食べると言っていたから、望みを叶えてやろうと思っただけだ。
それで、近くに来た茸の気配に向かって石を投げた。
それが、全ての始まりだったのだ。
もし過去に戻る事が出来るのならば、あの瞬間に戻りたい。
そして、自分を殴ってでも石礫を投げるのを止めて、あの茸との関わりを無かった事にしたい。

と、自分を蹴る茸を眺めながらしみじみと思った。
ケイタと食事の最中であるが、彼が料理に気を取られている隙を見ては、コイツは何かと私に攻撃してくる。
茸如きちっぽけな存在など無視をすれば良いのだが、コイツが相手だと思うと異様に腹が立つ。
しかも腕が生えてからというもの、小石を投げてきたりまでするようになった。
何が腹が立つといえば、ソレを見てケイタが可愛いと喜ぶのだ。
何故だ。
私は石を投げられているのだぞ。

抑えられないイラつきに、つい子供じみた仕返しの気持ちが湧く。
向こうがしてきた事だ。
私が同じ事をしても良いはずだ。
ケイタが目を逸らした一瞬の隙を見て、私を蹴っていた茸を指で思いっきり弾いてやった。
今までやり返した事などなかった私の突然の反撃に、油断しきっていた茸が勢いよく転がりながら、ケイタの背後まで吹っ飛んでいった。
ソレをみて、心がスッとする。
ふん、自分の無力さを思い知れば良いのだ。
茸め。
少し晴れやかな気持ちになりながらソレを見ていれば、ケイタの尻の向こうで倒れていた茸が床に手をつきゆっくりと上体を起こす。
何が起こったのか分かっていないのか、左右を一度キョロリと見渡してからコチラを振り返った。
私の顔を見てようやく事態を把握したのか、アイツは床に手をついたままブルブルと全身を震わせ始める。
そして。
こちらを見ていた顔?なのか?体?・・・まぁ、人間のどの部分に該当するかは分からないが、こちらを向いていた茸の表面に。
ギュっと恐ろしい程の皺が寄った。
「・・・・・・」
茸の事など分からないが、流石の私もあれが何を表すのかは何となく分かった。
あれは、憤怒の形相なのであろう。
茸にも表情というものがあるのか・・・。

勢いよく立ち上がった茸がケイタの尻に半身を隠しながら、皺の寄った顔でこちらを睨み続けている。
・・・不気味だ・・・。
茸から向けられる激しい怨恨の形相に、思わず目を逸らしてしまった。
茸に気圧された訳では無いが・・・・正直不気味で気持ちが悪いと思った。
ケイタは本当に何故あんなものを可愛がれるのだろうか。

「あー・・・ごめん、ちょっと厠!食事中にすんませんね~」
私たちの小競り合いになど全く気づいていないケイタが、何とも気の抜けた笑顔で立ち上がり広間を出ていった。
「・・・・・・」
室内には茸と私だけが取り残され、何とも言えない空気が漂う。
いや、茸なんぞ別に気にしなくても良いのだ。
いつも通りにしていれば良い。
そう思ったのだが、ケイタが退室し扉が閉まった瞬間。
茸が物凄い勢いで走り寄ってきて、皿の上にあった果物の種やら、食べ終わった後の小骨などを私に向かって猛然と投げ始めた。
私の腹や胸に、ゴミがビシビシと当たってくる。
「えぇい、やめんかっ!汚いであろうっ」
私も思わず茸に向かって、投げられたゴミを投げ返す。
私の投げたものが直撃する度に、茸は怒りを増していき胞子を飛ばしながら地面を踏みつけている。

そんな馬鹿馬鹿しい対立を続けてしばらく、ふと我に返った。
・・・・・私は一体何をしているのだ・・・・。
たかが茸相手に。
冷静になった瞬間、自分の愚かさに情けなさと虚しさと羞恥を感じた。
それで、もう茸など無視する事に決めた。
ゴミを投げられても気にせず、私は料理を口に運ぶ。
そうだ。
何で私がわざわざ茸の相手をしなくてはならないのだ。
肉を食べながら、投げられるゴミを軽く手で払う。
そうやって無視し続けていれば、茸も気づいたのか大き目の骨片を掴み力一杯投げつけてきたのを最後に何もしなくなった。

もうソレに興味も無くなって、私はパンをちぎりながら食事を続ける。
茸は何やら皿の周りをウロウロしながら料理にちょっかいを出しているが、どうでも良い。
そうやってケイタのいない静かな室内で食事をしながら、しばらくした頃だった。
「うっ!」
口に含んだパンを噛み締めた途端、とてつもなく硬い物を奥歯で噛んだ。
ガキリと頭の中に嫌な音が響き、視界も若干ブレた。
一体何を噛んだのかと驚いて、口の中のものを吐き出せば。
パンと共に小さな石が現れた。
料理を作る際に混ざったのだろうか。
これはリーフに言って、調理場へ注意させなくては。
食べたのが私だったから良かったものの、もしケイタが食べていたら歯が欠けていたかもしれない。
後でリーフに見せるため、そっと皿の横に石をよける。

気分を取り直し、今度は揚げた豆の団子を口に入れる。
一個目を食べ終え2個目を口にし、そして二噛み目で再び。
「うぐっ!」
またしても奥歯で硬い物を噛んだ。
急いで吐き出せば、やはり小さな石だった。
何なのだ一体!
料理長は何をしているのだ!
痺れる顎を撫でながら腹立たしさを感じたが、他の料理を確認するように視線を落とした先、私の皿の上の料理に茸が手を突っ込んでいるのを見てしまった。
まさか・・・・。
茸が手を入れていた肉料理を摘み上げ確認すれば、肉と肉の隙間から小石が出てきた。
「・・・・・・」
念の為と他の料理も確認すれば、やはり小さな石がポロポロと出てくる。
そういえば、アイツは私に当てる為に小石を持っている事がある・・。
私が石に気付いたのを見て、茸が皿を挟んだ向こう側へと走り去っていった。

腹の底から湧き上がる怒りに、目の端がピクピクと痙攣している事を自覚する。
この、クソ茸っ・・・・・・・。
思わず口汚い罵りが出てきそうになるのをグッと堪える。
いや、我慢だ。
こんなしょうも無い事で腹を立てるなど。
茸相手に感情的になるなど馬鹿馬鹿しいと言うものだ。
気持ちを静めようと手元にあった茶を一口含む。
「ぐふっ?!」
途端、口の中にとんでもない辛さが広がり、思わず湯呑みの中に全て吐き戻してしまった。
何が起こったのか分からず器を覗き込めば、茶の底に料理の添えの唐辛子が沈んでいるのが見えた。
誰の仕業かなど、考えなくても分かる。
我慢の限界である。

「貴様っ」

思わず身を乗り出し、茸に向かって威嚇を込めて拳を振り上げる。
ちょうどその時。
広間の扉が開いた。
「はーい、戻ってきたよーん・・・・・って何しとんのじゃーっ!!」
戻ってきたケイタが私を見て、目を吊り上げ叫ぶ。
ケイタの視界には、拳を振り上げる私と、扉が開いた瞬間に素早く床に倒れ弱々しく震えるフリをしだした茸。
な、なんと汚いヤツなのだっ!

結局、あの状況で私の言い分など通るはずも無く。
ケイタに、弱い者いじめは最低だと怒られてしまった。
ケイタに怒られている間、彼の背後に隠れていた茸が私に向かって馬鹿にするように両手を波うたせ揺らしていたのを私は絶対に忘れない。

いつか。
いつか、絶対に。
串焼きにしてやる。
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みんなの感想(6件)

さとうあけみ

タクマタクさん🍄
🐸どんの佐藤です~😆
作品の更新 + エリーVSヴァルキー(((*≧艸≦)ププッ
大爆笑💣️✨です~😂
つづきお待ちします❣️
どんな串焼きが出来るかな‼️( *´艸`)❤️
応援👊😄📢~💖
🐸👋💮

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かなめ
2023.05.14 かなめ

めっちゃ笑いました!
エリー最高!大好き!

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ごめず
2023.05.13 ごめず

もう鼻血でるかと思った。エリー最高がすぎる。この話漫画で読みたいっっっ

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