飛竜誤誕顛末記

タクマ タク

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第三章 将軍様はご乱心!

第37話 ん?

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初めて入る大人数用の浴場は、思った以上にデカかった。
入り口以外の壁際は全て細長い浴槽が張り巡らされた洗い場になっていて、浴場の真ん中にはプールのように広い入浴用の浴槽がある。
「でけぇーっ」
天井はドーム状で、綺麗なタイルに覆われている。
異国風スーパー銭湯みたいだ!めちゃ楽しい!

「お、おい。カルシク、ハガン。何でケイタがここに居るんだ」
「おいおい、大丈夫なのか。その子ここに連れて来て」
カルシク達に連れられて人の少ない隅の方の洗い場へ来たけど、途中何人か見知った馬軍の兵士さん達もいた。
皆俺に気付くと一様に驚いたような顔をして、カルシクとハガンに声を掛ける。
その度にカルシクとハガンは、バルギーから入浴許可は出てるらしいと説明していた。
やっぱり軍の人達専用の浴場だからか、一般人の俺が居るのはかなり不思議らしい。


「おい、なんか可愛いのがいるぞ」
「うわ、ちっせぇ・・・」
「あれって例の馬軍のとこの子だろ?」

体を洗っている最中、後ろからヒソヒソと兵士達の囁く声が聞こえてくる。
明らかに俺の事を言っているな。
小さいとか可愛いとか、最近すっかり言われ慣れちゃって怒りも湧かん。
好きに言えばいいさ、ちくしょうめ。
本当に小さくて可愛いってのはエリーみたいなのを言うんだ。

「見ろよ、あの細い腰。強く掴んだら折れちまいそうだ」
「随分、馬将軍が可愛がっておられるらしいぞ」
「あぁ、馬将軍のお稚児だろ・・・」

「おいっ!!」
「ふぉっ!?」

何やら含みのある小さな笑声と共に言われた見知らぬ兵士達からの言葉だったけど、最後の誰かのセリフにハガンがいきなり声を張り上げた。
俺は気持ちよく体を洗ってて油断し切ってたから、正直結構ビビった。
普段、あまり大きな声は出さないハガンだから。
驚いて声出ちゃった。
多分、俺が揶揄われていたのを嗜めてくれたんだろうけど、にしては随分険悪な雰囲気を出してる。
カルシクも妙に怒りを滲ませて周りを睨みつけているし。
浴場内が妙な緊張感でシーンと静まりかえった。
ええ・・空気が重い・・・・・。
別にさっきみたいなのは、こっちの世界来てからよく言われる事だから慣れちゃったし俺は気にして無いんだけど。
ハガン達はそうでは無いらしい。
最後に言われた「オチゴ」は初めて聞く単語だったけど、ハガンは特にそれに反応していたから、もしかしたらそれがよろしく無い言葉だったのかもしれない。
意味を聞きたいけど、浴場内はちょっとピリピリした空気で静まり返ってるし、ハガンとカルシクは殺気立ったまま何人かを睨みつけてて声を掛けにくい。
これは、喧嘩になる直前の空気感だ。

「言って良いことと悪い事の判断もできんのか。それに、馬将軍とその恩人であるこの子を侮辱する事は我々馬軍に対する侮辱も同じ事だぞ」
ハガンの言葉に他の馬軍兵達も少し殺気立った感じで、一部の兵士達を睨んでいる。
もしかして。
乱闘か?乱闘が始まるのか?
巻き込まれたくは無いけど、こんなにムキムキマッチョな人達の乱闘なら、ちょっと観戦したい気もする。
なんて言ったら、超怒られるだろうから絶対言わないけれど。
少しワクワクしながらも大人しくその場の展開を見守っていたら、少し離れた所で体格の良いおじさんが数人の頭を叩き落とした。
「貴様ら口が過ぎるぞ。恥を知れ」
叩いたおじさんも叩かれた人達も、皆飛軍の印を首に下げている。
おじさんの方が立場が上の人なのか、叩かれた人達が慌てたようにビシリと姿勢を正した。
こう言う所、いかにも軍隊って感じだな。
叩かれた兵士達は、そのままおじさんに追い払われて気まずそうに浴場を出て行った。
それを見送ってから、おじさんが此方にやって来る。
「おう、ハガン、カルシク。うちの若いのがすまなかった」
どうやら、おじさんはハガン達とは顔見知りらしい。
「教育がなっていない。口が悪過ぎる」
おじさんが謝ってくれたと言うのに、ハガンは辛辣だ。
「すまん、後で締め上げとくから馬将軍には言わないでおいてくれ。入れたばっかりの新兵達なのに殺されちまう」
苦笑混じりのおじさんが今度は俺の方へ顔を向ける。
「君。うちの者達が礼儀を欠いた。大変申し訳ない」
えらく丁寧に謝罪されてしまったけど、さっきの兵達の発言はそんなにアレな内容だったんだろうか。
「いえ・・・大丈夫です。慣れてるから別に気にしてません」
オチゴって単語は分からなかったけど、他の言葉は色んな所でよく言われることだ。
小さい、細い、可愛い。
元の世界では平均よりは大きい方だったからめっちゃ違和感のある言葉だけど、こっちの世界の人達から見たら実際俺は小柄なのだから仕方ないだろう。
そう思って返した言葉だったけど、おじさんは少し困ったような顔をするし、ハガン達の眉間にも皺が寄った。
「慣れるな」
そうは言ってもハガン、俺が小さくて細く見られてしまう事は変えようがない事実だしな。
「まぁ、本当の事じゃん」
桶に湯を汲んで、体についたままだった泡を一気に流す。
これで、ようやくスッキリだ。
チクチクしていた股も、やっと痒さが治った。
良かった良かった。
「ケイタ」
さっぱりした気分でいたら、とても真剣な目をしたハガンに腕を取られた。
「将軍は決してお前の事をその様には考えていない」
「そうだぞ、ケイタ。お前がそんな風に思っていたら将軍が悲しまれる」
カルシクも真剣な目だ。
「んん?」
何か・・・・・話が噛み合って無い気がする。
ハガン達が言っているのは、小さいとか細いとかの言葉を気にするなってだけの話ではないような感じだ。
それよりももっと何だか重たい意味がありそうな。

「もしかして、さっき言われてたオチゴってやつの事言ってる?」
ハガン達の眉間の皺が深くなったから、そう言う事らしい。
おじさんも改めてすまないと謝ってきた。
何、そんなに悪い言葉だったの?
「・・オチゴってどう言う意味?」
恐る恐る聞いてみたら、3人とも少し虚をつかれたような顔になった。
「あ、それは分かって無かったのか」
カルシクが少しホッとしたような声だ。
「小さいとか細いとかはよく言われるから慣れてるけど・・・・オチゴって何?」
「知らんでいい。そんな言葉覚える必要はない」
ハガンは不機嫌に言うだけで、意味は教えてくれなさそうだ。
おじさんに目を向ければ、曖昧な笑みを浮かべて「俺はさっきの奴らを躾けてくる。君すまなかったね」と言って、あっさりと去っていってしまった。
「カルシク・・・」
「あーっと・・・まぁ、どうでも良い言葉だ。覚えなくて良いよ。忘れな」
やっぱり教えてくれない。
皆が揃って説明する事を憚るとは、一体どれ程悪い言葉だったんだ。
気になり過ぎる。
教えて欲しいけどこの2人は教えてくれなさそうだし、後でバルギーに聞けばいいか。

「ケイタ、もう体は洗い終わったか?終わったなら上がるぞ」
しばらくして周りも元通りの雰囲気になり、ハガンもカルシクも手早く体を流し終えている。
「終わったけど、湯に浸かりたい」
あのでっかいプールみたいな浴槽、入らずに上がるとかあり得ない。
しかも浴槽の真ん中では竜の彫刻がゲロゲロと湯を吐き出してるのだ。
あぁ言うのは、世界が変わってもあるもんなんだな。
人間には、ライオンとか竜とかに湯を吐かせたい本能的な欲求でもあるもんなんだろうか。
「駄目だ。こんなところ長居させられない」
「ちょとだけ。直ぐに上がるから!」
「少しくらい良いじゃないかハガン。ケイタも楽しそうだし、将軍からも許可が出ているならそこまで気にしなくても大丈夫だろ?」
首を振るハガンに、苦笑混じりのカルシクが加勢してくれた。
カルシクの言葉に少し考える素振りだったハガンだったけど、しばらくしてから小さく溜息を吐いて頷いてくれた。
「少しだけだぞ。直ぐに上がるからな?分かったかケイタ」
「分かった!」
よっしゃ。
入っちまえばこっちのもんだ。

エリーを肩に乗せて、ウキウキで浴槽に体を沈める。
「うぃーー」
お湯の温度は少し低めだけど、気持ちが良い。
自分の体を沈めたら、今度はエリーだ。
手を差し出せば、肩からポンと手の平に乗り移ってくる。
そのまま両手をお椀状にしてお湯の中に少しだけ沈めれば、エリー用の小さな浴槽だ。
お湯の中に入ったエリーはブルリと一回震えた後、俺の手の上で気持ちよさそうにグニャリと脱力した。
「いつもそんな感じなの?」
カルシクがエリーの様子を面白そうに見ている。
「うん。最初はお湯に入れて良いのか分かんなかったけど、結構気持ち良いみたいでさ。エリーもお風呂好きだよ」
「何か、その茸どんどん人間じみて来てるなぁ」
「不気味だ・・・」
そこは可愛いって言うんだハガン。

「ケイタ、外でもさっきみたいな事言われたりするのか?」
エリーに軽くお湯を掛けたりとちょっかいを出していたカルシクが、そっと聞いてきた。
「慣れてるって言ってただろう?」
何とも無いように話してるけど、少し心配そうな探る感じがある。
「あぁ。オチゴは聞いたことない言葉だったけど、小さいとか細いとか可愛いとかはよく言われるね」
「そうか。嫌な事されたりしてないか?」
「嫌な事?別に?」
俺が外でイジメられてるとでも思ってんだろうか。
「ちょっと揶揄われたりとかはあるけど、そんなに悪意がある感じは無いよ。それに皆から見たら実際俺は小さいしな」
バンとかザウラとかも小さいとは言うけど、あの2人はどちらかと言うと心配してる感じで飯を一杯食えとか言ってくるし。
「ってかさ、俺からしたら俺が小さいんじゃなくて皆がデカ過ぎるの!」
俺は元々平均よりは上だもん。
俺は小さくない。
「ハハハ、え、そういう解釈なの?」
「ふっ・・」
俺の主張に、カルシクとハガンが面白そうに笑った。
笑い事じゃねぇぞ。
俺は本気だ。
「何食ったら、そんなにデカくなるんだよ」
「お前は食わなすぎだ。もっと食わんと大きくなれんぞ」
ハガン、もっと食ったって俺はもう大きくなれんぞ。
「大丈夫だよケイタ。お前はこれからだろ?まぁ、大きくなりたいなら今よりも沢山食べないとだけどな」
「いやいやいや、何言ってんのカルシク。いくら食べたって、もう大きくならないから。太るだけだから」
「そんな事ない。お前はまだ成長期だろ、これからどんどん大きくなるよ。大丈夫」
「・・・ん?」
「ん?」
「いや、成長期とうに終わってるんですけど?」
嫌味か?カルシク、この野郎。
「ケイタ、大丈夫だ。二十歳過ぎ位までは体は成長するものだよ。俺も17歳位から一気に背が伸びたしな」
「うん・・・だからもう成長終わってるって。二十歳なんてとうに超えてるし」
「「は?」」
ハガンとカルシクの声が見事にハモった。

え?
・・・・・え?
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