あいゃ、墓がない

西ノ仁

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あいゃ、墓がない

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                   あいやー墓がない
営業先から会社に戻る途中に自分の携帯が鳴った。
「はい、平野平男です」
電話の向こうは、妻の声で少し慌てていた。
「あなた大変、養老病院からおじいちゃんが高熱を出したって,親族は至急病院に来て下さいて」
「うん、分かった直ぐ行くからおまえ先に行ってくれ」平野も慌てて病院へ向かった。
病院の一室で、平野夫婦は担当医から説明を受けている。
「何分平野汎次郎さんは、100歳を超えていますから今回は峠を越えましたが」
「そうですか、先生ありがとうございました、私どもはまあ覚悟してますんのでまた何かありましたら、宜しくお願いします」
そう聞くと担当医は病室を後にした。
夫婦は傍ですやすや何事もなかった様に寝ている父親の顔を覗き込んだ。
「うむー、106歳か親父も長生きしているが何時お迎えが来るやら」
平男か呟く。
「いくか」「ええ」二人はそう言うと無言で病院をでた。
帰りのタクシーの中で妻のただ子が
「あなた」と話しかけて来た。
「ああ分かっていますよ、お墓の事だろ」
「そうよ、家には余りお金がありませんからねただでさえ費用が掛かるのにましてや、この日本じゃ、ほとんど新しいお墓がありませんからあつても高すぎますから考えてくださいね」
「うむー」平男は腕組みをしてしまった。
  家に帰ると早速叔父から電話が入る。
「どうじゃ、兄貴の具合は」
「ええ、今回はもちましたが」
「そうかそうか、兄貴もそう長くはないか」「はい、担当の先生にもそう言われました」「いいか平男、兄貴の為にも立派な墓を建ててくれ、わしは二番目の兄貴が好きじゃったで、いいな頼んだぞ、それじゃあ何かあつたら直ぐに連絡をくれ、ああそれからわしも年じゃお墓は余り遠くない所にしてくれよじゃあな」
そう言うと叔父は電話を切った。
「立派な墓か、とほほ」平男は憂鬱な顔になった。とそこに、また電話が鳴った、今度は叔母からである。
「あら、平男ちゃん兄さんの具合はどうなのかしら」
「はいどうにか」
「あらそう、良かったわ、でもね」
「ええ、いまおじさんからも連絡が」
「そう、じゃあ、何かあったら、私にも連絡してね、あらそうそう、もしお墓を建てるなら暖かくて近いとこにしてね、あたしも冷え性であまり遠くには行けないからねじゃあよろしくね」
叔母からの電話が切れると平男はため息がでていた。
「あなた何か食べる」
「いや、まだいいよ」「そう」
「ちょっと出かけてくる」そう言うと平男は普段着に着替えて外にでた外は薄暗い。
公園のベンチで平野は一人でブツブツと考え込んでいた。
「家族は四人、娘と息子と嫁、理想的な家族だがこれからも金がかかるそんなに親父の墓に金は余りかけられないかどうしよう、まあ駅に行ってとりあえず探して見るか」    駅の周りはさすがに人通が多くうろうろと看板を見ているとセレモニー相談所の看板が見える。(聞いて見るか)
ドアが開くと二っ程の受付があり受付嬢が一人いた平男の顔を見ると慌てて出迎えた。「いらっしゃいませ、どうぞお掛け下さい」「あ、はい」平男はそう言われてカウンターに座った。
「本日はどの様なご相談で」
「あのー、お墓の事なんですが」
「お墓ですね、少々お待ち下さい」
まるでロボットの様な口調である。
受付嬢は何やらカチャカチャとパソコンを打ち込んでいる。
「日本でお探しですか」「はい」
「そうですか」事務的な会話である。
受付嬢の手が止まる。
「今ある分譲のお墓は日本では北海道に一か所と沖縄に一か所ですが、とても人気の物件です」と言う。
「あのー、もう少し近い所は無いでしょうか例えば関東近郊に」と平男が訪ねると。
受付嬢は困った様す、
「残念ながら、何分昨年の地球環境第四回お墓サミットの基準で日本が一番の問題となりまして高齢化が進み、また、地価の高騰などが重なりまして、日本ではお墓の規制が政府からかけられています残念ながらお客様のご希望には」そう答えて受付嬢の手が止まった。
「ああそうですわ富士山の近くに新しくマンション型のお墓が、こちらはマンションの形がそのまま墓石の形になっていてとても人気です、ただ抽選になっています。おほほ」
(なにが、おほほだ)平男はそう思った。
「そうなんだ、ちなみに先程の場所で幾ら位のお値段ですか」平男の問いに。
受付嬢はまたパソコンを打ち込む。
「そうですね、だいたい一千万円位になりますが」「え、1千万」平男はすっとんきょうな声である。
「あのー、その他に物件は在りますか」平男の声は小さくなる。
「はい、今でしたら、シベリア、アフリカ、北極などがございます。とても人気の物件です皆様観光を兼ねてご購入して頂いて居りますが」
受付嬢はそう言うと誇らしげにパソコンの画像を平男に向けた、そこには墓石の横にペンギンや、像が映っていた。
平男が肩を落として外に出ると直ぐに営業終了のシャッターが下ろされた。
平男は家に帰ろうとしたが考え事をしていたのでいつの間にか道を間違えていた。
「あれ、道を間違えたかな」
後戻りしようと振り返ると手前に葬祭相談室(JCHP)と書いてある看板を見っけた。
「何々天空のお墓ご案内、ご相談センター」中を覗くと女性が一人受付に居る、まだ営業している様だ。
「あのー」平男は何となく中に入る。
「あ、いらっしゃいませ、さあどうぞ」
言葉は優しそうだが、ハッキリした口調である。平男を直立不動で迎えた。しかもその女性の服装はまるで軍服である胸には幾つものバッチが付いている、肩にも星の襟章が三つ程付いていた。
平男は背筋をピンと張って座った。
「あのー、外の看板を見たのですが」
「はい、すべてのお墓のご相談、またお悩み事が解決いたしますが、何か葬儀のお悩みでも」
「あのー、今お墓を買うとしたらどのくらい待ちますか」
「いいえ、直ぐにでも大丈夫ですが」
「え直ぐに」「はい、いつでもどうぞ」
「そりゃ有難い、しかしお高いのでは」
「いいえ、丁度いま、キャンペーン中ですから、お安くなっております、はい」
「そうですか、いか程でしょうか
「だいたいこの位ですが」女性は何故か手書きでメモ用紙に金額を書いて平男に見せた。その女性が示した金額は丁度平男の給料の
ほぼ三ヶ月分の金額で買える値段である。
「これはいい、有難い、いや待って下さい、遠い所ですか、あまり遠いと」
「はい遠いですね、でもご自宅から見えますよ」「はー、今何と」「ですから、とても、遠いのですが、お宅から見えますよ。」
「あのう訳が分からないのですが」
「それでは、ご案内しましょう」彼女はそう言うと机に埋め込んだボタンを押した、すると彼女の後ろの壁が動いたそして大画面のモニターが現れた。
平野がモニターを見ると真黒である、いや、真っ黒ではなく処どころに星が映っている、平野は目を丸くしてその画面を見た。
「これは何ですか?」
「星座です」「はい星はわかるのですが」
「そうこの星の一番輝いている、こぐま座のアルファ星、北極星と言います。そしてその隣で紫に光る星をxyz星と呼びます。
如何ですか、つまりはるかと遠くのこの星が死者の魂が眠る場所になるのです。」
「この星がですか」平男は肩の力が抜けた。彼女はおかまいなしに話を続ける。「はい、しかも当社はあの有名なナァーサァー宇宙機関との共同プロジェクトで御座います」
「ナァーサァーね・・・」
「今でしたら仮契約も出来ます」
平男の心に、何故かこの仮契約の言葉が
突き刺さる。「そうですか、仮契約が出来るならば」「それでは、こちらが仮申し込みの用紙です、住所、お名前、連絡先と家族及び宗派、そして旅立つ人のプロフィール等御記入願います、後は当社、J・C・H・Pが責任を持ちまして対応いたします」
「そのjchpてどの様な意味ですか」
「あ、はい、当社のジャパン・宇宙・お墓・プロジェクトの略式名です」
平男が外に出ると辺りはどっぷりと日が暮れていた、少しだけ心が軽くなった様だが当分叔父と叔母には話せないだろうと思った。
家に帰り妻にこの話をすると「だまされたんじゃない」と不機嫌な顔だ。
平男はその夜親父の若い頃の夢をみた親父は笑っていた。
それから、二週間後だったまだ叔父、叔母にお墓の事は話していなかったが夜中に病院から電話があった。
「もしもし平野ですが」
「病院の者ですが、汎次郎様の容体が悪くなられました至急病院の方に来てください」
子供達を連れて平野夫婦は病院に急いだ。
家族が揃った所で医師が、「ご臨終です」
と告げた。覚悟はしていたがやはり涙がでて来た。平野は叔父叔母に連絡をいれた。
そして平野はあのJ・C・H・Pにも連絡を入れた。
病院に叔父と叔母が到着した、二人とも最後の別れである。すると病院の外が騒がしい。ジィープが二台と軍事用のトラックが一台、そして、迷彩服を着た兵士が十人程病院の入口に。止まったくるまから降りてきた。
「全員整列」号令を掛けたのは、先日葬儀屋に居た受付嬢である。
病院の看護婦が慌てて平野の所に来た。
「平野さんの家族に会いたいと外に自衛隊見たいな人が」と平野に看護婦が告げていると。その後ろから「われわれは、自衛隊ではないJCHPの者だ」と平野の前に迷彩服でヘルメット姿の隊員を連れて受付嬢が現れた。
受付嬢は、他の隊員とは違う軍服で胸に幾つものメダルを付けどこから見ても指揮官の様だ、そして平野に直立して敬礼をした。
「平野様時間がありません、お急ぎ下さい、ご家族の方は皆さんお揃いですか」
「あー、はい」「それでは、ご遺体とご家族の方を車へ、そしてみなさんは目隠しをしてください」そう言うと隊員は「はあ」と返事をすると同時にてきぱきと動き始めた、家族は大人だけ目隠しをされた。
「目隠しだと」
伯父は閑々である。
「なんだなんだ平男こいつらはなにもんだ、ちゃんと説明しろ」
叔母も家族も無言の兵士に囲まれ無理やり車に乗せられた。
叔父はまだ怒っている。
叔母も「平男ちゃん大丈夫なの」と聞く。
「はい、たぶん」と返事をするが。
「何が多分だ、平男説明しろ」
叔父の声は大きい。
「はい後で皆さんには説明します」
「この馬鹿もん」叔父はそのあと疲れて黙った。
叔母も何か言いたげである。
「平男ちゃんこの車お尻が痛いわね」
「はい、ジープとか言う奴です」
「そう、でどこに行くの」
「さあ、僕にも分かりません」
「困ったはね、家の猫ちゃんにご飯をあげる時間なのに」
「ええまあ」平男は答え様がない。
家内は何故か先程から無口だ、子ども達はと言うと何故かわくわくしている様だ。
「パパ、なんか楽しいよ」と10歳の息子が言うと一つ下の娘も「私も」と返事をしている。車は三十分程走ると次はヘリコプターに乗せられた。叔父も叔母もそして家族全員がこれには驚いて益々無口になった。
「到着しました、皆さん降りてください」
全員がヘリコプターから降ろされ、近くのビルのエレベーターに入れられるそして地下三階にとまる、(ピンポン)とエレベーターのドアが開く
「どうぞ目隠しをお取りください」女性が先頭で号令を掛けた。
「ここは地下三階です、どうぞこの中へ」とドアが開けられた、家族は言われたままに部屋の中に入る。「お父さんあれ」息子が指を差す方を見て驚いた、ドーム状になっている窓がありその先に中型のロケットが見える。
「モニターをご覧ください今亡くなわれたご親族の方がロケットに入ります」
モニターに父の顔が映る、カプセルに入っていた、そしてそのままロケットの中へ。
「これは、その、話そうと思ったのですが」
「何がどうしたのだ」「お父さん何なの」
「平男ちゃんなんなの」三人が平男を見っめる。「あのー、そのー実は」「まだお話になっていないのですか」あの軍服の女性が問いただす。
「そうなんです」「それでは、私からご説明しますか」「はいそうしていただければ」「分かりました、皆さん亡くなられた平野汎次郎さんは、これよりこのロケットに乗り北極星の隣の惑星x・y・z星へ旅立ちます」「北極星だと」叔父が驚きの声だ。
「はい、正確には隣のx・y・z星ですが、ここは、あの有名なナァーサーの宇宙基地ですここから、平野様つまりお父様は旅だられます」
「あらまぁ」叔母の驚きの声だ。
子供達は窓に張り付いて「すげー」とご機嫌だ。妻は少しは納得の様子である。
「さあ、それでは、カウントダウンです、皆様も最後のお別れです、ご一緒にどうぞ」
「モニターの画面が、10秒前、9秒前と時間を告げる、子供達がそれに合わせて、8秒前、7秒前」そして、叔父と叔母が「6秒前5秒前」最後に僕と妻が「4,3」と「2・1・発射」と全員が口を合わせた。ロケットが轟音と共に飛びあがる。「すごい」皆口を開けたままである。
「これより、大気圏に突入します、モニターのご親族に最後のお別れを」ロケットは白煙を上げて大空へ飛びたつ。
「お父さんありがとう」「兄貴、兄貴さようなら」「お兄さん、さようなら」「おじいちゃんすごいよすごいよ」「あなた、すごい」
「モニターが消えます、無事に大気圏に突入しました、あとは、北極星の隣x・y・z星にまっしぐらです」「平男すごいぞ」叔父は大喜びである。
「そうね、お兄さんはお星様になったんだ」と叔母がそう言う。
「そうなの、おじいちゃんお星さまになったの」と下の娘が。「そうよねえパパ」妻も満足そうだ。
息子と二人で家の屋根にのぼっている。
「おじいちゃんの星はどれ」
「あの北で一番輝いている星の隣の紫の星だよ」「いつもあるんだね」「そうだよ、遠いけど、いっも見える星、あそうか、遠くてもどこからでも見えるて事か」僕達二人は、何時までも星を見ていた。
その頃、あの軍服の女性は指令室にいた。
ドアの叩く音がした、「はいれ」女性がそう言うと兵士が一人入ってきた。「なんだ」
「大変です」「何事ですか」「あのロケットが得体の知れない円盤にさらわれました」
「なに、さらわれた」「はい、突然姿を消しました」兵士の言葉に軍服の司令官は、天を仰ぐと小さく呟いた。
「まさか、死者が蘇る返るのでは」。

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みんなの感想(1件)

大林和正
2023.11.26 大林和正

最初から創造力のある話
で最後にオチまで凄いです
面白かったです
ありがとうございます😊

解除

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