ビワ湖の底からこんにちわ

あとくルリ介

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爺ちゃんのトラック

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「うわー遅刻するーっ」
西暦5億2022年9月1日の朝8時頃。ユルミは大急ぎで着替えてカバンをつかみ、2階から階段を駆け下りようと踏み出した。そして踏み外した。
ダダダン、ゴロンゴロンゴロゴロー
縦回転からの横回転、1階に転がり込んでオマケでもう3回転。目が回ってふらふらしながらシメゾウ爺さんに「おはよう」を言った。
「ユルミや、いつも言っておるが階段は静かに降りておくれ、白蟻に食われてボロボロなんじゃ。」
今朝も天井から落ちた白蟻が床でうろちょろしている。ユルミの頭にも降ってきていた。
「それどころじゃないんだよ、今日こそ新学期早々遅刻しそうなんだよー!今年から8月は32日まであることにならないかなー、ねえ爺ちゃーん」
「まあ落ち着くんじゃ。ワシが送って行ってやるから大丈夫じゃ。」
「爺ちゃんが?」
「ワシが昔のトラックを発掘して改造しておったのは知っとるじゃろう?」
「もしかして、あのトラック完成したのー?」
ユルミが期待を込めて聞き返す。
「うっひっひ今日いよいよ初走行じゃ。」
「やったー、爺ちゃん偉い!」
ユルミはキッチンの椅子に座るとまだ足が床に届かない。浮いた両足を子犬のしっぽみたいに元気よく振った。シメゾウ爺さんがコーヒーとトーストを出した。
「心配せんでも食欲100万倍の薬や1粒300万メートルの豆は入っとらんからお食べ。」
「それなら安心して食べよーっと。」
厚切りのパンに厚切りのチーズと厚切りのサラミを隙間なく並べ、オリーブオイルをだくだく掛けたピザトーストだった。それが5枚。
「コーヒーとトーストだけでお昼までもつかなー」
薬なんかなくても十分食いしん坊なのだった。
「それにしてもちょうど今日が初走行だなんてラッキーだったよー」
「何億年も前のトラックを動かすんじゃ、すごいじゃろう、もっと褒めてもいいんじゃぞ。うひひ」
「よっ、メカの天才!あはは」
「うひひ」「あはは」
「でもさー、爺ちゃんもたまには機械っぽいのじゃなくて宝石とかティアラとか発掘してきてよー。」
「やっぱり女の子はそういうのが好きかのう。」
「堀田さんちなんか、宝石だらけの王冠とか黄金の仮面とかを掘り出して大金持ちだよー、それに比べてうちは・・・」
「なんじゃ、そっちの意味でかいな。」
腕組みするシメゾウ爺さん。
「皆それぞれ得意分野があるからのう。ワシが好きで掘り出してくる物はあんまりカネにはならんな。自転車とか扇風機とか古代人の生活に密着したようなもんに惹かれるんじゃ。ユルミにあげた目覚まし時計とかな。」
「そうだ、あの目覚まし時計壊れちゃったんだった。直してくれる?」
「うむ、メカの天才に任せるんじゃ。と言いたいところじゃが倉庫が爆発したから暫く掛かるかも知れんのう。」
「そういえば昨日、ビワ湖に出て少し北へ走ったところに棺桶みたいな箱が埋まってたよー、骨董品かも。」
「その辺なら今朝散歩したんじゃが何も見なかったのう。」
「おかしいなー、誰かに拾われちゃったかなー」
~~~~~~~~~~
 ユルミが朝食を摂り終えると、2人は家の裏手へ回った。家と裏山の森をへだてるように小さな庭がある。そこでシメゾウがブルーシートをガサガサめくると小型のトラックが現れた。今で言う軽トラックよりは一回り大きいサイズで、西暦3千年より少し前の遺物だった。くすんだ緑色の車体には錆や凹みがたくさんあって刻まれた歴史を感じさせる。
「ガソリンで動くエンジンというものが付いとるんじゃ。」
「ガソリン?」
「燃料の一種じゃ。大昔は広く使われていたらしいんじゃが、今回は少量しか手に入らなんだ。じゃが燃料が切れた時のために太陽電池とモーターを追加しておいたから安心じゃ。」
シメゾウ爺さんはエンジン始動のリモコンを取り出して構えると、乾杯の音頭をとるように声を張った。
「それではこれより、根地シメゾウによって発掘されましたトラックの試運転をいたします。じゃ。」
リモコンの真ん中にある始動ボタンに親指をのせる。
「どうぞカウントダウンをご唱和ください。」
ユルミと目を合わせ、ユルミも小さくうなずき、2人声を合わせる。
「スリー、ツー、ワン、」
そして
「ゴー!」
ブルン、ブルルルー
「爺ちゃんやったねーっ」
「無事エンジン始動じゃ、うひひ」
ブルルブワワーゴオーーーーーッ
エンジンの回転が勝手にどんどん速く、激しくなっていく。そして車体がグワラングワランと揺れだした。
「これ、大丈夫なのー?」
「だ、大丈夫じゃ。多分…」
大丈夫じゃなかった。トラックはバコーンと、はぜるような音を立てたかと思うと突如猛烈な勢いでバックし始めた。2人がポカンと口を開けて見送る中、猛スピードのバックで裏山の森の奥へと消えていった。
「爺ちゃん、昔のトラックは礼儀正しいねー」
「ん?」
「ちゃんと「バックします・バックします・・・」って断りを入れながらバックして行ったよ。」
「んじゃな。」
「今日もいいお天気だねー」
「んじゃな。」
そんなことを言いながら、2人はとぼとぼとキッチンに戻った。シメゾウはコーヒーのおかわりを淹れ、ユルミはいつものように椅子に座って足をぶらぶらした。ふと見るとテーブルの上にカバンがある。
(あ、カバンだ。なんでこんな所にスクールバッグがあるんだっけ・・・あれっ?学校?)
「わーっ、学校ーっ!」
シメゾウ爺さんもトラック失敗のショックからはっと我に返った。
「そうじゃったー、ワシとしたことがすっかり忘れておったわい!」
「いよいよ確実に遅刻だよー、爺ちゃんをあてにした私があんぽんたんだったよー、あんなに褒めて損したよー」
ユルミにいいところを見せたかったシメゾウはがっくり肩を落とし、部屋の隅で膝を抱えて座り込み、ぶつぶつと白蟻に話しかけている。ユルミはとにかくカバンを肩からかけて玄関へ急いだ。玄関で一旦立ち止まってシメゾウを振り返った。
「ごめん爺ちゃん、言い過ぎたよー」
そして外へ出た。
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