11 / 20
(11)
お見舞いに行こう
しおりを挟む「ヒララちゃん、その後お父さんの具合はどう?モグモグ」
給食の時間、ユルミはヒララの分を食べながら尋ねた。もちろん自分の分はもう食べ終わっている。
「ずっと目を覚まさないのだギシ。」
「そうなんだーモグモグ、心配だね。モグモグ」
「ユルミ、あんた食べるか心配するかどっちかにしなさいよ。」
学級委員長の倉田クラリだ。
「大体それ、ヒララの給食でしょ。」
ヒララが笑ってクラリをとめた。
「いいのだ委員ちょ。どうせあんまり食べられないのだ。」
休み時間にコウモリになって飛んでいたら、スイカ畑を見付けて今はお腹いっぱいなのだった。畑ではスイカが一玉、穴が開いてしなびていた。(それとイシオもちょっと吸った。)
「モグモグ、ヒララちゃんのお父さん、まだ良くならないんだって。」
「そう、それは心配ね。食欲無いのも無理ないわよ。」
「ギシィ~そういう訳では…。ユルミの方こそ両親の行方が分からず心配じゃないギシか?」
ユルミはゴックンして言った。
「私、お父さんとお母さんの事、何も覚えてないんだよー」
「あんたが赤ちゃんの時に行方不明になっちゃったんだから仕方ないわよね。」
「だから心配っていうより、一度でいいから会ってみたいなーって。あ、そういえばカバンに写真が入ってるんだった。」
この前、シメゾウ爺さんに他にも写真が残ってないか探してみて、というとき出した写真をカバンに入れたままだった。
「これが一枚だけあった写真なんだよー」
赤ん坊を抱っこしている両親が写っている。
「うわー、2人ともモデルみたいじゃないの!」
「ギシ!美男美女でファッション広告みたいなのだ。」
クラリとヒララは写真とユルミを交互に見比べた。
「この2人からあんたがねぇ…」
「そうなんだよー、だから私も大きくなったらこんな美人さんになるんだよー、えへへー」
「メンデルが知ったら"遺伝の法則"を書き直すでしょうよ。」
「白鳥にならないアヒルもいるギシな。」
「2人ともひどいよー」
萩知トオルが食後の歯磨きを済ませて戻ってきた。磨きたての白い歯をチラつかせながらヒララに聞いた。
「その後、お父さんのお加減はいかがでしょうか。」
「さっきもユルミに聞かれたギシが、ずっと寝たきりなのだ。」
萩知トオルはクラリ委員長に提案した。
「一度私たちでお見舞いに行くというのはどうでしょう?」
「そうねぇ、それもいいわね。」
「私も行くよー。」
ヒララはちょっと困った。寝かせてあるのは父上ではないし、人間でもない。病気とも違う気がする。
「ギシギシいやいや、お見舞いなんて…」
物事をテキパキ進める委員長はすぐに予定を決めにかかった。
「さっそく明日の放課後にでもどう?創設記念日だかなんだかでお昼過ぎに学校終わるから丁度いいんじゃない?」
ユルミもトオルも異論はなかった。
「じゃあ決まりね。」
ヒララはマントの端をにぎにぎしながら、どうしたものかと考えている。クラリが聞いた。
「で、どこの病院なのよ?」
「ギシ?病院?」
「お父さんは何処の病院に入院してるの?」
「病院じゃないのだ。ずっとミシガン号に寝かせてあるのだ。」
「何ですって!」
クラリが大きな声を出してから口に手を当て、今度は弱々しく独り言みたいに言った。
「や、やっぱり病気してる人の所へ押しかけるのは良くないかも…うん、良くないわよ。」
と、急に控えめな人になった。
「えー?、私は行くよー。行って励ますよー。」
「私ももちろん伺いますとも。」
「ユルミ、トオル、あんたたち本気?ミシガン号よ?幽霊船よ?取り憑かれたらどうすんのよ!」
「大丈夫だよー、そこに住んでるヒララちゃんが平気なんだもん。」
ユルミは、ヒララ自身が大丈夫な証拠だというように、ヒララの背後から肩を両手でぽんぽんした。でもクラリはそのヒララを正面から指差した。
「何言ってんのよ!死ぬ前から死んでるみたいなこの顔色とか、牙みたいな恐ろしげな歯とか、ギシギシ変なしゃべり方とか、この子が絶対呪われてないって断言できる?!」
と早口で言い切った、かと思うと、今度は急にアワワと詫び始めた。
「…違うのヒララ、今のは嘘、なんていうかその…」
ヒララは、にやにやギシギシ笑いをこらえている。
「委員ちょ落ち着くのだ。もしミシガン号に来るなら日が暮れる前に、明るいうちに帰ればいいのだ。というか来なくていいギシが。」
「クラリちゃん、幽霊が出るのは霧の夜だけだっていうし平気だよー」
「根地さんの言う通りなのです。それと、思ったのですが、保健医の小楠リンコ先生も一緒に行ってもらってはどうでしょう。先生の薬は良く効くそうですから、治療に役立つかも知れません。」
「うんそれいいね、リンコ先生には私が話しておくよー。家も近いし。」
とユルミも賛成した。倉田クラリは右手を顎に、左手を右手の肘に、探偵のポーズで言った。
「なるほど。先生も一緒なら平気かもねぇ。リンコ先生から担任の久野先生にも声掛けてもらおうかしらねぇ。」
委員長が落ち着いたのを見て萩知トオルが言った。
「そのくらい大勢で行けば倉田さんも怖くないでしょう。」
「そうね、トオルが取り憑かれてる間に逃げられるから安心だわ。」
ユルミはニコニコ顔で軽くバンザイした。
「わーい、幽霊船見学ツアー、楽しみだなー」
「あんた目的がすっかり変わっちゃってるわよ。」
「そーだっけ?」
萩知トオルが手を挙げる。
「ところで倉田委員長、見学ツアーに持っていくおやつは何百円まででありますか?」
と、ちょっと乗っかっておいた。
「はいっ」
と今度はユルミが手を挙げた。
「おやつは私にまかせてよー、リュックにいっぱい詰め合わせて持っていくから大丈夫!」
委員長はユルミをおやつ大臣に任命した。ヒララはその様子を見ながらギシギシしていた。
(ギギー、この自由人たち、どうしたものかギシ~)
委員長もちょっと楽しくなってきた。
「そうだわヒララ、あんたも幽霊船見学ツアーに連れてってあげるわよ。」
「あたしんちなのだ!ギシっ」
「ごめん、良くない冗談だったわ。」
ヒララは考えるのがアホらしくなって成り行きにまかせる事にした。
次の日の放課後、ユルミたちは器楽部には行かず、自転車に分乗して幽霊船ミシガン号へ向かった。萩知トオルは自転車の後ろに道案内役のヒララを乗せてペダルを漕いだ。後ろにヒララが乗っているはずなのに全く重さを感じない。ほんとに乗っているのか不安になるくらいだ。でも確かに後ろの荷台に横座りしていて片手を自分のお腹に回し、時折曲がる方向を伝えてくる。
一方クラリは自転車の後ろにユルミを乗せていて、こちらはペダルがずっしり重い。漕ぎながら息が上がっている。
「ハァーハァー、あんたの方が重いんだからあんたが漕ぎなさいよ、ハァーハァー」
「ごめーん。私、補助輪がないと自転車乗れないんだー」
「あんた体育だけは得意なんじゃないの?ハァーハァー」
「小さい時、補助輪取る練習する前にシロに乗せてもらうようになっちゃったんだよー」
「シロって、あのバカでかい野良犬?ハァーハァー」
「そうだよ、仲良しなんだー」
「誰にもなつかない凶暴な犬なのに変な話ねぇ。ていうか変なのはそんな犬に乗るあんたなんだけどね、ハァーハァー」
「そうそう、シロも走った後そんなふうにハァーハァーするよー」
「もおーあんたねぇっ、ここに置いていくわよ!ハァーハァー」
そうこうしているうちにミシガン号が見えてきた。そこは昔の盗賊が岩場を利用して作った秘密の港だった。岩陰に隠すように係留してあるが、ミシガン号は大きいので隠しきれていない。外観は朽ち果てた廃船そのものだ。霧の夜に航行するところを目撃したら、誰でも幽霊船と思うだろう。
プップー
後ろの方からクラクションの音が聞こえてきた。電動の3輪小型トラックが砂利道をガタピシやって来た。ヒララが描いた地図を見ながら運転しているのは小楠リンコ先生だ。一人乗りのトラックの荷台には久野サトオ先生が座っている。車酔いしたのか気持ち悪そうだ。
「久野先生大丈夫ですか?運転が下手で申し訳ありません、実際にハンドルを握るのは初めてなんですの。」
この電動トラックは給食のおばちゃんに借りた物だった。
「はい、大丈夫です。小楠先生こそ不慣れな運転ご苦労様です。僕が免許持っていれば良かったんですが。」
「よろしかったら久野先生の免許証もお作りしておきましょうか?」
「作る?」
「ええ、運転免許証は割と簡単に作れますのよ。医師免許の免状を作るのには少々手間取りましたけど。おほほ」
「小楠先生、それは…」
それは偽造なのでは、と言いかけたがやめておいた。
(教員免許の更新が面倒だし、新しいのを作ってもらおうかな。)
0
あなたにおすすめの小説
14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート
谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。
“スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。
そして14歳で、まさかの《定年》。
6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。
だけど、定年まで残された時間はわずか8年……!
――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。
だが、そんな幸弘の前に現れたのは、
「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。
これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。
描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。
笑いの授業
ひろみ透夏
児童書・童話
大好きだった先先が別人のように変わってしまった。
文化祭前夜に突如始まった『笑いの授業』――。
それは身の毛もよだつほどに怖ろしく凄惨な課外授業だった。
伏線となる【神楽坂の章】から急展開する【高城の章】。
追い詰められた《神楽坂先生》が起こした教師としてありえない行動と、その真意とは……。
野良犬ぽちの冒険
KAORUwithAI
児童書・童話
――ぼくの名前、まだおぼえてる?
ぽちは、むかし だれかに かわいがられていた犬。
だけど、ひっこしの日に うっかり わすれられてしまって、
気がついたら、ひとりぼっちの「のらいぬ」に なっていた。
やさしい人もいれば、こわい人もいる。
あめの日も、さむい夜も、ぽちは がんばって生きていく。
それでも、ぽちは 思っている。
──また だれかが「ぽち」ってよんでくれる日が、くるんじゃないかって。
すこし さみしくて、すこし あたたかい、
のらいぬ・ぽちの ぼうけんが はじまります。
独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。
猫菜こん
児童書・童話
小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。
中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!
そう意気込んでいたのに……。
「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」
私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。
巻き込まれ体質の不憫な中学生
ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主
咲城和凜(さきしろかりん)
×
圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良
和凜以外に容赦がない
天狼絆那(てんろうきずな)
些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。
彼曰く、私に一目惚れしたらしく……?
「おい、俺の和凜に何しやがる。」
「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」
「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」
王道で溺愛、甘すぎる恋物語。
最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。
あだ名が242個ある男(実はこれ実話なんですよ25)
tomoharu
児童書・童話
え?こんな話絶対ありえない!作り話でしょと思うような話からあるある話まで幅広い範囲で物語を考えました!ぜひ読んでみてください!数年後には大ヒット間違いなし!!
作品情報【伝説の物語(都道府県問題)】【伝説の話題(あだ名とコミュニケーションアプリ)】【マーライオン】【愛学両道】【やりすぎヒーロー伝説&ドリームストーリー】【トモレオ突破椿】など
・【やりすぎヒーロー伝説&ドリームストーリー】とは、その話はさすがに言いすぎでしょと言われているほぼ実話ストーリーです。
小さい頃から今まで主人公である【紘】はどのような体験をしたのかがわかります。ぜひよんでくださいね!
・【トモレオ突破椿】は、公務員試験合格なおかつ様々な問題を解決させる話です。
頭の悪かった人でも公務員になれることを証明させる話でもあるので、ぜひ読んでみてください!
特別記念として実話を元に作った【呪われし◯◯シリーズ】も公開します!
トランプ男と呼ばれている切札勝が、トランプゲームに例えて次々と問題を解決していく【トランプ男】シリーズも大人気!
人気者になるために、ウソばかりついて周りの人を誘導し、すべて自分のものにしようとするウソヒコをガチヒコが止める【嘘つきは、嘘治の始まり】というホラーサスペンスミステリー小説
隣のじいさん
kudamonokozou
児童書・童話
小学生の頃僕は祐介と友達だった。空き家だった隣にいつの間にか変なじいさんが住みついた。
祐介はじいさんと仲良しになる。
ところが、そのじいさんが色々な騒動を起こす。
でも祐介はじいさんを信頼しており、ある日遠い所へ二人で飛んで行ってしまった。
「いっすん坊」てなんなんだ
こいちろう
児童書・童話
ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。
自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・
不幸でしあわせな子どもたち 「しあわせのふうせん」
山口かずなり
絵本
小説 不幸でしあわせな子どもたち
スピンオフ作品
・
ウルが友だちのメロウからもらったのは、
緑色のふうせん
だけどウルにとっては、いらないもの
いらないものは、誰かにとっては、
ほしいもの。
だけど、気づいて
ふうせんの正体に‥。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる