ビワ湖の底からこんにちわ

あとくルリ介

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お見舞いに行こう

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「ヒララちゃん、その後お父さんの具合はどう?モグモグ」
給食の時間、ユルミはヒララの分を食べながら尋ねた。もちろん自分の分はもう食べ終わっている。
「ずっと目を覚まさないのだギシ。」
「そうなんだーモグモグ、心配だね。モグモグ」
「ユルミ、あんた食べるか心配するかどっちかにしなさいよ。」
学級委員長の倉田クラリだ。
「大体それ、ヒララの給食でしょ。」
ヒララが笑ってクラリをとめた。
「いいのだ委員ちょ。どうせあんまり食べられないのだ。」
休み時間にコウモリになって飛んでいたら、スイカ畑を見付けて今はお腹いっぱいなのだった。畑ではスイカが一玉、穴が開いてしなびていた。(それとイシオもちょっと吸った。)
「モグモグ、ヒララちゃんのお父さん、まだ良くならないんだって。」
「そう、それは心配ね。食欲無いのも無理ないわよ。」
「ギシィ~そういう訳では…。ユルミの方こそ両親の行方が分からず心配じゃないギシか?」
ユルミはゴックンして言った。
「私、お父さんとお母さんの事、何も覚えてないんだよー」
「あんたが赤ちゃんの時に行方不明になっちゃったんだから仕方ないわよね。」
「だから心配っていうより、一度でいいから会ってみたいなーって。あ、そういえばカバンに写真が入ってるんだった。」
この前、シメゾウ爺さんに他にも写真が残ってないか探してみて、というとき出した写真をカバンに入れたままだった。
「これが一枚だけあった写真なんだよー」
赤ん坊を抱っこしている両親が写っている。
「うわー、2人ともモデルみたいじゃないの!」
「ギシ!美男美女でファッション広告みたいなのだ。」
クラリとヒララは写真とユルミを交互に見比べた。
「この2人からあんたがねぇ…」
「そうなんだよー、だから私も大きくなったらこんな美人さんになるんだよー、えへへー」
「メンデルが知ったら"遺伝の法則"を書き直すでしょうよ。」
「白鳥にならないアヒルもいるギシな。」
「2人ともひどいよー」
萩知トオルが食後の歯磨きを済ませて戻ってきた。磨きたての白い歯をチラつかせながらヒララに聞いた。
「その後、お父さんのお加減はいかがでしょうか。」
「さっきもユルミに聞かれたギシが、ずっと寝たきりなのだ。」
萩知トオルはクラリ委員長に提案した。
「一度私たちでお見舞いに行くというのはどうでしょう?」
「そうねぇ、それもいいわね。」
「私も行くよー。」
ヒララはちょっと困った。寝かせてあるのは父上ではないし、人間でもない。病気とも違う気がする。
「ギシギシいやいや、お見舞いなんて…」
物事をテキパキ進める委員長はすぐに予定を決めにかかった。
「さっそく明日の放課後にでもどう?創設記念日だかなんだかでお昼過ぎに学校終わるから丁度いいんじゃない?」
ユルミもトオルも異論はなかった。
「じゃあ決まりね。」
ヒララはマントの端をにぎにぎしながら、どうしたものかと考えている。クラリが聞いた。
「で、どこの病院なのよ?」
「ギシ?病院?」
「お父さんは何処の病院に入院してるの?」
「病院じゃないのだ。ずっとミシガン号に寝かせてあるのだ。」
「何ですって!」
クラリが大きな声を出してから口に手を当て、今度は弱々しく独り言みたいに言った。
「や、やっぱり病気してる人の所へ押しかけるのは良くないかも…うん、良くないわよ。」
と、急に控えめな人になった。
「えー?、私は行くよー。行って励ますよー。」
「私ももちろん伺いますとも。」
「ユルミ、トオル、あんたたち本気?ミシガン号よ?幽霊船よ?取り憑かれたらどうすんのよ!」
「大丈夫だよー、そこに住んでるヒララちゃんが平気なんだもん。」
ユルミは、ヒララ自身が大丈夫な証拠だというように、ヒララの背後から肩を両手でぽんぽんした。でもクラリはそのヒララを正面から指差した。
「何言ってんのよ!死ぬ前から死んでるみたいなこの顔色とか、牙みたいな恐ろしげな歯とか、ギシギシ変なしゃべり方とか、この子が絶対呪われてないって断言できる?!」
と早口で言い切った、かと思うと、今度は急にアワワと詫び始めた。
「…違うのヒララ、今のは嘘、なんていうかその…」
ヒララは、にやにやギシギシ笑いをこらえている。
「委員ちょ落ち着くのだ。もしミシガン号に来るなら日が暮れる前に、明るいうちに帰ればいいのだ。というか来なくていいギシが。」
「クラリちゃん、幽霊が出るのは霧の夜だけだっていうし平気だよー」
「根地さんの言う通りなのです。それと、思ったのですが、保健医の小楠リンコ先生も一緒に行ってもらってはどうでしょう。先生の薬は良く効くそうですから、治療に役立つかも知れません。」
「うんそれいいね、リンコ先生には私が話しておくよー。家も近いし。」
とユルミも賛成した。倉田クラリは右手を顎に、左手を右手の肘に、探偵のポーズで言った。
「なるほど。先生も一緒なら平気かもねぇ。リンコ先生から担任の久野先生にも声掛けてもらおうかしらねぇ。」
委員長が落ち着いたのを見て萩知トオルが言った。
「そのくらい大勢で行けば倉田さんも怖くないでしょう。」
「そうね、トオルが取り憑かれてる間に逃げられるから安心だわ。」
ユルミはニコニコ顔で軽くバンザイした。
「わーい、幽霊船見学ツアー、楽しみだなー」
「あんた目的がすっかり変わっちゃってるわよ。」
「そーだっけ?」
萩知トオルが手を挙げる。
「ところで倉田委員長、見学ツアーに持っていくおやつは何百円まででありますか?」
と、ちょっと乗っかっておいた。
「はいっ」
と今度はユルミが手を挙げた。
「おやつは私にまかせてよー、リュックにいっぱい詰め合わせて持っていくから大丈夫!」
委員長はユルミをおやつ大臣に任命した。ヒララはその様子を見ながらギシギシしていた。
(ギギー、この自由人たち、どうしたものかギシ~)
委員長もちょっと楽しくなってきた。
「そうだわヒララ、あんたも幽霊船見学ツアーに連れてってあげるわよ。」
「あたしんちなのだ!ギシっ」
「ごめん、良くない冗談だったわ。」
ヒララは考えるのがアホらしくなって成り行きにまかせる事にした。
 次の日の放課後、ユルミたちは器楽部には行かず、自転車に分乗して幽霊船ミシガン号へ向かった。萩知トオルは自転車の後ろに道案内役のヒララを乗せてペダルを漕いだ。後ろにヒララが乗っているはずなのに全く重さを感じない。ほんとに乗っているのか不安になるくらいだ。でも確かに後ろの荷台に横座りしていて片手を自分のお腹に回し、時折曲がる方向を伝えてくる。
 一方クラリは自転車の後ろにユルミを乗せていて、こちらはペダルがずっしり重い。漕ぎながら息が上がっている。
「ハァーハァー、あんたの方が重いんだからあんたが漕ぎなさいよ、ハァーハァー」
「ごめーん。私、補助輪がないと自転車乗れないんだー」
「あんた体育だけは得意なんじゃないの?ハァーハァー」
「小さい時、補助輪取る練習する前にシロに乗せてもらうようになっちゃったんだよー」
「シロって、あのバカでかい野良犬?ハァーハァー」
「そうだよ、仲良しなんだー」
「誰にもなつかない凶暴な犬なのに変な話ねぇ。ていうか変なのはそんな犬に乗るあんたなんだけどね、ハァーハァー」
「そうそう、シロも走った後そんなふうにハァーハァーするよー」
「もおーあんたねぇっ、ここに置いていくわよ!ハァーハァー」
そうこうしているうちにミシガン号が見えてきた。そこは昔の盗賊が岩場を利用して作った秘密の港だった。岩陰に隠すように係留してあるが、ミシガン号は大きいので隠しきれていない。外観は朽ち果てた廃船そのものだ。霧の夜に航行するところを目撃したら、誰でも幽霊船と思うだろう。
プップー
後ろの方からクラクションの音が聞こえてきた。電動の3輪小型トラックが砂利道をガタピシやって来た。ヒララが描いた地図を見ながら運転しているのは小楠リンコ先生だ。一人乗りのトラックの荷台には久野サトオ先生が座っている。車酔いしたのか気持ち悪そうだ。
「久野先生大丈夫ですか?運転が下手で申し訳ありません、実際にハンドルを握るのは初めてなんですの。」
この電動トラックは給食のおばちゃんに借りた物だった。
「はい、大丈夫です。小楠先生こそ不慣れな運転ご苦労様です。僕が免許持っていれば良かったんですが。」
「よろしかったら久野先生の免許証もお作りしておきましょうか?」
「作る?」
「ええ、運転免許証は割と簡単に作れますのよ。医師免許の免状を作るのには少々手間取りましたけど。おほほ」
「小楠先生、それは…」
それは偽造なのでは、と言いかけたがやめておいた。
(教員免許の更新が面倒だし、新しいのを作ってもらおうかな。)
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