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第9話【魔獣狩り】
しおりを挟むそれから六日後。時節は晩春の五月晴れ。
遥か上空には、ゆったりと弧を描きながら旋回する鳥の影。
ピーヒョロロロロ…――
んぅー気持ちが良いですねぇ~。
今日は、絶好の【魔獣狩り】日和ですよぉー。
さて、僕が今いるのは、街から小一時間ほど南へ歩いた場所にある湖水地方です。
小高い丘に立ってみれば、遥か彼方には冠雪を戴く大山脈と、山麓を覆う大森林。爽やかな新緑色の草原に、雪解け水を湛えた大小無数の湖や小川など――風光明媚な眺望を楽しめます。いい眺めですねぇー。
でも、この美しい景色に気を許してはいけません。
あの山麓周辺は、魔素が濃ゆい【魔素溜まり】と呼ばれる場所で。霊草や霊樹など自然資源の宝庫であると同時に……【魔獣】の巣窟でもあるのです。
体内に魔素を蓄積させて凶暴&巨大化した【魔獣】は、魔素の薄い場所だと、酸欠ならぬ『魔素欠』という症状を起こすため。多くの【魔獣】が自然界隈の【魔素溜まり】に集まり、その領域内で生息します。で、そのまま領域内を占領しちゃうと…。凶暴で繁殖力旺盛な【魔獣】は、領域内から完全に駆逐するのが非常に困難でして。一度占領されたら領土開発は絶望的。むしろ間引きが追い付かないと、繁殖し過ぎた【魔獣】が領域内から溢れ出して、他の【魔素溜まり】を求めて【魔獣暴走】を起こしちゃいます。そうなれば、近隣の村畑は踏み潰され、行き倒れた【魔獣】の死骸は地中に蓄積されて――新たな【魔素溜まり】を生み出します。そうやって【魔素溜まり】に沈んだ村や街は数知れず。王国側としては『悩みの種』なわけですね…。
この大陸には、そのような【魔獣】に侵食された領域が、大小問わず、何千箇所と存在します。それは森林だったり、平原だったり、川や湖沼だったりと様々ですが。それらは総じて――【魔獣の領域】――と呼称され、異世界人類を悩ませています。
さて、閑話休題――。
そろそろ【魔獣の領域】に『ひと狩り』いってみましょうか――!!
◆◇ ◆◇◆ ◇◆
「と言っても、いきなり【魔獣の領域】に乗り込むつもりはありませんけどね?」
基本的には【魔素】が濃ゆい【魔獣の領域】の最深部ほど、大型魔獣との遭遇率が上がります。僕のような『新米の冒険者』は【魔素】が薄い【魔獣の領域】の端っこで、安全第一に【魔獣狩り】しましょう。
というわけで――僕が到着した場所は、青空色の水面がキレイな湖畔になります。
この辺りの湖は、大陸有数の【魔素溜まり】である【小アトラス山脈】の雪解け水に【魔素】が混じっており、それが湖畔の土壌に浸透して【魔素溜まり】をじわじわと広げています。まさにここが【魔獣の領域】侵食の最前線というわけです。言わば『魔獣の小領域』ですね。この場所なら【魔素】も低濃度なので、小型魔獣しか遭遇しません。昔から【魔獣狩り】を覚える場所として有名な狩場です。がんばるぞー。
『ゲコゲコ!』ぴょん。
「ありゃ…そんなこと考えてたら、いきなり遭遇しちゃいましたね……」
じっくり湖畔を観察していた僕の視界に現れたのは……でっかい『蛙』です。
前世で見たカエルの数倍はデカく。ゴツゴツした群青色の体躯は小岩のようで、遠目には氷塊みたいです。ゲコゲコ鳴きながらこちらを威嚇しています。
今回の狩猟対象――カエル種の小型魔獣【拳闘蛙】ですね。
その名の通り拳闘家の『左ジャブ』のような鋭い速さの打突を『舌先』で繰り出すカエルでして。モロに一撃喰らうと大怪我しますが。逆に言えば、命を落とす危険性も少ない『初心者向けの魔獣』です。動きに慣れれば農家のオジサンでも狩れます。
剥ぎ取れる主な魔獣素材は【蛙肉】で、鶏肉のササミに似た淡泊な味わいが普通に美味しいです。特に舌部の肉、通称『蛙舌』は異世界グルメ食材として有名ですね。五月~九月にかけて大量繁殖するため流通量も多くて安価。家計に優しい食肉です。蛙狩りの最盛期となる夏季には、この湖畔周辺も蛙狩りをする街の住民や新米冒険者たちで溢れることでしょう。
まあ逆に言いますと。今この時期は、まだ冬眠明けで【拳闘蛙】の数も少なくて。蛙狩りは効率が悪いので敬遠されがちです。今日も湖畔周辺に人影は少ないですね。ふふっ…計算通りです。銃狩猟は『流れ弾』による誤射が一番コワいですからね。今日は敢えて【蛙狩り】を選びました。
「……ふぅ…初めての【魔獣狩り】ですね……」
僕は【拳闘蛙】と対峙すると、息を吐きました。思ったより緊張しますね……。
ちなみに【拳闘蛙】の様子ですが、僕のことを『武器も持ってない丸腰の子ども』だと思ったのか。ぴょんぴょん左右に跳ねながら『ゲコゲコォ!』と挑発してます。むかちーん。
僕は腰に装着していた魔獣革製の【拳銃帯】に右手を伸ばすと――、
拳銃鞘の蓋を開放して、紫檀木製の銃把をグッと掴むと、黒銀鋼製の艶消し黒色な【魔改造デリンジャー】をジャコッと取り出しました。にふふ…かっこいい…。
さて――【拳闘蛙】が得意とする『蛙舌の打突』はおよそ射程二メートル。
コイツは案外賢い魔獣で、対峙する人間が、剣や棍棒など近接武器を持っていれば攻撃を仕掛けてきますが。弓など長射程の武器を持っていれば、すぐさま湖沼に逃げ込みます。射程が優位の時だけ殴ってくる用心深いヤツなのです……が。
『ゲコゲコォ!…………ゲコ?』
「おっ、やっぱり混乱してますねぇ……」
見慣れぬ【銃器】を目にして、【拳闘蛙】は訝しげに蛙面を傾げています。
ふふっ、残念ながら【魔改造デリンジャー】の有効射程は約十五メートルなので、こちらの方が『射程優位』になりますよ――!!
僕は両腕で握った【魔改造デリンジャー】を、グッと軽く正面に突き出します。
『立射』の姿勢を整えて。ゆっくりと親指で撃鉄を起こし。息を吐き止めます。
そして、引き金の爪に掛けた人差し指を――静かに絞りました。
――――――タン!
『ゲコォ…!?』
弾丸が頭蓋に命中し……【拳闘蛙】がドサッと倒れ伏します。
僕はしばらく銃を構えたまま、地面に倒れ込む【拳闘蛙】を睨みつけると――、
仕留めたのを確認して、ふぅと息を吐きました。よしっ。ばっちり狩れました!
僕は、自分が仕留めた【拳闘蛙】に合掌すると――、
近くに置いていたソリ型の運搬具に【拳闘蛙】を積み込みました。
あ、ちなみにこの運搬具は、僕が今朝がた【冒険者ギルド】で冒険者登録した際に同じ建物内に貸出窓口を設置していた【馬車ギルド】から借りたモノです。僕が牽引してここまで持って来ました。仕留めた獲物を、手に持って運搬するのは大変ですからね。それでいて馬に代表される使役動物や荷車は、維持費が大変なので。冒険者の多くは【馬車ギルド】の貸出品をよく利用しているのです。
尚、お値段は一日貸出で銅板一枚。日本円で約一〇〇〇円です。
二匹以上は狩らないと割に合いませんので。もうひと狩り、がんばりますよぉー!
◆◇ ◆◇◆ ◇◆
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