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エリオットの結婚式
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本気の真剣勝負からレイのヴィンに対する遠慮はなくなった。
本当にお化けが苦手らしく、ふと思い出してはヴィンを呼んで寝るまで横に座らせる。
朝食の準備もヴィン。やたらボタンだとかが多い貴族服への着替えも、面倒だとそこらに脱ぎ散らかした服を集めるのもヴィン。
基本貴族にメイドも従者もつくのだから仕方がないが、側近というより母親。ヴィンも傭兵時代は身の回りのすべて自分でやっていたのでできなくはないが、それこそ面倒くさい。
「今日のオムレツ少し焦げてる」
レイがむくれても知らないふりをしてやる。エリオットの結婚式が迫り、書類仕事や雑事で目の回るような忙しさだった。
傭兵に戻ると言い張ったが、さすがに公爵の側近が平民というわけにいかず、1代限りの騎士爵に収まり、バーデットは長兄が継ぐ。その手続きだけでも時間を取られた。
***
久しぶりのオルレアン領に双子もソフィアも楽しみにしていた。特に双子は花嫁のエレノアからベールボーイ、ベールガールを頼まれていた。
「エレノア様のドレスきれいね」
アナベルはメガネのおかげで婚礼衣装の細部までしっかり見えている。
アイボリーの優しい色合いが穏やかなエレノアによく似合っていた。これもグレースの手によるもの。
「エリオット兄様、おめでとう」
「レイも子ども達も来てくれて嬉しいよ」
冷静沈着なエリオットも今日はさすがに緊張気味だったが…。
「で、そちらの女性は誰?」
ヴィンの隣に美女がいる。
「1度顔合わせしたよ。ルーの護衛のミアだよ」
ヴィンがレイの愛人だとか妙な噂が出回っているので、ミアの変装がどこまでいけるか試しに女装させてヴィンにエスコートさせてみた。偽カップルだが案外お似合いだ。
「エリオット様、おめでとうございます」
ニコッとミアがお祝いを述べる。ハスキーボイスだが、ぎりぎり女声に聞こえる。
「ヴィン、もっと笑顔でミアに接しろ。これならどこへでも潜入できるな」
レイはいたずら成功と満足顔だ。
「私達の大事な結婚式で試すな! この義弟を野放しにできない。ヴィンも言いなりになるなよ」
「出来るならもう断ってる」
ヴィンは散々やりあっての結果だとエリオットにこぼす。
「あら、また可愛い子がいるじゃない。レイちゃん、紹介して」
「母上、ルーの護衛でミア・マリオットです。母上にもご協力をお願いすることもあるかと」
「いいわ。後で採寸しておきましょうね」
グレースの着せ替え人形が増えた。
オルレアン領の1番大きな教会で式は執り行われた。長いベールをもつ双子もしっかりと役割を果たし、新しく家族となったエレノアを祝福した。
挙式と披露宴が終わり、静かな庭をレイは1人歩いていた。あちらこちらにオリビアを見つける。
今でも鮮明に思い出す。初めて手をつないで歩いた小道。求婚したニオイスミレの咲く庭。2人の秘密基地だった古いガゼボは本を読んで、ソフィアのお菓子を食べた。大きな木の下でうたたねしていたら、そっとオリビアが起こしてくれた。
「エリオット兄様すごく幸せそうだったよ。君はエレノアと仲良くなっていただろうね」
今夜はいつもより沢山オリビアとおしゃべりをする。まだ胸はひどく痛むけどそれでいい。
厩舎にも足を向けるとそこには先客、馬の様子を見に来たヴィンがいた。
「眠れないのか?」
「ここは想い出が沢山あるから…」
「お前たちとはここで初めて会ったな」
「金と銀のすみれ姫としてね。もうさすがに姫と呼ばないで欲しいな」
レイが苦笑する。
「エリオット兄様には心配ばかりかけたけど、これで僕も兄離れできるよ」
「これからは俺が苦労すればいいだけか」
「頼りにしてる」
屋敷に戻るとハリーが2人を探していたという。まだ飲み足りないらしい。
「エリオットまであんな可愛い嫁もらって、どうしてうちには誰も来ない。うわぁ〰️」
泣き上戸とは知らなかった。
翌日。新しい護衛2人に付近を案内がてら、双子を連れてピクニックに出掛けた。
途中頭を布で覆った老人とすれ違う。古株の園丁だろうか。ヴィンも使用人まではわからない。
「レイ、あまり奥へ行かないように。今日は蜂が少し興奮気味だ。気を付けるんだよ」
「はい、おじい様」
(えっ誰?)
双子も大きいおじい様と呼んでいる。もしや…。
「昨日結婚式で会ってるじゃないか。オルレアン前侯爵で僕のおじい様だよ」
今は隠居して大好きな養蜂に精を出している。すれ違っても元侯爵に見えない。
「大変失礼いたしました」
「気にせんでいい。蜂に気をつけなさい」
オルレアン前侯爵はどこかへ行ってしまった。
「ここら辺にしようか」
気持ちの良い木陰にフローレンスとミアが敷物を広げ、バスケットから弁当を取り出す。今日は甘い香りのお茶でなく麦のお茶、匂いに蜂が寄ってくるので注意が必要だ。
付近を見回りをしていたヴィンが戻ってきたが、腕を押さえている。
「蜂に刺された」
「見せて」
針がついたままだ。レイがフローレンスを呼ぶ。
「対処はできる?」
「お任せください」
フローレンスは針を抜き、水をかけながら毒も絞りとった。
「まったく、黒い服でくるなんて。着替えろって言ったのに。前に刺されたの忘れた? 君は学ばないの? 」
「すまない、忘れてた」
「フローレンスはよく対処できていた。後でもう1度診てやって欲しい」
レイにフローレンスが褒められ、アナベルが嬉しそうだ。
ヴィンは皆と少し離れた場所で1人弁当を食べる。黒髪黒服に蜂がよってきたら双子が危ないから、あっちにいけと言われたら仕方がない。レイが自分の白い上着をヴィンの頭に被せてくれたから少しは心配してくれているのだろう。
自分1人では守り切れない時もある。ミアとフローレンス。良い仲間と出会えた。
本当にお化けが苦手らしく、ふと思い出してはヴィンを呼んで寝るまで横に座らせる。
朝食の準備もヴィン。やたらボタンだとかが多い貴族服への着替えも、面倒だとそこらに脱ぎ散らかした服を集めるのもヴィン。
基本貴族にメイドも従者もつくのだから仕方がないが、側近というより母親。ヴィンも傭兵時代は身の回りのすべて自分でやっていたのでできなくはないが、それこそ面倒くさい。
「今日のオムレツ少し焦げてる」
レイがむくれても知らないふりをしてやる。エリオットの結婚式が迫り、書類仕事や雑事で目の回るような忙しさだった。
傭兵に戻ると言い張ったが、さすがに公爵の側近が平民というわけにいかず、1代限りの騎士爵に収まり、バーデットは長兄が継ぐ。その手続きだけでも時間を取られた。
***
久しぶりのオルレアン領に双子もソフィアも楽しみにしていた。特に双子は花嫁のエレノアからベールボーイ、ベールガールを頼まれていた。
「エレノア様のドレスきれいね」
アナベルはメガネのおかげで婚礼衣装の細部までしっかり見えている。
アイボリーの優しい色合いが穏やかなエレノアによく似合っていた。これもグレースの手によるもの。
「エリオット兄様、おめでとう」
「レイも子ども達も来てくれて嬉しいよ」
冷静沈着なエリオットも今日はさすがに緊張気味だったが…。
「で、そちらの女性は誰?」
ヴィンの隣に美女がいる。
「1度顔合わせしたよ。ルーの護衛のミアだよ」
ヴィンがレイの愛人だとか妙な噂が出回っているので、ミアの変装がどこまでいけるか試しに女装させてヴィンにエスコートさせてみた。偽カップルだが案外お似合いだ。
「エリオット様、おめでとうございます」
ニコッとミアがお祝いを述べる。ハスキーボイスだが、ぎりぎり女声に聞こえる。
「ヴィン、もっと笑顔でミアに接しろ。これならどこへでも潜入できるな」
レイはいたずら成功と満足顔だ。
「私達の大事な結婚式で試すな! この義弟を野放しにできない。ヴィンも言いなりになるなよ」
「出来るならもう断ってる」
ヴィンは散々やりあっての結果だとエリオットにこぼす。
「あら、また可愛い子がいるじゃない。レイちゃん、紹介して」
「母上、ルーの護衛でミア・マリオットです。母上にもご協力をお願いすることもあるかと」
「いいわ。後で採寸しておきましょうね」
グレースの着せ替え人形が増えた。
オルレアン領の1番大きな教会で式は執り行われた。長いベールをもつ双子もしっかりと役割を果たし、新しく家族となったエレノアを祝福した。
挙式と披露宴が終わり、静かな庭をレイは1人歩いていた。あちらこちらにオリビアを見つける。
今でも鮮明に思い出す。初めて手をつないで歩いた小道。求婚したニオイスミレの咲く庭。2人の秘密基地だった古いガゼボは本を読んで、ソフィアのお菓子を食べた。大きな木の下でうたたねしていたら、そっとオリビアが起こしてくれた。
「エリオット兄様すごく幸せそうだったよ。君はエレノアと仲良くなっていただろうね」
今夜はいつもより沢山オリビアとおしゃべりをする。まだ胸はひどく痛むけどそれでいい。
厩舎にも足を向けるとそこには先客、馬の様子を見に来たヴィンがいた。
「眠れないのか?」
「ここは想い出が沢山あるから…」
「お前たちとはここで初めて会ったな」
「金と銀のすみれ姫としてね。もうさすがに姫と呼ばないで欲しいな」
レイが苦笑する。
「エリオット兄様には心配ばかりかけたけど、これで僕も兄離れできるよ」
「これからは俺が苦労すればいいだけか」
「頼りにしてる」
屋敷に戻るとハリーが2人を探していたという。まだ飲み足りないらしい。
「エリオットまであんな可愛い嫁もらって、どうしてうちには誰も来ない。うわぁ〰️」
泣き上戸とは知らなかった。
翌日。新しい護衛2人に付近を案内がてら、双子を連れてピクニックに出掛けた。
途中頭を布で覆った老人とすれ違う。古株の園丁だろうか。ヴィンも使用人まではわからない。
「レイ、あまり奥へ行かないように。今日は蜂が少し興奮気味だ。気を付けるんだよ」
「はい、おじい様」
(えっ誰?)
双子も大きいおじい様と呼んでいる。もしや…。
「昨日結婚式で会ってるじゃないか。オルレアン前侯爵で僕のおじい様だよ」
今は隠居して大好きな養蜂に精を出している。すれ違っても元侯爵に見えない。
「大変失礼いたしました」
「気にせんでいい。蜂に気をつけなさい」
オルレアン前侯爵はどこかへ行ってしまった。
「ここら辺にしようか」
気持ちの良い木陰にフローレンスとミアが敷物を広げ、バスケットから弁当を取り出す。今日は甘い香りのお茶でなく麦のお茶、匂いに蜂が寄ってくるので注意が必要だ。
付近を見回りをしていたヴィンが戻ってきたが、腕を押さえている。
「蜂に刺された」
「見せて」
針がついたままだ。レイがフローレンスを呼ぶ。
「対処はできる?」
「お任せください」
フローレンスは針を抜き、水をかけながら毒も絞りとった。
「まったく、黒い服でくるなんて。着替えろって言ったのに。前に刺されたの忘れた? 君は学ばないの? 」
「すまない、忘れてた」
「フローレンスはよく対処できていた。後でもう1度診てやって欲しい」
レイにフローレンスが褒められ、アナベルが嬉しそうだ。
ヴィンは皆と少し離れた場所で1人弁当を食べる。黒髪黒服に蜂がよってきたら双子が危ないから、あっちにいけと言われたら仕方がない。レイが自分の白い上着をヴィンの頭に被せてくれたから少しは心配してくれているのだろう。
自分1人では守り切れない時もある。ミアとフローレンス。良い仲間と出会えた。
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