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アガサスはやっぱり謎の国
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リアンとトーマスがアガサス騎士団で汗をかいている頃、レイ達はアルクの工房見学をしていた。
3人が見たところで、へーとか、すごいしか出ないのだが、ここでアルクと顔つなぎをしてフェリシティーの職人を送り込み、技術を学ばせたいとレイは考えている。
寡黙そうに見えたアルクだが、工房内では活き活きととにかくしゃべる。よくわからないながらもレイが質問して、すごい、さすがと煽てるのでさらにしゃべる。
「イーサンの『頭はきれるが厄介』だと言ってたのはこれか」
「面倒の間違えじゃないか。言ってることがよく分からん」
「剣じゃなくて剣作りの腕で団長になったって聞いて驚いたけど、なるほどね。作り手ならではの指導や作戦まで幅広い知識がすごいな。これでカステルやうちに負けたの何でだろう」
「騎士のやる気か? あの王族に対して忠誠心も何もなかったんだろう」
忠誠心こそ力の原動力とヴィンが力説する。
「そんなんでよく戦争仕掛けようと思うよね。無駄使いだろ。クロークなら絶対やらない、謎すぎる」
「忠誠心か。帰ったらめちゃくちゃ騎士全員褒めまくろう」
「お前がまた手合わせでもしてやれ、1番喜ぶ」
「ヴィンもハリーもね。新しい剣が出来たら振りたいでしょ」
「模擬戦ならいくらでもできそうだ。そのうち各国代表で剣術試合でもしたいな」
「ハリー、君からそんな案が出るとは。いいね、やりたいな」
「ヴィンも出るだろ」
肩を叩かれたヴィンもまんざらでもない。結局3人とも剣大好き、戦以外ならいくらでも振るいたい。
「大会1位のご褒美は、ヴィオラちゃんからのキスが欲しいです」
「ハリー」
「すんません。やる気が百万倍違うんで言ってみただけです」
「僕が優勝したらどうするのさ」
「俺らが全身マッサージします」
「それ僕が優勝できなくてもやってもらうから。だいたい騎士たるもの、モノにつられないでよ」
とりあえず友好的な国に声をかけてみようになった。
セオは王城の一室で目の専門医に診察を受けた。診断は変わらずだが、いずれ医療が発達すれば手術ができるかもしれないと言われ、少しだが希望がみえた。
「この傷のおかげでモリーと結婚できたし、主からも心配してもらって、俺このままでも十分幸せ」
それを聞いてもレイは少し困ったような、悲しい顔になってしまう。手術できるかはわからないが、できるなら完治させたい。
「さぁ、帰ろう」
サンドラの石はアガサスの宝物庫に預けた。いわくつきの石などレイも手元には置いておきたくない。
フェリシティー王都に戻ると、石を持ち込んだアンをアガサスへ帰国させようとしたが、どうしてもここに、レイの元に残りたいという。もう主を失い行く当てもない。なら最後にサンドラが認めたレイに仕えたいという。
「いいんじゃないか。アガサスに詳しい者がいたら便利だろ」
アンはやはり偽名で本名はアスター。サンドラの侍女として共にいるうちに剣術も習い始め、護衛もしていたという。
「レイラとも知り合いなの?」
「あの者は裏切者です。私は許せない」
「ならここには置けない。レイラは僕の妻の友人だからね」
「私がレイラと会うことはもうないでしょう。ここに置いてください!」
アガサスの人間はどうして素直に言うことを聞かないんだろうか。まだまだ謎多き国だ。ここは拾ってきたリアンに押し付けよう。
「リアン、悪いけどウィステリア騎士団に入れておいて。女性騎士は少ないから重宝するかもしれない」
「主、面倒になりましたね」
「リアン、僕は女性には強く出られないんだよ」
「今さらフェミニストぶるな。サンドラに躊躇なく斬りつけてただろ」
「もうひとつの顔の方にでしょ。それに先にヴィンがいた方が便利って言ったよ」
「あの、すごくご迷惑なのはわかりました。でも本当にここに居たいんです。必ず役に立ちます。私に見張りをつけていいので、試しにおいてください」
「リアン、女性が困ってる。助けてあげようよ」
「仕方がない。ウィステリアに連れていきます。使えそうなら王都で引き取ってください。約束ですからね」
「わかった。先に入団試験だね。そうだなミアに相手頼もうかな」
「では明日、王宮騎士団の修練場で行います」
翌日の模擬戦。ミアは細身の体で軽さを活かし動きが俊敏。男性なので女性よりはるかに力強く、アスターを押していく。アスターはそれでもよく持ちこたえた。ミアに負けはしたがよい勝負だった。
「これなら使えそうだ。とにかく最初の数分さえしのげば、護衛対象の逃げる時間は稼げる。リアンもいいかな」
「はい。これからまた鍛えていきましょう」
アスターは入団を認められた。
***
近隣諸国に声をかけ、剣術大会の開催が決まった。
騎士団所属の者、傭兵や腕試ししたい者は騎士団で推薦をもらうことで参加可能。ただの力自慢、野党などは参加できないようにした。
各国で10名まで絞り込み、本大会会場はダレン国。広い闘技場があるという。レイも訪れたことはないが、6か国会議で王太子ジョージとは顔見知り。海に面した国で、国民性は陽気。すでに初の剣術大会開催で国内盛り上がっているという。
フェリシティーでも予選が行われ、予選突破した強者が集まった。
3人が見たところで、へーとか、すごいしか出ないのだが、ここでアルクと顔つなぎをしてフェリシティーの職人を送り込み、技術を学ばせたいとレイは考えている。
寡黙そうに見えたアルクだが、工房内では活き活きととにかくしゃべる。よくわからないながらもレイが質問して、すごい、さすがと煽てるのでさらにしゃべる。
「イーサンの『頭はきれるが厄介』だと言ってたのはこれか」
「面倒の間違えじゃないか。言ってることがよく分からん」
「剣じゃなくて剣作りの腕で団長になったって聞いて驚いたけど、なるほどね。作り手ならではの指導や作戦まで幅広い知識がすごいな。これでカステルやうちに負けたの何でだろう」
「騎士のやる気か? あの王族に対して忠誠心も何もなかったんだろう」
忠誠心こそ力の原動力とヴィンが力説する。
「そんなんでよく戦争仕掛けようと思うよね。無駄使いだろ。クロークなら絶対やらない、謎すぎる」
「忠誠心か。帰ったらめちゃくちゃ騎士全員褒めまくろう」
「お前がまた手合わせでもしてやれ、1番喜ぶ」
「ヴィンもハリーもね。新しい剣が出来たら振りたいでしょ」
「模擬戦ならいくらでもできそうだ。そのうち各国代表で剣術試合でもしたいな」
「ハリー、君からそんな案が出るとは。いいね、やりたいな」
「ヴィンも出るだろ」
肩を叩かれたヴィンもまんざらでもない。結局3人とも剣大好き、戦以外ならいくらでも振るいたい。
「大会1位のご褒美は、ヴィオラちゃんからのキスが欲しいです」
「ハリー」
「すんません。やる気が百万倍違うんで言ってみただけです」
「僕が優勝したらどうするのさ」
「俺らが全身マッサージします」
「それ僕が優勝できなくてもやってもらうから。だいたい騎士たるもの、モノにつられないでよ」
とりあえず友好的な国に声をかけてみようになった。
セオは王城の一室で目の専門医に診察を受けた。診断は変わらずだが、いずれ医療が発達すれば手術ができるかもしれないと言われ、少しだが希望がみえた。
「この傷のおかげでモリーと結婚できたし、主からも心配してもらって、俺このままでも十分幸せ」
それを聞いてもレイは少し困ったような、悲しい顔になってしまう。手術できるかはわからないが、できるなら完治させたい。
「さぁ、帰ろう」
サンドラの石はアガサスの宝物庫に預けた。いわくつきの石などレイも手元には置いておきたくない。
フェリシティー王都に戻ると、石を持ち込んだアンをアガサスへ帰国させようとしたが、どうしてもここに、レイの元に残りたいという。もう主を失い行く当てもない。なら最後にサンドラが認めたレイに仕えたいという。
「いいんじゃないか。アガサスに詳しい者がいたら便利だろ」
アンはやはり偽名で本名はアスター。サンドラの侍女として共にいるうちに剣術も習い始め、護衛もしていたという。
「レイラとも知り合いなの?」
「あの者は裏切者です。私は許せない」
「ならここには置けない。レイラは僕の妻の友人だからね」
「私がレイラと会うことはもうないでしょう。ここに置いてください!」
アガサスの人間はどうして素直に言うことを聞かないんだろうか。まだまだ謎多き国だ。ここは拾ってきたリアンに押し付けよう。
「リアン、悪いけどウィステリア騎士団に入れておいて。女性騎士は少ないから重宝するかもしれない」
「主、面倒になりましたね」
「リアン、僕は女性には強く出られないんだよ」
「今さらフェミニストぶるな。サンドラに躊躇なく斬りつけてただろ」
「もうひとつの顔の方にでしょ。それに先にヴィンがいた方が便利って言ったよ」
「あの、すごくご迷惑なのはわかりました。でも本当にここに居たいんです。必ず役に立ちます。私に見張りをつけていいので、試しにおいてください」
「リアン、女性が困ってる。助けてあげようよ」
「仕方がない。ウィステリアに連れていきます。使えそうなら王都で引き取ってください。約束ですからね」
「わかった。先に入団試験だね。そうだなミアに相手頼もうかな」
「では明日、王宮騎士団の修練場で行います」
翌日の模擬戦。ミアは細身の体で軽さを活かし動きが俊敏。男性なので女性よりはるかに力強く、アスターを押していく。アスターはそれでもよく持ちこたえた。ミアに負けはしたがよい勝負だった。
「これなら使えそうだ。とにかく最初の数分さえしのげば、護衛対象の逃げる時間は稼げる。リアンもいいかな」
「はい。これからまた鍛えていきましょう」
アスターは入団を認められた。
***
近隣諸国に声をかけ、剣術大会の開催が決まった。
騎士団所属の者、傭兵や腕試ししたい者は騎士団で推薦をもらうことで参加可能。ただの力自慢、野党などは参加できないようにした。
各国で10名まで絞り込み、本大会会場はダレン国。広い闘技場があるという。レイも訪れたことはないが、6か国会議で王太子ジョージとは顔見知り。海に面した国で、国民性は陽気。すでに初の剣術大会開催で国内盛り上がっているという。
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