雑貨屋店主は王子様

ななこ

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剣術大会前夜

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 フェリシティーからは5名。

 レイ、ヴィン、リアン、王国騎士団から副団長ローガン、傭兵アーチー。ハリーはもちろんクローク国代表。



「お前が本気出すから半分が辞退って、どうすんだよ」

「本気ださなきゃ相手に失礼でしょ。それに僕だって最近鍛錬不足で体なまってたから負けちゃうよ」

 秒で勝敗がつく試合もあり、予選会場は湧いた。

「それにしてもローガンはやっぱり出てきたな」

 当たらなくて良かったとヴィンも嫌がる相手。歳も近く体格も似ているが、性格が暗い。無口で彼の周りはいつも湿気たような空気が漂う。次の騎士団長候補だが、大丈夫だろうかと心配になる。

「アーチーも申し分ないね。ウィステリア騎士団に入ってくれないかな」

 リアンは何度も声かけるが毎回振られる。

「好きな時に好きな仕事だけを受けたいって。傭兵にしちゃ欲がないよな」

 傭兵はいつでも依頼があるわけではない、普通は稼げるときに稼ぐ。ヴィンも傭兵時代に何度か顔を合わせていて、槍も剣も使える強者と認めている。アーチー自身は飄々としていてつかみどころはないが、レイからの依頼は必ず受ける。

「レイ様と交えることができそうだな、楽しみだ」

 元領主からの税に苦しみ貧困だった領を変えた上、レイの薬のおかげで家族の命も助けてもらったと言って、いつもレイのためなら力を貸してくれる。

「僕もアーチーと1度本気でやりたい。最後まで気を抜かないでいくよ」

 命のやり取りがない、ただの力比べ。争いのない平和な世の中になってきたものだとレイは嬉しそうだ。

 ダレンに行くには海路もあるが、絶対に酔うとレイが言うので時間はかかるが陸路を選んだ。予定より不在期間が延びてしまったため、出発間際まで領主館で書類と格闘していた。

「馬車の中で、これ確認してくださいね。途中で人を出して送り返してください」

 事務官アランからどっさりと書類の束を渡された。鍛錬だ、予選だと仕事を後回しにしたので書類仕事は山のようにたまり、もう車中でどうにかしてくれと泣きつかれた。

「馬車でも酔いそう」

 ペンをひたすら走らせ、1枚でも減らそうと頑張っている。

「私までお手伝いに駆り出されているのですから、それくらい旅の途中で終わらせてくださいませね」

 モリーナがウィステリアに嫁いできてから、領主館の手伝いを頼んでいた。見た目はおっとりだが、てきぱきとこなしていく。実に有能。セオも時々顔を出し手伝っていくので、不在中に新たにきた書類も、そうたまることはないだろう。お土産は多めに買ってこよう。

「後はよろしく。行ってくる」

 馬車で10日。ダレンに入る前に一休みしようと一行は手前の街で1泊していた。

「このあたりの料理は味が濃くて辛めだな。食えるか」

「これ毎日はきついんだけど。まぁパンと果物があれば大丈夫」

 肉にも魚にも手を付けないレイに、ヴィンが荷物の中から干した肉やらナッツなど差し出す。

「ヴィンはレイ様の側近ではなかったか? おかんみたいだな」

 ヴィンの世話焼きっぷりをみてアーチーが笑いながら、これなら食えるだろうと付け合わせの蒸しただけの野菜を取り分けてくれた。

「お前の弱点はスタミナだ。食える時に食って寝ろ」

「1対1ならそう時間かけずに1戦終わらせつもり。何とかなるよ」

「やっぱりレイ様は強敵だな。年甲斐もなくわくわくしてきた。さぁ俺らも食って休もうぜ」

 アーチーは口いっぱいに料理を頬張り、ローガンは黙々と食べていた。リアンはいつも通り上品に綺麗に食す。

「レイモンド様!!  一緒になるなんてやはり運命でしょうか」

 運命じゃない。貴族が泊まるような宿屋は数件しかなく、会いたくもない者と鉢合わせもある。

「こんばんは。僕たちは食事を済ませた。もう行くよ」

 レイ達のテーブルの前にカステル国のサイラスが立っていた。レイと話したくて大きな体をゆすりながら、もじもじとしている。

「ちょっと鬱陶しいんだけど」

「先日はレイラ殿が大変お世話になったと聞きました。あのいで立ちにも驚かず相手くださるとは、さすがレイモンド様」

「レイラが妻の友人だと聞いたからね。ところでレイラは来ていないの?」

「騎士団から推薦が取れませんでした。次は女性だけの大会も開催してやってください」

「そうか。2回目があるとしたら部門を設けてみよう」

「観戦には来るそうなので、ぜひお言葉をかけてやってください」

「会えたら食事でも誘うよ。では僕たちは行くよ」

「まだ話を…」

「姐さんは疲れてんの。わからない?」

「ハリーも着いたのか。クローク国からは距離もあるのに間に合って良かった」

 サイラスの大きな体を後ろに引っ張り、着いた早々にレイの護衛に徹するハリー。

「お待ちください。私達も白銀の一閃に挨拶がしたい」

 グレイシャス国代表、ノアール国代表まで挨拶待ちをしている。どうやらしばらく部屋へ戻れそうになかった。

「ご丁寧な挨拶で時間とられたけど、対戦相手の様子が少しでもわかって、良かったと思うことにする」

 ヴィンに渡された蜂蜜入りのお茶を飲みながら、レイは新しい剣の手入れをしていた。

「すごく軽いけど強度が上がった」

「俺のは束が握り込みやすい。これはいいな」

「見て見て、クロークの俺の紋章までしっかり入れてくれた。こういうの愛剣って感じでいいよね」

 それぞれの剣を自慢し、優勝は誰かなど賭けまで始め、休むはずが遅くまで話し込んでしまった。
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