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【序章】始まりの小さな花 / 全10話
03 あの子と出会った日のこと
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夕方になると俺は近所の公園にあるジャングルジムのてっぺんでよく歌ってた。
明るい時は子どもが集まって楽しそうな場所なのにさ。
暗くなると遊んでた子たちが家に帰って誰もいなくなる。
もし、この公園に心があったら寂しいって思うはずだ。
そんなことを考えながら俺は遅くまでそこにいた。
でも今になって思うんだ。寂しかったのは公園じゃなくて俺の方だったんだって。
あの頃の俺は自分がすごく孤独な存在だと思ってた。
友達は学校にはいなかったけどそこ以外にはいたんだ。
でも、みんなさ。俺とは違って人に誇れる『なにか』を持ってた。
たとえば勉強や運動が得意だったり、そうじゃなくても大好きだったり。
そんな『なにか』を持ってる奴は俺には輝いて見えてた。
俺にはそんなものがなかったからいつも独りの気分だったんだ。
そんなある日のことだ。俺の友だちに『伊坂 隼人』って大学生の男がいた。
俺はそいつのこと親しみを込めて「イサカ」って呼んでるんだけどな。
俺が中学二年の時にちょっとしたことで知り合ったんだけど。
そいつも俺にとっては『なにか』を持ってる中の一人だった。
イサカにとってのそれは『音楽』と『ギター』だ。
そいつがギターを弾くのをしゃがみ込んで見てた俺に対して言ったんだ。
「直もやってみなよ。……いや、違うな。はっきり言って俺が直と一緒にやりたいんだよ」
って。それは前々から何度もされて、その度に何度も断ってきたバンドの誘いだ。
だけどクズな自分は何をやってもダメだと思ってた俺はまた誘いを断った。
笑ってごまかすことでやる前から全てを諦めてたんだ。
で。その日も俺は夕方の公園で。俺だけの特等席――ジャングルジムのてっぺんで歌ってたんだ。
心の奥に閉じ込めた色々な想いを込めて。
「…………?」
気づいたら赤いランドセルを背負った女の子が俺をじっと見上げてた。
俺がどれだけ不良でも幼い子にきつく当たるなんてことはしないし、したくない。
それ以前に俺は子どもが好きだったんだけどさ。
だから怖がられたくなくて笑いかけてみたんだ。
そんな俺の想いも虚しく女の子は何も言わずに走り去っていった。
それがちょっとショックだったのはここだけの話。
次の日。同じ時間の同じ場所――俺の特等席。
やっぱりその日も俺は歌ってて、気がつくとまたあの女の子がいた。
目が合って怖がらせちゃったかなって困った顔の俺にあの子は言った。
それはすごく小さな声だったけど俺の耳にはちゃんと届いた。
今まで俺に向けられたどの言葉よりも心の奥底まで、届いた。
「おにいちゃんの歌、好きだよ」
って。
あの日、あの時、あの子は言ってくれたんだ。
何を言われたのか理解した時、俺は自分が泣いてることに気づいた。
明るい時は子どもが集まって楽しそうな場所なのにさ。
暗くなると遊んでた子たちが家に帰って誰もいなくなる。
もし、この公園に心があったら寂しいって思うはずだ。
そんなことを考えながら俺は遅くまでそこにいた。
でも今になって思うんだ。寂しかったのは公園じゃなくて俺の方だったんだって。
あの頃の俺は自分がすごく孤独な存在だと思ってた。
友達は学校にはいなかったけどそこ以外にはいたんだ。
でも、みんなさ。俺とは違って人に誇れる『なにか』を持ってた。
たとえば勉強や運動が得意だったり、そうじゃなくても大好きだったり。
そんな『なにか』を持ってる奴は俺には輝いて見えてた。
俺にはそんなものがなかったからいつも独りの気分だったんだ。
そんなある日のことだ。俺の友だちに『伊坂 隼人』って大学生の男がいた。
俺はそいつのこと親しみを込めて「イサカ」って呼んでるんだけどな。
俺が中学二年の時にちょっとしたことで知り合ったんだけど。
そいつも俺にとっては『なにか』を持ってる中の一人だった。
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そいつがギターを弾くのをしゃがみ込んで見てた俺に対して言ったんだ。
「直もやってみなよ。……いや、違うな。はっきり言って俺が直と一緒にやりたいんだよ」
って。それは前々から何度もされて、その度に何度も断ってきたバンドの誘いだ。
だけどクズな自分は何をやってもダメだと思ってた俺はまた誘いを断った。
笑ってごまかすことでやる前から全てを諦めてたんだ。
で。その日も俺は夕方の公園で。俺だけの特等席――ジャングルジムのてっぺんで歌ってたんだ。
心の奥に閉じ込めた色々な想いを込めて。
「…………?」
気づいたら赤いランドセルを背負った女の子が俺をじっと見上げてた。
俺がどれだけ不良でも幼い子にきつく当たるなんてことはしないし、したくない。
それ以前に俺は子どもが好きだったんだけどさ。
だから怖がられたくなくて笑いかけてみたんだ。
そんな俺の想いも虚しく女の子は何も言わずに走り去っていった。
それがちょっとショックだったのはここだけの話。
次の日。同じ時間の同じ場所――俺の特等席。
やっぱりその日も俺は歌ってて、気がつくとまたあの女の子がいた。
目が合って怖がらせちゃったかなって困った顔の俺にあの子は言った。
それはすごく小さな声だったけど俺の耳にはちゃんと届いた。
今まで俺に向けられたどの言葉よりも心の奥底まで、届いた。
「おにいちゃんの歌、好きだよ」
って。
あの日、あの時、あの子は言ってくれたんだ。
何を言われたのか理解した時、俺は自分が泣いてることに気づいた。
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