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第二章 天使長の過去

第十七話 平和が崩れる音

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第二章 天使長の過去

17 災厄

「アハハ、こっちこっち!」

「あっ!待て待て~!」

ここは、死者の魂を管理する天使達の世界《天界》。そしてここは《天界》を構成している七つの聖域《七天の聖天域》ヘブンズサンクチュアリーのうちの一つ《美徳の聖域》サンクチュアリー・ヴァーチューである。ここではまだ幼い天使達が、死者の魂と遊んでおり、怖い事も辛いことも何もない理想郷だ。

「アタっ!」

そんな時、幼い天使が転んでしまい、怪我をしてしまった。

「だ、大丈夫?」

「うぅ…痛いよぉ……。」

怪我をしたところは赤くヒリヒリとしており、見ているだけで痛そうだ。そんな時、天使達のところに一羽の天使が現れた。

「あ!カイン様!!」

天使の名前はカイン。全世界の美徳の象徴とされる最高位の天使であり、全てに天使を統べる長だ。

「あぁ…痛そうだね。大丈夫、すぐに直してあげるからね。」

カインは怪我をしたところに手をかざすと、淡く乳白色の光に包まれ、怪我がたちまち治った。

「すごぉーい!!ありがとうカイン様!」

「どういたしまして、次からは気をつけてね。」

「はぁい!」

幼い天使と魂は、カインに小さくお辞儀をすると、お花畑の方へ向かっていき、お花摘みを始めた。カインはその様子を微笑ましそうな顔で見守っていた。

「…うん、今日も天界は平和だなぁ…。」

カインは平和を誰よりも愛しており、彼にとって平和の毎日というには、これ以上ない至福の時だ。しかし

パリ……パリ…パリィィィン!!

それは、突然崩れた。突如として《美徳の聖域》サンクチュアリー・ヴァーチューの上空にヒビが入り、そこから巨大な竜とメイドのような服を着た少女が現れた。

『ほう…ここが《美徳の聖域》サンクチュアリー・ヴァーチューか…。噂通り、美味そうな奴が沢山いるではないか。』

『ちょっとエンド!私たちの目的を忘れないでよね!』

『分かっておるわ…さて、ひと暴れするか。』

すると竜…エンドが飛び上がり、天使たちを食べようとした。しかし

「《純潔》!!」

カインが何かを叫ぶと当たりが真っ白に輝き、目を開けるとエンドがボロッボロになっていた。

『ク…何者だ!我を《七魔帝》第三席《終焉竜》エンドと分かっての所業かぁ!!』

しかし、エンドの傷は瞬時に塞がり、怒号と同時に凄まじい威圧を放った。

「…そちらこそ、ここが魂と天使達の楽園であると分かっての所業か。これ以上暴れ続けるのであれば、魂もろとも消滅させてもいいが?」

しかしカインはエンドと同等クラスの威圧を放った。カインは天使たちを傷つけようとしたことから、腹の底から沸々と怒りが沸騰して来ていた。その事によることか、天界が揺れ始めていた。

(な、何よこいつ!!こんな圧を放てる天使なんて聞いた事が……いや、こいつまさか!!)

『エンド!!ここは引くわよ!!』

『邪魔をするなフェス!貴様も殺されたいか!!』

『そうじゃない!!恐らく《美徳の天使王》セラフ・オブ・ヴァーチューよ!下手したら私たち、本当に魂もろとも消滅させられるわよ!?』

メイド服の少女…フェスの言葉に、エンドの中にある感情が、恐怖へと変わった。

『セ…《美徳の天使王》セラフ・オブ・ヴァーチューだと!?何故そんな大物がここに!?』

『分かんない!!でもとにかく逃げるわよ!!』

「…そう簡単に逃すとでも?」

カインは手を上げると、背後に数百万もの光の槍が生まれ、エンド達に向けて放たれた。だが、エンド達はギリギリのところで逃げ切る事に成功し、不発となってしまった。

(…何だったんだ、あの二人……魔族であることは間違い無いだろうけど、魔族がここに入れるはずは…いや、そんな事より。)

カインは何処からともなくペンダントのようなものを取り出して、それを介して全ての天使にある命令を下した。

「全天使に告げる。この天界の警戒態勢を最高レベルまで上げなさい、そして出来る事なら《中級神》の方々に協力を要請し、警備を続けて下さい。」

カインはまた魔族が攻めて来た時の対策を講じ、何とか現状を解決した。するとカインの後ろに、直属の配下のミカエルが現れた。

「お忙しいところ失礼致します、カイン様。」

「どうしたの?ミカエル。」

「はっ、時空神クロノス様からの伝言で、至急神界に来て欲しいとのことです。」

「……わかった。すぐ向かう。その間、この天界は任せたよ。」

「御心のままに。」

カインはミカエルに天界を任せ、神界に行くための“鍵”を取り出し、神界へ向かった。
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