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一缶「一ノ瀬愛良は友達が欲しい」
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ストアアプリにないアプリ…いわゆる「野良アプリ」をスマホに入れるには、いくつかの手順を踏む必要がある。まずはスマホを使っている本人の了承を得ること。後の手順なんて無視してもいいくらいにはこれが一番重要だ。
なぜなら、ストアアプリという外部審査を通っていないアプリを入れるのは結構危険な行為だから。入れようと思えば野良アプリ開発者はコンピューターウイルスを好きなだけアプリに入れることが出来てしまうのだ。
俺の場合は自分で作ったゲームを遊んでいるだけだから問題ないが、だからこそ相手に入れてもいいのか確認を取る必要がある。勝手に入れたらスパイウェア、マルウェアと呼ばれる悪意ある動作をさせるソフトウェアと変わりない。
「あと、今はベータテスト中だからバグとか多いけどそれでもいい?」
「うん、お願い」
なぜトラ猫ワルツのアプリデータを俺が持っているのかという理由については、とりあえずベータテストのテスターに当選したことにした。一ノ瀬さんが頷いたのを確認すると、パソコンに一ノ瀬さんのスマホを繋げて「トラ猫ワルツ」をインストール。進捗を示す緑色のバーが徐々に増えていく。
そういえばスカートからチラッと見えたのも緑色だったような…って、俺は何を考えているんだ。頭を振って忘れようとしても、脳裏に焼きついた光景が鮮明に思い浮かぶ。気がつけばインストールは終わっていて、一ノ瀬さんがスマホを手に取った。
「夜空くん、もう終わったのかな?」
よこしまな事を考えていたなんて知られたらヤバい。またエロい奴だと思われて今度こそ嫌われる。というか俺の高校生活も終わりかもしれない。いや、確実に終わりだ。
「ああ、インストールは終わった」
俺の高校生活はまだ終わりたくない…
一ノ瀬さんに悟られないようにしないとと思いつつも、つい視線が一ノ瀬さんのスカートにいってしまう。男子高校生の悲しいサガだ。幸いなことに一ノ瀬さんはスマホを操作することに集中していて、
俺の様子に気がついていない。
「名前、何にしようかな~」
そう呟いていた一ノ瀬さんが、「あれ?」と首を傾げた。
「夜空くん、どこにもないけど…」
「え? そんなはずは」
一ノ瀬さんが見せてきたスマホの画面を見て、俺はハッと思い出した。
この手順をすっかり忘れていた。野良アプリをスマホで遊ぶにはスマホの設定を変える必要がある。設定項目のアプリを押すと表示される「不明なアプリを入れる」で、野良アプリである「トラ猫ワルツ」のインストールを許可する。これでやっと手順は終了。
確認のために一ノ瀬さんのスマホの「トラ猫ワルツ」のアイコンをタップすると無事に起動できた。自分のスマホにインストールしたのなんて数ヶ月前ですっかり忘れていた。そのことを謝ると、一ノ瀬さんは「ううん、入れてくれてありがと」と言い、嬉しそうにポフンとベッドに座った。
「うーん。やっぱりもう少し考えてからにしようかな…」
パソコン用の椅子に座り、その様子を眺める。アカウントの名前を決める所で悩んでいる様子で、「うーん、うーん」と唸っている。俺が「ニャンタ」という名前にした理由も聞かれたが、なんとなくつけた名前だから参考になったかは怪しいところだ。
「…よし、決めた。ルカにしようかな!」
数分悩み、一ノ瀬さんはやっと名前を決めた。
「たしかルカって親戚の猫だっけ?」
「覚えていてくれたんだ」
一ノ瀬さんはそう嬉しそうに話すと、立ち上がって鞄から何かを取り出した。「じゃーん」と言って出したそれは、白猫の形をしていて特徴的な垂れ耳。トラ猫ワルツのゲームキャラクターのような、デフォルメされたスマホサイズの小さなぬいぐるみ。
「スコティッシュ…って、あ、もしかしてそれがルカって猫?」
「そう! 写真よりもわかりやすいかと思って羊毛フェルトで作ってみたの。正解した夜空くんには…はい、これをプレゼント」
一ノ瀬さんは鞄からもうひとつのぬいぐるみを取り出して俺に渡してきた。受け取ったそれは、アメリカンショートヘアの形をした羊毛フェルトのぬいぐるみだった。ゲームに登場するアメに似ている。アメショの猫キャラだからアメ。
「これがテトくん! 羊毛フェルト、最近ハマっているんだ。今日のお礼にひとつあげるよ」
近くで見るとほんとに良くできている。まるでゲームの中から本当に出てきたようだ。グッズが出来たらこんな感じなのかなあと見つめる。
「最近作り始めたから、そんなに見つめられるとちょっと恥ずかしい、かな?」
「え? ああ…」
ハッとして顔を上げると、そこにはもじもじとしている一ノ瀬さんがいた。何か言わないと。そう思って口を開けても何を話せばいいか悩んでしまう。自分の部屋でクラスの女の子と二人きり。今更ながらこの状況に緊張してしまう。
七海なら全然気にしないのに。つい視線が下がっていき、ある場所で止まった。座った時にスカートが少し捲れていたのか、一ノ瀬さんのぷにぷにとした太ももが…と、そんなことを考えていると太ももが両手で隠れた。
「…ええっと、夜空くんが太もも好きなのは知ってるけど。そんなに見つめられると…恥ずかしい…かも…」
「あ、えっとごめん!」
沈黙が続き、微妙な空気が流れる。
「そ、そろそろ私、帰るね!」
一ノ瀬さんはそう言い残すと逃げるように帰っていった。ああもう俺のバカ。レフィーニャさんにエロエロだって言われても当たり前だったよ!
―――――――――――――――
【三話あらすじ】
愛良が昴の家から出てくるのを、幼馴染・雨宮七海が見ていた。愛良とのゲームの協力プレイを通して徐々に仲良くなっていく昴と愛良。そんなある日、七海から愛良と仲良くしないでと言われる。最初は幼馴染を取られた嫉妬かと思ったが、どうやら違うらしい。
なぜなら、ストアアプリという外部審査を通っていないアプリを入れるのは結構危険な行為だから。入れようと思えば野良アプリ開発者はコンピューターウイルスを好きなだけアプリに入れることが出来てしまうのだ。
俺の場合は自分で作ったゲームを遊んでいるだけだから問題ないが、だからこそ相手に入れてもいいのか確認を取る必要がある。勝手に入れたらスパイウェア、マルウェアと呼ばれる悪意ある動作をさせるソフトウェアと変わりない。
「あと、今はベータテスト中だからバグとか多いけどそれでもいい?」
「うん、お願い」
なぜトラ猫ワルツのアプリデータを俺が持っているのかという理由については、とりあえずベータテストのテスターに当選したことにした。一ノ瀬さんが頷いたのを確認すると、パソコンに一ノ瀬さんのスマホを繋げて「トラ猫ワルツ」をインストール。進捗を示す緑色のバーが徐々に増えていく。
そういえばスカートからチラッと見えたのも緑色だったような…って、俺は何を考えているんだ。頭を振って忘れようとしても、脳裏に焼きついた光景が鮮明に思い浮かぶ。気がつけばインストールは終わっていて、一ノ瀬さんがスマホを手に取った。
「夜空くん、もう終わったのかな?」
よこしまな事を考えていたなんて知られたらヤバい。またエロい奴だと思われて今度こそ嫌われる。というか俺の高校生活も終わりかもしれない。いや、確実に終わりだ。
「ああ、インストールは終わった」
俺の高校生活はまだ終わりたくない…
一ノ瀬さんに悟られないようにしないとと思いつつも、つい視線が一ノ瀬さんのスカートにいってしまう。男子高校生の悲しいサガだ。幸いなことに一ノ瀬さんはスマホを操作することに集中していて、
俺の様子に気がついていない。
「名前、何にしようかな~」
そう呟いていた一ノ瀬さんが、「あれ?」と首を傾げた。
「夜空くん、どこにもないけど…」
「え? そんなはずは」
一ノ瀬さんが見せてきたスマホの画面を見て、俺はハッと思い出した。
この手順をすっかり忘れていた。野良アプリをスマホで遊ぶにはスマホの設定を変える必要がある。設定項目のアプリを押すと表示される「不明なアプリを入れる」で、野良アプリである「トラ猫ワルツ」のインストールを許可する。これでやっと手順は終了。
確認のために一ノ瀬さんのスマホの「トラ猫ワルツ」のアイコンをタップすると無事に起動できた。自分のスマホにインストールしたのなんて数ヶ月前ですっかり忘れていた。そのことを謝ると、一ノ瀬さんは「ううん、入れてくれてありがと」と言い、嬉しそうにポフンとベッドに座った。
「うーん。やっぱりもう少し考えてからにしようかな…」
パソコン用の椅子に座り、その様子を眺める。アカウントの名前を決める所で悩んでいる様子で、「うーん、うーん」と唸っている。俺が「ニャンタ」という名前にした理由も聞かれたが、なんとなくつけた名前だから参考になったかは怪しいところだ。
「…よし、決めた。ルカにしようかな!」
数分悩み、一ノ瀬さんはやっと名前を決めた。
「たしかルカって親戚の猫だっけ?」
「覚えていてくれたんだ」
一ノ瀬さんはそう嬉しそうに話すと、立ち上がって鞄から何かを取り出した。「じゃーん」と言って出したそれは、白猫の形をしていて特徴的な垂れ耳。トラ猫ワルツのゲームキャラクターのような、デフォルメされたスマホサイズの小さなぬいぐるみ。
「スコティッシュ…って、あ、もしかしてそれがルカって猫?」
「そう! 写真よりもわかりやすいかと思って羊毛フェルトで作ってみたの。正解した夜空くんには…はい、これをプレゼント」
一ノ瀬さんは鞄からもうひとつのぬいぐるみを取り出して俺に渡してきた。受け取ったそれは、アメリカンショートヘアの形をした羊毛フェルトのぬいぐるみだった。ゲームに登場するアメに似ている。アメショの猫キャラだからアメ。
「これがテトくん! 羊毛フェルト、最近ハマっているんだ。今日のお礼にひとつあげるよ」
近くで見るとほんとに良くできている。まるでゲームの中から本当に出てきたようだ。グッズが出来たらこんな感じなのかなあと見つめる。
「最近作り始めたから、そんなに見つめられるとちょっと恥ずかしい、かな?」
「え? ああ…」
ハッとして顔を上げると、そこにはもじもじとしている一ノ瀬さんがいた。何か言わないと。そう思って口を開けても何を話せばいいか悩んでしまう。自分の部屋でクラスの女の子と二人きり。今更ながらこの状況に緊張してしまう。
七海なら全然気にしないのに。つい視線が下がっていき、ある場所で止まった。座った時にスカートが少し捲れていたのか、一ノ瀬さんのぷにぷにとした太ももが…と、そんなことを考えていると太ももが両手で隠れた。
「…ええっと、夜空くんが太もも好きなのは知ってるけど。そんなに見つめられると…恥ずかしい…かも…」
「あ、えっとごめん!」
沈黙が続き、微妙な空気が流れる。
「そ、そろそろ私、帰るね!」
一ノ瀬さんはそう言い残すと逃げるように帰っていった。ああもう俺のバカ。レフィーニャさんにエロエロだって言われても当たり前だったよ!
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【三話あらすじ】
愛良が昴の家から出てくるのを、幼馴染・雨宮七海が見ていた。愛良とのゲームの協力プレイを通して徐々に仲良くなっていく昴と愛良。そんなある日、七海から愛良と仲良くしないでと言われる。最初は幼馴染を取られた嫉妬かと思ったが、どうやら違うらしい。
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