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一缶「一ノ瀬愛良は友達が欲しい」

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「来るなら連絡くらいすればよかっただろ」

「いいじゃない、七海ちゃんが来てくれて嬉しいわ」

 七海が美味しそうに夕飯の回鍋肉を食べている姿を見て母さんが笑っている。そうは言っても中学生なら許されるが、高校生になったのだからスマホで連絡くらいできるだろ。

 それに、俺にだって色々準備というか…先週の土曜日の嘘をどう誤魔化すのか考える時間が…

「ちゃんとすばるんのレインに送ったよ?」

 七海が回鍋肉を口いっぱいにモシャモシャと頬張りながらそう言った。まあ、言葉としては全然聞き取れなかったが幼馴染の言う事だからなんとなく聞き取れた。

 レインというのはスマホのメッセージアプリ。でもメッセージが届いたという通知なんて今日は一度も来ていない。

 まあ、うん…連絡を取るためのスマホなのに誰からも連絡は来ていない。自分で言ってて悲しくなってくる。

「いや、届いてないから」

「そんなこと…」

 今日一日メッセージが届いていないレインの画面を見せると、七海が自分のスマホを見て「あっ…」と呟いた。

「えへへ、送信できてなかったみたい」

 七海のその言葉と同時にピロンという通知音が鳴り、今隣にいる七海からレインのメッセージが届いた。

「これでいいよね」

「今更送られてきても遅いだろ」

 俺達のそんなやり取りを見て、父さんと母さんが俺を嗜めた。

「いいじゃないか。七海ちゃんが来ると賑やかになって」

「そうそう、七海ちゃんならいつでも歓迎よ」

「すばるんのお父さん、お母さん、ありがとう!」

「この前の土曜日だって夕飯を食べて帰ればよかったのに」

「土曜日は部活でしたけど…?」

 げっ。母さんに土曜日のことを言われてしまった。その日は一ノ瀬さんが来たから七海は来ていない。ここで七海に来ていないと言われたら面倒なことになる。

 七海に一瞬睨まれた。祈るように手を合わせる。

「あれ? 土曜日に来ていたんじゃなかったの?」

「あ、ああ。そうでした。部活が終わってから来た…かな?」

 ふう。七海がなんとか誤魔化してくれた。持つべきものは幼馴染だ。

「まあ、いいじゃん。冷める前に食べよう」

 回鍋肉は熱いうちに食べるのが美味しい。そう思い皿から取ろうとすると箸が空を切った。

「…って、七海食べ過ぎだ! もう無くなっただろ!」

「えー、すばるんが食べるの遅かっただけですー!」

「あらあら、また作るから少し待っててね」

 賑やかな夕飯を終えると、七海に話がありそうな目をされたため渋々俺の部屋に移動した。バタンとドアを閉めると七海が聞いてきた。

「土曜日に一ノ瀬様…さんが来てたんでしょ?」

 今更言い訳はできないか。というかまた七海が「一ノ瀬様」と言いかけて「一ノ瀬さん」と言っている。まあでも俺は何も悪いことはしていない。一ノ瀬さんと会っただけ。別に不純異性交遊なんてしていないし、七海は俺の彼女ではない。俺は七海の顔を見て頷いた。

「…やっぱり。学校でもお昼休みに会ってるみたいだし」

 それもバレてたのかよ。七海は俺の後をつけていたのだし当たり前と言えば当たり前か。

「学校で会ったときにそれを言えばよかっただろ。そうすれば俺だって学校で頷いたのに」

「…んだもん」

 ブツブツと覇気がない声で言っていてよく聞き取れない。

「なんだよ」

「…だからっ。学校では言うの忘れてたんだもん!」

「あ、ああ。そか…」

 流石、昔からポンコツな七海。小学校の頃に「ななぽん」なんて呼ばれていたのが懐かしい。ちなみに「ぽん」はぽんこつのぽん。小学生の頃の七海が狸のような体型だったからではない。

 むしろ周りの友達よりも背が高くて痩せていたっけ。そんな七海が今ではこうして女の子らしくなり、部活で高い身長を活かしている。七海も成長したなあ。そんなことを考えていると七海にジロリと睨まれた。

「すばるん、一ノ瀬さんと遊ぶのはダメだよ」

「…なんでだよ」

「と・に・か・くっ! だめなの!」

 なんでダメなのか理由を聞いたが、結局答えを聞けずに終わった。七海は今、叫び疲れて俺のベッドで無防備に腹を出して眠っている。

「はあ、まったくこいつは。俺じゃなかったら今頃襲われてるところだぞ…」

 仕方がないので七海に布団をかける。七海のお母さんに「七海はうちで泊まっていくみたいです」レインを送ると、俺は部屋の電気を消した。高校生にもなって一緒のベッドでは寝れない。

 仕方ない。今日はリビングのソファにでも寝るか…

 部屋から出ようとして、パソコンの電源が光っているのに気がついた。七海を起こさないように電源ボタンを数秒押してシャットダウンする。

「…あっ、しまった! レフィーニャさんと遊ぶ約束してたんだった」

 なんで電源を入れっぱなしにしていたのかを思い出して俺は頭を抱えた。パソコンの起動音で七海が起きるかもしれないし、今から電源を入れる訳にはいかない。俺は心の中でレフィーニャさんに謝るとリビングへ向かった。
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