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二缶「御城たまこはゲームのフレンド」

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 一ノ瀬さんは急な誘いにも関わらず来てくれることになった。今は七海のお父さんの車で移動をしている。

「一ノ瀬さん、ほんと急でごめん」

「え、うん。大丈夫だよ。でね、ななちゃん、この写真の時は金魚すくいをしたら浴衣に水が跳ねたからすぐに帰っちゃったの」

「だからこの浴衣姿のあいあいがこの写真だけだったんだ。かわいいから他の写真も見たかったのに…」

 七海がファンクラブに入っていた時に保存していた一ノ瀬さんの子供の頃の写真を、一ノ瀬さんに見せている。たぶん、七海のスマホから一ノ瀬さんのファンクラブに俺と一ノ瀬さんがキスをしているように見える合成写真を送った後、大量に消した写真のうちの一枚だろう。

 一ノ瀬さんには事前に幼馴染が一緒に来ることをレインで教えていたが七海には黙っていた。一ノ瀬さんを見て、最初は七海がガッチガチに緊張していたが、今では「ななちゃん」「あいあい」と、あだ名で呼び合う仲になっている。

 七海が言うには、一ノ瀬さんの名前が「あいら」だから「あいあい」らしい。そんな猿みたいな名前にしなくても…と、思い一ノ瀬さんに「嫌なら変えてもらうように俺も頼むから…」と聞いてみた。でも、初めてあだ名をつけてくれたから嬉しくてこのままでいいときっぱり言われた。

 俺なら速攻で「あいあい」なんてあだ名は変えるんだけどなあ。そろそろ俺のあだ名「すばるん」だって変えて欲しいくらいなのに。確か小学生の頃から「すばるん」と呼ばれている。子供っぽいから変えて欲しいが、これ以上変なあだ名をつけられたらたまったものじゃないから我慢している。

 ちなみに、数分でこの状況になっていた。七海のこういうところは見習ったほうがいいのかもしれない。だが七海よ。それならファンクラブなんかに入らず、学校で一ノ瀬さんに直接話しかけろ。女の子同士の会話に何度も入るのは気が引けるため、俺は心の中で悪態をついた。

 一ノ瀬さんは上下で別れている、セパレートタイプの明るいピンク色の花柄の浴衣を着ている。子供の頃ならいざ知らず、高校生で浴衣をすぐに準備できる人はほぼいないだろう。それこそ準備でもしていない限り。

 ちなみに、七海は一昨年の夏祭りで着ていた金魚の描かれた水色の浴衣だ。一枚仕立ての高い浴衣をバーゲンセールでの勢いだけで買っていた。あの頃でも十分小さかったのだが、今日着ている姿を見ると更に小さくなっている気がする。七海はまだ成長するのかよ。今でも俺よりも頭ひとつ分くらい背が高いのに。

 そういえば、なんで一ノ瀬さんはすぐに浴衣が準備できたんだ?

「そういえば、なんであいあいはすぐに浴衣を準備できたの? すばるんが誘ったの急だったでしょ?」

 幼馴染同士だからか、つい思考が七海と重なってしまった。というか勝手に俺のせいにするな。元はと言えば七海が急に誘うからだろ。俺だって昨日誘われていたら昨日のうちに一ノ瀬さんを誘った。

「えっとね、準備できたのは実はこれのお陰なんだ」

「動画の…占い? あ、ラッキー先生! 私も漫画持ってるよ!」

 浴衣の話をするのかと思えば、二人はすぐにその漫画の話を始めた。七海は漫画を飛び飛びで買う癖があるから、話がたまに噛み合っていない。すれ違いのコントみたいで少し可笑しい。それを助手席に座る俺と、運転手である七海のお父さんが苦笑いしながら見守る。

「そうだ、昴くんも占ってみない?」

 俺はその漫画を知らないため、安全圏から会話を聞いていた。すると、一ノ瀬さんがそう言い、身を乗り出してきた。

「…え、俺?」

「私の今週のハッピーラッキーアイテムが浴衣だったんだよ。それに、昴くんに最初に話しかけたのも、この占いがきっかけなの。だからこの占い、よく当たるよ!」

 七海は既に占った後のようで、「フライパンなんていつ使うんだろう…」と悩んでいる。そんなの料理をする時だろう。まだ祭りの会場まで時間はかかりそうだ。占いなんて信じないから、普段はしないが暇つぶしにはちょうどいい。俺も占ってもらうことにした。

「えっとね、昴くんのハッピーラッキーアイテムは…尻尾?」

「尻尾って、なんの尻尾だよ…」

「あははっ。し、尻尾ってっ! すばるん、魚でも捕まえるんじゃない?」

「俺は熊かっ!」

 七海は「フライパンだから私のほうが勝ち~!」なんてゲラゲラと笑っている。そんな馬鹿なやり取りをしても夏祭りの会場はまだ見えない。スマホの地図で確認するともうすぐなのに。暇つぶしついでに、ふと疑問に思ったことを七海に聞いてみた。

「なあ七海、なんで夏祭りに来ようと思ったんだ? この夏祭り毎年来てないだろ」

「それはね、たまこっちが行くって言ってたから。浴衣姿のたまこっちを見れたらいいなーって」

 たまこっち…ああ、御城さんのことか。七海は小さくてかわいいものが好きだからなあ。御城さん、背が低いし。あの身長なら、まだ子供の浴衣が似合いそうだ。着ている姿を想像すると、俺も少し顔がにやけてしまう。

「たまこっち? って、誰かな?」

 一ノ瀬さんは話題についていけず困惑している。たまこっちなんて言うから伝わらないだけで、名前を言えば一ノ瀬さんも知っている人物なのに。

「ああ、それは一ノ瀬さんも知っている…」

「あっ! すばるん、あいあい、見えてきたよ!」

 七海に俺の言葉を遮られた。七海は嬉しそうにビタっと窓に両手をつき、さらに額も張りつけている。七海の視線を辿ると、屋台の明かりがチラチラと見え始めた。そんなどこにでもある夏祭りの風景を眺めていると、耳元で一ノ瀬さんに囁かれた。

「…実はね、お祭りに友達と来るの初めてなんだ。昴くん、誘ってくれてありがとね」

「そ、そっか…」

 一ノ瀬さんはすぐに俺から離れると、七海と会話を始めた。

「ねえ、ななちゃん。ついたらまずはどの屋台に行ってみる?」

「えっとね~」

 もう耳元に一ノ瀬さんの口はないのに、いまだに吐息を感じてしまう。心臓の鼓動も心なしかいつもより早い。そんな中、俺達は車を降りると祭りの会場へ向かった。
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