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千賀くんと刈田くん~俺様ワンコ×クールツンデレ~
ある年のホワイトデーの出来事
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季節はホワイトデーである。
俺も刈田も先月は女性陣からたっぷり桜海老を投げられたので、例え何の実にならなくとも鯛にして返さねばならない。なんとも理不尽な儀式だ。
そういうわけで、俺達は連れ立って近所のデパートに来ていた。
「ちぃやん、幾つもらったン?」
「俺、42個。刈田は?」
「63個。……なぁ、1個100円とかじゃやっぱ駄目?」
「せめて300円だな。二人合わせて3万円の出費か……食費にもろ響くな」
カップ麺生活だけは勘弁、とげっそりした顔をする刈田の腹に、俺はちらりと目をやる。
大層燃費の悪いこの男は、最近急激にメタボ化が進んできた。こいつにカップ麺生活なんぞさせたら、一気に風船玉のようになりかねない。
させるなら野菜生活だな、と呟くと、聞き咎めた野郎は不満げに眉値を寄せた。
「やっぱ100円でいいよ」
「ばっかおまえ、こういう時の気遣いが、後から人間関係に影響してくるんだよ」
「えぇ~? でも5円チョコとかあったぜ?」
「おまえその子が何人にチョコ配ったのか知ってるか?そのうち何人がちゃんとお返しすると思う?計算してみろ。今後の業務効率を考えればこれくらいの先行投資は致し方ない」
「そういうもんかなぁ」
「そういうもんなの。おまえも偉くなったんだから、少しはそういうところ気を配れ」
へーへー、と面倒臭げに返事をして、刈田は棚のマシュマロに手を伸ばす。
可愛い袋に包まれたものと、それに品のいい造花があしらわれたものだ。
これにしようかな、と言いながら値札を見て、刈田はまた嫌そうな顔をした。
「うっわ、これとこれ、中身は絶対違わないのに、この花付くだけで値段が50円も上がるのな」
「それが乙女心の値段だ。販売戦略だ」
「……こっちの安い方にしよう」
「まぁ、本命でもないし、それはそれで良いだろう」
俺もほどほどに見栄えのするクッキーを購入し、量が多かったので二人纏めて会社に郵送してもらうことにした。
一仕事終えて飯でも食おうかとレストラン街に向かおうとしたら、刈田が俺の袖を引く。
どうやら有名なドーナツショップがあるらしい。
俺はあからさまな呆れ顔で彼を見上げた。
「おまえ、先月からあんだけ甘いもの食っといて、まだ食うの?まだ家にあるだろ、チョコレート。他の物食うのはあれなくなってからにしろよ」
「え、ドーナツ嫌い?」
「嫌いじゃないけど、今食う気分じゃない」
「そ、そうか。じゃあ、煎餅。煎餅買おう」
「……なんでいきなり煎餅だ?」
「しょっぱいものの方がいいんだろ?だから煎餅」
そうじゃなくて、俺は菓子を買うなと言っているんだ。
と、びしっと指を突きつけると、刈田は見るからにしょんぼりと肩を落として頷いた。
「解ったよ。じゃあ、飯食って帰ろう」
「おう」
それから二人で中華を食って、家に帰った。
でも家に帰ってからもずっと刈田は、妙に機嫌が宜しくない。
会社ではいつも適度に情緒が安定していて、人前で拗ねるようなことも無い刈田だが、家に居る時はわりとこういう顔を良く見せる。
それは俺に気を許しているからだと思うと悪い気はしなかったが、あんまりぐずられてもそれはそれでうざい。
仕方ないから、俺は読みかけの本を置いて立ち上がった。
「コンビニ行ってくる」
「こんな時間に? 珍しいな」
「まぁな」
そう言ってマンションを降り、近所のコンビニで煎餅を2袋とビールを買った。
直ぐに戻って、ほらよ、と刈田の前に置いてやると、
「……っ!」
「欲しかったんだろ?煎餅食えなかったくらいで拗ねるなよ。まったく子供じゃないんだから」
「いや……いや、違うんだよ。違うんだよ千賀……」
そのままがっくりと肩を落としてしまった刈田に、俺は眉を寄せた。
まったく何がなんだか解らない。
と、刈田は泣き笑いのような表情を浮かべて、ビールを開けながら、
「明後日、ホワイトデーだろ?」
「そうだな。だから買い物に行ったんだよな、俺達」
「先月はバレンタインだろ?」
「そりゃ、3月の一月前は2月だからな」
「おまえ、ケーキ焼いてくれたじゃん」
「ケーキ?」
さっぱり記憶にない。
暫し宙に視線を彷徨わせながら、俺は考えた。ケーキ、ケーキ、ケーキ……
頭の中で、チーンと音を立てて記憶が蘇る。
「……ホットケーキ?」
「そう。そのケーキ」
あー、とつい俺はなんとも言えない表情を浮かべて黙った。
確かに、作った。バレンタインでもらったチョコを有効活用せねばと、チョコの塊をたっぷり入れたホットケーキを。
でもそれは日曜日のおやつの代わりで、大体一緒に食べたのだからプレゼントでもなんでもないはずなのに。
なるほど、こいつはあれを「千賀からのバレンタインケーキ」だと思い込んだわけだ。
そしてお返しをしようと、煎餅を……
「ぶ」
思わず噴出してしまうと、刈田が心外そうな顔で俺を見た。
「な、何だよ、なんで笑うんだよ」
「いや、ごめんごめん。おまえって偶に、すっげー可愛いよな」
「なんだよその評価。嬉しくねぇなぁ」
「褒めてんの。怒るなよ」
くすくすと堪え切れない笑いを漏らしつつ、俺はそっと身を屈めて、彼の額にキスをした。
未だ納得のいかないような顔をしていた刈田は、それを受けて、しゃーねぇなぁ、と笑う。
そんな彼の耳元に唇を寄せながら、俺はそっと囁いた。
「……ホワイトデーのお返しは、食べ物じゃなくてもいいんだぞ?」
「へ?」
「俺、欲しいものあるんだよ」
そして告げた品物に、刈田はさーっと青くなり。
……俺達がぴかぴかの食器洗浄機と引き換えに半月ばかり野菜生活を満喫したのは、また別のお話。
俺も刈田も先月は女性陣からたっぷり桜海老を投げられたので、例え何の実にならなくとも鯛にして返さねばならない。なんとも理不尽な儀式だ。
そういうわけで、俺達は連れ立って近所のデパートに来ていた。
「ちぃやん、幾つもらったン?」
「俺、42個。刈田は?」
「63個。……なぁ、1個100円とかじゃやっぱ駄目?」
「せめて300円だな。二人合わせて3万円の出費か……食費にもろ響くな」
カップ麺生活だけは勘弁、とげっそりした顔をする刈田の腹に、俺はちらりと目をやる。
大層燃費の悪いこの男は、最近急激にメタボ化が進んできた。こいつにカップ麺生活なんぞさせたら、一気に風船玉のようになりかねない。
させるなら野菜生活だな、と呟くと、聞き咎めた野郎は不満げに眉値を寄せた。
「やっぱ100円でいいよ」
「ばっかおまえ、こういう時の気遣いが、後から人間関係に影響してくるんだよ」
「えぇ~? でも5円チョコとかあったぜ?」
「おまえその子が何人にチョコ配ったのか知ってるか?そのうち何人がちゃんとお返しすると思う?計算してみろ。今後の業務効率を考えればこれくらいの先行投資は致し方ない」
「そういうもんかなぁ」
「そういうもんなの。おまえも偉くなったんだから、少しはそういうところ気を配れ」
へーへー、と面倒臭げに返事をして、刈田は棚のマシュマロに手を伸ばす。
可愛い袋に包まれたものと、それに品のいい造花があしらわれたものだ。
これにしようかな、と言いながら値札を見て、刈田はまた嫌そうな顔をした。
「うっわ、これとこれ、中身は絶対違わないのに、この花付くだけで値段が50円も上がるのな」
「それが乙女心の値段だ。販売戦略だ」
「……こっちの安い方にしよう」
「まぁ、本命でもないし、それはそれで良いだろう」
俺もほどほどに見栄えのするクッキーを購入し、量が多かったので二人纏めて会社に郵送してもらうことにした。
一仕事終えて飯でも食おうかとレストラン街に向かおうとしたら、刈田が俺の袖を引く。
どうやら有名なドーナツショップがあるらしい。
俺はあからさまな呆れ顔で彼を見上げた。
「おまえ、先月からあんだけ甘いもの食っといて、まだ食うの?まだ家にあるだろ、チョコレート。他の物食うのはあれなくなってからにしろよ」
「え、ドーナツ嫌い?」
「嫌いじゃないけど、今食う気分じゃない」
「そ、そうか。じゃあ、煎餅。煎餅買おう」
「……なんでいきなり煎餅だ?」
「しょっぱいものの方がいいんだろ?だから煎餅」
そうじゃなくて、俺は菓子を買うなと言っているんだ。
と、びしっと指を突きつけると、刈田は見るからにしょんぼりと肩を落として頷いた。
「解ったよ。じゃあ、飯食って帰ろう」
「おう」
それから二人で中華を食って、家に帰った。
でも家に帰ってからもずっと刈田は、妙に機嫌が宜しくない。
会社ではいつも適度に情緒が安定していて、人前で拗ねるようなことも無い刈田だが、家に居る時はわりとこういう顔を良く見せる。
それは俺に気を許しているからだと思うと悪い気はしなかったが、あんまりぐずられてもそれはそれでうざい。
仕方ないから、俺は読みかけの本を置いて立ち上がった。
「コンビニ行ってくる」
「こんな時間に? 珍しいな」
「まぁな」
そう言ってマンションを降り、近所のコンビニで煎餅を2袋とビールを買った。
直ぐに戻って、ほらよ、と刈田の前に置いてやると、
「……っ!」
「欲しかったんだろ?煎餅食えなかったくらいで拗ねるなよ。まったく子供じゃないんだから」
「いや……いや、違うんだよ。違うんだよ千賀……」
そのままがっくりと肩を落としてしまった刈田に、俺は眉を寄せた。
まったく何がなんだか解らない。
と、刈田は泣き笑いのような表情を浮かべて、ビールを開けながら、
「明後日、ホワイトデーだろ?」
「そうだな。だから買い物に行ったんだよな、俺達」
「先月はバレンタインだろ?」
「そりゃ、3月の一月前は2月だからな」
「おまえ、ケーキ焼いてくれたじゃん」
「ケーキ?」
さっぱり記憶にない。
暫し宙に視線を彷徨わせながら、俺は考えた。ケーキ、ケーキ、ケーキ……
頭の中で、チーンと音を立てて記憶が蘇る。
「……ホットケーキ?」
「そう。そのケーキ」
あー、とつい俺はなんとも言えない表情を浮かべて黙った。
確かに、作った。バレンタインでもらったチョコを有効活用せねばと、チョコの塊をたっぷり入れたホットケーキを。
でもそれは日曜日のおやつの代わりで、大体一緒に食べたのだからプレゼントでもなんでもないはずなのに。
なるほど、こいつはあれを「千賀からのバレンタインケーキ」だと思い込んだわけだ。
そしてお返しをしようと、煎餅を……
「ぶ」
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「な、何だよ、なんで笑うんだよ」
「いや、ごめんごめん。おまえって偶に、すっげー可愛いよな」
「なんだよその評価。嬉しくねぇなぁ」
「褒めてんの。怒るなよ」
くすくすと堪え切れない笑いを漏らしつつ、俺はそっと身を屈めて、彼の額にキスをした。
未だ納得のいかないような顔をしていた刈田は、それを受けて、しゃーねぇなぁ、と笑う。
そんな彼の耳元に唇を寄せながら、俺はそっと囁いた。
「……ホワイトデーのお返しは、食べ物じゃなくてもいいんだぞ?」
「へ?」
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