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第一幕 惑星アルメラードへの旅
5 政治屋の下心
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順調に船が航路に乗り自動操縦への切り替えが完了したことを確認して、乗組員達は持ち場を離れ各々の時間を過ごしていた。
最後までブリッジに残っていたレイレンは、念入りに航路の確認を終えると漸く立ち上がる。よく考えると昨夜からまともなものを口にしていなかった。そろそろ背中と腹の皮がひっついてしまいそうだ。
「腹が減っては戦も出来ぬってね……」
独り言ちながら食堂へ向かおうと扉を開ける。すると目の前に思いがけない姿があった。
「……何してるんだ、伽乱?」
「おや、奇遇ですね」
奇遇も何も待ち伏せのようにそこに立っていたのは彼の方なのだが、それは言わぬが花だろう。
伽乱はわざとらしく明後日の方向を見たまま、咳払いをして言葉を紡ぐ。
「私はそろそろ昼食を摂ろうと思っていて、たまたまここを通りがかっただけですよ。もしかして君も食堂へ?だとしたら遺憾ながら朋友たる私が付き合って差し上げないこともありませんが」
「どう考えても、おまえの部屋から食堂行くのにここは通らないだろ。まさかとは思うけど、俺のこと待ってた?」
「誰が君など待ちますか。その不味い顔を見ながらでは、せっかくの食事の味も三割減というもの。ここで君と克ち合ったのは不幸でこそあれ、決して私から望むようなことではありませんよ。そのような勘違いをした自分を恥じなさい」
つらつらと立て板に水を流すが如く言葉を紡ぐ伽乱に、レイレンは呆れ顔を隠さず肩を竦める。どう見ても一緒に食事をしたがっているのは彼の方だというのに、この言い草だ。
彼が素直でないのは今に始まったことではないが、それにしても今日はいつに増して刺々しい。その原因に思い当って、レイレンは大きく溜息を吐いた。
「伽乱、おまえ……人見知りで他のメンバーを食事に誘えないからって、俺に八つ当たりしなさんなよ」
その言葉を受けて、一気に伽乱の顔色が変わった。動揺を隠すよう口元を手で覆い、レイレンを睨めつける。
「ばっ……誰が、人見知りなどするものですか。そんなもの、していられる立場でないのは君が一番よく知っているはずでしょう」
「だからこの旅を通して各会の主要メンバーと親密になっておきたいのに、食事に誘うのもままならない、と……まあ、ドクターもニースも率先して人と関わるタイプじゃないしな。おまえが下心を持って近付こうとしてる限り、仲良くなるのは無理じゃない?」
図星を突かれたのが余程痛かったのか、伽乱は彼らしくもなく言葉に詰まると、ゆっくり視線を地面に落とした。深呼吸を一つ、それから口を開く。
「でも、彼らは君と話しています」
「それは……ニースは上からそう命じられてるだけだし、ドクターは俺を良いおもちゃだと思ってるだけだよ。伽乱が求めてるような関係性じゃない」
「でも、もう少しお互い歩み寄ってもいいと思うんです。私たちは目的を共有する同志なのに」
「だから二人とも別に伽乱に敵対行動はとってない。アルさんやニースなんかあからさまにドクターを警戒してるけど、おまえには普通に接してる」
「でも、それは、」
でも、ともう一度言い募るように加え、伽乱はまた黙り込む。自分でも詮無いことを言っている自覚はあるのだろう。都合よく彼らの心の扉を開いて自分とオトモダチになってもらう方法など存在しないのだ。
「……こう見えて私は弱っているんですよ。相手が普通の人間なら、もっとうまくやれる自信があるのに」
「普通の人間って?おまえをちやほやする支持者のこと?それともおまえのSNSにアンチコメントを垂れ流すヘイター?」
「そのどちらについてもです。これまで私は失敗しなかった」
それは違う。失敗をなかったことにする力――権力や財力といったもの――が彼と、彼の周囲にあったからだ、とレイレンは思ったが、あえてそれを口にするほど野暮でもなかった。
「そもそも普通の人間はこの船に乗ってないよ。おまえも、俺もだ」
「……無論、そんなことは百も承知しています」
「今までのやり方は忘れてさ、たまには自分から歩み寄ってみろよ。この旅は一昼夜で終わるような遠足じゃないんだしさ。面倒くさいあれこれ抜きで仲良くなりたいっていうなら、俺も出来る限り協力はするから」
沈む伽乱の肩をポンと叩く。なんだかんだと言いつつ、レイレンにとっても伽乱は掛け替えのない友人に違いはないのだ。
「ま、難しいこと考えるのはそれくらいにして、食堂にいくか。俺もう腹減っちゃって――」
船内に警報が鳴り響いたのはその時だった。
最後までブリッジに残っていたレイレンは、念入りに航路の確認を終えると漸く立ち上がる。よく考えると昨夜からまともなものを口にしていなかった。そろそろ背中と腹の皮がひっついてしまいそうだ。
「腹が減っては戦も出来ぬってね……」
独り言ちながら食堂へ向かおうと扉を開ける。すると目の前に思いがけない姿があった。
「……何してるんだ、伽乱?」
「おや、奇遇ですね」
奇遇も何も待ち伏せのようにそこに立っていたのは彼の方なのだが、それは言わぬが花だろう。
伽乱はわざとらしく明後日の方向を見たまま、咳払いをして言葉を紡ぐ。
「私はそろそろ昼食を摂ろうと思っていて、たまたまここを通りがかっただけですよ。もしかして君も食堂へ?だとしたら遺憾ながら朋友たる私が付き合って差し上げないこともありませんが」
「どう考えても、おまえの部屋から食堂行くのにここは通らないだろ。まさかとは思うけど、俺のこと待ってた?」
「誰が君など待ちますか。その不味い顔を見ながらでは、せっかくの食事の味も三割減というもの。ここで君と克ち合ったのは不幸でこそあれ、決して私から望むようなことではありませんよ。そのような勘違いをした自分を恥じなさい」
つらつらと立て板に水を流すが如く言葉を紡ぐ伽乱に、レイレンは呆れ顔を隠さず肩を竦める。どう見ても一緒に食事をしたがっているのは彼の方だというのに、この言い草だ。
彼が素直でないのは今に始まったことではないが、それにしても今日はいつに増して刺々しい。その原因に思い当って、レイレンは大きく溜息を吐いた。
「伽乱、おまえ……人見知りで他のメンバーを食事に誘えないからって、俺に八つ当たりしなさんなよ」
その言葉を受けて、一気に伽乱の顔色が変わった。動揺を隠すよう口元を手で覆い、レイレンを睨めつける。
「ばっ……誰が、人見知りなどするものですか。そんなもの、していられる立場でないのは君が一番よく知っているはずでしょう」
「だからこの旅を通して各会の主要メンバーと親密になっておきたいのに、食事に誘うのもままならない、と……まあ、ドクターもニースも率先して人と関わるタイプじゃないしな。おまえが下心を持って近付こうとしてる限り、仲良くなるのは無理じゃない?」
図星を突かれたのが余程痛かったのか、伽乱は彼らしくもなく言葉に詰まると、ゆっくり視線を地面に落とした。深呼吸を一つ、それから口を開く。
「でも、彼らは君と話しています」
「それは……ニースは上からそう命じられてるだけだし、ドクターは俺を良いおもちゃだと思ってるだけだよ。伽乱が求めてるような関係性じゃない」
「でも、もう少しお互い歩み寄ってもいいと思うんです。私たちは目的を共有する同志なのに」
「だから二人とも別に伽乱に敵対行動はとってない。アルさんやニースなんかあからさまにドクターを警戒してるけど、おまえには普通に接してる」
「でも、それは、」
でも、ともう一度言い募るように加え、伽乱はまた黙り込む。自分でも詮無いことを言っている自覚はあるのだろう。都合よく彼らの心の扉を開いて自分とオトモダチになってもらう方法など存在しないのだ。
「……こう見えて私は弱っているんですよ。相手が普通の人間なら、もっとうまくやれる自信があるのに」
「普通の人間って?おまえをちやほやする支持者のこと?それともおまえのSNSにアンチコメントを垂れ流すヘイター?」
「そのどちらについてもです。これまで私は失敗しなかった」
それは違う。失敗をなかったことにする力――権力や財力といったもの――が彼と、彼の周囲にあったからだ、とレイレンは思ったが、あえてそれを口にするほど野暮でもなかった。
「そもそも普通の人間はこの船に乗ってないよ。おまえも、俺もだ」
「……無論、そんなことは百も承知しています」
「今までのやり方は忘れてさ、たまには自分から歩み寄ってみろよ。この旅は一昼夜で終わるような遠足じゃないんだしさ。面倒くさいあれこれ抜きで仲良くなりたいっていうなら、俺も出来る限り協力はするから」
沈む伽乱の肩をポンと叩く。なんだかんだと言いつつ、レイレンにとっても伽乱は掛け替えのない友人に違いはないのだ。
「ま、難しいこと考えるのはそれくらいにして、食堂にいくか。俺もう腹減っちゃって――」
船内に警報が鳴り響いたのはその時だった。
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