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第一幕 惑星アルメラードへの旅

6 大山鳴動してネズミ一匹

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 突如鳴り響いた警報アラートに、レイレンは今出てきたばかりのブリッジへ飛び戻った。
 コントロールパネルを叩き、表示された船内マップへ視線を走らせる。

「……倉庫の方で熱反応がある。通信回線オープン、アルさん応答お願いします」

 コールからコンマ数秒もかからず、スクリーンにウィンドウが開くとアルフリードの顔がそこに映し出された。

『こちら機関室エンジンルーム、今の警報アラートはなんだ?』
「倉庫で熱反応を検知しました。熱源の大きさからいってネズミだとは思いますが、確認してもらえますか?」
了解I copy。すぐ現場に向かう。坊ちゃんは熱反応の動きを追ってくれ』

 そのやり取りをレイレンの後ろから覗き込むように見ていた伽乱は眉を顰めた。

「熱反応?待ってください、こういう場合にはマニュアルがあったはずです。航海の序盤からルールを無視するつもりですか?まずはイルジニアに通信を……」
『いやだな~これだからおばかちゃんSilly babeは』

 パッ、と割り込むように現れたウィンドウにはチェリッシュの顔があった。

『ただのネズミでしょ?ちゅ~ちゅ~ネズミさん♪そんなもんにいちいち緊急通信回線開いてたら、イルジニアの連中に笑われちゃうよ。ねえそこのおまえ、ネズミ捕まえたらぼくのところに持って来てよ、部屋で飼うからさ』
『おいおい、遊びじゃねえんだぞ。密航者でも潜んでたら大事だ、少しは気ぃ引き締めろ』

 ウィンドウの中で倉庫の入り口を潜ったアルフリードは、慎重に中を見回して歩きながら言う。

『例えただのネズミだったとしても、ウィルスを持ち込んでる可能性がある。見付けたら即検査ポッド送りだ、ペットなんかにゃ出来ねえよ』
『目の保養もほとんどないこんな宇宙空間で、それくらい自由にさせてくれればいいのに!どうしてそんな筋肉頭Muscle headなのかね~』
『そりゃあんたたちお偉いさんの身の安全を守る義務が俺にあるからだよ。もう気が散るから黙っといてくれ!』

 通信越しに喧々諤々とやりあう二人に、レイレンも眉間を押さえる。
 と、ついに3つ目のウィンドウが開き、いつものように変わらぬ表情をしたフォルニスが映し出された。

『通信失礼いたします。キャプテン・レイレン、倉庫の酸素を抜いて密閉してみればよろしいかと』
「提案ありがとうニース。で、もしそれで万が一、人間だったらどうする?」
『死にます』

 容赦ない一言に、画面の向こうでアルフリードがぶほっと噴き出した。
 何かツボに入ったのか、チェリッシュも腹を抱えてげらげらと笑っている。

『ぶっ、あは、あはははははっ!しっ、死にます、って?なにその殺意!うっかり笑っちゃったじゃないか!いいね、今のはイイよ!このぼくが褒めてあげる!』
『恐縮です』

 ニース本人はあくまで真面目なのだろうが、表情が変わらないせいかむしろ道化ているようにすら見える。
 隣でそれを聞いていた伽乱の青筋が洒落にならなくなってきたのに気付いて、レイレンが慌てて口を挟んだ。

「あー、ニース、流石にそれはまずい。マニュアル的にも倫理的にもちょっとまずい。もうちょっと穏便な方法で――」
「レイレン」

 伽乱の手がコンソールを殴りつけるように叩いた。その表情には呆れと、そして失望のようなものが浮かんでいる。

「……君達が遊んでいるうちに熱反応が消えました」

 同時にアルフリードも言う。

『倉庫を一周したがネズミの形跡は見付からなかった。どこかセンサーに引っ掛からないところに逃げられたかもしれん。また怪しい反応が出たら教えてくれ』
「解りました、皆さんご協力ありがとうございます。通信を一旦クローズします」

 順々にウィンドウが閉じていく。それを最後まで見届けて顔を上げると、伽乱はその紫水晶のような瞳を濁らせて笑った。

「この任務に真剣に取り組んでいるのは私だけのようですね」
「いや、伽乱、まって、そんなことは」
「いいんです、もう解かりました。……構いませんよ、それならそれで。私だけでもやり遂げて見せます。だって、イルジニアの未来がかかっているのですから」

 吐き捨てるように言って、伽乱は身を翻す。その背中を引き留めることも出来ず――

 ***

 こうして小さな諍いの種を生み育てながら、それでも時間は刻々と過ぎ行く。
 ワープ走行を繰り返し彼らが最初に辿り着いたのは、緑と水の満ち溢れた星……古き良き時代のイルジニアに良く似た、惑星アルメラードだった。
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