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第二幕 惑星アルメラードにて
7 緑の星の手荒い歓迎
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眼下に広がるのは一面の緑だった。
連なる山々、鬱蒼と生い茂る森、そこから生まれ雄大な海へと繋がる河川。平原はぽつりぽつりと切り拓かれており、人里の気配がある。
「未開の星と聞いていたけど、思ったより発達しているのかもしれないな」
「現在、この星の人口は3億に満たない程度、平均寿命は50歳前後。惑星全土のおよそ9割が手付かずの自然のままですから、未開拓といって十分差し支えないでしょう」
レイレンの言葉に伽乱が補足を加える。
ブリッジのスクリーン上に次々に映し出される情報を指先で整理しながら、フォルニスが淡々と現状を伝えた。
「事前の調査によれば、交渉が必要と思われる先住民の集落は比較的温暖な気候のこの地域に密集しています。データの通り、このラインより北部南部共に厳しい気候になることから、原住民族の文化レベルでは開拓に着手するのが難しいでしょう」
逆に言えばイルジニアの機械工学、魔導をもってすれば新規居住区の開拓は難しくないということだ。彼らが望むのであれば先住民の生活への影響を最小限に、棲み分けることすらできる。移住の規模は5億といったところか。
「んっふふふ、僕たちだけが気楽で快適な暮らしをして、先住民はどうぞ今まで通り原始的な生活をどうぞ~それがお望みでしょうから~って?そんなわけあるかーい!目の前で便利な生活見せつけられたお猿さんたちの心境や如何に!」
盛大にツッコミをいれるチェリッシュの横で、苦々しげに口元を歪ませたアルフリードもそれに同調する。
「ここでドクターに賛同するのも気が進まねえが、俺もそう思う。自分達より圧倒的な武力を持った他の星の人類が大挙して押し寄せてくるんだ。それはもう侵略と変わらん。それで『こちらは好きにやるのでそちらさんもお好きにどうぞ』で済むもんじゃねえだろ。あちらさんの心情もあるだろうが、移住者の中にも不届き者が出てくるに違いない」
「そうそう!ぼくたちからしたら、この星の住民なんて飼育ポットの中の蟻ちゃんだからね!神様気取りで余計なことをしでかすヤツはぜ~ったい出てきちゃうよね~」
それは歴史が証明していた。
かつてイルジニアの惑星内でも大陸によって文化レベルの格差が生じ、領土拡大のため武力による侵略と蹂躙、独自文化の破壊がおこなわれてきている。
その軋轢を最小限に食い止めるため、彼らにはするべきことがあった。
「信頼できる人間を探して統治者として擁立する。この星での俺達のミッションはこれになりそうだね」
レイレンの言葉に一同が顔を見合わせ、そして頷く。
「了解」
船はゆっくりと森の中に降り立ち、彼らは無事第一の惑星アルメラードに着陸を果たしたのだった。
***
「……すごい、緑のにおいだ」
それが、タラップから降りたレイレンの第一声だった。
機械工学の発達した彼らの星では、森林浴のためのゾーンまでわざわざ足を運ばなければ、これほどの緑に包まれる機会はない。慣れない生きた土と緑の香りに噎せ返りそうになりながら、乗組員はあたりを見回す。
「確かに緑は綺麗だけど、この様子じゃぼく好みのスタイリッシュな美人には出会えそうもないな。つまんないや」
「ドクターの好みはともかく、ここはイルジニアが失った緑を湛える美しい星です。こんな星に移住できれば素晴らしいことなのですが……まずは近くの集落を目指しましょう。現地民を統治している者について、何らかの情報が得られるかもしれません」
全地形対応車を船倉のパーキングスペースから搬出しながら、伽乱が言う。船内には一人乗りのバイクの用意もあるが、多人数での移動は結局このバギーが一番効率が良い。地上での移動は主にこれに頼ることになるだろう。
運転席にアルフリード、助手席にレイレン、後部座席に伽乱とフォルニスが並び、最後尾の荷台にチェリッシュがだらしなく足を伸ばす。移動の準備が整ったところで、バギーのエンジンが唸り声をあげた。
「よし、問題なさそうだな」
「それじゃ行きましょうか。アルさん、お願いします」
「あいよ。それじゃ念のため……おまえら、ボディスーツのシールド機能を自動展開にしておけよ。ここから先、何があるか解らないからな。それと、同時翻訳を――」
アルフリードが言葉を途切れさせたのは、不意に今まで大人しく座席に腰を下ろしていたフォルニスが顔を上げたからだ。
「……どうした、フォルニス?」
「風が」
ひゅう、と彼の長い髪を一陣の風が舞い上げる。常日頃感情の宿らないサファイヤの瞳が一瞬、ぎらりと大きく見開かれた。
「風が変わった――何か、来ます」
「えっ……なにっ……!?」
その声を待っていたかのように、ザザザザザザッ――と、荒ぶる風のような音が響き渡り、周囲の木々が大きくその枝葉を揺らした。気付くと立ち並ぶ木の太い枝の上に、幹の影に、そして背の高い草叢に紛れるように、数十の男たちが彼等を取り囲んでいる。幾人かの手には銅剣のようなものが、そして幾人かは弓を引いて黒曜に似た石の鏃らしきものでこちらを狙っていた。
恐らく、あの原始的な武器では彼らのボディスーツの最先端のシールド機能を貫くことは出来ないだろう。それでも武器の切っ先を向けられるのは心臓に悪い。
背筋に冷たい汗が流れるのを感じながらレイレンは両手を上げ、一同を代表して立ち上がった。
「あ……あー、初めまして、皆さん。こちらに敵意はありません。どうか、武器を収めていただけませんか」
言葉を発する。と同時に、自動翻訳機がそれを彼らの言語に翻訳してレイレンの声として響かせる。イルジニアではポピュラーな装置だが、原住民は動揺したように木々を揺らした。
ザワザワ、ザワザワザワ……
小声で囁き合う声が聞こえ、やがてその中から一人の男が姿を現す。――それは二足歩行の、イルジニアでいえば”虎”のような顔と毛皮を纏った、いわば獣人であった。グルルルルルル……と低い唸り声を立てこちらを威嚇しながら、男は手に持った重たげな槍の石突で地面に叩く。
「その空飛ぶ船は貴様等のものか?」
気圧されないよう真っ直ぐにその虎男の視線を受け止めながら、レイレンは言葉を返した。
「そうです。俺達はこれに乗って、遠い星から来ました。この星の代表者を探しています。あなたはこの星の王ですか?」
「そうだ!我こそがこの大地の王、岩の部族のガーマ!この地に降り立った貴様らは俺にその乗り物を献上する義務がある。そいつを寄越せ!」
正に獣がそうするようにガーマと名乗った男は咆哮する。びりびりと空気を震わせるほどの音に、フォルニスがゆっくりと瞬き自身の耳を手で覆った。鼓膜を揺らす雑音が不快だったのだろう。
荷台の毛布に隠れながら、チェリッシュは声を潜めて乗組員にだけ届くよう通信回線を開く。
『……ねーえ、ちょっと話通じないっぽくない?レンレンが怪我したらやだな~。アルフリード、バギー出しちゃってよ』
『出すのはいつでも。だがいいのか?伽乱坊、交渉はおまえさんの専門分野だろう』
『待ってください、こんな唐突に荒事になる予定では……レイレン、一旦離脱しましょう。アンビシオンはどうせ私たちの生体認証なしでは侵入できません。どこかで落ち着いて立て直しを――』
予定外の事態に動揺も露な伽乱の声が通信機を通じてレイレンにも届いた。交渉役の彼がこの調子では、まともな話し合いは望めないだろう。ここは一時離脱が適切と判断して、レイレンは口を開く。
「解った、アルさん、エンジンを――」
「おい貴様ら!何をごちゃごちゃ言っている?抵抗するなら容赦なく……」
レイレンの声とガーマの大喝が重なった。
――その時だった。
ひゅん、と風を切る音が聞こえ、馬の嘶きが辺りに轟いた。バギーを取り囲む男を蹴散らして、年若い少年に先導された騎馬集団が飛び込んでくる。
「草原の部族だ!草原の部族が出たぞおおおおお!!」
「撃て!リビオを撃ち落とせ!」
岩の部族の男達が叫ぶ。少年は不敵に笑うと短い弓に次の矢を番えた。
「はっ、おまえ等のへなちょこな弓が俺に当たると思っているのか?」
パン、と小気味よい音を立てて少年の手から放たれたその矢は、正確に敵対する者達の手から弓矢を弾き飛ばす。
彼が駆る馬身は高く跳躍し、羽でも生えたかのように悠々と男達の頭上を飛び越えると、バギーの前に舞い降りた。
「だぁれがこの大地の王だって?俺達草原の部族を差し置いて王を名乗るなんざ、百年早いんだよ」
「忌々しい小童め……出しゃばりおって」
少年の登場にガーマは青筋を浮かべると、大きく一度槍を振った。
「草原の部族が大地の王を名乗れたのも先代までのこと。今の草原の部族はいわば烏合の衆よ。……ははぁ、なるほど解ったぞ。自分の力が足りんのを自覚して、その空飛ぶ船を手に入れようという魂胆か?さすがは姑息、草原の部族らしいことよなぁ?」
だがそう揶揄されても少年は顔色を変えず、番えたままの弓矢をそのままに高らかに笑った。
「はっは、そういうおまえ等は空からの客人に追剥か!もはやただの蛮族だな。おまえが王を名乗るなど片腹痛い。さぁ、俺達が来たからには、岩の部族の好きにはさせんぞ!ここは草原の部族の縄張りだ、さっさと尻尾を巻いて出て行くがいい!!」
「……童風情が。ここは退いてやる。だが、その空飛ぶ船、諦めたと思うなよ!野郎ども、行くぞ!」
ぎりぎりと歯噛みしながらも、この場所が彼等にとって有利な土地でないのは確かだったのだろう。ガーマは槍を収めると舌打ちをし、少年に背を向けた。辺りに充満していた緊張感や殺気といったものが、波が引くように遠退いていく。――残ったのは、草原の部族と呼ばれた男達と、先ほどの少年だった。
虎の男達に比べ友好的と見えるこの少年に僅か緊張を緩め胸を撫でおろすと、レイレンは改めて感謝の言葉を向ける。
「助けてくれてありがとうございます。皆さんの土地を騒がせ申し訳ありませんでした」
「こちらこそ、我が星の者が無礼を働き済まなかった、空からの客人よ!本来ここは草原の部族の縄張りなんだが、岩の部族の奴等、その見事な乗り物に釣られてきてしまったようだ。どうか、ここがあのような蛮族ばかりの土地と思わないでほしい」
そういう少年は一見、レイレン達と同じ人間のように見えた。しかしよく見るとその頭上には立ち上がった耳が二つ、そして彼の背中側には大きく立派な尾がぱたぱたと揺れている。
「俺はこの一帯を縄張りにする草原の部族の長、リビオ。空から来た客人、この星の王を探しているといったな?ならば集落に来るがいい。草原の部族はおまえ達を歓迎しよう!」
連なる山々、鬱蒼と生い茂る森、そこから生まれ雄大な海へと繋がる河川。平原はぽつりぽつりと切り拓かれており、人里の気配がある。
「未開の星と聞いていたけど、思ったより発達しているのかもしれないな」
「現在、この星の人口は3億に満たない程度、平均寿命は50歳前後。惑星全土のおよそ9割が手付かずの自然のままですから、未開拓といって十分差し支えないでしょう」
レイレンの言葉に伽乱が補足を加える。
ブリッジのスクリーン上に次々に映し出される情報を指先で整理しながら、フォルニスが淡々と現状を伝えた。
「事前の調査によれば、交渉が必要と思われる先住民の集落は比較的温暖な気候のこの地域に密集しています。データの通り、このラインより北部南部共に厳しい気候になることから、原住民族の文化レベルでは開拓に着手するのが難しいでしょう」
逆に言えばイルジニアの機械工学、魔導をもってすれば新規居住区の開拓は難しくないということだ。彼らが望むのであれば先住民の生活への影響を最小限に、棲み分けることすらできる。移住の規模は5億といったところか。
「んっふふふ、僕たちだけが気楽で快適な暮らしをして、先住民はどうぞ今まで通り原始的な生活をどうぞ~それがお望みでしょうから~って?そんなわけあるかーい!目の前で便利な生活見せつけられたお猿さんたちの心境や如何に!」
盛大にツッコミをいれるチェリッシュの横で、苦々しげに口元を歪ませたアルフリードもそれに同調する。
「ここでドクターに賛同するのも気が進まねえが、俺もそう思う。自分達より圧倒的な武力を持った他の星の人類が大挙して押し寄せてくるんだ。それはもう侵略と変わらん。それで『こちらは好きにやるのでそちらさんもお好きにどうぞ』で済むもんじゃねえだろ。あちらさんの心情もあるだろうが、移住者の中にも不届き者が出てくるに違いない」
「そうそう!ぼくたちからしたら、この星の住民なんて飼育ポットの中の蟻ちゃんだからね!神様気取りで余計なことをしでかすヤツはぜ~ったい出てきちゃうよね~」
それは歴史が証明していた。
かつてイルジニアの惑星内でも大陸によって文化レベルの格差が生じ、領土拡大のため武力による侵略と蹂躙、独自文化の破壊がおこなわれてきている。
その軋轢を最小限に食い止めるため、彼らにはするべきことがあった。
「信頼できる人間を探して統治者として擁立する。この星での俺達のミッションはこれになりそうだね」
レイレンの言葉に一同が顔を見合わせ、そして頷く。
「了解」
船はゆっくりと森の中に降り立ち、彼らは無事第一の惑星アルメラードに着陸を果たしたのだった。
***
「……すごい、緑のにおいだ」
それが、タラップから降りたレイレンの第一声だった。
機械工学の発達した彼らの星では、森林浴のためのゾーンまでわざわざ足を運ばなければ、これほどの緑に包まれる機会はない。慣れない生きた土と緑の香りに噎せ返りそうになりながら、乗組員はあたりを見回す。
「確かに緑は綺麗だけど、この様子じゃぼく好みのスタイリッシュな美人には出会えそうもないな。つまんないや」
「ドクターの好みはともかく、ここはイルジニアが失った緑を湛える美しい星です。こんな星に移住できれば素晴らしいことなのですが……まずは近くの集落を目指しましょう。現地民を統治している者について、何らかの情報が得られるかもしれません」
全地形対応車を船倉のパーキングスペースから搬出しながら、伽乱が言う。船内には一人乗りのバイクの用意もあるが、多人数での移動は結局このバギーが一番効率が良い。地上での移動は主にこれに頼ることになるだろう。
運転席にアルフリード、助手席にレイレン、後部座席に伽乱とフォルニスが並び、最後尾の荷台にチェリッシュがだらしなく足を伸ばす。移動の準備が整ったところで、バギーのエンジンが唸り声をあげた。
「よし、問題なさそうだな」
「それじゃ行きましょうか。アルさん、お願いします」
「あいよ。それじゃ念のため……おまえら、ボディスーツのシールド機能を自動展開にしておけよ。ここから先、何があるか解らないからな。それと、同時翻訳を――」
アルフリードが言葉を途切れさせたのは、不意に今まで大人しく座席に腰を下ろしていたフォルニスが顔を上げたからだ。
「……どうした、フォルニス?」
「風が」
ひゅう、と彼の長い髪を一陣の風が舞い上げる。常日頃感情の宿らないサファイヤの瞳が一瞬、ぎらりと大きく見開かれた。
「風が変わった――何か、来ます」
「えっ……なにっ……!?」
その声を待っていたかのように、ザザザザザザッ――と、荒ぶる風のような音が響き渡り、周囲の木々が大きくその枝葉を揺らした。気付くと立ち並ぶ木の太い枝の上に、幹の影に、そして背の高い草叢に紛れるように、数十の男たちが彼等を取り囲んでいる。幾人かの手には銅剣のようなものが、そして幾人かは弓を引いて黒曜に似た石の鏃らしきものでこちらを狙っていた。
恐らく、あの原始的な武器では彼らのボディスーツの最先端のシールド機能を貫くことは出来ないだろう。それでも武器の切っ先を向けられるのは心臓に悪い。
背筋に冷たい汗が流れるのを感じながらレイレンは両手を上げ、一同を代表して立ち上がった。
「あ……あー、初めまして、皆さん。こちらに敵意はありません。どうか、武器を収めていただけませんか」
言葉を発する。と同時に、自動翻訳機がそれを彼らの言語に翻訳してレイレンの声として響かせる。イルジニアではポピュラーな装置だが、原住民は動揺したように木々を揺らした。
ザワザワ、ザワザワザワ……
小声で囁き合う声が聞こえ、やがてその中から一人の男が姿を現す。――それは二足歩行の、イルジニアでいえば”虎”のような顔と毛皮を纏った、いわば獣人であった。グルルルルルル……と低い唸り声を立てこちらを威嚇しながら、男は手に持った重たげな槍の石突で地面に叩く。
「その空飛ぶ船は貴様等のものか?」
気圧されないよう真っ直ぐにその虎男の視線を受け止めながら、レイレンは言葉を返した。
「そうです。俺達はこれに乗って、遠い星から来ました。この星の代表者を探しています。あなたはこの星の王ですか?」
「そうだ!我こそがこの大地の王、岩の部族のガーマ!この地に降り立った貴様らは俺にその乗り物を献上する義務がある。そいつを寄越せ!」
正に獣がそうするようにガーマと名乗った男は咆哮する。びりびりと空気を震わせるほどの音に、フォルニスがゆっくりと瞬き自身の耳を手で覆った。鼓膜を揺らす雑音が不快だったのだろう。
荷台の毛布に隠れながら、チェリッシュは声を潜めて乗組員にだけ届くよう通信回線を開く。
『……ねーえ、ちょっと話通じないっぽくない?レンレンが怪我したらやだな~。アルフリード、バギー出しちゃってよ』
『出すのはいつでも。だがいいのか?伽乱坊、交渉はおまえさんの専門分野だろう』
『待ってください、こんな唐突に荒事になる予定では……レイレン、一旦離脱しましょう。アンビシオンはどうせ私たちの生体認証なしでは侵入できません。どこかで落ち着いて立て直しを――』
予定外の事態に動揺も露な伽乱の声が通信機を通じてレイレンにも届いた。交渉役の彼がこの調子では、まともな話し合いは望めないだろう。ここは一時離脱が適切と判断して、レイレンは口を開く。
「解った、アルさん、エンジンを――」
「おい貴様ら!何をごちゃごちゃ言っている?抵抗するなら容赦なく……」
レイレンの声とガーマの大喝が重なった。
――その時だった。
ひゅん、と風を切る音が聞こえ、馬の嘶きが辺りに轟いた。バギーを取り囲む男を蹴散らして、年若い少年に先導された騎馬集団が飛び込んでくる。
「草原の部族だ!草原の部族が出たぞおおおおお!!」
「撃て!リビオを撃ち落とせ!」
岩の部族の男達が叫ぶ。少年は不敵に笑うと短い弓に次の矢を番えた。
「はっ、おまえ等のへなちょこな弓が俺に当たると思っているのか?」
パン、と小気味よい音を立てて少年の手から放たれたその矢は、正確に敵対する者達の手から弓矢を弾き飛ばす。
彼が駆る馬身は高く跳躍し、羽でも生えたかのように悠々と男達の頭上を飛び越えると、バギーの前に舞い降りた。
「だぁれがこの大地の王だって?俺達草原の部族を差し置いて王を名乗るなんざ、百年早いんだよ」
「忌々しい小童め……出しゃばりおって」
少年の登場にガーマは青筋を浮かべると、大きく一度槍を振った。
「草原の部族が大地の王を名乗れたのも先代までのこと。今の草原の部族はいわば烏合の衆よ。……ははぁ、なるほど解ったぞ。自分の力が足りんのを自覚して、その空飛ぶ船を手に入れようという魂胆か?さすがは姑息、草原の部族らしいことよなぁ?」
だがそう揶揄されても少年は顔色を変えず、番えたままの弓矢をそのままに高らかに笑った。
「はっは、そういうおまえ等は空からの客人に追剥か!もはやただの蛮族だな。おまえが王を名乗るなど片腹痛い。さぁ、俺達が来たからには、岩の部族の好きにはさせんぞ!ここは草原の部族の縄張りだ、さっさと尻尾を巻いて出て行くがいい!!」
「……童風情が。ここは退いてやる。だが、その空飛ぶ船、諦めたと思うなよ!野郎ども、行くぞ!」
ぎりぎりと歯噛みしながらも、この場所が彼等にとって有利な土地でないのは確かだったのだろう。ガーマは槍を収めると舌打ちをし、少年に背を向けた。辺りに充満していた緊張感や殺気といったものが、波が引くように遠退いていく。――残ったのは、草原の部族と呼ばれた男達と、先ほどの少年だった。
虎の男達に比べ友好的と見えるこの少年に僅か緊張を緩め胸を撫でおろすと、レイレンは改めて感謝の言葉を向ける。
「助けてくれてありがとうございます。皆さんの土地を騒がせ申し訳ありませんでした」
「こちらこそ、我が星の者が無礼を働き済まなかった、空からの客人よ!本来ここは草原の部族の縄張りなんだが、岩の部族の奴等、その見事な乗り物に釣られてきてしまったようだ。どうか、ここがあのような蛮族ばかりの土地と思わないでほしい」
そういう少年は一見、レイレン達と同じ人間のように見えた。しかしよく見るとその頭上には立ち上がった耳が二つ、そして彼の背中側には大きく立派な尾がぱたぱたと揺れている。
「俺はこの一帯を縄張りにする草原の部族の長、リビオ。空から来た客人、この星の王を探しているといったな?ならば集落に来るがいい。草原の部族はおまえ達を歓迎しよう!」
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