悪役令嬢は王子の溺愛を終わらせない~ヒロイン遭遇で婚約破棄されたくないので、彼と国外に脱出します~

可児 うさこ

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平凡なOL、乙女ゲームの世界に転生する

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目覚めた瞬間、自分が死んだことを悟った。

「あー、やっぱり。あの時か……」

信号待ちでスマホをいじっている間に、トラックが突っ込んできたのだ。前世はパワハラ上司に悩む、どこにでもいる平凡なOLだった。

「それにしてもこの部屋、やけに見覚えがあるような?」

私は気が付いた。死ぬ直前にプレイしていた、乙女ゲームの世界だと。



ゲームには5人の攻略対象がいる。知的な大佐、最強の魔術師、勇敢な騎士団長、可愛い王弟、幼なじみの第二王子。

「今は誰ルートだろ?」

私は辺りを見渡した。趣味のいい飾り付けがされた、広々とした王女の部屋。

「あ、思い出した。ここ、第二王子《レオンハルト》の宮殿だ」

レオンハルト・エーデルヴァイン。穏やかで優しい彼は、ゲームで最初の攻略対象だった。

「婚約者の悪役令嬢エリザベスは、彼にふさわしくない。そんな設定だったよね」

第二王子《レオンハルト》はヒロインのソフィアと出会い、エリザベスと婚約破棄をする。最終的にエリザベスは処刑され、悲惨な運命を遂げるのだ。

「で、私がこの部屋にいるって事は……ヒロインだ!」

喜々としてベッドから飛び上がった。 広い部屋の奥にある洗面所へ、迷いのない足取りで向かう。

「もう何度もプレイしたしね。 確か洗面所に鏡があったはず……」

胸を躍らせながら鏡をのぞいた。ソフィアの大きな青い目と豊かな明るい金髪、白色のワンピースが映っているはずだった。

「げ……」

予想していたものは、何もなかった。確かにソフィア同様、若い娘ならではのみずみずしい魅力と美しさは映っている。しかし私は濡れるような黒髪、漆黒の瞳、深紅のドレスを身にまとっていた。

「エリザベスかよ!」

私が転生していたのはヒロインの天敵。エリザベス・ローゼンベルク。高慢でわがままで残酷で、第二王子《レオンハルト》を自分のものにするためには手段を選ばない。

王国最高の名門貴族の、悪役令嬢だった。



鏡の前で立ちすくんでいると、ノックの音が聞こえた。ドアが開いて、第二王子《レオンハルト》が現れた。

「こんばんは、リザ」

彼は優しく微笑んだ。少しカールがかかった銀髪、ブルーの瞳、端正な顔立ち。美貌と才能に恵まれた、理想の王子だ。

「大きい声が聞こえたけど、大丈夫?」

彼との距離が縮まり、心臓が高鳴る。ゲームで見た時もかっこよかったが、実物はもっと素敵だった。

「こ、こんばんは、レオン」
「え……」

彼はブルーの瞳を、大きく開いた。

「挨拶ができるようになったのか!?」
「は?」
「すすり泣いているメイドもいない!言い負かされた執事もいない!」

思い出した。エリザベスの趣味は『口喧嘩で相手をぶちのめすこと』だ。彼女を止めに入る役目が、婚約者の第二王子《レオン》だった。

「すごいじゃないか、リザ! 今夜はお祝いだ!」

彼は私を強く抱きしめた。頭を優しく撫でられ、セクシーな香水の匂いが鼻をつく。

こうして悪役令嬢エリザベスとしての、人生が幕を開けた―――



数ヶ月後。私はレオンから婚約破棄され、国外追放されて……ということもなく。 

「意外と現れないじゃん、ヒロイン」

彼の溺愛のもと、幸せな日々を送っていた。

「まだ妻でもないから、立場も気楽なもんだよね」

私の願いを何でも叶えてくれるレオンは、本を大量に揃えてくれた。エロ本から魔導書まで、何でも。ベッドの上でゴロゴロしながら、本のページをめくった。

日中は美味しいお茶とお菓子を楽しみながら、読書三昧。夜は仕事を終えたレオンが会いに来てくれて、幸せなひとときを過ごす。前世では許されなかったこの生活を、 私は愛していた。 

「ゲームでもこんなに平和に暮らせるの、レオンくらいだったなー」

あとは大佐と戦争で命がけの恋をしたり、ヤンデレ魔術師に監禁されたり。乙女ゲームでありがちなのだが、一番最初に攻略できるキャラは良くも悪くも普通だ。次に攻略できるキャラは刺激を加えるためか、どんどん癖が強くなっていく。

一方でレオンは、毎日必ず時間を作って会いに来てくれる。第一王子の兄が起こす問題を解決し、王と働き、多忙な毎日を送っているにもかかわらず。

「でも、それがゲームの設定だもんね」

ため息をついた。ソフィアが登場すれば、彼は私を見捨ててしまう。初めはそれで仕方ないと思っていた。でも彼から溺愛されるうちに、彼のことが好きになってしまったのだ。

「あー。まさかレオンを好きになるとは思わなかったな……」

次の瞬間、控えめなノックの音が部屋に響いた。



ドアが開き、レオンの姿がそこにあった。

「良かった、部屋にいて」
「今日はずいぶん早かったんですね」
「うん。君の顔が見たくて、急いで来たんだ」

彼は部屋に入り、私の横でベッドに腰かけた。長い足を組む姿は、モデルがポーズをとっているようにも見える。

「やっとできたんだよ、婚約指輪《これ》が」

彼は私に、小さな箱を差し出した。

「何ですか、これは」
「開けてみて?」

そこには キラキラと光る指輪があった。高そうだ。前世では一生かかっても買えなかっただろう。

「それを、右手の薬指につけてくれるかな?」
「ありがとうございます。サイズもぴったりです」
「夜にリザが寝た後に、こっそり測ったからね」
「え?」
「冗談だよ。でも喜んでもらえてよかった」

この溺愛を終わらせたくなかった。彼と一緒にいたい、幸せになりたい。そんな私の心を読んだかのように、 部屋に不吉なノックの音が響いた。



『女の勘』というより『自分に不利な予感』は、だいたい当たる。ノックの音に答える前に、執事が慌てた様子で入ってきた。

「どうしたんだい? 今はエリザベスと二人の時間を過ごしているんだけど」
「申し訳ございません。しかし ソフィア様がお見えになったのです」
「ソフィア?父親の仕事で、国を出たんじゃなかったのか?」
「またこの国に、戻ってこられたのです」

 ―――あぁ、やめて。

ゲームのオープニングが今まさに始まろうとしている。ヒロインのソフィアは、レオンハルトと幼なじみ。美しくて優しくて賢くて勇敢で、誰からも好かれる完璧な存在だ。悪役令嬢の私は、どうしたって彼女に敵わない。

―――そうは、させない。

私は彼に言った。絶対に彼を困らせると分かっていながら。

「レオン、ハネムーンに行きたいです」



彼は驚いたように私を見た。

「ハネムーン?今すぐに?」
「はい。今すぐ。一緒に遠くの国へ行きたいです」

私は彼の目を見つめた。彼の瞳ははっとするほど青く、今にも吸い込まれそうだ。

「どうして急に?何かあったの?」

彼は心配そうに私の手を握った。彼の手は温かくて、力強くて、安心感があった。

「何もありません。ただ二人きりで過ごしたいだけです」

どちらの耳にも、嘘にしか聞こえなかった。でもソフィアと遭遇する前に、彼と国外に脱出したい。

「僕も君と一緒にいたいよ。でも今は国にいなきゃ。分かってくれるだろう?」

レオンは困ったように言った。問題児で好き勝手に暴れている第一王子と違い、彼は王族としての責任を果たそうとしている。彼は優秀で誠実で、国民からも愛されていた。

「お願いします。理由はいつか必ず説明します」

しかし彼を愛していたのは私も同じだった。涙ぐんで彼にすがると、息を呑む音が聞こえた。

「リザ……」

彼は私の頭を撫でながら、少し考える素振りをした。

「分かった、君の願いなら。少し早いけどハネムーンに行こう」



こうして私はレオンとハネムーンに出発した。彼は王国とは違う文化や風景が広がる国々を選んでくれた。手を繋いで、美しい海や山や街を見て回る。夢のような日々だった。彼は色々なものを買ってくれたり、美味しいものを食べさせてくれた。国を出ても彼は変わらず私に優しくて、甘くて、情熱的だった。

観光を終えて、宿泊先のホテルで一休みすることになった。スイートルームのソファーで、隣に座る彼に言った。

「ありがとうございます。一緒に旅行できて、本当に嬉しいです」
「僕も嬉しいよ。 最近は指輪のこともあって忙しかったからね」
 
その声はどちらかと言うと、私の右手の薬指にある指輪に向けられていた。

「指輪を作るのはレオンじゃないですよね?どうして忙しくなるんですか?」
「そうだな、僕もその理由はいつか必ず説明するよ」

彼は私の頬にキスした。 私は赤くなって、彼の胸に顔を埋めた。

「リザ。君は僕の一番大切な人だ」

レオンは私を抱き寄せた。私たちの顔が近づき、唇が触れ合おうとした時。扉から、女性の声が聞こえてきた。

「レオン!レオン!どこにいるの?早く出てきて!」

声を耳にした瞬間、私は凍りついた。恐れていたヒロイン、ソフィアだった。



「あの声は、ソフィア?」

レオンも驚いているようだ。彼は扉を開けようと立ち上がった。

「彼女と話さないでください」
「でも……」

レオンは困惑した表情をした。

「お願いです。彼女と話すと、必ず好きになってしまいます」

私は涙ながらに言ったが、彼は首を振った。

「そんなことはない。僕は君しか愛していないよ」

レオンは再びソファに腰を下ろし、私を抱きしめた。しかし、声がまた聞こえてきた。

「レオン!レオン!返事して!」
「一緒に逃げましょう」
「え?」

彼の手を引いて、立ち上がらせた。脱走できるところを探す。幸いにも、部屋は二階だった。

「こっち!バルコニーです!」

私はバルコニーから飛び降りた。衝撃に備えて身を固くしていたが、意外とソフトランディングだった。

「リザ、何してるんだ!」

それはレオンの魔法によるものだと、彼の姿を見て分かった。彼は宙に浮かんでいた。 降りてきて、私を抱きかかえた。

「行きたい場所はあるかい? どこにでも連れて行ってあげるよ」

私がある場所を口にすると、彼は驚いたようだった。 

「あんな何もない島に?」
「はい、どうしても行きたいんです」
「全く。君のことだから、何か考えがあるんだろう」

彼はやれやれといった様子で首を振った。そして微笑み、私をお姫様抱っこしたまま、空に舞い上がった。



しばらくして、南の島にあるリゾートホテルに到着した。部屋にあるバルコニーからは海が一望できる。私たちは一緒にバルコニーに出て、夕日を眺めた。太陽に照らされた海は、宝石がちびりばめられているように輝いていた。

「まさか、空を飛ぶなんて思いもしませんでした」
「僕もこの島に来るなんて思わなかったよ。リザといると退屈しないね」

彼に髪を撫でられ、私は彼の腕に寄り添った。

「リザは心配しすぎだよ。君以外の女性に興味はない」

私の唇に、触れるだけのキスが落とされた。

バルコニーから部屋へ戻る直前、視界の端に見覚えのある白色のワンピースが目に入った。その色はずっと、頭に焼き付いていた。夕食を食べている時も、お風呂に入っている時も、彼が寝静まった後も。

真夜中になり、月は眠り込んだ島の上を滑りつつあった。私は彼を起こさないように、そっと部屋を抜け出した。海の近くで行われる、怪しげな闇市を目指して。



「これが、媚薬……」

小瓶を見つめた。どぎついピンク色の液体が揺れる。闇市の商人が、呆れた声をだした。

「こんな魔術師しか知らないもの、よく知ってんな?」

魔術師ルートで、彼に使われたからね!あの最強ヤンデレ野郎は、媚薬でヒロインを監禁していた。いや、私も人のこと言えないけどさ。

「あんた見たところ、この島の女じゃねえな」
「……」
「はるばる南の島まで来たのは、このためだったのか??」

目的のものを手に入れた以上、長居は無用だ。商人にたっぷりと報酬を払い、闇市を後にする。去り際に振り返ると、商人が誰かと話していた。フードを被っているが、背格好からして女性だろう。

「何となく、私のこと話してるような?」

商人は私の居る方を指さし、何かを説明していた。私があの薬を買ったことを、商売に使っているのかもしれない。

「私が薬を買ったこと、誰も言わないでって言ったのに……」

彼らは金のためなら何でもやる。他人の秘密を売ることだって、やすやすとやってのける。それは私のことを陥れた、パワハラ上司のことを思い出させた。ゲームで現実逃避をしないと生きていけなくさせた、あのクソ男を。

「あー、もう。あんな奴らは放っておいて、ホテルに戻ろ!」



ホテルに戻り、媚薬をナイトテーブルの引き出しにしまった。

「これを使えば、どんな相手でも惚れさせることができる……」

私はベッドに入った。隣で殿下は寝息を立てている。彼の美しい銀髪は、月に照らされて輝いていた。



翌朝。レオンが起きる前に、私はグラスに薬を入れた。彼は朝、起き抜けに一杯の水を飲むからだ。

「おはよう、リザ。今日もかわいいね」

キッチンでグラスを準備し終えると、彼が挨拶をしに来た。私はグラスを差し出し、微笑んだ。

「おはよう。お水、用意しておいたの」
「君は……本当に人が変わったみたいに、素敵になったね」

彼はグラスを受け取った。口をつけた瞬間、部屋のドアが勢いよく開いた。

「レオン、それを飲んじゃダメ!」

闇市で見かけた時と同じ、フードのあるコートを着た人物。 彼女はソフィアだった。 



レオンは目を見開いた。

「ソフィア、どうしてだい?」
「そんなことしてる場合じゃないから。今、国がドラゴンに襲われてるのよ」
「ドラゴン?」
「ええ。ドラゴンの大群よ」

ソフィアは私をちらりと見た。

「お楽しみしようとしてたとこ、申し訳ないけどね」

レオンは、私の方へ向き直った。

「リザ、一緒に国へ戻ってくれるかい?」
「はは、ご冗談を」

彼らは顔を見合わせた。

「なぜだい?」
「見たくないからです」

これからレオンはソフィアと、ドラゴンを力を合わせて倒す。有名なシーンで、CMでも使われていた。そんな姿、見たくない。

「あんた、もしかして……」

ソフィアは私に意味ありげな視線を寄こす。

そう。ドラゴンの襲撃は、悪役令嬢《エリザベス》の陰謀だった。第二王子《レオン》と婚約したのは、指輪の力で魔界からドラゴンを召集するため。もちろん私は何もしていない。でも、そういうことになっている。構造上の問題なのだ。

「この指輪は渡します。ドラゴンを倒すのに必要なので」

婚約指輪を外して、レオンに手渡した。原作だと、エリザベスは絶対に指輪を渡そうとしなかった。彼女は倒され、指輪をはめたソフィアが、ドラゴンにとどめをさすのだ。

「私のことは良いから、行ってください。二人のストーリーを進めてください」

私はバルコニーへ出た。またバルコニーからの脱出だ。でも前回と違って今回は、魔法で助けてくれる勇敢な王子様がいない。

「このまま二人の幸せを見せつけられた後に、処刑されるくらいなら……」

バルコニーの手すりに手をかけると、目の前に黒い何かが現れた。それがドラゴンだと気づいた瞬間、その生き物は大きな咆哮を上げた。



最初に声を上げたのは、ソフィアだった。

「っ、こんなところにも!?」

彼女は手を上げた。魔法を発動しようとしているのだろう。しかしドラゴンは大きく口を開けている。きっと間に合わない。

「リザ、危ない!」

ドラゴンは炎を吹いた。レオンが防御魔法を発動してくれて、間一髪のところで炎は跳ね返された。

「怪我はないかい?」

彼はバルコニーへ駆け寄って来た。その場に座り込む私を、優しく抱き寄せてくれた。

「私がドラゴンを引きつけている間に、ソフィアと国へ……」
「バカ言うな」

怒りと悲しみがまじった瞳が、私を見つめた。彼のこんな表情を見るのは、初めてだった。

「国のために君を失うくらいなら、君のために国を失う方が良い」

私は言葉を失った。彼が普段、どれだけ国に尽くしているか知っていたから。

「……仕方ないな。指輪は、また作れば良いか」

レオンは指輪をドラゴンへ向けた。そして叫んだ。

「指輪《リング》の魔力を、全て解放する……食らえ、稲妻の鉄槌。サンダーストーム!」

天から次々に稲妻が落ちていく。天空から落ちてきた光線は、地上へ届かない。どれもドラゴンを直撃して、ドラゴンと共に消えて行ったのだろう。それが分かった理由は、目の前のドラゴンもそうだったから。

「やっぱり力を隠してたのね」

いつの間にかバルコニーに出ていたソフィアが、呆れた声を出した。

「はは。第一王子《兄様》の手前、どうしてもね」
「心配しないで。あの無能王子は私が何とかするから。婚約したしね」

私は驚いて目を上げた。

「え?」
「何よ、その顔。まさか、あの無能が好きだった?」
「それは聞き捨てならないな。エリザベス」
「い、いや!違います!」

聞き捨てならないのは兄を無能呼ばわりすることだろ!

色々と理解が追いつかない。第一王子はルートに無かったはずだ。慌てふためく私を見て、ソフィアはやれやれと言った様子で首を振った。

「やっぱりそうか……」

そして私につかつかと近づいてきた。

―――まさか、殺される!?

ぎゅっと目を閉じる。次に、ポケットに違和感があった。何かが入れられたらしい。

「これ、一人で読みなさい。私はもう必要ないから。誰にも見られちゃだめよ?」

私たちのやり取りを、レオンハルトは訝し気に見ていた。 

「何を話しているんだい?」
「別に。あんたが誘惑魔法を封じ込めた指輪をリザにさせて、自分を好きになるよう仕向けてたなんて、話してないわ」
「「!?」」
「リザには効いてなかったけどね」
「ど、どうしてですか?」
「……ま、二人で楽しんで。私は行くわ。あのバカは放っておくと国を滅ぼすから」

全くドラゴンより厄介だわー。と文句を言いながら、ソフィアは去って行く。

「うんざりした様子よりも、どこか惚気ている気がしますね」
「あぁ、僕も思ってたよ。足取りも軽かったね」

バルコニーには、唖然とする私たちが残された。辺りはいつの間にか暗くなっている。星の輝く、気持ちの良い夜だった。



あれからすぐ、国に帰ることになった。ドラゴンに襲われた場所の復旧作業は、第一王子が指揮をとることになった。

「『問題児だった第一王子は破壊が得意だったので、直し方も心得ていたらしい』……はは」

ベッドでゴロゴロしながら新聞を読んでいると、部屋のドアが勢いよく開かれた。

「聞いたよ。リザが媚薬《これ》を作ろうとしていたって」

レオンの手には、 見覚えのあるピンク色の小瓶が握られている。彼の顔は微笑んでいるが、ものすごい怒りのオーラが出ている。

「さあ、言ってごらん。これを誰に使うつもりだったんだい?」

ベッドに腰かけて言い訳を探していると、彼はベッドに上がってきた。有無を言わず押し倒されて、私は震える声で白状した。

「レ、レオンです」
「どういうことだ?僕は君にぞっこんじゃないか……待てよ」

彼はふと、何かに気が付いたような顔をした。

「激変した性格、急なハネムーン、僕への媚薬。そういうことか?」

彼は不敵に微笑んだ。まさかバレると思っていなかったが、 いい加減に彼も気づいたのだろう。

「ええ、そうです。私はゲームの……」
「もう子供が欲しかったのか!」
「は?」

私はぽかんと口を開けた。対して、彼は苦悩の表情を浮かべている。

「ごめん、気付いてあげられなくて。リザを大切にしたいばかりに、婚前交渉はしないと誓っていた。でも君が望むなら……」
「ち、違います!その手をどけてください!」

じたばたしていると、ポケットからカサカサと音が聞こえる。忘れていた。ソフィアから、何か入れられていたのだ。

「あ、どこへ行くんだ!」

私は彼の拘束を抜け出して、洗面所へ駆け込んだ。



洗面所の鍵をかけて、ポケットからそれを取り出した。古びた紙だ。開くと中には文字が書かれていた。

「えーっと、追加コンテンツ!?」

この世界の文字ではなく、前世の文字で書かれている。懐かしい明朝体を、そのまま読み進めた。

「『ソフィアが選んだのは、本編で触れられなかった第一王子。優秀な第二王子《おとうと》と比べられ、問題行動ばかり起こしていた。そんな彼を、幼なじみのヒロインが愛の力で更生させる』……」

下には、走り書きで何かが書かれていた。

「第二王子の相手はエリザベス。本編で敵対していた悪役令嬢だが、追加コンテンツでは人が変わったように真面目で善良な女性になっていた」

私は紙を持ったまま、その場にへなへなと座り込んだ。

「は、ははは……なんだ、良かったぁ」

次の瞬間、ドアが木っ端微塵に吹き飛んでいった。

「リザ、今日の君はどこかおかしい。やっぱり指輪を……」

レオンが最後まで言い終わらないうちに彼に抱き着いて、唇を重ねた。

「そんなものはいりません」

彼は目を大きく見開いた。その瞳を真っ直ぐに見据えて、私は言った。

「私は永遠に、あなたのものですから!」

☆おまけ

~とある会社のオフィスにて~

「おい、この書類はなんだ!全然ダメじゃないか!」
「ダメですって?あなたの言った通りにやっただけよ」
「なんだと!」
「部下に伝わらない指示を出す、上司の方が問題じゃないの?」

「……リサちゃん、 最近強くなったよね」
「トラックに轢かれて一命を取り止めてから、性格変わったらしいよ」
「あの課長もタジタジ。パワハラが人事にバレて、来週から左遷だってね」
「ざまあみろ! あ、リサちゃんランチ行こー!前のバカ高い店は無しね!」
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