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剣術の稽古
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私は、庭の開けた場所を教えてもらって、剣術の稽古をするつもりだったのだけれど、何とローヴェリア侯爵家には侯爵家お抱えの騎士がいるらしく、騎士の訓練場があるときいて吃驚した。
エマさんが案内してくれた騎士の訓練場はとても広く立派だった。早朝だというのにもう騎士たちが訓練を開始している。
凄いなあ。さすが侯爵家。
私は騎士たちの邪魔をしないように隅っこを使わせてもらうことにする。
「こんな端の方でよろしいのですか?」
エマさんが頬に手を当てて首を傾げた。
「うん」
私みたいな子どもでしかも女の子が剣の稽古とかしていたら目立ちそうだからね。
取り敢えず……いつも通り柔軟体操から始めよう。
私は地面に長座した。
それから、良い感じに柔軟体操を終える頃、空間にキラキラと魔方陣が現れた。
「リチェルお嬢さま!」
悲鳴にも似たエマさんの焦った声がした。
「危険です! お逃げください!」
駆け寄るエマさんに庇われて、私はキョトンとしてしまう。
へ?
私にとっては見慣れた魔方陣。
何をエマさんが警戒して慌てているのかがわからない。
この魔方陣……
だって、ほら?
思った通り……魔方陣からルイスが現れた。
エマさんの驚いた顔!
それはそうよね? 警戒していた魔方陣から整った顔の美形のオジさんが出てきたら、それは驚く。
そんなことを考えていたら、ルイスがこちらをチラリと見て
「リチェル? 私はまだ若いつもりなのだけれどね?」
不服そうに言った。
あれ? 顔にでちゃっていたのかな?
私は「えへへ」と、笑って誤魔化した。
ルイスは、私のお母様に激甘だけれど私にも甘いから、困ったように目尻を下げると、ルイスの眼差しが蕩けるように優しくなった。
「私のリチェルの笑顔には適わないな」
「えっと、あのぉ……」
若干置いてけぼりのエマさんが、私とルイスの顔を見比べて戸惑ったように声をかけてきた。
「リチェルお嬢さまのお知り合いでございますか?」
ん? ……あ! 魔方陣からでてきたルイスはエマさんからしてみたら吃驚する以前に不審者だった……と、思い至る。
事前に、エマさんにルイスが現れるかも知れないことを伝えておけばよかった。
ルイスは過保護だから、侯爵家にお泊まりでも、いつも通り剣術の指導に来てくれそうな予感がしていたのよね。
「エマさん、驚かせてごめんなさい。この方は……」
「私はルイス・キンゲードです。リチェルの保護者兼先生です」
ルイスが、私の言葉を引き取ってこたえる。
……むむむ?
保護者兼先生とは?
先生はわかるけれど、保護者って? ルイスはいつから私のお義父さまになったのかな? せめて、お母さまと恋人になってから言って欲しい。私が見ている限り、二人の間には糖度が足りないどころか全く無いの。昔、都合が良いというだけでルイスは、お母さまにプロポーズしたことがあったらしい。けれど、すげなくお母さまから一刀両断で断られたと聞いたことがある。とはいっても、二人はとても仲良しなのだけれど。
「あのぉ……保護者さまとは?」
急激に顔色を悪くしたエマさんが取り乱したように聞いてきた。
私もそれは気になるところだ。
エマさんがルイスに聞かなかったら、早晩私が突っ込むところだ。
「も、も、もしかして、リチェルさまの義父さまですか? どういたしましょう! 旦那さまは振られておしまいにぃ? あわわわわ! 旦那さまにどうお伝えすれば!」
ルイスが口を開く前に、エマさんはガクガクと震えだし、気の毒なほど慌てふためいてしまっていた。
「あああ! どうすれば! 旦那さまにどうご報告したら良いのでしょう? お痛わしい旦那さま! うっ、うっ、うっ」
えええ!
どうしちゃったの? エマさん?
エマさんは、堪えきれないという感じで涙を流しはじめてしまった。
ちょ……できる侯爵家のメイドエマさんはどこへいっちゃったの?
明らかにエマさんはルイスが私の新しいお義父さまになったと勘違いして大混乱状態になっている。
それだけ実のお父さまのローヴェリア侯爵が慕われているということなんだろうけれど……。
エマさんの心の安寧の為にも、とにかく早く否定してあげよう。
……が、
「はい。リチェルの義父です」
ルイスはニッコリ笑って言ったのだ。
はああああ?
思わず、私はぎょっとしてしまう。驚いて目が飛び出すかと思った。
ピタリとエマさんの泣き声が止まったと思ったら、エマさんは世界が終わりを告げたような悲壮に満ちた顔になって固まってしまった。
うわあ。しかも、ルイスがとても機嫌が良さそうにドヤ顔しているし。
「ルイス先生、違うでしょう?」
私が『これ以上エマさんを混乱させないで!』とばかりにじとっと見ると、ルイスは表情を引き締め自分の胸に手をあてた。
「私の心はリチェルのパパです。ローヴェリア侯爵よりも私の方がリチェルと長く一緒にいるのですよ? 私こそリチェルの父親に相応しい。そう思いませんか?」
ルイスはエマさんを見て微笑んだ。
微妙な『自分のほうが父親に相応しい』マウントをとってくるルイスに私は呆れてしまう。
ルイスのせいで混乱させられたエマさんが可哀想だよ。
ルイスは、私が初めてローヴェリア侯爵家にお泊まりするから、牽制したいのかもしれない。なし崩し的に私がローヴェリア侯爵の子にならないように。……まぁ、私もアンディお兄さまの誕生日をだしにお父さまに泣き落としされてお泊まりになっただけで、とくにここへ来たかったわけではなかった。……実際、大歓迎され過ぎて、帰りたくなったくらいだし。
「エマさん、大丈夫です。ルイス先生は自分を私のお義父さまだと妄想しているだけです」
暫くエマさんを宥め、落ち着かせてから、私はルイスと剣術の稽古を始めた。
エマさんが案内してくれた騎士の訓練場はとても広く立派だった。早朝だというのにもう騎士たちが訓練を開始している。
凄いなあ。さすが侯爵家。
私は騎士たちの邪魔をしないように隅っこを使わせてもらうことにする。
「こんな端の方でよろしいのですか?」
エマさんが頬に手を当てて首を傾げた。
「うん」
私みたいな子どもでしかも女の子が剣の稽古とかしていたら目立ちそうだからね。
取り敢えず……いつも通り柔軟体操から始めよう。
私は地面に長座した。
それから、良い感じに柔軟体操を終える頃、空間にキラキラと魔方陣が現れた。
「リチェルお嬢さま!」
悲鳴にも似たエマさんの焦った声がした。
「危険です! お逃げください!」
駆け寄るエマさんに庇われて、私はキョトンとしてしまう。
へ?
私にとっては見慣れた魔方陣。
何をエマさんが警戒して慌てているのかがわからない。
この魔方陣……
だって、ほら?
思った通り……魔方陣からルイスが現れた。
エマさんの驚いた顔!
それはそうよね? 警戒していた魔方陣から整った顔の美形のオジさんが出てきたら、それは驚く。
そんなことを考えていたら、ルイスがこちらをチラリと見て
「リチェル? 私はまだ若いつもりなのだけれどね?」
不服そうに言った。
あれ? 顔にでちゃっていたのかな?
私は「えへへ」と、笑って誤魔化した。
ルイスは、私のお母様に激甘だけれど私にも甘いから、困ったように目尻を下げると、ルイスの眼差しが蕩けるように優しくなった。
「私のリチェルの笑顔には適わないな」
「えっと、あのぉ……」
若干置いてけぼりのエマさんが、私とルイスの顔を見比べて戸惑ったように声をかけてきた。
「リチェルお嬢さまのお知り合いでございますか?」
ん? ……あ! 魔方陣からでてきたルイスはエマさんからしてみたら吃驚する以前に不審者だった……と、思い至る。
事前に、エマさんにルイスが現れるかも知れないことを伝えておけばよかった。
ルイスは過保護だから、侯爵家にお泊まりでも、いつも通り剣術の指導に来てくれそうな予感がしていたのよね。
「エマさん、驚かせてごめんなさい。この方は……」
「私はルイス・キンゲードです。リチェルの保護者兼先生です」
ルイスが、私の言葉を引き取ってこたえる。
……むむむ?
保護者兼先生とは?
先生はわかるけれど、保護者って? ルイスはいつから私のお義父さまになったのかな? せめて、お母さまと恋人になってから言って欲しい。私が見ている限り、二人の間には糖度が足りないどころか全く無いの。昔、都合が良いというだけでルイスは、お母さまにプロポーズしたことがあったらしい。けれど、すげなくお母さまから一刀両断で断られたと聞いたことがある。とはいっても、二人はとても仲良しなのだけれど。
「あのぉ……保護者さまとは?」
急激に顔色を悪くしたエマさんが取り乱したように聞いてきた。
私もそれは気になるところだ。
エマさんがルイスに聞かなかったら、早晩私が突っ込むところだ。
「も、も、もしかして、リチェルさまの義父さまですか? どういたしましょう! 旦那さまは振られておしまいにぃ? あわわわわ! 旦那さまにどうお伝えすれば!」
ルイスが口を開く前に、エマさんはガクガクと震えだし、気の毒なほど慌てふためいてしまっていた。
「あああ! どうすれば! 旦那さまにどうご報告したら良いのでしょう? お痛わしい旦那さま! うっ、うっ、うっ」
えええ!
どうしちゃったの? エマさん?
エマさんは、堪えきれないという感じで涙を流しはじめてしまった。
ちょ……できる侯爵家のメイドエマさんはどこへいっちゃったの?
明らかにエマさんはルイスが私の新しいお義父さまになったと勘違いして大混乱状態になっている。
それだけ実のお父さまのローヴェリア侯爵が慕われているということなんだろうけれど……。
エマさんの心の安寧の為にも、とにかく早く否定してあげよう。
……が、
「はい。リチェルの義父です」
ルイスはニッコリ笑って言ったのだ。
はああああ?
思わず、私はぎょっとしてしまう。驚いて目が飛び出すかと思った。
ピタリとエマさんの泣き声が止まったと思ったら、エマさんは世界が終わりを告げたような悲壮に満ちた顔になって固まってしまった。
うわあ。しかも、ルイスがとても機嫌が良さそうにドヤ顔しているし。
「ルイス先生、違うでしょう?」
私が『これ以上エマさんを混乱させないで!』とばかりにじとっと見ると、ルイスは表情を引き締め自分の胸に手をあてた。
「私の心はリチェルのパパです。ローヴェリア侯爵よりも私の方がリチェルと長く一緒にいるのですよ? 私こそリチェルの父親に相応しい。そう思いませんか?」
ルイスはエマさんを見て微笑んだ。
微妙な『自分のほうが父親に相応しい』マウントをとってくるルイスに私は呆れてしまう。
ルイスのせいで混乱させられたエマさんが可哀想だよ。
ルイスは、私が初めてローヴェリア侯爵家にお泊まりするから、牽制したいのかもしれない。なし崩し的に私がローヴェリア侯爵の子にならないように。……まぁ、私もアンディお兄さまの誕生日をだしにお父さまに泣き落としされてお泊まりになっただけで、とくにここへ来たかったわけではなかった。……実際、大歓迎され過ぎて、帰りたくなったくらいだし。
「エマさん、大丈夫です。ルイス先生は自分を私のお義父さまだと妄想しているだけです」
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