上 下
9 / 43
本編

9

しおりを挟む
芸術科棟に着き、写真部の活動拠点となっているパソコン室に入室した。

確か普通科1年生は5人だったが、私達を除く3人は既に到着していたようだ。


「あ、みんなもう揃ってたんだね」


私達の後ろから声がかかり振り向くと、写真部の部長だった。

座って座って~と部長が促したので、5人はまとまった場所で椅子に腰掛けた。

「改めまして、写真部部長の芸術科3年角野かどのです!今日のミーティングは、昨日の活動内容の説明が途中だったから、その続きでーす」

部長がプリントをほいほいっと5人に配った。

「基本的にうちの部はユルいから、月・水・金の週3回で、休むときは同じ部活の人に一言言っとけば大丈夫よ!……ってこれ、昨日も言ったっけ?ま、いっか。高総体とか遠足とかの行事ごとに、広報誌や卒アルに載せるための写真を撮るから、行事前のミーティングには必ず参加してね!」

なかなかのマシンガントークだ。
割愛させて頂くが、写真コンテストに年3回部活でまとめて出品するらしく、それ以外は自分で出品しても良いそうだ。

文化祭と部活動体験の時に展示会をするので、1人5枚程を目安に撮らなければならない。


「展示会のテーマは毎回あんまり決めてないんだけど、自分が素敵だなーって心動かされた時にシャッターを切ってほしいな!!じゃ、質問がないなら今日はこれで終わりね!カメラは早めに入手してね!」


ありがとうございましたーと気の抜けた挨拶でお開きとなったので、瑞希と一緒にパソコン室から出た。


「今日はもう帰るの?」

「ええ、特に用事もないし、お迎えを呼ぼうかと」

「じゃあさ、門限とか決まりとか大丈夫なら、一緒にカフェ行かない?気になってるとこあるんだよねー」

「もちろんよ。ちょっと待ってて」



メッセージアプリを起動して、『お友達とカフェに行っても良いですか?』とお母様に送信した。

“運命のつがい”の定めか、お父様は自分と一緒に居る時以外はお母様を家に閉じ込めているのだ。お父様曰く「不用意に愛する妻を他の奴の目に触れさせたくない」と。

すぐに連絡がつくだろうと踏んだが、正解だったようだ。『ばんごはんまでに帰ってきてね』と秒で返事がきた。



「連絡はついたわ。行きましょう」

「やった!結構古そうなんだけど、ボロい古さじゃなくて、趣ある古さだから気になっててさーーー」



話ながら歩いていると、自宅のある高級住宅街の丘のふもと辺りまで来た。

「まだ歩くの?」

「ううん、そこの路地一本裏に入ったところ」


なるほど、車通学の私は気付かない訳である。車通りの一本裏、車から見えないような立地のカフェがぽつんと存在した。

「よくこのカフェを見つけられたわね」

「ああ、ランニングしてる時に偶然ね」


レトロな両開きのドアの片方を引くと、カランカランとベルが鳴った。


「いらっしゃいませ」


声の主はカウンターの内側にいる、ベストを着た初老の男性だ。


「お好きな席にどうぞ」

見つかりにくい立地ではあるが、店内のテーブル席とカウンター席はひとつずつ埋まっている。

「窓側座ろう」という瑞希の提案に乗り、店の全体が見える窓側の席についた。出窓の置き物は陶器製のバレリーナだ。


「注文がお決まりになりましたら、お呼びください」と先程カウンターの内側にいた男性がメニューを出すと

「マスター……って呼んでいいですか?」と瑞希。

「ちょ、ちょっと瑞希!?」

「えぇ、かまいませんよ」

ニコッと笑ったマスター(仮→確定)は今度こそメニューを置いて去った。



「瑞希……」

「な、なんだよその目。いいんじゃんか、初老の紳士!」

コソコソと言い合いながらメニューを開くと、サンドイッチをはじめとする軽食、ケーキやパフェなどのスイーツ、ドリンクが写真付きで紹介されていた。


ただ今時間は14:30、ここはやはりーーー

「「ケーキセット」」

ハモった私と瑞希は顔を見合わせて笑い合った。

「14時が一番食べても太りにくい時間だと聞きましてよ」

「さっきめっちゃ歩いたしね!」

言い訳を付け足して、私は苺のショートケーキとダージリンのセット、瑞希はチョコブラウニーとアイスレモンティーのセットを選んだ。

もちろん、それぞれ1口交換する同盟を結んだ。


しおりを挟む
1 / 4

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!


処理中です...