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本編

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少し長いです、すみませんm(_ _)m
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パソコン室に戻ると、美術部の方々が(多分自前の)ペンタブを使ってガリガリ作画をしていらっしやった。


教壇には荷物がまとめて置いてあり、真上にあたるホワイトボードの部分に

『写真部の荷物!↓↓↓』

と書かれていた。



何とか自分の荷物を探し出してカメラを引っ張り出し、再び外へ出た。







とりあえず探険するか、と芸術科棟の裏へ回った。

部活動体験の時美術部の部室から見えた景色はここだったようだ。


小さな池のほとりに綿になったタンポポを見つけたので、しゃがんでカメラを構えてみた。

ふわふわと揺れる様子を1枚。

風が吹いて種がいくつか飛んだ瞬間に1枚。



デジタル一眼レフなので、撮った写真を確認する。なかなか良い画ではないだろうか。






「おい」




初カメラにワクワクしていると、後ろからと共に声がかかった。


振り向くと、美術部の部室の窓から神崎先輩がちょいちょい、と手招きをしていた。


話しかけてくれた事が嬉しくて駆け寄ると、ヒヤッと冷たいものを頬に当てられた。


「ひゃっ!な、何するんですか!?」

「あまり陽射しに当たり過ぎるな。飲んどけ。」


ありがとうございます、と受け取ったものは冷えたスポーツドリンクだった。


一口頂いて、「おいくらでしたか?」と聞いたが、先輩は「知らない。落ちてた」とそっぽを向いた。


溢れ出るツンデレ猫感……


「おい、ニヤニヤするな。…………それで、その…………この前は、悪かったな」

はて、と考えたが、カフェの帰りに「触るな」と言われたことだろうか。


「ふふっ…これでチャラ、ですよ」

スポーツドリンクを差して、微笑んだ。


先輩はなぜか険しい顔になったが、続けた。

「あとパソコン室の件、ありがとな。この部室は触られると不味いものもあるから」


「いえ……」




気にしないで、と言うのを止めた。

「何か、お礼はないんですか?」

「はぁ!?」


ニヤニヤしているのは自覚済みだ。


「身内とはいえ、理事長を相手に話をつけてきたのですよ?私の大好きな悠くんから労いがあっても良くないですか?」

「おいやめろ。悠くんとか特に。休憩中じゃなかったら何て言われてたか……」


きゅるるん、と上目遣いで首を傾げてみる。


「くっ……」と苦々しい顔をしながらも頬を染める先輩を見て、心の中でガッツポーズを取った。



「…………海」

「海、とは?」

「毎年海開きの前に海に行って、絵の材料にしてる。人少なくて景色がいいから……連れてってやる……くらいしか思いつかない……」


尻すぼみに提案されたが、「行きます!!」と即答した。

「休憩、あとどれくらいですか?」

「30分くらい息抜きするって出ていったから……あと20分くらいか?」

「じゃ、そっち行きますね!物には触りませんので!」

「は、はぁ!?ちょ、おい」

止められる前に全力疾走でその場を離れ、玄関から中に入った。






美術部の部室に入ると、先輩が呆れた顔をして、「ほら」と椅子を出してくださった。



「ありがとうございます。…………先輩、なんだかんだ私に甘いですよね」

「………………そんなことない」



心当たりがあるようだ。


「先輩、ID交換しましょう!」

「はぁ?何で「海連れてってくださらないのですか?」


被せて畳み掛けると、先輩はしぶしぶスマホを取り出した。


「先輩、意外とロマンチスト……?」

「うるさい」


天の川がプリントされているスマホカバーだ。

「星、いいですよね。私牡牛座です」

「…………」

「5月7日です」

「…………」

「血液型はA型です」

「…………これ、答えないとどんどん質問が増えていくやつか?」

「よく分かりましたね!スリーサイズは上から「答えるから!!」




残念、と笑う私をみて、先輩はため息をついた。

「お前、かわいい顔してるんだからもう少し危機感持てよ……スリーサイズとか絶対言うな」


「せ、先輩~~~っ!私のことかわいいって!!」


「はいはい顔がな。12月25日生まれ山羊座、O型だ」


「クリスマスなんですね!予定空けておきます」


「ぼっちクリスマスか?めでたい頭だな。ほらQRコード」


「もう!先輩を美味しくいただくんです!友達追加しました!」


「ばか、変態」


「…………先輩になら変態って言われるのも良いかも」


「あーーーもう!折角の休憩時間がくだらないことに潰れるだろ!」






その瞬間、何か黒いものがじわじわと心を蝕んだ。

【追加しました】と共に『神崎悠』と初期アイコン(先輩らしい)がスマホの画面に表示されたのを確認して、思い切り先輩に抱きついた。


「なっ!!」

「つがいとの時間をくだらないなんて言わせません」




どうしてこんなに怒っているのか、自分が分からない。



「ご、ごめん……分かったから……」

「分かってません!!」


さらにぎゅーーっと抱き締める力を強めた。


「どうして……私ばっかり先輩が好き……先輩も私を好きになって…………」


じわりと涙が浮かんで、鼻をすすった。

ーーーーーー何だか、がどんどん強くなっている。





そう思った途端、思いっ切り体を剥がされた。


「海行く時に話すから……もう少し待ってくれ」


そう行って先輩は筆を手に取った。


「もうそろそろ他のヤツらも戻ってくる。お前も写真、行ってこい」


こちらに背を向けた先輩は、多分もう何を言っても返事をしない。


椅子を端に寄せ、部室から出た。






扉の前で振り返り、シャッターを切った。

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