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第2章 覚醒! 幻日の想い
041
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ティーカップからアールグレイの良い香りが漂う。
添えられたレモンに拘りを感じる。
口に含めばまるで目の前に鮮やかな花畑が広がるようだ。
【そっか。なんか可哀想だなぁ、凛花さん】
【やっぱそう思う?】
【うん。勉強できなかったのも境遇のせいだろうしさ】
上品に紅茶を飲む様は彼女の育ちの良さを感じさせる。
少し憂いを含んだ表情は共感によるものだろう。
かちゃりとソーサーにカップを置くと言葉を続けた。
【貴方のために頑張って、これからってときにお預けでしょ? なんだか自分の話を聞いてるようでさ】
【・・・俺も面倒見てもらって、ハイさよならって状況だからなぁ】
【ん。その気持ちを忘れないで。たまに会いに行ってあげれば良いと思うよ、ありがとうって】
【うん、そうしてみるよ】
師匠であった先輩のことを考えると気の毒な気持ちになる。
だから自分のためにも彼女のためにも機をみて面会しようと思った。
香が紅茶を飲むようになったのは俺と懇意になってから。
きっと俺に合わせてくれている。
それを考えるだけで嬉しさが込み上げる。
自然と笑みが出てしまうくらいに。
【ん、何か嬉しいことでもあった?】
【紅茶飲むのは俺に合わせてんだなって思ったら嬉しくて】
【あはは、私はどっちも飲むよ。でも武と一緒が良いからね】
にこりと穏やかな笑みを浮かべる。
当たり前のようで当たり前じゃないこの時間。
相手への思いやりが体現されていることに心が潤う。
今の俺にとって帰るべき場所で、心から寛げる時間だった。
【ね、具現化ってどんな感じ? 魔法使いみたいに、ばばばって何か出せたりするの?】
【そういう魔法を使える人もいるよ。でも俺は地味なやつしか使えないんだ】
【へぇ、地味なんだ? 武、AR値が高いんだから、どかーん!って爆発させたりできるのかと思った!】
【あはは。俺が今、できることは祝福と、あとは凛花先輩に習った丹撃だよ。丹撃なら岩にヒビを入れるくらいはできるかな】
【えー! すごい、見てみたい!】
【ええと、ここでも祝福ならできるよ。さすがに丹撃は危ないから】
【えっ!? 駄目だよ街中じゃ! おうちに帰ってからね】
そう、今いるところは街角のカフェ。
美味しいイタリアンがあるというのでお昼に来ていた。
今は食後の紅茶を楽しんでいるところだ。
そして香の言うとおり、日本の法律では街中での具現化使用を禁じられている。
何故か。武器を持って歩いているようなものだからだ。
許可なく使うと罰則がある。
よくファンタジーで魔法使いが街中をうろついている話がある。
規制もされない場所で彼らと対面するのは常にマシンガンを突きつけられているようなものだ。
武器みたいに目に見えないから余計に性質が悪い。
だから禁止。銃刀法みたいなもんだな。
【ふふ、そんなに張り切らなくても。できることが増えると見せたくなるのはわかるから】
【お見通しか、恥ずかしい】
【良いの! そういう子供っぽいとこも好きだよ!】
そうして上目遣いで俺の顔を覗き込む彼女の目は、いつもより吊り上がっていた。
・・・うん。俺の顔は赤いな。間違いない。
笑みで返すもニタニタしてる香に敵うわけもない。
【よし、行こうか。次はどこへ行くんだっけ?】
【ホントは服を見たいって思ったんだけど、選んでも武は着る機会が少ないからな~。あ、そうだ! お願いしたいことがあるんだ。良いかな?】
【内容言う前に許可取んなよ・・・。香の頼みなら聞いちゃうけどさ】
【えへへ。それじゃ、お家へ戻ろう!】
【うん? 戻るのか】
今日は外で店を回ろうと提案されていた。
だからずっと外かと思っていたら半日もしないうちに帰宅だ。
・・・まぁ、あれだ。彼女の家だからね。
色々あるのを考えると・・・うん。
【あ! ちょっとヤらしいこと考えた?】
【え!? か、考えてねぇって!】
【ふ~ん? 誤魔化すと身体に毒だよ?】
そう言うと彼女は素早く頬に口づけした。
慌てていた俺は余計に慌てるわけで。
【ちょっ!? 香!】
【あっはっは! ほらほら、行くよ!】
タジタジになる俺。
相変わらずな彼女に弄られることを心地よく感じながらカフェを後にした。
◇
まだ両手で数えられる程度しか訪れたことのない彼女の部屋。
いつも女の子の良い匂いがして、入室直後はふわっとした気分になる。
特別な空間なのに落ち着くこの場所は、今の俺にとって実家のようなものだ。
【えへへ、今日もいっぱいくっつきたいんだけど・・・】
ふたりで並んでソファに腰掛けていた。
香は俺の肩にこてんと頭を預けて目を閉じている。
レゾナンスで身体が熱い。
ちょっと気を向けると互いの魔力が混じり合う。
以前よりも共鳴しやすくなっていた。
でも目眩はかなり改善されている。
きっと先輩との訓練の賜物なのだろう。
【お願いしたいことが先! そうしないと甘えて終わっちゃう】
【ん、なんだ。こうしてたいって話かと思ったよ】
【こら! 私をなんだと思っているのだ!】
言葉とは裏腹にぎゅっと腕に抱きついてくる香。
共鳴が強くなる。
これだけで全身に甘い痺れが走り抜けている。
ほんとうに・・・レゾナンスやばい。中毒になる、これ。
【あのね。世界語を教えてほしいの】
【世界語? 前に就職で使うからって言ってた話?】
【うん。ペラペラの貴方に教えてもらうほうが上達できそうって思って】
【なるほど。俺もペラペラの先輩に習ってここまで出来るようになったから】
飯塚先輩とホログラムチャットで練習した日々を思い出す。
あの頃は無我夢中だったけれど、そのおかげで今があるのだ。
【それじゃさ、夜にPEで話すときに世界語を使おう】
【え!? いきなりそれはハードル高いよ】
【何とかなるもんだよ、語学は使ってなんぼだから。俺もホログラムチャットで練習したし】
【む~・・・わかった。ちゃんと教えてよ? 甘えたりできないじゃん】
【あはは。口語表現も慣れれば楽しいよ】
抱きついたままの香の髪を撫ででやる。
不満も不安も彼女が感じるまま、何となく伝わってくる。
俺がこうして宥めるとそれが消えていく。
すごいよ共鳴。こんなに相手のことがわかるようになるんだ。
離婚が減るって意味がよく理解できる。
【んふふふふ】
【どしたの】
【武が甘やかしてくれるなーって、嬉しくて】
【ははは】
互いを思いやる気持ちも。
心を寄せていることも。
こうして筒抜けになることは怖いけれど、垣根を越えてしまうと心地良い。
まるで一体化してしまったかのようだ。
【た~け~し~】
【ん・・・】
欲しがっているのが伝わってくる。
優しく顎を掴んで口づけしてやる。
すると彼女は両手で俺の首に手を回してくる。
・・・うん、もうだめ。
全身に熱が回りぐらぐらしてきた。
この快感に包まれて意識が飛ぶならそれもいい。
なるようになれ、と我慢するのを止めた。
【ん・・・】
彼女が身体を押し付けてくるままに後ろに倒れ込んだ。
強くなった共鳴は全身を駆け巡り白と青の螺旋を描いて弾け飛ぶ。
彼女から溢れ出る甘い想いがほんとうに心地よくて。
俺はその流れに翻弄されるままに受け止めるのだった。
◇
空調の効いた部屋の中。
涼しいと思うところだけれど素肌を晒していると冷える。
だから隣りにいる想い人の暖かさで心地よさを満喫する。
【すげぇな・・・】
【ん、なにが?】
【レゾナンス効果。ほんとに混じり合ったみたいだった】
【うんうん! 貴方と私の境界線がなくなる感じ!】
今日は記念すべき日。
香が熱望していたことができた。初めて最後まで致したのだ。
彼女は事後の身体の重さや違和感に苛まれていると思う。
けれどもずっとご機嫌だ。
それ以上に多幸感に包まれているからだ。
未だに水色に混じり合っている共鳴がそれを伝えてくる。
その共鳴が俺も否応なく幸せにしてくれる。
互いに循環する真珠の輝きは時間の経過を感じさせない。
【えっと、エクシズムだっけ。次はチャレンジしたい】
【ん。俺もどうなるのかやってみたい】
【まかせて。もっと頑張るから】
相変わらず動けないことがちょっと悔しい。
俺の価値観が完全に変わるわけではないから。
その逡巡を感じたのか、彼女は俺の腕枕から身体を起こすと俺の胸の上に耳をつけた。
ポニーテールから垂れる髪がくすぐったい。
【もっと感じて。心で感じるのと、こうして五感で感じるのと。いっぱい繋がりたいの】
【あはは、身体動かせないくらい感じてるって】
【エクシズムはもっとすごいんだから】
【・・・やっちゃうとほんとに離れられなくなりそう】
【離さないよ。もう私が1番だよ!】
ぎゅっと抱きしめてくる。
俺も腕を回してぎゅっと抱きしめてやる。
触れ合っている肌にびりびりと甘い痺れが走る。
俺と彼女の中を水色の奔流が駆け巡る。
そのたびに愛おしさや切なさといったものが混じりあって感じられる。
【ん・・・もうすぐ終わっちゃうのが嫌だって?】
【む~、ぜんぜん時間が足りない! 武分、充填が終わってないのに!】
夕食も取り損ね、シャワーを浴びる時間も危ういくらい。
ぎりぎりまで時間を惜しんで繋がっていた。
【あのね】
【ん?】
【凛花さん。機会があったら会いたい】
【え?】
【なんだか武との関わり方の境遇が似ててさ。ちょっとお話してみたいって思った】
【良いのか? ふたりの時間が減るぞ?】
【こう、うちに来るときじゃなくて。高天原に私が行く】
【あ、その手があったか】
高天原学園は普段、関係者以外は許可を取らないと入れない。
部外者を招き入れるイベントといえば・・・。
【闘神祭、かな。開放されるのって】
【闘神祭? 文化祭みたいなやつ?】
【うん。10月にあったと思う】
【10月かぁ。ずいぶんと先だね】
【そだな。その頃には先輩とも落ち着いてると思うから】
そうあってほしい。
一時的にご退場いただいているけれど、今の先輩の勢いだと間違いが起きそうで。
共鳴が始まってしまうとそのままどうにかされてしまうのだから。
【SS協定だっけ。さくらも含めたみんなとも会えるかな】
【うん。来てくれるなら紹介できるよ】
【ふふ、ちょっと楽しみ。武の良さをわかってる人たちと話せるから】
【ええ。この間は怒ってたじゃん】
【それはそれ、これはこれ! 良いモノを語り合う相手がいるほうが楽しいじゃん】
・・・推しを語り合う相手って?
気持ちはわかるけど、その対象が恋人だってことに違和感。
独占欲が薄いこの世界だからこそ許される感覚だろう。
【あ、いけない! もうこんな時間! シャワー・・・の時間ないよ! ほら、服を着て!】
◇
緑峰駅の改札。
いつもここで会ってここで別れるから、やたら改札が印象的になってきた。
【それじゃまた2週間後かな】
【うん。あ~、毎週がいいのにぃ】
【ごめんって。勉強とか追いつかないから許してよ】
【む~。武の邪魔はしたくないから。応援してるから頑張ってよ!】
【うん、がんばる】
共鳴の残滓。
離れて30分くらいは経過しているけれど、未だに彼女に惹かれる感覚がある。
もっとレゾナンスについては研究したいな。
あ、そういえば具現化を試すのを忘れた。
次回、実験させてもらおう。
【具現化、次のときに見せるね】
【あ~、そういえば忘れてた! うん、楽しみにしてるね】
【はは。それじゃね】
【ん・・・】
抱きしめて軽くキスをして。
名残惜しそうな彼女から身体を離すと俺は改札をくぐった。
手を振り合って、電車に乗り込んで。
徐々にふたりの距離が離れていく。
変わらぬ星空を湛える夜の帳の中を電車は駆けていった。
添えられたレモンに拘りを感じる。
口に含めばまるで目の前に鮮やかな花畑が広がるようだ。
【そっか。なんか可哀想だなぁ、凛花さん】
【やっぱそう思う?】
【うん。勉強できなかったのも境遇のせいだろうしさ】
上品に紅茶を飲む様は彼女の育ちの良さを感じさせる。
少し憂いを含んだ表情は共感によるものだろう。
かちゃりとソーサーにカップを置くと言葉を続けた。
【貴方のために頑張って、これからってときにお預けでしょ? なんだか自分の話を聞いてるようでさ】
【・・・俺も面倒見てもらって、ハイさよならって状況だからなぁ】
【ん。その気持ちを忘れないで。たまに会いに行ってあげれば良いと思うよ、ありがとうって】
【うん、そうしてみるよ】
師匠であった先輩のことを考えると気の毒な気持ちになる。
だから自分のためにも彼女のためにも機をみて面会しようと思った。
香が紅茶を飲むようになったのは俺と懇意になってから。
きっと俺に合わせてくれている。
それを考えるだけで嬉しさが込み上げる。
自然と笑みが出てしまうくらいに。
【ん、何か嬉しいことでもあった?】
【紅茶飲むのは俺に合わせてんだなって思ったら嬉しくて】
【あはは、私はどっちも飲むよ。でも武と一緒が良いからね】
にこりと穏やかな笑みを浮かべる。
当たり前のようで当たり前じゃないこの時間。
相手への思いやりが体現されていることに心が潤う。
今の俺にとって帰るべき場所で、心から寛げる時間だった。
【ね、具現化ってどんな感じ? 魔法使いみたいに、ばばばって何か出せたりするの?】
【そういう魔法を使える人もいるよ。でも俺は地味なやつしか使えないんだ】
【へぇ、地味なんだ? 武、AR値が高いんだから、どかーん!って爆発させたりできるのかと思った!】
【あはは。俺が今、できることは祝福と、あとは凛花先輩に習った丹撃だよ。丹撃なら岩にヒビを入れるくらいはできるかな】
【えー! すごい、見てみたい!】
【ええと、ここでも祝福ならできるよ。さすがに丹撃は危ないから】
【えっ!? 駄目だよ街中じゃ! おうちに帰ってからね】
そう、今いるところは街角のカフェ。
美味しいイタリアンがあるというのでお昼に来ていた。
今は食後の紅茶を楽しんでいるところだ。
そして香の言うとおり、日本の法律では街中での具現化使用を禁じられている。
何故か。武器を持って歩いているようなものだからだ。
許可なく使うと罰則がある。
よくファンタジーで魔法使いが街中をうろついている話がある。
規制もされない場所で彼らと対面するのは常にマシンガンを突きつけられているようなものだ。
武器みたいに目に見えないから余計に性質が悪い。
だから禁止。銃刀法みたいなもんだな。
【ふふ、そんなに張り切らなくても。できることが増えると見せたくなるのはわかるから】
【お見通しか、恥ずかしい】
【良いの! そういう子供っぽいとこも好きだよ!】
そうして上目遣いで俺の顔を覗き込む彼女の目は、いつもより吊り上がっていた。
・・・うん。俺の顔は赤いな。間違いない。
笑みで返すもニタニタしてる香に敵うわけもない。
【よし、行こうか。次はどこへ行くんだっけ?】
【ホントは服を見たいって思ったんだけど、選んでも武は着る機会が少ないからな~。あ、そうだ! お願いしたいことがあるんだ。良いかな?】
【内容言う前に許可取んなよ・・・。香の頼みなら聞いちゃうけどさ】
【えへへ。それじゃ、お家へ戻ろう!】
【うん? 戻るのか】
今日は外で店を回ろうと提案されていた。
だからずっと外かと思っていたら半日もしないうちに帰宅だ。
・・・まぁ、あれだ。彼女の家だからね。
色々あるのを考えると・・・うん。
【あ! ちょっとヤらしいこと考えた?】
【え!? か、考えてねぇって!】
【ふ~ん? 誤魔化すと身体に毒だよ?】
そう言うと彼女は素早く頬に口づけした。
慌てていた俺は余計に慌てるわけで。
【ちょっ!? 香!】
【あっはっは! ほらほら、行くよ!】
タジタジになる俺。
相変わらずな彼女に弄られることを心地よく感じながらカフェを後にした。
◇
まだ両手で数えられる程度しか訪れたことのない彼女の部屋。
いつも女の子の良い匂いがして、入室直後はふわっとした気分になる。
特別な空間なのに落ち着くこの場所は、今の俺にとって実家のようなものだ。
【えへへ、今日もいっぱいくっつきたいんだけど・・・】
ふたりで並んでソファに腰掛けていた。
香は俺の肩にこてんと頭を預けて目を閉じている。
レゾナンスで身体が熱い。
ちょっと気を向けると互いの魔力が混じり合う。
以前よりも共鳴しやすくなっていた。
でも目眩はかなり改善されている。
きっと先輩との訓練の賜物なのだろう。
【お願いしたいことが先! そうしないと甘えて終わっちゃう】
【ん、なんだ。こうしてたいって話かと思ったよ】
【こら! 私をなんだと思っているのだ!】
言葉とは裏腹にぎゅっと腕に抱きついてくる香。
共鳴が強くなる。
これだけで全身に甘い痺れが走り抜けている。
ほんとうに・・・レゾナンスやばい。中毒になる、これ。
【あのね。世界語を教えてほしいの】
【世界語? 前に就職で使うからって言ってた話?】
【うん。ペラペラの貴方に教えてもらうほうが上達できそうって思って】
【なるほど。俺もペラペラの先輩に習ってここまで出来るようになったから】
飯塚先輩とホログラムチャットで練習した日々を思い出す。
あの頃は無我夢中だったけれど、そのおかげで今があるのだ。
【それじゃさ、夜にPEで話すときに世界語を使おう】
【え!? いきなりそれはハードル高いよ】
【何とかなるもんだよ、語学は使ってなんぼだから。俺もホログラムチャットで練習したし】
【む~・・・わかった。ちゃんと教えてよ? 甘えたりできないじゃん】
【あはは。口語表現も慣れれば楽しいよ】
抱きついたままの香の髪を撫ででやる。
不満も不安も彼女が感じるまま、何となく伝わってくる。
俺がこうして宥めるとそれが消えていく。
すごいよ共鳴。こんなに相手のことがわかるようになるんだ。
離婚が減るって意味がよく理解できる。
【んふふふふ】
【どしたの】
【武が甘やかしてくれるなーって、嬉しくて】
【ははは】
互いを思いやる気持ちも。
心を寄せていることも。
こうして筒抜けになることは怖いけれど、垣根を越えてしまうと心地良い。
まるで一体化してしまったかのようだ。
【た~け~し~】
【ん・・・】
欲しがっているのが伝わってくる。
優しく顎を掴んで口づけしてやる。
すると彼女は両手で俺の首に手を回してくる。
・・・うん、もうだめ。
全身に熱が回りぐらぐらしてきた。
この快感に包まれて意識が飛ぶならそれもいい。
なるようになれ、と我慢するのを止めた。
【ん・・・】
彼女が身体を押し付けてくるままに後ろに倒れ込んだ。
強くなった共鳴は全身を駆け巡り白と青の螺旋を描いて弾け飛ぶ。
彼女から溢れ出る甘い想いがほんとうに心地よくて。
俺はその流れに翻弄されるままに受け止めるのだった。
◇
空調の効いた部屋の中。
涼しいと思うところだけれど素肌を晒していると冷える。
だから隣りにいる想い人の暖かさで心地よさを満喫する。
【すげぇな・・・】
【ん、なにが?】
【レゾナンス効果。ほんとに混じり合ったみたいだった】
【うんうん! 貴方と私の境界線がなくなる感じ!】
今日は記念すべき日。
香が熱望していたことができた。初めて最後まで致したのだ。
彼女は事後の身体の重さや違和感に苛まれていると思う。
けれどもずっとご機嫌だ。
それ以上に多幸感に包まれているからだ。
未だに水色に混じり合っている共鳴がそれを伝えてくる。
その共鳴が俺も否応なく幸せにしてくれる。
互いに循環する真珠の輝きは時間の経過を感じさせない。
【えっと、エクシズムだっけ。次はチャレンジしたい】
【ん。俺もどうなるのかやってみたい】
【まかせて。もっと頑張るから】
相変わらず動けないことがちょっと悔しい。
俺の価値観が完全に変わるわけではないから。
その逡巡を感じたのか、彼女は俺の腕枕から身体を起こすと俺の胸の上に耳をつけた。
ポニーテールから垂れる髪がくすぐったい。
【もっと感じて。心で感じるのと、こうして五感で感じるのと。いっぱい繋がりたいの】
【あはは、身体動かせないくらい感じてるって】
【エクシズムはもっとすごいんだから】
【・・・やっちゃうとほんとに離れられなくなりそう】
【離さないよ。もう私が1番だよ!】
ぎゅっと抱きしめてくる。
俺も腕を回してぎゅっと抱きしめてやる。
触れ合っている肌にびりびりと甘い痺れが走る。
俺と彼女の中を水色の奔流が駆け巡る。
そのたびに愛おしさや切なさといったものが混じりあって感じられる。
【ん・・・もうすぐ終わっちゃうのが嫌だって?】
【む~、ぜんぜん時間が足りない! 武分、充填が終わってないのに!】
夕食も取り損ね、シャワーを浴びる時間も危ういくらい。
ぎりぎりまで時間を惜しんで繋がっていた。
【あのね】
【ん?】
【凛花さん。機会があったら会いたい】
【え?】
【なんだか武との関わり方の境遇が似ててさ。ちょっとお話してみたいって思った】
【良いのか? ふたりの時間が減るぞ?】
【こう、うちに来るときじゃなくて。高天原に私が行く】
【あ、その手があったか】
高天原学園は普段、関係者以外は許可を取らないと入れない。
部外者を招き入れるイベントといえば・・・。
【闘神祭、かな。開放されるのって】
【闘神祭? 文化祭みたいなやつ?】
【うん。10月にあったと思う】
【10月かぁ。ずいぶんと先だね】
【そだな。その頃には先輩とも落ち着いてると思うから】
そうあってほしい。
一時的にご退場いただいているけれど、今の先輩の勢いだと間違いが起きそうで。
共鳴が始まってしまうとそのままどうにかされてしまうのだから。
【SS協定だっけ。さくらも含めたみんなとも会えるかな】
【うん。来てくれるなら紹介できるよ】
【ふふ、ちょっと楽しみ。武の良さをわかってる人たちと話せるから】
【ええ。この間は怒ってたじゃん】
【それはそれ、これはこれ! 良いモノを語り合う相手がいるほうが楽しいじゃん】
・・・推しを語り合う相手って?
気持ちはわかるけど、その対象が恋人だってことに違和感。
独占欲が薄いこの世界だからこそ許される感覚だろう。
【あ、いけない! もうこんな時間! シャワー・・・の時間ないよ! ほら、服を着て!】
◇
緑峰駅の改札。
いつもここで会ってここで別れるから、やたら改札が印象的になってきた。
【それじゃまた2週間後かな】
【うん。あ~、毎週がいいのにぃ】
【ごめんって。勉強とか追いつかないから許してよ】
【む~。武の邪魔はしたくないから。応援してるから頑張ってよ!】
【うん、がんばる】
共鳴の残滓。
離れて30分くらいは経過しているけれど、未だに彼女に惹かれる感覚がある。
もっとレゾナンスについては研究したいな。
あ、そういえば具現化を試すのを忘れた。
次回、実験させてもらおう。
【具現化、次のときに見せるね】
【あ~、そういえば忘れてた! うん、楽しみにしてるね】
【はは。それじゃね】
【ん・・・】
抱きしめて軽くキスをして。
名残惜しそうな彼女から身体を離すと俺は改札をくぐった。
手を振り合って、電車に乗り込んで。
徐々にふたりの距離が離れていく。
変わらぬ星空を湛える夜の帳の中を電車は駆けていった。
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いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
転生したら遊び人だったが遊ばず修行をしていたら何故か最強の遊び人になっていた
ぐうのすけ
ファンタジー
カクヨムで先行投稿中。
遊戯遊太(25)は会社帰りにふらっとゲームセンターに入った。昔遊んだユーフォーキャッチャーを見つめながらつぶやく。
「遊んで暮らしたい」その瞬間に頭に声が響き時間が止まる。
「異世界転生に興味はありますか?」
こうして遊太は異世界転生を選択する。
異世界に転生すると最弱と言われるジョブ、遊び人に転生していた。
「最弱なんだから努力は必要だよな!」
こうして雄太は修行を開始するのだが……
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