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第2章 覚醒! 幻日の想い

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 うおおおぉぉぉぉ!!
 観覧車を絶叫マシンにしちゃいかん!!
 立ち上がれないほどの揺れに戦々恐々としながら、身体が投げ出されないよう踏ん張っていた。

 揺れが少しだけ落ち着いたところで俺はゴンドラの窓から下を見た。
 するとどうだ、真下だけでなくあちこちから煙が上がっている。
 事故で同時に爆発したりするわけがない、これは何だ!? テロか!?

 そこまで考えたときに気付く。
 さくらと、ソフィア嬢と、遊園地。
 これ、ソフィア嬢暗殺イベントじゃねえか!!

 ふたたび爆発音が鳴り響き、地鳴りとともに今度は停電した。
 がくんとゴンドラが止まり空調も電灯も消える。
 完全に観覧車は停止してしまった。
 観覧車の真下を覗き込むと・・・黒ずくめの何者かが走り去っていく。
 ・・・電気系を爆破したのか!?


「ななな、なんですの!?」

「た、武さん・・・!!」


 抱きしめたままだったので俺の腕の中にいるふたり。
 ぎゅっとしがみついてくる。
 ああね、平時だったら役得シチュだよ!
 でもこんなときに鼻の下を伸ばせるのは超人系主人公しかいねぇよ!!
 一般人は震えたまま倒れる観覧車で叫ぶシーンくらいしかもらえねぇやつだし!!

 くそっ! イベントを思い出せ!

 ソフィア嬢が身を喰らう蛇ウロボロスから狙われるイベントだったはず。
 さくらでソフィア嬢を攻略するときに遊園地へ行くと発生する。
 時期は2年生の夏休み・・・1年前倒しかよ!
 やっぱ序列おかしい!

 これ、どう回避すんだっけ!?
 お化け屋敷とかで狙われてるのに気付いて。
 逃げながら戦うはず。
 選択肢を間違えて時間切れになると・・・施設が爆破されてゲームオーバーになるやつ!
 おい、もう爆破が始まってるし!!
 AVGパートで数少ないゲームオーバーイベントだよ!

 くそ、ふざけんな!!
 こんなとこで死んでたまるかっての!!


「た、武様・・・!」

「・・・大丈夫だ、落ち着け!」


 しがみつくふたりをぐっと抱きしめる。
 まだ戦闘経験ないから度胸を身につけていないこいつらじゃ動けん!
 俺が何とかするしかねぇ! 俺が怖がったら死ぬ!!

 くそ、どうにかしたいよ、したいんだけど!
 俺TUEEEE!のヒーローなら助けられんだろけどさ!
 俺の能力じゃどう考えても無理!
 無手の一般人がここからどうすりゃ良いんだよ!
 せめてこいつら並みの身体能力や具現化リアライズがあれば・・・。

 僅かな沈黙が続く。
 下にいる人たちの悲鳴が聞こえる。


「あ、ああ・・・武様・・・」

「怖いです・・・」


 俺を頼ってる女の子がふたりもいるというのに!
 彼女らを安心させるため抱える腕に力を入れる。

 とにかく考えるんだ、俺!
 ラリクエゲームだと最終的に遊園地から脱出するか、敵を倒しきるイベント。
 途中で逃げる先に観覧車を選んだら観覧車が爆破されてゲームオーバーになる。
 何故か観覧車の爆破だけ挿絵があったので覚えがある。
 ゲームオーバーなのになんで挿絵あるんだよと思ったから。
 確か・・・停電して少ししたら支えてる柱の片方が爆発していたような・・・。

 ・・・これ、いちばんダメな状況じゃん!!!
 逃げ道ねぇし!! 最初から詰んでる!!
 つまりこの真下に爆弾かよ!!
 さっきの黒ずくめが観覧車の脚に爆弾仕込んでんじゃねぇのか!?
 すぐ爆発するって!?
 俺たちだけじゃねえ、他の人たちも乗ってるんだ!!
 無差別テロ反対!!

 とにかくここから降りて観覧車の爆破を阻止しねぇと!!
 それから敵を突破・・・できんのか!?
 それこそ姿を見せれば襲われたり狙撃される可能性だってあるのに!
 でも待ってりゃ観覧車が倒れてジ・エンドだってばよ!

 一刻も早く脱出・・・だからってどうやって降りるんだよ!!!
 まさか外の鉄骨を伝うわけにもいかねぇ!
 そもそもそんな時間的余裕はねぇ!
 考えろ・・・考えろ・・・。
 今、手札にあるものは・・・・・・。


「ソフィア!」

「な、なんですの!?」

「計算だ! 概数でいい! 自由落下で150メートルなら、空気抵抗無視で何秒接地だ!?」

「ええ・・・ご、5.5秒ですわ!」


 さすが秀才、速ぇな!!
 計算3秒かよ!


「さくら!」

「は、はい!」

「質量180キロで同じ高さなら位置エネルギーは!?」

「・・・273キロジュール以下です!」


 こっちも3秒かよ、速いっての!!


「ソフィア、お前の具現化リアライズ風圧撃ウィンドブラストは出力測定したか!?」

「い、いたしましたわ」

「全力の最大エネルギー値は!?」

「158キロジュールでしたわ」

「さくら、お前の固有能力ネームド・スキル同化矢アシミレート・アローは使えるか!?」

「は、はい。数回なら」


 よし、手札はある!
 あとは使えるかどうかだ!
 座して死を待つくらいならやるしかねぇよ!!


「ソフィア! 風圧撃ウィンドブラストは詠唱後の発動に何秒必要だ?」

「さ、3秒ですわ・・・」

「さくら! 同化矢アシミレート・アローは!?」

「・・・予め構えていれば、静止状態で狙いをつけて1秒です」


 ・・・うん、いける!
 綱渡りすぎだけど!!


「いいかよく聞け! これから飛び降りる! 3人ひっついて降りて、落下の衝撃は風圧撃ウィンドブラストで抑える!」

「む・・・無理、無理ですわ!!」

「ソフィア、お前なら出来る、お前だけしか出来ねぇんだ!」

「だ、だめです!! わたくしには出来ません!!」


 ソフィア嬢は全力拒否。
 そう、彼女は本質的に怖がりだ。恐怖に晒されると駄目。
 それを克服するイベントもあんだけど・・・もっと先なので未発生。
 でも今、彼女をどうにかしねぇとお陀仏だよ!!


「武さん! わたしは!?」

「観覧車の爆破を防ぐ! 観覧車の正面右手の脚に爆弾があんだ! そいつを同化矢アシミレート・アローで射ち抜いてくれ!」

「え!? 衝撃で爆発しませんか!?」

「逆だ! 魔力は爆発を吸収する! だから同化矢アシミレート・アローだ!!」

「ええ・・・」


 ・・・言ってはみたものの。
 我ながら無茶振りすぎるぜ。
 少しでも外したら普通に爆発だ。
 掬い取るように、包むように射るしかない。
 さくらも困惑している。


「射程は100メートルです! ここからでは届きません!」

「今すぐにでも爆破されんだ! 降りながらやんぞ!」

「武さん! まさか、落下中に・・・」

「そのまさかだよ! 時間的余裕がねぇ! すぐこの観覧車が爆破されんだよ!!」


 やるしかねぇんだってばよ!!
 俺たちだけじゃねぇ、一般人まで巻き込んじまう!
 頼む、やる気になってくれ!!


「無理ですの!! わたくしにはできません!!」

「わ、わたしも自信がありません・・・」


 ソフィア嬢はしがみついて喚くまま。
 さくらも震えて怖がったまま。

 くそっ! 怖がりすぎてる!
 こんなん発破かけたとこで逆効果だよ!!
 どうすりゃいい!?

 ・・・怖さ! 怖いなら!

 お前らならできる!
 お前らなら全力を出せる!
 お前らなら皆を助け出せる!
 だから怖がるな!!
 俺がついてるんだよ!!
 奮起しろ、主人公!!


祝福ブレス!!」


 届いてくれ、俺の気持ち!

 俺自身を含めふたりも白い光に包まれた。
 かなり強く発動したから、相当に効果があるはず・・・!


「どうだ!? できそうか!?」

「・・・は、はい! ありがとうございます! 条件さえ整えばできると思います!」


 怯えていたさくらの表情に意思が戻って来た。
 震えが止まり、身体を離して立ち上がった。
 窓から下を覗き込んでいる。


「先に場所を確認してくれ! 真下のはずだ!」

「はい!」


 これならさくらは大丈夫そうだ!
 透明な床板から下方を確認してくれている。


「・・・だ、駄目ですの! わたくしは無理です!!」


 首を振り震え続けるソフィア嬢。
 ぎゅっとしがみつき俺の胸に顔を埋めている。
 くそっ、祝福ブレスだけじゃ無理なのか!?
 そうして戸惑っているところにまた爆発音と衝撃が走る。


「あああぁぁぁぁ!!! 駄目ですぅぅ! 武様あああぁぁぁ!!」

「ソフィア! 大丈夫だ、俺がついてる!」


 恐慌状態か・・・!!
 彼女の風魔法がなけりゃ脱出は無理だ!
 どうにか・・・どうにかできねぇのかよ!!

 ・・・。
 ・・・。
 意思を捻じ曲げる。
 俺に出来ること。
 もうこれしかねぇよ!
 ごめんソフィア!!


探究者クアイエレンス!」


 ぱきん。
 世界がセピア色に染まる。
 そしてドット絵のデフォルメエルフ、ディアナが現れた。
 彼女が腰掛けるソフィア嬢の前のウィンドウ。
 その半透明の青いウィンドウには・・・。


――あああ、もう駄目ですわ!! 武様!! 最後までご一緒いたします!!
――怖すぎますの!! できるわけありませんわ!! お助けくださいまし!!


 ・・・だよね、絶望の2択。
 祝福ブレスしてもこれだろ?
 肯定的な内容がねぇよ。
 これじゃ選んだところで意味がねぇ!
 彼女が前向きになってくれなきゃ・・・!!

 ん?
 ディアナが飛び跳ねて指をさしている。
 なに? 「もう駄目ですわ」の部分が何だって?
 ジェスチャーだけじゃわかり辛えな。

 これを?
 ひっくり返して?
 ここに置く?

 え?
 文字を変えられるって?

 激しく頷くディアナ。
 ・・・まさか。
 変えられんなら、どう変えりゃ都合が良いんだ・・・。
 「きっとできますわ」かな。
 ん?
 今度は何だって?

 俺の? 身体から? ばーんって出す?
 ・・・。
 魔力を出せって?

 またも激しく頷くディアナ。
 ああ、そういうこと。
 これまで発動しても魔力消費ないからどうしてかと思ったら。
 そういう理屈で魔力消費すんのかよ。
 うん、とにかくやるしかねぇって!

 「もう駄目ですわ」じゃなくて「きっとできますわ」に。
 変われ・・・!!!

 全身の魔力を流す。
 時間は止まっていても魔力だけは流れていく。
 俺の視点の先・・・文字に向かって飛んでいけと意識する。
 すると白の魔力がふわふわと文字にまとわりつく。
 「もう駄目ですわ」がぐにゃぐにゃと形を変え・・・。
 「きっと駄目ですわ」になり・・・くそ、なかなか次が変わらねぇ!
 相手の意思のぶんだけ魔力消費するってか!?
 俺の魔力はソフィア嬢より多いんだ! 絶対に変えてやる!!

 立ち上がれソフィア!!
 誇り高きクロフォード家の長子にして『果敢なる令嬢』!!
 お前はどんな恐怖にも負けない強者になれるんだよ!!

 いけ! 俺の魔力!!
 とにかく祈るように全身の魔力を走らせる。
 相当量の魔力を飛ばしたころ、ようやく文字に変化が現れた。
 そして・・・「きっとできますわ」に変わった!
 やった!!
 ディアナが飛び跳ねて喜びを表現していた。

 改めて表示されている選択肢。

――あああ、きっとできますわ!! 武様!! 最後までご一緒いたします!!
――怖すぎます!! できるわけありませんわ!!

 もちろん上を選ぶぜ!
 俺が意思を示すと、ぱきんという音とともにセピア色の世界が消えていく。


「・・・ソフィア!」

「・・・!? あああ、きっとできますわ!! 武様!! 最後までご一緒いたします!!」

「うん、大丈夫だ! 自分を信じろ!!」


 強く彼女を抱きしめる。
 苦しそうな仕草をするまでの数秒間だけ。
 俺に出来る激励はここまでだ。
 立ち上がってくれ! ソフィア!!

 ぷはっと息を吹き返すように顔を上げる彼女。
 いつもの強気な吊り目が俺を映していた。

 果たして彼女は立ち上がった。
 急に恐怖を克服したソフィア嬢にさくらは驚いている。


「ソフィアさん・・・?」

「さくら様! やりましょう!」

「! ・・・はい!」


 手を取り合うふたり。
 よっし!! こいつらは大丈夫だ!
 あとはタイミング!


「さくら、そのカーディガンを脱げ!」

「はい! ・・・え?」

「ソフィア、お前もジャケットを脱げ!」

「はい?」

「早くしろ!」


 やる気になったところでストリップ要請。
 そりゃ疑問だよね。


「脱いだら俺に渡してくれ! さくらが先頭、ソフィアがさくらを前に抱える格好で風圧撃ウィンドブラストを撃つ! 俺はこの上着を使ってふたりを支える!」

「わ、わかりましたわ!」

「時間がねぇ、早くしてくれ!」


 ふたりはどうにか意図を汲んでくれたようだ。
 腕で抱えるだけじゃ途中で投げ出されちまうしさくらもソフィア嬢も両手が自由にならない。
 俺は自分のシャツも脱いで上半身は下着だけになる。
 3枚を縄跳のように俺の左右の腕に巻き付け、それぞれ袖を手で掴めるようにした。
 これは未来生地の丈夫さが頼りだ。
 千切れてくれるなよ!

 さくらが先頭、ソフィア嬢が後ろに密着する。
 そのふたりを俺がジャケットとカーディガン、シャツを使って後ろから抱える。
 なんともシュールな格好が出来上がった。
 ・・・仕方ねぇんだよ! なりふり構ってられん!!
 
 それでも体温を感じるだけで妙な安心感があった。
 ・・・きっと彼女らもそうであると信じる!


「これで一蓮托生だ! さくらは射撃を、ソフィアは風圧撃ウィンドブラストを準備しろ!」

「タイミングどうしますの!? 全力では1度だけしか使えませんわ!」

「飛んでから3秒だ、俺が合図する! さくら、風圧撃ウィンドブラストで無重力状態が発生したらそこで同化矢アシミレート・アローを射て! タイミングはそこしかない!」

「わかりました!」


 3秒でちょうど真ん中付近のはず。
 さっきのは空気抵抗を無視した計算だから誤差やロスを含めても浮力のほうが強い。
 必ず一度浮き上がる計算だ。
 無重力といってもほんの一瞬だ。
 1秒にも満たない程度だろう。
 さくらの腕にかかっている!


「ソフィア、発動したら接地まで放出し続けるんだ!」

「ええ!? 魔力が続きませんわよ!?」

「俺が何とかする! 何も考えずに魔力があると思ってやれ!」

「・・・武様、貴方を信じます! 承知ですわ!」


 俺はふたりの顔を見た。
 さくらもソフィア嬢も覚悟を決めた表情をしていた。
 俺が頷くとふたりも頷いた。
 彼女らの意思は強い。きっと成し遂げてくれると信じられる!


「・・・よし、行くぞ!」


 もういちど頷き合い、俺はゴンドラの扉の前に立った。
 リハーサルなし、命綱のない曲芸だ。
 だというのに、緊張よりも奇妙な高揚感に踊らされているようだった。




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