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第2章 覚醒! 幻日の想い
054
ソフィア嬢暗殺イベントの翌日。
昨日の疲労もあり、夏休みなのを良いことに俺は激しく寝坊した。
さくらが起こしに来ることもなく昼前に目が覚めて、少し早い昼食を取ろうとのそのそと食堂へ向かった。
昨日の昼からずっと飲食していない。
お腹が減っていたので皆を待たずして食事に手をつける。
頼んだのはスタミナセット。牛肉の甘辛炒めが丼に乗ってるやつ。
生姜とニンニクとニラの香りが食欲をさらに唆る。
うん、美味い! 腹に染み渡る!
付け合せの漬物と豚汁も一緒に、いっぺんにかきこむ。
飢餓を満たしていく充足感に溺れていたところにタタタと駆け足の音が聞こえた。
「タケシ!!」
「ん?」
息を弾ませながら駆け込んできたのはジャンヌだった。
俺は口に含んでいたものを水で流し込んだ。
「おい、食堂で走んな」
「目が覚めたのね!? 大変なの!!」
「どうしたんだよ」
「リアムが!! 戻って来なくて!!」
「は?」
声の大きさ、そして慌て様。
ただ事ではないと態度で示していた。
ぼやっとしていた俺もその慌てぶりに気を入れる。
「戻って来ないって、どこへ行ったんだよ?」
「え! その、今は装置で寝てて・・・ああもう! いいから来なさい!!」
「ちょ、待て!! まだ食ってるだろ!?」
「そんなの良いから!!」
つい先日も食べてる最中にリアム君に引っ張られたんだけど!?
抵抗虚しく、俺は行き先も知らぬままどこかへと引っ張られていった。
◇
俺はリアルで夜遊びをしたことがない。
愛する雪子が家で待っていたから。
だから終電を逃してカプセルホテルに泊まったこともない。
現物は見たことがないけれど、きっとこんな感じ。
目の前にはそう思えるようなカプセル状のケースがふたつあった。
「理論的には戻る意思を抱けば戻るはずだ」
「その理屈でちっとも目が覚めないじゃない!!」
「だからそれは彼が望んでいないから・・・」
「そのためのアラームって説明してたでしょ!!」
学園の解析室。アーティファクトの分析を行うところ。
所狭しとさまざまな器具が置いてある。
前に来た時にはなかった、人がひとり横になれるカプセル状の装置がふたつ。
そのひとつにはすやすやと気持ちよさそうに眠るリアム君。
もうひとつは空っぽで誰もいない。
「あの、融合状態って何ですか? もういちど説明してください」
「う、うむ。融合状態とは精神が他の精神と結びつき、混ざり合い、やがてひとつの精神となる過程のことだ」
激しい剣幕でまくし立てるジャンヌから逃れるため、パンゼーリ博士は俺の質問に答える。
「通常、人間の精神は混ざり合うことはない。だが魔力を媒介すると共鳴を起こし、やがて一体となって振る舞うようになる。これを融合状態という」
「それ、普通のレゾナンスでは発生しないんですよね?」
「そうだ。生きた肉体に宿る精神はその肉体に強固に結びついている。完全に混ざり合うには肉体から分離するしかなく、通常はあり得ない。死ぬことになるからな」
「・・・でもリアムは完全融合しかけている、と」
「う、うむ」
「何が安全よ! ちっとも安全じゃないの!」
「その理由がわからんのだ。どうにかして分離させるしかない」
冷汗をかきながら博士は説明する。
この装置は戦闘シミュレーター。
このたびパンゼーリ博士により開発された試作品だ。
開発といっても、いちから造ったわけではなく既存のアーティファクトを利用したものだ。
だからブラックボックス部分の動作が保証されない。
試作品でテストを繰り返していたところで発生した事故らしい。
「それで、このままは止められないと?」
「うむ。リアムの精神が装置の精神と融合を起こしかけている。このまま停止すると装置の精神とともに彼の精神も消えてしまう」
「それって、例えばコンピューターのメモリ上にあるプログラムが電源を落とすと消失するようなものですか?」
「良い例えだ、そのとおり。さりとて、このまま自力で融合から脱しない場合は融合が進み、やがて完全融合してしまう」
「・・・そうなると?」
「仮に目覚めたとしても、リアムであってリアムでない精神が目覚めることになる」
「・・・」
なんつー状況だよ。
このシミュレーターにリアム君の精神が食われかかってるって?
リアム君がいなけりゃクリア不能になってしまう。
魔王が倒せなくなってそのまま詰みにまっしぐらだよ。
何としても助け出さねばならない。
「で。もうひとつの装置で同じ精神空間にダイブして助けに行くしかない、と」
「だがリアムの精神が受け入れなければ彼の空間には入り込めない」
「それで俺なのか。ジャンヌは駄目なのか?」
「やったのよ! でも失敗したの!」
「彼女では共鳴率が足りない。惜しいラインまで届いているのだが」
「!?」
共鳴率!?
測定できんのか! こんな場所に装置があったよ!
だけど今はそれに驚いている場合じゃねぇ。
「俺とリアムの共鳴率は測れるんですか?」
「ああ。この装置の片方を持ちたまえ」
博士が取り出したのは・・・リアルで体脂肪率を測るような装置。
博士が持つ本体手元にメーターがあり、金属紐で繋がった縄跳びの持ち手みたいな棒が2本。
片方を俺が持つ。片方をリアム君に握らせた。
「これで良いですか?」
「ああ。少し待ちなさい」
博士がスイッチを入れると持ち手がビリビリとした。
ああこれ、共鳴するときの感じ。
今は平気になったけど炎撃部で最初に触った体感装置みたい。
身体に魔力が流れていれる。
これはリアム君からの魔力かな?
「・・・なに? 46%だと?」
「高っ!? あんた、そんなにリアムのこと好きだったの?」
「高い低いって知らねえよ。共鳴率なんて初めて測ったし」
「あたしは29%だったのよ」
それが高いのか低いのかわからん。
そもそも皆、測定してんの?
そして今、問題なのは彼の精神空間へ行けるかどうかなのだ。
「あの。共鳴率って今まで知らなかったんですが、レゾナンス効果が自然発生するのは幾つくらいからなんですか?」
「レゾナンス効果を起こすのは50%を超えるあたりからだ」
「!?」
げっ!?
リアム君、共鳴寸前ですよ!
・・・彼が俺を慕ってるだけで、俺が彼を好きなわけじゃねぇはずなんだが。
「そんで、リアムの精神空間に入るには幾つくらいが必要なんですか?」
「30%を超えていればおそらく受け入れられるはずだ。武、君なら間違いなく可能だ」
「・・・」
そうだとするならジャンヌでは入れないのだろう。
俺しか助けに行けねぇから行くんだけども。
これさ、成功したら絶対好感度が上がるよね?
そしたら共鳴ラインを超えるじゃん?
その後、リアム君に近づけなくなるやつじゃね?
・・・なんでいつも究極の2択みたいになるんだよ!
でも見捨てるなんてありえねぇ。詰むだろうし。
結局、今は行くしか選択肢がねぇ!!
「・・・行きます。時間的な猶予はどのくらいありますか?」
「融合の進行具合にもよるが、理論値では実時間で半日が上限だ。装置内の精神空間は200倍に設定してある。中に入れば体感で3か月は大丈夫だろう」
「・・・。中がどうなってるかは誰にもわからないんですよね」
「残念ながら。研究したいところではあるのだが」
そういう発言が出るあたり、この人は科学者だよな。
だが世界存亡をかけて研究するのはやめていただきたい!
「もうひとつ確認させてください。この装置の核に使っているアーティファクトはなんですか?」
「ブレイブ・ハートというものだ」
「!?」
おい! よりによってブレイブ・ハートかよ!
ブレイブ・ハートとは多くのプレイヤーからクソの称号を得たアーティファクト。
身につけると勇気が出るようになるのだけれども、そのために徐々に魔力を消費する。
たぶん祝福の道具版なのだが、攻略時の補給に厳しいラリクエで常時魔力の減少する装備はいただけない。
しかもバフ(能力値上昇)効果が微々たるもの。
レア度も低くよく手に入るが道具欄を埋めるお邪魔者。
入手したアーティファクトは拠点に戻って鑑定するまで何かわからないのですぐに捨てられないのだ。
そのくせ敵からドロップしまくる。
ほんとうに無用の長物。
苦労して持ち帰ったアーティファクトを鑑定し、ずらりとブレイブ・ハートを眺めるときの挫折感たるや。
『ブレイク・ハート』と揶揄されるようになるのは必然だった。
だがこのブレイブ・ハート。
実はそれだけの設定の道具ではない。
物理武器主体なら魔力消費しても平気だろうと装備させると、魔力が尽きた後に錯乱して仲間に斬りかかるのだ。
アレの中身はバフをしてくれる優しいものじゃない。
精神汚染をする何かなのだ。きっと幻覚が見えて勇気が出るだけだと思う。
・・・ちなみに普通はそこまで検証しない。
ラリクエ攻略において物理武器主体はあり得ないからだ。
みんな捨てて終わり。
やり込んだ俺だから知っている裏情報だ。
つまり。
リアム君はアレの中身の何かに影響されてるわけだ。
博士はきっと、精神に影響して幻想がみえるとこをシミュレーターの基幹部として活用したのだろう。
・・・うん、このシミュレーター、ヤバげ。
「わかりました、参考にします」
「あんた、そのアーティファクトを知ってんの・・・?」
ジャンヌが俺を訝しげに見ている。
何故知っているのかを説明したところで信じられまい。スルーだ。
「やりましょう」
「うむ、時間がない」
そうして俺は空いたカプセルに寝そべった。
博士がコンソールを弄っている。
電気と魔力が流れ、装置がばちばちと音を立てて光りはじめた。
「幸運を祈る。リアムが帰りたいと願えるよう誘導してくれ」
「わかりました」
だんだん、バリバリという魔力音が激しくなる。
俺の身体にビリビリと共鳴するかのような魔力が走り始める。
緊張してきたところで見守るジャンヌと目が合った。
「・・・」
恨めしそうな顔をして無言だ。
何を考えているのやら。
「やっぱりあたしも連れて行きなさいよ!!」
げっ!? 碌でもないことを考えていやがった!
ジャンヌが俺に覆い被さるように装置へ飛び込んで来る!
俺の腹にダイブするんじゃねぇ!!
「ぐはっ!? アホ! ひとり用だろが!! 上に乗んな!!」
「入れるんだからふたりでも大丈夫よ!!」
「装置が壊れたらどうすんだよ!? 止めてくれ!!」
「やってみなきゃわからないでしょ!?」
博士に訴えるが彼は首を振る。
「もう止められん。理論上はふたりでもいけるはずだ。失敗したら戻って来る」
「くそっ!? 事故ったらお前のせいだぞーー!!」
「あたしだって助けに行きたいのよ!!!」
装置がガタガタと動いてしまうくらいに暴れる俺とジャンヌ。
狭い空間でジタバタとしているうちにふっと意識が飛んだ。
くそっ! 変なことになるんじゃねぇぞ!!
そうして俺は精神空間へとダイブした。
まさか転移先でさらに転移するとは思ってなかったよ!
昨日の疲労もあり、夏休みなのを良いことに俺は激しく寝坊した。
さくらが起こしに来ることもなく昼前に目が覚めて、少し早い昼食を取ろうとのそのそと食堂へ向かった。
昨日の昼からずっと飲食していない。
お腹が減っていたので皆を待たずして食事に手をつける。
頼んだのはスタミナセット。牛肉の甘辛炒めが丼に乗ってるやつ。
生姜とニンニクとニラの香りが食欲をさらに唆る。
うん、美味い! 腹に染み渡る!
付け合せの漬物と豚汁も一緒に、いっぺんにかきこむ。
飢餓を満たしていく充足感に溺れていたところにタタタと駆け足の音が聞こえた。
「タケシ!!」
「ん?」
息を弾ませながら駆け込んできたのはジャンヌだった。
俺は口に含んでいたものを水で流し込んだ。
「おい、食堂で走んな」
「目が覚めたのね!? 大変なの!!」
「どうしたんだよ」
「リアムが!! 戻って来なくて!!」
「は?」
声の大きさ、そして慌て様。
ただ事ではないと態度で示していた。
ぼやっとしていた俺もその慌てぶりに気を入れる。
「戻って来ないって、どこへ行ったんだよ?」
「え! その、今は装置で寝てて・・・ああもう! いいから来なさい!!」
「ちょ、待て!! まだ食ってるだろ!?」
「そんなの良いから!!」
つい先日も食べてる最中にリアム君に引っ張られたんだけど!?
抵抗虚しく、俺は行き先も知らぬままどこかへと引っ張られていった。
◇
俺はリアルで夜遊びをしたことがない。
愛する雪子が家で待っていたから。
だから終電を逃してカプセルホテルに泊まったこともない。
現物は見たことがないけれど、きっとこんな感じ。
目の前にはそう思えるようなカプセル状のケースがふたつあった。
「理論的には戻る意思を抱けば戻るはずだ」
「その理屈でちっとも目が覚めないじゃない!!」
「だからそれは彼が望んでいないから・・・」
「そのためのアラームって説明してたでしょ!!」
学園の解析室。アーティファクトの分析を行うところ。
所狭しとさまざまな器具が置いてある。
前に来た時にはなかった、人がひとり横になれるカプセル状の装置がふたつ。
そのひとつにはすやすやと気持ちよさそうに眠るリアム君。
もうひとつは空っぽで誰もいない。
「あの、融合状態って何ですか? もういちど説明してください」
「う、うむ。融合状態とは精神が他の精神と結びつき、混ざり合い、やがてひとつの精神となる過程のことだ」
激しい剣幕でまくし立てるジャンヌから逃れるため、パンゼーリ博士は俺の質問に答える。
「通常、人間の精神は混ざり合うことはない。だが魔力を媒介すると共鳴を起こし、やがて一体となって振る舞うようになる。これを融合状態という」
「それ、普通のレゾナンスでは発生しないんですよね?」
「そうだ。生きた肉体に宿る精神はその肉体に強固に結びついている。完全に混ざり合うには肉体から分離するしかなく、通常はあり得ない。死ぬことになるからな」
「・・・でもリアムは完全融合しかけている、と」
「う、うむ」
「何が安全よ! ちっとも安全じゃないの!」
「その理由がわからんのだ。どうにかして分離させるしかない」
冷汗をかきながら博士は説明する。
この装置は戦闘シミュレーター。
このたびパンゼーリ博士により開発された試作品だ。
開発といっても、いちから造ったわけではなく既存のアーティファクトを利用したものだ。
だからブラックボックス部分の動作が保証されない。
試作品でテストを繰り返していたところで発生した事故らしい。
「それで、このままは止められないと?」
「うむ。リアムの精神が装置の精神と融合を起こしかけている。このまま停止すると装置の精神とともに彼の精神も消えてしまう」
「それって、例えばコンピューターのメモリ上にあるプログラムが電源を落とすと消失するようなものですか?」
「良い例えだ、そのとおり。さりとて、このまま自力で融合から脱しない場合は融合が進み、やがて完全融合してしまう」
「・・・そうなると?」
「仮に目覚めたとしても、リアムであってリアムでない精神が目覚めることになる」
「・・・」
なんつー状況だよ。
このシミュレーターにリアム君の精神が食われかかってるって?
リアム君がいなけりゃクリア不能になってしまう。
魔王が倒せなくなってそのまま詰みにまっしぐらだよ。
何としても助け出さねばならない。
「で。もうひとつの装置で同じ精神空間にダイブして助けに行くしかない、と」
「だがリアムの精神が受け入れなければ彼の空間には入り込めない」
「それで俺なのか。ジャンヌは駄目なのか?」
「やったのよ! でも失敗したの!」
「彼女では共鳴率が足りない。惜しいラインまで届いているのだが」
「!?」
共鳴率!?
測定できんのか! こんな場所に装置があったよ!
だけど今はそれに驚いている場合じゃねぇ。
「俺とリアムの共鳴率は測れるんですか?」
「ああ。この装置の片方を持ちたまえ」
博士が取り出したのは・・・リアルで体脂肪率を測るような装置。
博士が持つ本体手元にメーターがあり、金属紐で繋がった縄跳びの持ち手みたいな棒が2本。
片方を俺が持つ。片方をリアム君に握らせた。
「これで良いですか?」
「ああ。少し待ちなさい」
博士がスイッチを入れると持ち手がビリビリとした。
ああこれ、共鳴するときの感じ。
今は平気になったけど炎撃部で最初に触った体感装置みたい。
身体に魔力が流れていれる。
これはリアム君からの魔力かな?
「・・・なに? 46%だと?」
「高っ!? あんた、そんなにリアムのこと好きだったの?」
「高い低いって知らねえよ。共鳴率なんて初めて測ったし」
「あたしは29%だったのよ」
それが高いのか低いのかわからん。
そもそも皆、測定してんの?
そして今、問題なのは彼の精神空間へ行けるかどうかなのだ。
「あの。共鳴率って今まで知らなかったんですが、レゾナンス効果が自然発生するのは幾つくらいからなんですか?」
「レゾナンス効果を起こすのは50%を超えるあたりからだ」
「!?」
げっ!?
リアム君、共鳴寸前ですよ!
・・・彼が俺を慕ってるだけで、俺が彼を好きなわけじゃねぇはずなんだが。
「そんで、リアムの精神空間に入るには幾つくらいが必要なんですか?」
「30%を超えていればおそらく受け入れられるはずだ。武、君なら間違いなく可能だ」
「・・・」
そうだとするならジャンヌでは入れないのだろう。
俺しか助けに行けねぇから行くんだけども。
これさ、成功したら絶対好感度が上がるよね?
そしたら共鳴ラインを超えるじゃん?
その後、リアム君に近づけなくなるやつじゃね?
・・・なんでいつも究極の2択みたいになるんだよ!
でも見捨てるなんてありえねぇ。詰むだろうし。
結局、今は行くしか選択肢がねぇ!!
「・・・行きます。時間的な猶予はどのくらいありますか?」
「融合の進行具合にもよるが、理論値では実時間で半日が上限だ。装置内の精神空間は200倍に設定してある。中に入れば体感で3か月は大丈夫だろう」
「・・・。中がどうなってるかは誰にもわからないんですよね」
「残念ながら。研究したいところではあるのだが」
そういう発言が出るあたり、この人は科学者だよな。
だが世界存亡をかけて研究するのはやめていただきたい!
「もうひとつ確認させてください。この装置の核に使っているアーティファクトはなんですか?」
「ブレイブ・ハートというものだ」
「!?」
おい! よりによってブレイブ・ハートかよ!
ブレイブ・ハートとは多くのプレイヤーからクソの称号を得たアーティファクト。
身につけると勇気が出るようになるのだけれども、そのために徐々に魔力を消費する。
たぶん祝福の道具版なのだが、攻略時の補給に厳しいラリクエで常時魔力の減少する装備はいただけない。
しかもバフ(能力値上昇)効果が微々たるもの。
レア度も低くよく手に入るが道具欄を埋めるお邪魔者。
入手したアーティファクトは拠点に戻って鑑定するまで何かわからないのですぐに捨てられないのだ。
そのくせ敵からドロップしまくる。
ほんとうに無用の長物。
苦労して持ち帰ったアーティファクトを鑑定し、ずらりとブレイブ・ハートを眺めるときの挫折感たるや。
『ブレイク・ハート』と揶揄されるようになるのは必然だった。
だがこのブレイブ・ハート。
実はそれだけの設定の道具ではない。
物理武器主体なら魔力消費しても平気だろうと装備させると、魔力が尽きた後に錯乱して仲間に斬りかかるのだ。
アレの中身はバフをしてくれる優しいものじゃない。
精神汚染をする何かなのだ。きっと幻覚が見えて勇気が出るだけだと思う。
・・・ちなみに普通はそこまで検証しない。
ラリクエ攻略において物理武器主体はあり得ないからだ。
みんな捨てて終わり。
やり込んだ俺だから知っている裏情報だ。
つまり。
リアム君はアレの中身の何かに影響されてるわけだ。
博士はきっと、精神に影響して幻想がみえるとこをシミュレーターの基幹部として活用したのだろう。
・・・うん、このシミュレーター、ヤバげ。
「わかりました、参考にします」
「あんた、そのアーティファクトを知ってんの・・・?」
ジャンヌが俺を訝しげに見ている。
何故知っているのかを説明したところで信じられまい。スルーだ。
「やりましょう」
「うむ、時間がない」
そうして俺は空いたカプセルに寝そべった。
博士がコンソールを弄っている。
電気と魔力が流れ、装置がばちばちと音を立てて光りはじめた。
「幸運を祈る。リアムが帰りたいと願えるよう誘導してくれ」
「わかりました」
だんだん、バリバリという魔力音が激しくなる。
俺の身体にビリビリと共鳴するかのような魔力が走り始める。
緊張してきたところで見守るジャンヌと目が合った。
「・・・」
恨めしそうな顔をして無言だ。
何を考えているのやら。
「やっぱりあたしも連れて行きなさいよ!!」
げっ!? 碌でもないことを考えていやがった!
ジャンヌが俺に覆い被さるように装置へ飛び込んで来る!
俺の腹にダイブするんじゃねぇ!!
「ぐはっ!? アホ! ひとり用だろが!! 上に乗んな!!」
「入れるんだからふたりでも大丈夫よ!!」
「装置が壊れたらどうすんだよ!? 止めてくれ!!」
「やってみなきゃわからないでしょ!?」
博士に訴えるが彼は首を振る。
「もう止められん。理論上はふたりでもいけるはずだ。失敗したら戻って来る」
「くそっ!? 事故ったらお前のせいだぞーー!!」
「あたしだって助けに行きたいのよ!!!」
装置がガタガタと動いてしまうくらいに暴れる俺とジャンヌ。
狭い空間でジタバタとしているうちにふっと意識が飛んだ。
くそっ! 変なことになるんじゃねぇぞ!!
そうして俺は精神空間へとダイブした。
まさか転移先でさらに転移するとは思ってなかったよ!
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「魔法が使えなきゃ、技で制す!治癒士が最強になっちゃいけないなんて誰が決めた?」
これは魔法の常識を「空手の技」で叩き壊す、一人の少年の異世界武勇伝。
伝説の騎士、美少女魔術師、そして謎の切り株(?)を巻き込み、ノエルの規格外の挑戦が今始まる!
外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!
武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。
しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。
『ハズレスキルだ!』
同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。
そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』