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第2章 覚醒! 幻日の想い
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高天原学園の夏休み前半。
7月の下旬から8月の上旬にかけて、部活動は一斉に休みになる。
この期間に帰省したい者は里帰りをするというのが昔からの慣例だ。
食事時間に空席が目立つようになったことで大勢が帰省しているのが伺えた。
休み入りをしても寮生活だから食事で顔を合わせるいつもの面々。
お昼の12時ちょうどに皆が集まっていた。
「では皆、明日が出発なのだな」
「急にいなくなると寂しくなります」
レオンと結弦がふたりで頷きあう。
このふたりは居残り組だから皆を見送る側だ。
「わたくし、カール様との公務が終わり次第、向こうを発ちます。戻りは8月8日の予定ですわ」
3日前に話をしていたソフィア嬢の予定。
「無駄なく行動して最速で武様のもとへ戻りますわ!」と俺に宣言していた。
・・・もう少しゆっくりして来て良いんだぞ?
「わたしは実家で1週間滞在します。戻ってくるのは8月4日ごろです。皆さんもゆっくり休んでくださいね」
さくらの予定。うん、中学の頃からそうだった。
親の希望で年に2度の家族水入らずの時間とのこと。
いちどだけ「和食ばかりで辟易します」と愚痴を聞いた覚えがある。
実家、和武道の道場だもんね。パスタ食べられないし。
「僕たちは8月5日ごろ戻るつもりなんだ」
リアム君がいう「僕たち」とは、俺とジャンヌを含めてのこと。
あの約束どおり3人でアリゾナへ行くことになったのだ。
急遽、変更となったのでこうして改めて互いの予定を確認していたわけだ。
ちなみにこの世界、万能身分証IDsのおかげでパスポート制度が廃止されている。
ビザもネットワークで申請し、犯罪歴などがなければすぐに発給される。
だからこうした急な海外行も問題にならない。
そしてリアルでは1番の障壁となる言葉。
世界語様々、相手の知識レベルが高ければ通じる。
だからどの国でも言葉的な心配は無いのだ。
「しかし意外だな。武まで一緒に行くとは」
「この間、約束したんだよ。いちどアメリカへ行ってみたいって思ってたんだ」
アメリカへ行ってみたいは嘘だけど、リアム君の故郷を見たいと思ったのはほんとうだ。
あのシミュレーターの件で気になることもあるわけだし。
そのリアム君の隣に座っているジャンヌ。
にこにことご機嫌な様子でリアム君の手をさり気なく握っている。
・・・すっかり仲良しさんになったな。
もしかしたらレゾナンスしたのかもしれない。
「次の機会に欧州へも行ってみたいとも思ってんぞ。キャメロットの見学とかさ」
「そのときには俺も帰省しよう。案内するぞ」
「ああ、頼むよ」
レオンが申し出てくれる。
偏らないように、と付け足しで言ってみたんだが、欧州勢は嬉しそうな雰囲気。
「ああ、わたくしの家族へのご挨拶! 心待ちにしておりますわ、武様!」
頬に手を当てて照れながらも、やたらテンションの高いソフィア嬢。
なんでそんな飛躍してんだよ。実家へ行くなんて言ってねぇ。
・・・観覧車の件で俺に対して一步、抜きん出てるって?
「いや、挨拶って。そもそもドイツに行くって言ってねぇだろ」
「武様、そんなに遠慮なさらないでくださいませ。カール様にもご紹介申し上げますわ」
「それって俺が1番になる前提だよね!?」
「そうですわ! 式典の予定も立てませんと・・・」
何やら彼女の頭の中で妄想が突っ走っている様子。
駄目だ、どこから突っ込んで良いのかわからねぇ。
「兄貴と姉貴が一緒ならあたしも行く。パリにも来なさいよ」
リアム君の隣で大人しくしていたジャンヌが澄ました顔で言った。
こいつ、俺に対する雰囲気も随分と変わったな。
言葉遣いはアレだけど、なんか普通に優しい感じになってんぞ。
「そのときはリアムも一緒ね。あたしの家族を紹介するわ」
「うん!」
・・・わからん。
ジャンヌはリアム君だけで満足してるんじゃねぇのか?
俺に対する「気になる」はまだ有効なんだろうか。
その「もちろん行くわよね」的な視線が俺への期待値か。
「武さん、日本国内ならすぐに行けますよ。わたしの実家へも是非」
「・・・うん。順番に、ね。挨拶はしないよ?」
受け流したつもりだけれど、さくらは期待の眼差しで俺を見ている。
・・・彼女もこの間の、観覧車のアレで自信をつけてるって?
なんか立ち位置含めた物理的な距離感も近いよ?
有耶無耶になったけどレゾナンスしかけたんだよな。
最近、気が緩んでる。
もっと気をつけねぇと。
「もしかしてオレが帰省するときも、一緒に来てもらえるってことですか?」
さくらに便乗して結弦まで。
友達を実家に連れてくのが流行ってんのかね?
「僕のおうちが最初だね!」
「次はハンブルクですわ!」
「キャメロットが近いロンドンだろう」
「距離でしたらわたしの実家が最寄りです」
彼らのやり取りを聞いて。
ああ、ようやく日常に戻って来たんだなと、俺は改めて感じたのだった。
◇
かつての首都、東京都心は海面上昇でいちど水没した。
現在の新東京駅はリアルの群馬県前橋市のあたりにある。
もっとも大惨事の寒冷化で一時的に陸地が復活したので内陸都市になってしまっているが。
2210年7月25日水曜日。
高天原学園のある天神駅から新東京駅まで約30分。
俺たちが乗るのは午前10時発の電車のため、朝食を終えたら残留のふたりと別れ、一路電車で新東京駅まで来ていた。
極圏高速鉄道はここから千島列島・カムチャッカ半島経由で、ターミナルとなるロシアのアナディリ駅まで繋がっている。
欧州にはそこから極圏環状へと乗り換え、北極海底の環状線を経由してノルウェーへ出る。
ソフィア嬢はこのコースでおよそ9,000キロ、2日間に及ぶ電車の旅をする。
対する俺たちは同じくアナディル駅で乗り換え、ベーリング海底を経由してアラスカ、カナダ、アメリカと太平洋沿岸の旅をする。
こちらもアメリカのサンフランシスコまで約9,000キロ。
地上部が多いので3日間の旅となる。
「初めてだよ、極圏高速鉄道に乗るのは」
「欧州からも北米からもこれが一番早いわ。みんなこれで来たのよ」
ホームに停車している近未来の高速鉄道。
もうもうと白い車体の下から煙が上がっているのがなんか格好良い。
超伝導の低温永久電磁石とかあるんだろうな。
運転席を見ると・・・見えなかった。
リアルの新幹線以上に先頭1両部分が先鋭化している。
新幹線には顔つきがあったけどこいつの顔はのっぺり。
外は完全にカメラでの確認に切り替わっているようで、運転席の窓がない。
ライトの開口部もないので表面が平べったいだけの先頭車両だ。
この速度域ではここまでしないと空気を切れないのかもしれない。
鉄オタでない俺だけど、見れば見るほど興味は尽きない。
「ほら、武くん! 行こうよ」
リアム君に促され俺たちは指定席の赤と青のラインが入った車両に乗り込んだ。
車内は2人掛けの席が左右に並ぶ。
俺とソフィア嬢、リアム君とジャンヌという組み合わせで横一列に座った。
折角の旅路。しかも未来仕様。
車内の様々なものが新鮮で興奮する。
が、こいつらにその素振りを見せるのは癪なので表に出さないよう我慢していた。
電車の車体に使われているのは黒光りする合金。
座席は皮革とも繊維とも思えるラメラメした張りもの。
天井全体が薄く光る電灯。
土の地面のように足音が響かない吸い付くような床板。
窓だって硝子じゃない弾力のある透明素材なのだ。
未来ってすごい!
「退屈なんだよね~。海はずっと真っ暗だし」
そんな俺の感動を尻目にリアム君がぼやいた。
俺的には驚きの連続だから、その理解に数秒を要した。
「いや、普段乗らねぇ電車の旅って興奮しねぇ?」
「あんたちょっと子供っぽいわね」
「ああ、そんな武様の一面も愛らしいですわ!」
「・・・」
ぐ・・・つい口にした感想にまさかの子供っぽい認定。
ちょっと屈辱感。
でも事実だし露見してから隠しても仕方ねぇ。
もう開き直るか、これ。
「海底部は真っ暗だから、航空機並みの時速800キロって言われても実感がないのよね」
「うんうん、真っ暗だからね~」
「端末で指定すると窓に映像も表示できますわよ」
旅慣れているであろうソフィア嬢が説明してくれる。
俺の隣に座った彼女はパネルを操作して実際に表示して見せてくれた。
おおお、窓に立体映画が見える!
先頭の景色とか、映画とかアニメとか、テレビも。
すべてがホログラムの3次元映像だ。
「ホログラムってずっと見てると疲れるのよ。やっぱり生が良いわね」
「ほほほ、立体映画よりも古典的劇場でという趣向はよく理解できますわ。ジャンヌ様もお目が高い」
「いいなー、僕、劇場で見たことないんだ」
「そうなの? なら日本でも劇場があるはずだから一緒に行きましょ」
「うん!」
未来人な会話だな。
そんな感じであれこれと話していると、すぐに出発のアナウンスが流れた。
静かにぐっと加速すると、ぐんぐんと窓の外の景色が流れ、やがてリニア幹線並の速度で走り出す。
流れる車窓は俺に様々な未来の景色を運んでくる。
そのどれが仮想なのかほんとうの未来なのか。
俺が受け止めるにはあまりに情報が多すぎた。
◇
北海道を抜けて千島列島海底に入った午後2時ごろ。
話にあったとおり、窓の外は真っ暗になり何も見えなくなった。
さすがの未来仕様で騒音や振動もほとんどなく静かだ。
だけど、それが故にこれが退屈だというのが理解できる。
横を見るとリアム君とジャンヌは仲良く互いにもたれて眠っていた。
平和なものだ、と思わず笑みが溢れた。
「武様、お茶でもいたしませんか?」
「ああ、良いね」
俺が景色に夢中だったのを知ってか、静かにしていてくれたソフィア嬢。
海底でその遠慮も必要ないからとの提案だった。
極圏高速鉄道は飛行機のように車内サービスが受けられるのだ。
程なくしてロボットによって紅茶が運ばれて来た。
俺はアッサム、ソフィア嬢はアールグレイ。
口で少し冷ましながらゆったり香りを愉しむ。
「ふふ、こうしてお茶するのも久しぶりですわね」
「あれももう2か月前になっちまったのか」
「はい。ですが学園で過ごす日々は毎日が充実しており、あっという間でしたわ」
紅茶の香りに癒やされながら思いを馳せる。
俺も色々あったけど、ソフィア嬢をはじめ皆もあれこれやってんだよな。
主人公として動くときのサブイベントもあるし。
いや、そもそもイベントの合間の行間が現実としてあるんだ。
その全員の行動を把握するのは無理。
彼女も俺の知らないうちにイベントをこなしてくれているのだろう。
「武様」
「うん?」
「先日の・・・観覧車で武様に勇気付けていただいたときのことなのですが」
「うん」
「あの日は武様との共鳴だと思っておりましたが、よく考えるとレゾナンスとは違うと思いましたの」
「ほう?」
探究者のことか。
あれは魔力が行き来するときに感じる痺れがない。
レゾナンスとは異なるから気付いても不思議ではないだろう。
ソフィア嬢は思い浮かべるように顎に指を当てていた。
「あれは・・・武様の固有能力ではないのでしょうか?」
「・・・さすがだな、気付いたのか。違いがわかったってことは、レゾナンスしたことあんのか?」
「いえ、お恥ずかしながら。話に聞いた限りの体験談と照らし合わせて、ですの」
「ふむ」
「わたくしが目下、共鳴を目指す方は武様とさくら様ですが、おふたりともなかなかつれないお人ですから」
ソフィア嬢は目を細めて俺をからかうように見据える。
ま、そうだよな。
もし他にレゾナンスの相手がいたら、そいつが1番になっちまうから。
ごめんの意を込めて肩を竦ませて応える。
「以前、武様の固有能力は精神を支援するスキルだ、と仰っておりました。そこに思い至ったのですわ」
「なるほどね」
そういや俺の固有能力について、誤魔化しついでにそんなことを口走った気がする。
・・・俺は計画性がない行動をすることがあるから気をつけよう。
「わたくしの恐怖心を一変してしまうほどのお力なのですね・・・あのとき、とても胸の内が暖かかったのですわ」
深く思い出すように彼女は目を閉じた。
「わたくしを『果敢なる令嬢』と信頼してくださる武様の想い。ええ、ええ。ソフィアはその名にふさわしくなるよう精進いたしますわ」
何度も頷きながら。
噛みしめるように彼女は口にした。
「その暁には・・・武様、是非わたくしをお傍へ置いてくださいませ」
「・・・ああ。誰よりも果敢に、優美に、華麗になったらな」
俺は自然とそんなことを口にした。
そう、ラリクエでのソフィア嬢の渾名は『果敢なる令嬢』。
恐怖イベントを克服すると誰よりも率先して先頭へ立つようになるから、卒業時にはその渾名を得ている。
その姿の優美さ、華麗さはほんとうに絵になる。生徒たちの先頭に立つ一枚絵も複数あるくらいだ。
もちろんそれはソフィア嬢が活躍するルートだ。
俺の脳裏には、そうしたソフィア嬢の優美で華麗な姿が浮かんでいた。
魔王攻略の意味で、彼女がそこまで登りつめてくれるのであれば是非もない。
「はい、お約束いたしますわ。ソフィアは必ず、貴方のお傍に」
席に座ったままに、騎士の礼のように背筋を正した宣言。
うん、華麗だな・・・って、おい!
俺、なんか勢いでヤバいこと約束してねぇ?
ついそれっぽいこと口走っちゃったよ!?
内心、慌ててしまうが後の祭り。
訂正することもできず、俺はソフィア嬢の壮健な決意の眼差しに気圧されるばかりだった。
「・・・ところで、さ」
「はい」
「頼みがあんだよ」
「また調べものでございますか?」
話題転換で誤魔化そうとしたら。
どこから取り出したのやら、扇子で顔を隠すソフィア嬢。
きっとにやついてんだな、これ。
「貸しでいいよ。俺には調べる術がない、お前しか頼れねぇんだ」
「ほほ、他ならぬ武様のお願いですから。何なりと」
さてはて、今回は何を要求されるのやら。
先の心配もあるが、これはどうしても調べておきたいのだ。
腹をくくって俺は要求を口にした。
「調べて欲しいのは『ルーラ』って人。昔、両親が高天原学園の生徒だったはずだ」
◇
新東京を出発しておよそ10時間。
電車はいよいよアナディル駅へ到着する。
ここで欧州行きと北米行きに乗り換えることになる。
「じゃあね! 姉貴!」
「ソフィア、また高天原でね!」
「ええ、ジャンヌ様もリアム様もよい旅を」
別れと言っても1週間程度。
仰々しくなることもなく簡単な挨拶だ。
手を振ってさようなら、と思っていたらソフィア嬢が俺に近寄って来る。
そして囁くように耳打ちした。
「武様」
「どした?」
「先程の件。目処がつきましたらPEでご連絡差し上げますわ」
「ああ、よろしく頼むよ」
俺にだけ聞こえる声で。
ソフィア嬢はそう告げ、改めて欧州方面の乗り換え口を目指した。
「じゃあなソフィア。カール王子によろしくな」
「ふふ、承知しましたわ。良い旅を、ごめんあそばせ」
颯爽と去っていく彼女の後ろ姿はやはり優美だった。
◇
各国の在来線と極圏高速鉄道の違いは、国際高速鉄道であること。
飛行機に変わる重要インフラで、人流、物流を高速輸送する要になっている。
世界政府が運営するそれは軍事的な意義もある。
だからこそ世界戦線を支える国々を繋ぐのだ。
その極圏高速鉄道の北米の終端のひとつ、ロサンゼルス駅。
俺たちは3日間9,000キロの旅路を終え、北アメリカ大陸へ降り立っていた。
「ここからどう行くんだ?」
「バスだよ! ロスからフェニックスまでの高速バスが出てるんだ!」
リアム君のテンションがいつも以上に高い。
その様子に俺はジャンヌと顔を見合わせ、くすりと笑みを交わした。
ロスからフェニックスまで直線距離にしておよそ300キロ。
空飛ぶ高速バスといえど1時間強はかかる。
3人席のロングシートが左右に並べられている車両だった。
もちろん、3人で並んで座った。
「3人掛けなんて珍しいわね」
「これ、アメリカンサイズなんだよ」
リアム君の指差すほうを見ると。
俺の倍はある体格の夫婦がふたりで席をいっぱいにしていた。
なるほどね。
肘掛けがなくて座席前の空間が広いのも納得だ。
「リアムの親父さんってどんな人だ?」
「お父さんはね、発明家なの!」
「発明家・・・?」
「うん! いつも試作品を並べてるんだよ。エリア博士みたいに」
なんだか興奮気味で語るリアム君。
ああ、そうか。
お父さんが発明品を作るからリアム君はパンゼーリ博士のところに入り浸ってたのか。
親近感ってやつなのかな。納得。
「リアム、お姉さんはどんな人?」
「お姉ちゃんはね・・・僕のお母さんで、お姉ちゃんなんだよ!」
・・・?
うんわからん。
彼の中では説明がついているらしい。
「そう、お母さんでお姉さんなのね」
「うん! とっても優しくて、暖かくて、僕のこと大好きなんだ!」
「ふふ、素敵ね」
あの精神空間であったことをリアム君はほぼ覚えていなかった。
最後に俺とジャンヌで約束したシーンだけを鮮明に覚えていたそうで。
良い夢を見て目が覚めた感覚で、お腹すいた、というのが彼の感想。
ジャンヌと俺は・・・互いに見てはいけないものを見た可能性があるので語らず。
そもそも見聞きしたものの真偽が怪しい。
すべては闇に葬り去られていた。
たぶん、ジャンヌはリアム君のあれこれを見聞きしたのだろうと思う。
けれど、ジャンヌの会話を聞く限り、彼女はお姉さんとは会っていないように思える。
俺のあれこれは、彼女が知らないものと思っておく。
俺もジャンヌのキスシーンとか、色々見聞きしたことは語らない。
「お姉ちゃん、ずっと身体が悪くてさ。本と映像ばかりなんだよ」
「そうなの? じゃ、アニメにも詳しいかな?」
「うん! 『マジカル・ジョーダン』が好きだよ」
「ほんとう! あたしも好きなの。話が合いそうね!」
バスは一路、アリゾナ州都のフェニックスを目指す。
小一時間の旅ながら、俺たちはリアム君の語る家族像に想像を膨らませていた。
◇
そしていよいよ。
俺たち3人であのグリーン宅の目の前まで辿り着いた。
道中、バスが故障して砂漠のど真ん中で立ち往生したりとか、そんなイベントは可愛いもの。
シミュレーション済みの俺に死角はなかった。
「やっと到着だ~。つかれたぁ~」
「もう。トラブルに遭うなんて思いもしなかったわ」
「うまく誘導してどうにかなっただろ」
「そうね。ほんっと、あんたと居ると飽きないわ。でも指示が的確過ぎて・・・もしかしてあんたの仕業?」
「なんで俺のせいになってんだよ!?」
スムーズだったのはトラックを捕まえるところまで想定内だったからだよ!
バスの乗員全員を輸送するためトラックの荷台に軍人のように座り込むというところは想定外だったけど。
「リアム。俺たちを家族に紹介してくれよ」
「うん! こっちだよ、一緒に来て!」
早速ながら、疲れもあり夕方なのでリアム君にお願いする。
彼は張り切って前へ出ると、正面玄関を横に通り過ぎた。
「あれ、玄関からじゃないの?」
「裏からなんだ!」
ジャンヌは意表をつかれたという顔つき。
そんな彼女の手を引いてリアム君は裏手へとまわっていく。
俺はふたりの後をついていった。
金属製の煙突が光るバート教授の実験小屋を思い浮かべながら。
7月の下旬から8月の上旬にかけて、部活動は一斉に休みになる。
この期間に帰省したい者は里帰りをするというのが昔からの慣例だ。
食事時間に空席が目立つようになったことで大勢が帰省しているのが伺えた。
休み入りをしても寮生活だから食事で顔を合わせるいつもの面々。
お昼の12時ちょうどに皆が集まっていた。
「では皆、明日が出発なのだな」
「急にいなくなると寂しくなります」
レオンと結弦がふたりで頷きあう。
このふたりは居残り組だから皆を見送る側だ。
「わたくし、カール様との公務が終わり次第、向こうを発ちます。戻りは8月8日の予定ですわ」
3日前に話をしていたソフィア嬢の予定。
「無駄なく行動して最速で武様のもとへ戻りますわ!」と俺に宣言していた。
・・・もう少しゆっくりして来て良いんだぞ?
「わたしは実家で1週間滞在します。戻ってくるのは8月4日ごろです。皆さんもゆっくり休んでくださいね」
さくらの予定。うん、中学の頃からそうだった。
親の希望で年に2度の家族水入らずの時間とのこと。
いちどだけ「和食ばかりで辟易します」と愚痴を聞いた覚えがある。
実家、和武道の道場だもんね。パスタ食べられないし。
「僕たちは8月5日ごろ戻るつもりなんだ」
リアム君がいう「僕たち」とは、俺とジャンヌを含めてのこと。
あの約束どおり3人でアリゾナへ行くことになったのだ。
急遽、変更となったのでこうして改めて互いの予定を確認していたわけだ。
ちなみにこの世界、万能身分証IDsのおかげでパスポート制度が廃止されている。
ビザもネットワークで申請し、犯罪歴などがなければすぐに発給される。
だからこうした急な海外行も問題にならない。
そしてリアルでは1番の障壁となる言葉。
世界語様々、相手の知識レベルが高ければ通じる。
だからどの国でも言葉的な心配は無いのだ。
「しかし意外だな。武まで一緒に行くとは」
「この間、約束したんだよ。いちどアメリカへ行ってみたいって思ってたんだ」
アメリカへ行ってみたいは嘘だけど、リアム君の故郷を見たいと思ったのはほんとうだ。
あのシミュレーターの件で気になることもあるわけだし。
そのリアム君の隣に座っているジャンヌ。
にこにことご機嫌な様子でリアム君の手をさり気なく握っている。
・・・すっかり仲良しさんになったな。
もしかしたらレゾナンスしたのかもしれない。
「次の機会に欧州へも行ってみたいとも思ってんぞ。キャメロットの見学とかさ」
「そのときには俺も帰省しよう。案内するぞ」
「ああ、頼むよ」
レオンが申し出てくれる。
偏らないように、と付け足しで言ってみたんだが、欧州勢は嬉しそうな雰囲気。
「ああ、わたくしの家族へのご挨拶! 心待ちにしておりますわ、武様!」
頬に手を当てて照れながらも、やたらテンションの高いソフィア嬢。
なんでそんな飛躍してんだよ。実家へ行くなんて言ってねぇ。
・・・観覧車の件で俺に対して一步、抜きん出てるって?
「いや、挨拶って。そもそもドイツに行くって言ってねぇだろ」
「武様、そんなに遠慮なさらないでくださいませ。カール様にもご紹介申し上げますわ」
「それって俺が1番になる前提だよね!?」
「そうですわ! 式典の予定も立てませんと・・・」
何やら彼女の頭の中で妄想が突っ走っている様子。
駄目だ、どこから突っ込んで良いのかわからねぇ。
「兄貴と姉貴が一緒ならあたしも行く。パリにも来なさいよ」
リアム君の隣で大人しくしていたジャンヌが澄ました顔で言った。
こいつ、俺に対する雰囲気も随分と変わったな。
言葉遣いはアレだけど、なんか普通に優しい感じになってんぞ。
「そのときはリアムも一緒ね。あたしの家族を紹介するわ」
「うん!」
・・・わからん。
ジャンヌはリアム君だけで満足してるんじゃねぇのか?
俺に対する「気になる」はまだ有効なんだろうか。
その「もちろん行くわよね」的な視線が俺への期待値か。
「武さん、日本国内ならすぐに行けますよ。わたしの実家へも是非」
「・・・うん。順番に、ね。挨拶はしないよ?」
受け流したつもりだけれど、さくらは期待の眼差しで俺を見ている。
・・・彼女もこの間の、観覧車のアレで自信をつけてるって?
なんか立ち位置含めた物理的な距離感も近いよ?
有耶無耶になったけどレゾナンスしかけたんだよな。
最近、気が緩んでる。
もっと気をつけねぇと。
「もしかしてオレが帰省するときも、一緒に来てもらえるってことですか?」
さくらに便乗して結弦まで。
友達を実家に連れてくのが流行ってんのかね?
「僕のおうちが最初だね!」
「次はハンブルクですわ!」
「キャメロットが近いロンドンだろう」
「距離でしたらわたしの実家が最寄りです」
彼らのやり取りを聞いて。
ああ、ようやく日常に戻って来たんだなと、俺は改めて感じたのだった。
◇
かつての首都、東京都心は海面上昇でいちど水没した。
現在の新東京駅はリアルの群馬県前橋市のあたりにある。
もっとも大惨事の寒冷化で一時的に陸地が復活したので内陸都市になってしまっているが。
2210年7月25日水曜日。
高天原学園のある天神駅から新東京駅まで約30分。
俺たちが乗るのは午前10時発の電車のため、朝食を終えたら残留のふたりと別れ、一路電車で新東京駅まで来ていた。
極圏高速鉄道はここから千島列島・カムチャッカ半島経由で、ターミナルとなるロシアのアナディリ駅まで繋がっている。
欧州にはそこから極圏環状へと乗り換え、北極海底の環状線を経由してノルウェーへ出る。
ソフィア嬢はこのコースでおよそ9,000キロ、2日間に及ぶ電車の旅をする。
対する俺たちは同じくアナディル駅で乗り換え、ベーリング海底を経由してアラスカ、カナダ、アメリカと太平洋沿岸の旅をする。
こちらもアメリカのサンフランシスコまで約9,000キロ。
地上部が多いので3日間の旅となる。
「初めてだよ、極圏高速鉄道に乗るのは」
「欧州からも北米からもこれが一番早いわ。みんなこれで来たのよ」
ホームに停車している近未来の高速鉄道。
もうもうと白い車体の下から煙が上がっているのがなんか格好良い。
超伝導の低温永久電磁石とかあるんだろうな。
運転席を見ると・・・見えなかった。
リアルの新幹線以上に先頭1両部分が先鋭化している。
新幹線には顔つきがあったけどこいつの顔はのっぺり。
外は完全にカメラでの確認に切り替わっているようで、運転席の窓がない。
ライトの開口部もないので表面が平べったいだけの先頭車両だ。
この速度域ではここまでしないと空気を切れないのかもしれない。
鉄オタでない俺だけど、見れば見るほど興味は尽きない。
「ほら、武くん! 行こうよ」
リアム君に促され俺たちは指定席の赤と青のラインが入った車両に乗り込んだ。
車内は2人掛けの席が左右に並ぶ。
俺とソフィア嬢、リアム君とジャンヌという組み合わせで横一列に座った。
折角の旅路。しかも未来仕様。
車内の様々なものが新鮮で興奮する。
が、こいつらにその素振りを見せるのは癪なので表に出さないよう我慢していた。
電車の車体に使われているのは黒光りする合金。
座席は皮革とも繊維とも思えるラメラメした張りもの。
天井全体が薄く光る電灯。
土の地面のように足音が響かない吸い付くような床板。
窓だって硝子じゃない弾力のある透明素材なのだ。
未来ってすごい!
「退屈なんだよね~。海はずっと真っ暗だし」
そんな俺の感動を尻目にリアム君がぼやいた。
俺的には驚きの連続だから、その理解に数秒を要した。
「いや、普段乗らねぇ電車の旅って興奮しねぇ?」
「あんたちょっと子供っぽいわね」
「ああ、そんな武様の一面も愛らしいですわ!」
「・・・」
ぐ・・・つい口にした感想にまさかの子供っぽい認定。
ちょっと屈辱感。
でも事実だし露見してから隠しても仕方ねぇ。
もう開き直るか、これ。
「海底部は真っ暗だから、航空機並みの時速800キロって言われても実感がないのよね」
「うんうん、真っ暗だからね~」
「端末で指定すると窓に映像も表示できますわよ」
旅慣れているであろうソフィア嬢が説明してくれる。
俺の隣に座った彼女はパネルを操作して実際に表示して見せてくれた。
おおお、窓に立体映画が見える!
先頭の景色とか、映画とかアニメとか、テレビも。
すべてがホログラムの3次元映像だ。
「ホログラムってずっと見てると疲れるのよ。やっぱり生が良いわね」
「ほほほ、立体映画よりも古典的劇場でという趣向はよく理解できますわ。ジャンヌ様もお目が高い」
「いいなー、僕、劇場で見たことないんだ」
「そうなの? なら日本でも劇場があるはずだから一緒に行きましょ」
「うん!」
未来人な会話だな。
そんな感じであれこれと話していると、すぐに出発のアナウンスが流れた。
静かにぐっと加速すると、ぐんぐんと窓の外の景色が流れ、やがてリニア幹線並の速度で走り出す。
流れる車窓は俺に様々な未来の景色を運んでくる。
そのどれが仮想なのかほんとうの未来なのか。
俺が受け止めるにはあまりに情報が多すぎた。
◇
北海道を抜けて千島列島海底に入った午後2時ごろ。
話にあったとおり、窓の外は真っ暗になり何も見えなくなった。
さすがの未来仕様で騒音や振動もほとんどなく静かだ。
だけど、それが故にこれが退屈だというのが理解できる。
横を見るとリアム君とジャンヌは仲良く互いにもたれて眠っていた。
平和なものだ、と思わず笑みが溢れた。
「武様、お茶でもいたしませんか?」
「ああ、良いね」
俺が景色に夢中だったのを知ってか、静かにしていてくれたソフィア嬢。
海底でその遠慮も必要ないからとの提案だった。
極圏高速鉄道は飛行機のように車内サービスが受けられるのだ。
程なくしてロボットによって紅茶が運ばれて来た。
俺はアッサム、ソフィア嬢はアールグレイ。
口で少し冷ましながらゆったり香りを愉しむ。
「ふふ、こうしてお茶するのも久しぶりですわね」
「あれももう2か月前になっちまったのか」
「はい。ですが学園で過ごす日々は毎日が充実しており、あっという間でしたわ」
紅茶の香りに癒やされながら思いを馳せる。
俺も色々あったけど、ソフィア嬢をはじめ皆もあれこれやってんだよな。
主人公として動くときのサブイベントもあるし。
いや、そもそもイベントの合間の行間が現実としてあるんだ。
その全員の行動を把握するのは無理。
彼女も俺の知らないうちにイベントをこなしてくれているのだろう。
「武様」
「うん?」
「先日の・・・観覧車で武様に勇気付けていただいたときのことなのですが」
「うん」
「あの日は武様との共鳴だと思っておりましたが、よく考えるとレゾナンスとは違うと思いましたの」
「ほう?」
探究者のことか。
あれは魔力が行き来するときに感じる痺れがない。
レゾナンスとは異なるから気付いても不思議ではないだろう。
ソフィア嬢は思い浮かべるように顎に指を当てていた。
「あれは・・・武様の固有能力ではないのでしょうか?」
「・・・さすがだな、気付いたのか。違いがわかったってことは、レゾナンスしたことあんのか?」
「いえ、お恥ずかしながら。話に聞いた限りの体験談と照らし合わせて、ですの」
「ふむ」
「わたくしが目下、共鳴を目指す方は武様とさくら様ですが、おふたりともなかなかつれないお人ですから」
ソフィア嬢は目を細めて俺をからかうように見据える。
ま、そうだよな。
もし他にレゾナンスの相手がいたら、そいつが1番になっちまうから。
ごめんの意を込めて肩を竦ませて応える。
「以前、武様の固有能力は精神を支援するスキルだ、と仰っておりました。そこに思い至ったのですわ」
「なるほどね」
そういや俺の固有能力について、誤魔化しついでにそんなことを口走った気がする。
・・・俺は計画性がない行動をすることがあるから気をつけよう。
「わたくしの恐怖心を一変してしまうほどのお力なのですね・・・あのとき、とても胸の内が暖かかったのですわ」
深く思い出すように彼女は目を閉じた。
「わたくしを『果敢なる令嬢』と信頼してくださる武様の想い。ええ、ええ。ソフィアはその名にふさわしくなるよう精進いたしますわ」
何度も頷きながら。
噛みしめるように彼女は口にした。
「その暁には・・・武様、是非わたくしをお傍へ置いてくださいませ」
「・・・ああ。誰よりも果敢に、優美に、華麗になったらな」
俺は自然とそんなことを口にした。
そう、ラリクエでのソフィア嬢の渾名は『果敢なる令嬢』。
恐怖イベントを克服すると誰よりも率先して先頭へ立つようになるから、卒業時にはその渾名を得ている。
その姿の優美さ、華麗さはほんとうに絵になる。生徒たちの先頭に立つ一枚絵も複数あるくらいだ。
もちろんそれはソフィア嬢が活躍するルートだ。
俺の脳裏には、そうしたソフィア嬢の優美で華麗な姿が浮かんでいた。
魔王攻略の意味で、彼女がそこまで登りつめてくれるのであれば是非もない。
「はい、お約束いたしますわ。ソフィアは必ず、貴方のお傍に」
席に座ったままに、騎士の礼のように背筋を正した宣言。
うん、華麗だな・・・って、おい!
俺、なんか勢いでヤバいこと約束してねぇ?
ついそれっぽいこと口走っちゃったよ!?
内心、慌ててしまうが後の祭り。
訂正することもできず、俺はソフィア嬢の壮健な決意の眼差しに気圧されるばかりだった。
「・・・ところで、さ」
「はい」
「頼みがあんだよ」
「また調べものでございますか?」
話題転換で誤魔化そうとしたら。
どこから取り出したのやら、扇子で顔を隠すソフィア嬢。
きっとにやついてんだな、これ。
「貸しでいいよ。俺には調べる術がない、お前しか頼れねぇんだ」
「ほほ、他ならぬ武様のお願いですから。何なりと」
さてはて、今回は何を要求されるのやら。
先の心配もあるが、これはどうしても調べておきたいのだ。
腹をくくって俺は要求を口にした。
「調べて欲しいのは『ルーラ』って人。昔、両親が高天原学園の生徒だったはずだ」
◇
新東京を出発しておよそ10時間。
電車はいよいよアナディル駅へ到着する。
ここで欧州行きと北米行きに乗り換えることになる。
「じゃあね! 姉貴!」
「ソフィア、また高天原でね!」
「ええ、ジャンヌ様もリアム様もよい旅を」
別れと言っても1週間程度。
仰々しくなることもなく簡単な挨拶だ。
手を振ってさようなら、と思っていたらソフィア嬢が俺に近寄って来る。
そして囁くように耳打ちした。
「武様」
「どした?」
「先程の件。目処がつきましたらPEでご連絡差し上げますわ」
「ああ、よろしく頼むよ」
俺にだけ聞こえる声で。
ソフィア嬢はそう告げ、改めて欧州方面の乗り換え口を目指した。
「じゃあなソフィア。カール王子によろしくな」
「ふふ、承知しましたわ。良い旅を、ごめんあそばせ」
颯爽と去っていく彼女の後ろ姿はやはり優美だった。
◇
各国の在来線と極圏高速鉄道の違いは、国際高速鉄道であること。
飛行機に変わる重要インフラで、人流、物流を高速輸送する要になっている。
世界政府が運営するそれは軍事的な意義もある。
だからこそ世界戦線を支える国々を繋ぐのだ。
その極圏高速鉄道の北米の終端のひとつ、ロサンゼルス駅。
俺たちは3日間9,000キロの旅路を終え、北アメリカ大陸へ降り立っていた。
「ここからどう行くんだ?」
「バスだよ! ロスからフェニックスまでの高速バスが出てるんだ!」
リアム君のテンションがいつも以上に高い。
その様子に俺はジャンヌと顔を見合わせ、くすりと笑みを交わした。
ロスからフェニックスまで直線距離にしておよそ300キロ。
空飛ぶ高速バスといえど1時間強はかかる。
3人席のロングシートが左右に並べられている車両だった。
もちろん、3人で並んで座った。
「3人掛けなんて珍しいわね」
「これ、アメリカンサイズなんだよ」
リアム君の指差すほうを見ると。
俺の倍はある体格の夫婦がふたりで席をいっぱいにしていた。
なるほどね。
肘掛けがなくて座席前の空間が広いのも納得だ。
「リアムの親父さんってどんな人だ?」
「お父さんはね、発明家なの!」
「発明家・・・?」
「うん! いつも試作品を並べてるんだよ。エリア博士みたいに」
なんだか興奮気味で語るリアム君。
ああ、そうか。
お父さんが発明品を作るからリアム君はパンゼーリ博士のところに入り浸ってたのか。
親近感ってやつなのかな。納得。
「リアム、お姉さんはどんな人?」
「お姉ちゃんはね・・・僕のお母さんで、お姉ちゃんなんだよ!」
・・・?
うんわからん。
彼の中では説明がついているらしい。
「そう、お母さんでお姉さんなのね」
「うん! とっても優しくて、暖かくて、僕のこと大好きなんだ!」
「ふふ、素敵ね」
あの精神空間であったことをリアム君はほぼ覚えていなかった。
最後に俺とジャンヌで約束したシーンだけを鮮明に覚えていたそうで。
良い夢を見て目が覚めた感覚で、お腹すいた、というのが彼の感想。
ジャンヌと俺は・・・互いに見てはいけないものを見た可能性があるので語らず。
そもそも見聞きしたものの真偽が怪しい。
すべては闇に葬り去られていた。
たぶん、ジャンヌはリアム君のあれこれを見聞きしたのだろうと思う。
けれど、ジャンヌの会話を聞く限り、彼女はお姉さんとは会っていないように思える。
俺のあれこれは、彼女が知らないものと思っておく。
俺もジャンヌのキスシーンとか、色々見聞きしたことは語らない。
「お姉ちゃん、ずっと身体が悪くてさ。本と映像ばかりなんだよ」
「そうなの? じゃ、アニメにも詳しいかな?」
「うん! 『マジカル・ジョーダン』が好きだよ」
「ほんとう! あたしも好きなの。話が合いそうね!」
バスは一路、アリゾナ州都のフェニックスを目指す。
小一時間の旅ながら、俺たちはリアム君の語る家族像に想像を膨らませていた。
◇
そしていよいよ。
俺たち3人であのグリーン宅の目の前まで辿り着いた。
道中、バスが故障して砂漠のど真ん中で立ち往生したりとか、そんなイベントは可愛いもの。
シミュレーション済みの俺に死角はなかった。
「やっと到着だ~。つかれたぁ~」
「もう。トラブルに遭うなんて思いもしなかったわ」
「うまく誘導してどうにかなっただろ」
「そうね。ほんっと、あんたと居ると飽きないわ。でも指示が的確過ぎて・・・もしかしてあんたの仕業?」
「なんで俺のせいになってんだよ!?」
スムーズだったのはトラックを捕まえるところまで想定内だったからだよ!
バスの乗員全員を輸送するためトラックの荷台に軍人のように座り込むというところは想定外だったけど。
「リアム。俺たちを家族に紹介してくれよ」
「うん! こっちだよ、一緒に来て!」
早速ながら、疲れもあり夕方なのでリアム君にお願いする。
彼は張り切って前へ出ると、正面玄関を横に通り過ぎた。
「あれ、玄関からじゃないの?」
「裏からなんだ!」
ジャンヌは意表をつかれたという顔つき。
そんな彼女の手を引いてリアム君は裏手へとまわっていく。
俺はふたりの後をついていった。
金属製の煙突が光るバート教授の実験小屋を思い浮かべながら。
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