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第3章 到達! 滴穿の戴天
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■■九条 さくら ’s View■■
「ソフィアさん!」
「結弦様、さくら様たちですわ!」
「レオン! 無事だったか!」
「当然だ! そちらこそ手間取らなかったのか!」
学園広場へ走っているところでした。
別の遊撃隊にいたはずの結弦さんとソフィアさんに合流しました。
どうやら同じタイミングで学園広場へ向かっていたようです。
武さんの件で焦っていましたが、互いの無事を見て少し安心できました。
「さくら様! 武様についての続報は!?」
「ありません! 橘先輩の連絡にあった事務棟へ行くしかないです!」
「あの連絡からもう15分も経っていますわ! 早く参りませんと!」
「おい、あれは何だ!?」
レオンさんが声をあげます。
思わず皆、足を止めました。
わたしたちが指す方向、学園広場のあたりに光柱が立ち上がるところでした。
呼吸を整えながらその光柱に目を向けます。
柱に見えるほどの強い光なんて・・・。
超常的な出来事に不吉さを感じずにはいられません。
「・・・イベントで投光器を使っているわけではありませんわね」
「残滓が見える・・・あれは魔力の柱だぞ!」
「あんな量の魔力を!? どうやって!」
「あれは・・・龍脈に穴を開けているとしか考えられません!」
地下水のように大地に巡る魔力の流れ。
それが湖のように集まっている場所を龍脈と呼びます。
龍脈には質の良い魔力が高濃度で集まります。
そこでは魔力回復がよく進むとされています。
高天原学園が国内で有数の龍脈の上に作られている理由。
それは具現化を鍛えるうえで有用だと考えられているからです。
あの光柱は、その豊富な魔力が龍脈から飛び出ているのです!
「穴なんてどうやって・・・」
「恐らくはゲルオク様の用意したアーティファクトでしょう」
「!?」
その言葉に、皆がソフィアさんの顔を見ました。
「あの膨大な魔力を使い魔物を操作しているのかもしれません。封印の揺籠といい、予めそのつもりであったと推測できますわ」
「つまりはレベッカの奴も一緒にこの学園を壊滅させるつもりだったわけか」
「どうしてそんなことを・・・」
ゲルオクさんとレベッカさん。
ソフィアさんとレオンさんを慕っているからこの学園に来たはずです。
わたしの武さんへの想いを考えればその動機は十分に理解できます。
ですが、それが高天原学園を壊滅させる理由にはなりません。
最初はこの方法を取らず、わざわざトーナメント戦での勝負を持ち掛けたのですから。
「相棒、ゲルオクは頭が切れるほうかい?」
「ええ。少なくとも社交界で遅れを取ったことは見たことがありませんわ」
「なら、力で失敗したときの保険としてこの手段を考えていたんだろう」
「まさか・・・」
レオンさんもソフィアさんも吃驚したという表情を浮かべていました。
いくらなんでもそこまでするのか、と。
「確かにゲルオク様は人種主義に傾倒しておられましたが、他害に及ぶほどでは・・・」
「レベッカの奴も身分には煩かったが、それは彼女が俺を格付けするためだったはずだ」
おふたりとも、彼らがそこまでの悪人ではないと考えているようです。
ところが実際に彼らはこの事態を引き起こしています。
何かその行動を後押しするものがあったのでしょう。
「あの。そもそも彼らに魔物を用意するなんてできるのでしょうか」
少なくともわたしには魔物を入手できる伝手が思いつきません。
貴族と言えど、どうやって入手したのでしょう。
わたしが疑問を投げると、レオンさんとソフィアさんははっとしたかのように顔を見合わせました。
そして合点したと言わんばかりに頷き合いました。
「これだけの魔物を用意できるような組織はひとつしかない」
「超自然主義の宗主、身を食らう蛇ですわ!」
◇
光柱で逆光となり、その姿を直ぐに認識することはできません。
その特徴的なシルエットから判断することができます。
ポニーテールは橘先輩。
高天原学園の女子の制服を着崩しているのは凛花先輩。
おふたりとも何をするでもなく立ち尽くしています。
「橘先輩! 凛花先輩!」
「さくら!」
「君たち。来たか」
おふたりのところへたどり着くと、噴水のところに誰かいました。
あれはキャメロットの制服・・・ゲルオクさんとレベッカさんです。
そしてその足元に倒れた人影・・・!!
「ああ、武さん!!」
「さくら!? 駄目、止まって!!」
倒れているのは武さん!!
思わず駆け寄ろうとしたわたしの腕を橘先輩が掴んで止めました。
「先輩、離してください!」
「駄目! 武が死んじゃう!!」
「!?」
その言葉でわたしの足は前進を止めました。
死んでしまう・・・!?
「どういうことですか!?」
「結界があるの! 武の魔力を使って動く結界が!」
「結界・・・!?」
「そう、あの短剣で! 結界が動くと武の魔力が・・・!!」
橘先輩の声が裏返っていました。
その悲痛な声が、近寄りたくても近寄れないジレンマを伝えてきます。
「ゲルオク閣下! まさか、穿つ聖域をお使いになられたのですか!?」
「おお、ソフィではないか。待っていたよ」
「お答えくださいまし! あのアーティファクトは起動すると吸い尽くすまで止まらぬとご存じのはず!」
「そのとおりだよ。この男と、高天原の龍脈。不要なものは有効に活用してあげないとね」
「な、なんてことを・・・!」
ソフィアさんが絶句していました。
そして、皆がその言葉に思考を奪われました。
「吸い尽くすまで・・・!?」
「ええ、その魔力を吸い尽くすまで止まらないアーティファクトですわ」
「抜くことはできるのか?」
「できますが、結界と同じ程度の魔力で抵抗されるはずですの」
「そんな・・・それじゃ、抜こうとするなら武さんの魔力を上回る必要があると!?」
その正体が判明したところで、武さんに刺さった短剣を抜くことはできません。
それ以前にわたしたちがあそこまでたどり着くことさえも・・・!
「クロフォード公爵令嬢。ずいぶんと詳しくご存知ですね」
「レベッカ様! 今すぐ終わりにしてくださいませ!」
「お生憎様、私は貴女が彼を諦めるまで終わりにいたしません」
レベッカさんはソフィアさんに敵意を向けています。
その表情は嫉妬。
誰が見てもそうわかるくらい、如実に口調にも表れていました。
「レベッカ。それは俺がそちらへ行くと言えば終わりにするということか」
「ああ、レオン様! そのとおりです!」
無表情のレオンさんがレベッカさんに問いかければ、彼女は花が咲いたような表情を浮かべました。
「ですがレオン様。すぐに心変わりされては私が困ります」
「どうすれば良いというのだ」
「申し訳ないのですが、そのお心が改心されるまでこちらをおつけくださいませ」
レベッカさんは何かを投げて寄こしました。
白い宝石のついた素っ気ない装飾をした首飾りがレオンさんの足元にかちゃりと落ちました。
「これは・・・」
「ええ『白魔装の首飾り』です。お付けになって、後ほどふたりきりでじっくりとお話しましょう。うふふ」
「・・・」
この状況でレオンさんに身に着けさせるもの。
彼を拘束なりするためのアーティファクトだと想像できます。
首飾りを拾い上げたレオンさんは、ただ俯いてそれを眺めるばかりでした。
「レオン様。この男に刺さるアーティファクトは暗号となる解呪の言葉でのみ止まります」
「・・・なに?」
「私だけが知っている言葉です」
「その言葉があれば武の魔力を吸い尽くすことなく、その短剣は抜けるのか?」
「ええ、そのとおりです」
「俺がこれを身に着ければ、そうすると」
「はい♪」
「・・・」
まるで恋人から贈り物を受け取るかのように、薔薇色の笑みを浮かべるレベッカさん。
頬を紅潮させ夢見るように嬉しそうにしています。
対するレオンさんは押し黙ったまま。
橘先輩も結弦さんも、ただ黙ってレオンさんを見つめていました。
「レオン様、お待ちくださいまし。それを身に着ける意味をご承知でしょう」
「だがどうするというのだ」
「わたくしがゲルオク閣下とお話をいたしますわ」
そうしてレオンさんを庇うよう、ソフィアさんが前に出ました。
「ゲルオク=フォン=リウドルフィング閣下! 貴方には貴族の矜持というものがおありなのですか!」
「おおソフィ、勿論だよ。だからこそ、この極東の島に君の心残りがなくなるようにしているのだよ」
「閣下、その矜持は誤っております! 貴方が今、駆逐されようとしている庶民なくして貴族は成り立ちません!」
「庶民だろうと我らに仇為すのであれば等しく浄化すべきなのだよ!」
「浄化ですって・・・!?」
彼は卑下た笑みを浮かべて武さんの身体を足蹴にしました!
「ぐうぅぅぅ!」
「武様!!」
「武!」
「武さん!」
武さんの苦しむ声。
それだけでわたしの身体がばっと飛び出してしまいそうでした。
それは彼の名を口にしたこの場の誰しもが同じだったようです。
それぞれが拳を握りしめ、震え、歯を食いしばっていました。
「こやつのような存在などまさに不要! この場で代行者たる使徒に屠られるのだ!」
「・・・」
「さぁソフィ、吾輩の元へ来るのだ。我らと国へ帰ろうぞ、さすればこの場など捨て置いても良いのだ」
「・・・」
ソフィアさんは拳を握りしめ腕を震わせていました。
彼女がゲルオクさんのところへ行けばこの場に用はないと。
「・・・わたくしが行けば、この場を収めていただけると」
「おお、そのとおりだよ、ソフィ」
「その言葉、二言はございませんか」
「リウドルフィングの名に誓おう」
その言葉を聞き、ソフィアさんが一歩、前へ出ました。
するとゲルオクさんはにたりと気持ちの悪い笑みを浮かべました。
そして懐からそれをソフィアさんに投げて寄こしました。
レオンさんが手に持つものと同じ首飾りを・・・!
「ソフィアさん!?」
彼女はぐっとその首飾りを握りしめました。
しばらく俯いたあと、レオンさんと顔を合わせました。
そうしてレオンさんとふたりで微笑を浮かべ、ふたりで頷き合いました。
「さくら、結弦。後のことは頼むぞ」
「レオンさん!?」
「お前たちと過ごすことができて楽しかったぞ」
静かに、諭すように彼は言いました。
「結弦様、さくら様。高々、半年でしたが。わたくしには生涯の宝物となりましたわ」
「相棒!? 待て!」
いつもよりも優しい口調でソフィアさんが言いました。
「香、武のことをよく見てやってくれ」
「凛花様、わたくしたちのぶんまでお願いいたしますわ」
「・・・」
おふたりの言葉に、橘先輩も、凛花先輩も。
目を合わせられぬまま、身体を震わせて下を向いていました。
それはまるで、これが別れだと言わんばかりに。
貴族が政治的に望まぬ婚姻をするとは聞いたことがあります。
ですが、こんなのは・・・あまりにも不条理です!
こんなの・・・駄目です!
「ああ! 駄目、駄目です! レオンさん!」
「さくら。他に手がないだろう?」
わたしは必死にレオンさんに翻意を訴えますが、彼は笑みを浮かべたままでした。
「相棒を信じてくれ! オレが、オレが何とかするから・・・!」
「ふふ、信頼しておりますわ。ですが申し訳ございません。わたくし、彼の苦悶を見続ける勇気がありませんの」
結弦さんの言葉にも、ソフィアさんは優しく微笑んで首を振るのみ。
そうしてわたしたちが止める間もなく。
皆を助ける糸口を掴むために。
おふたりは・・・その首飾りを身に着けてしまいました!
「ソフィアさん!」
「結弦様、さくら様たちですわ!」
「レオン! 無事だったか!」
「当然だ! そちらこそ手間取らなかったのか!」
学園広場へ走っているところでした。
別の遊撃隊にいたはずの結弦さんとソフィアさんに合流しました。
どうやら同じタイミングで学園広場へ向かっていたようです。
武さんの件で焦っていましたが、互いの無事を見て少し安心できました。
「さくら様! 武様についての続報は!?」
「ありません! 橘先輩の連絡にあった事務棟へ行くしかないです!」
「あの連絡からもう15分も経っていますわ! 早く参りませんと!」
「おい、あれは何だ!?」
レオンさんが声をあげます。
思わず皆、足を止めました。
わたしたちが指す方向、学園広場のあたりに光柱が立ち上がるところでした。
呼吸を整えながらその光柱に目を向けます。
柱に見えるほどの強い光なんて・・・。
超常的な出来事に不吉さを感じずにはいられません。
「・・・イベントで投光器を使っているわけではありませんわね」
「残滓が見える・・・あれは魔力の柱だぞ!」
「あんな量の魔力を!? どうやって!」
「あれは・・・龍脈に穴を開けているとしか考えられません!」
地下水のように大地に巡る魔力の流れ。
それが湖のように集まっている場所を龍脈と呼びます。
龍脈には質の良い魔力が高濃度で集まります。
そこでは魔力回復がよく進むとされています。
高天原学園が国内で有数の龍脈の上に作られている理由。
それは具現化を鍛えるうえで有用だと考えられているからです。
あの光柱は、その豊富な魔力が龍脈から飛び出ているのです!
「穴なんてどうやって・・・」
「恐らくはゲルオク様の用意したアーティファクトでしょう」
「!?」
その言葉に、皆がソフィアさんの顔を見ました。
「あの膨大な魔力を使い魔物を操作しているのかもしれません。封印の揺籠といい、予めそのつもりであったと推測できますわ」
「つまりはレベッカの奴も一緒にこの学園を壊滅させるつもりだったわけか」
「どうしてそんなことを・・・」
ゲルオクさんとレベッカさん。
ソフィアさんとレオンさんを慕っているからこの学園に来たはずです。
わたしの武さんへの想いを考えればその動機は十分に理解できます。
ですが、それが高天原学園を壊滅させる理由にはなりません。
最初はこの方法を取らず、わざわざトーナメント戦での勝負を持ち掛けたのですから。
「相棒、ゲルオクは頭が切れるほうかい?」
「ええ。少なくとも社交界で遅れを取ったことは見たことがありませんわ」
「なら、力で失敗したときの保険としてこの手段を考えていたんだろう」
「まさか・・・」
レオンさんもソフィアさんも吃驚したという表情を浮かべていました。
いくらなんでもそこまでするのか、と。
「確かにゲルオク様は人種主義に傾倒しておられましたが、他害に及ぶほどでは・・・」
「レベッカの奴も身分には煩かったが、それは彼女が俺を格付けするためだったはずだ」
おふたりとも、彼らがそこまでの悪人ではないと考えているようです。
ところが実際に彼らはこの事態を引き起こしています。
何かその行動を後押しするものがあったのでしょう。
「あの。そもそも彼らに魔物を用意するなんてできるのでしょうか」
少なくともわたしには魔物を入手できる伝手が思いつきません。
貴族と言えど、どうやって入手したのでしょう。
わたしが疑問を投げると、レオンさんとソフィアさんははっとしたかのように顔を見合わせました。
そして合点したと言わんばかりに頷き合いました。
「これだけの魔物を用意できるような組織はひとつしかない」
「超自然主義の宗主、身を食らう蛇ですわ!」
◇
光柱で逆光となり、その姿を直ぐに認識することはできません。
その特徴的なシルエットから判断することができます。
ポニーテールは橘先輩。
高天原学園の女子の制服を着崩しているのは凛花先輩。
おふたりとも何をするでもなく立ち尽くしています。
「橘先輩! 凛花先輩!」
「さくら!」
「君たち。来たか」
おふたりのところへたどり着くと、噴水のところに誰かいました。
あれはキャメロットの制服・・・ゲルオクさんとレベッカさんです。
そしてその足元に倒れた人影・・・!!
「ああ、武さん!!」
「さくら!? 駄目、止まって!!」
倒れているのは武さん!!
思わず駆け寄ろうとしたわたしの腕を橘先輩が掴んで止めました。
「先輩、離してください!」
「駄目! 武が死んじゃう!!」
「!?」
その言葉でわたしの足は前進を止めました。
死んでしまう・・・!?
「どういうことですか!?」
「結界があるの! 武の魔力を使って動く結界が!」
「結界・・・!?」
「そう、あの短剣で! 結界が動くと武の魔力が・・・!!」
橘先輩の声が裏返っていました。
その悲痛な声が、近寄りたくても近寄れないジレンマを伝えてきます。
「ゲルオク閣下! まさか、穿つ聖域をお使いになられたのですか!?」
「おお、ソフィではないか。待っていたよ」
「お答えくださいまし! あのアーティファクトは起動すると吸い尽くすまで止まらぬとご存じのはず!」
「そのとおりだよ。この男と、高天原の龍脈。不要なものは有効に活用してあげないとね」
「な、なんてことを・・・!」
ソフィアさんが絶句していました。
そして、皆がその言葉に思考を奪われました。
「吸い尽くすまで・・・!?」
「ええ、その魔力を吸い尽くすまで止まらないアーティファクトですわ」
「抜くことはできるのか?」
「できますが、結界と同じ程度の魔力で抵抗されるはずですの」
「そんな・・・それじゃ、抜こうとするなら武さんの魔力を上回る必要があると!?」
その正体が判明したところで、武さんに刺さった短剣を抜くことはできません。
それ以前にわたしたちがあそこまでたどり着くことさえも・・・!
「クロフォード公爵令嬢。ずいぶんと詳しくご存知ですね」
「レベッカ様! 今すぐ終わりにしてくださいませ!」
「お生憎様、私は貴女が彼を諦めるまで終わりにいたしません」
レベッカさんはソフィアさんに敵意を向けています。
その表情は嫉妬。
誰が見てもそうわかるくらい、如実に口調にも表れていました。
「レベッカ。それは俺がそちらへ行くと言えば終わりにするということか」
「ああ、レオン様! そのとおりです!」
無表情のレオンさんがレベッカさんに問いかければ、彼女は花が咲いたような表情を浮かべました。
「ですがレオン様。すぐに心変わりされては私が困ります」
「どうすれば良いというのだ」
「申し訳ないのですが、そのお心が改心されるまでこちらをおつけくださいませ」
レベッカさんは何かを投げて寄こしました。
白い宝石のついた素っ気ない装飾をした首飾りがレオンさんの足元にかちゃりと落ちました。
「これは・・・」
「ええ『白魔装の首飾り』です。お付けになって、後ほどふたりきりでじっくりとお話しましょう。うふふ」
「・・・」
この状況でレオンさんに身に着けさせるもの。
彼を拘束なりするためのアーティファクトだと想像できます。
首飾りを拾い上げたレオンさんは、ただ俯いてそれを眺めるばかりでした。
「レオン様。この男に刺さるアーティファクトは暗号となる解呪の言葉でのみ止まります」
「・・・なに?」
「私だけが知っている言葉です」
「その言葉があれば武の魔力を吸い尽くすことなく、その短剣は抜けるのか?」
「ええ、そのとおりです」
「俺がこれを身に着ければ、そうすると」
「はい♪」
「・・・」
まるで恋人から贈り物を受け取るかのように、薔薇色の笑みを浮かべるレベッカさん。
頬を紅潮させ夢見るように嬉しそうにしています。
対するレオンさんは押し黙ったまま。
橘先輩も結弦さんも、ただ黙ってレオンさんを見つめていました。
「レオン様、お待ちくださいまし。それを身に着ける意味をご承知でしょう」
「だがどうするというのだ」
「わたくしがゲルオク閣下とお話をいたしますわ」
そうしてレオンさんを庇うよう、ソフィアさんが前に出ました。
「ゲルオク=フォン=リウドルフィング閣下! 貴方には貴族の矜持というものがおありなのですか!」
「おおソフィ、勿論だよ。だからこそ、この極東の島に君の心残りがなくなるようにしているのだよ」
「閣下、その矜持は誤っております! 貴方が今、駆逐されようとしている庶民なくして貴族は成り立ちません!」
「庶民だろうと我らに仇為すのであれば等しく浄化すべきなのだよ!」
「浄化ですって・・・!?」
彼は卑下た笑みを浮かべて武さんの身体を足蹴にしました!
「ぐうぅぅぅ!」
「武様!!」
「武!」
「武さん!」
武さんの苦しむ声。
それだけでわたしの身体がばっと飛び出してしまいそうでした。
それは彼の名を口にしたこの場の誰しもが同じだったようです。
それぞれが拳を握りしめ、震え、歯を食いしばっていました。
「こやつのような存在などまさに不要! この場で代行者たる使徒に屠られるのだ!」
「・・・」
「さぁソフィ、吾輩の元へ来るのだ。我らと国へ帰ろうぞ、さすればこの場など捨て置いても良いのだ」
「・・・」
ソフィアさんは拳を握りしめ腕を震わせていました。
彼女がゲルオクさんのところへ行けばこの場に用はないと。
「・・・わたくしが行けば、この場を収めていただけると」
「おお、そのとおりだよ、ソフィ」
「その言葉、二言はございませんか」
「リウドルフィングの名に誓おう」
その言葉を聞き、ソフィアさんが一歩、前へ出ました。
するとゲルオクさんはにたりと気持ちの悪い笑みを浮かべました。
そして懐からそれをソフィアさんに投げて寄こしました。
レオンさんが手に持つものと同じ首飾りを・・・!
「ソフィアさん!?」
彼女はぐっとその首飾りを握りしめました。
しばらく俯いたあと、レオンさんと顔を合わせました。
そうしてレオンさんとふたりで微笑を浮かべ、ふたりで頷き合いました。
「さくら、結弦。後のことは頼むぞ」
「レオンさん!?」
「お前たちと過ごすことができて楽しかったぞ」
静かに、諭すように彼は言いました。
「結弦様、さくら様。高々、半年でしたが。わたくしには生涯の宝物となりましたわ」
「相棒!? 待て!」
いつもよりも優しい口調でソフィアさんが言いました。
「香、武のことをよく見てやってくれ」
「凛花様、わたくしたちのぶんまでお願いいたしますわ」
「・・・」
おふたりの言葉に、橘先輩も、凛花先輩も。
目を合わせられぬまま、身体を震わせて下を向いていました。
それはまるで、これが別れだと言わんばかりに。
貴族が政治的に望まぬ婚姻をするとは聞いたことがあります。
ですが、こんなのは・・・あまりにも不条理です!
こんなの・・・駄目です!
「ああ! 駄目、駄目です! レオンさん!」
「さくら。他に手がないだろう?」
わたしは必死にレオンさんに翻意を訴えますが、彼は笑みを浮かべたままでした。
「相棒を信じてくれ! オレが、オレが何とかするから・・・!」
「ふふ、信頼しておりますわ。ですが申し訳ございません。わたくし、彼の苦悶を見続ける勇気がありませんの」
結弦さんの言葉にも、ソフィアさんは優しく微笑んで首を振るのみ。
そうしてわたしたちが止める間もなく。
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