誰得☆ラリクエ! 俺を攻略するんじゃねぇ!? ~攻略!高天原学園編~

たねありけ

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第3章 到達! 滴穿の戴天

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■■小鳥遊 美晴 ’s View■■

 ようやく学園広場が見えた。
 あれが中央にある噴水で、あの屋台のエクスグランドがあった場所だ。
 その前に何人か集まってる。


「ジャンヌ、リアム」

「わかってる。誰か闘ってるわね」

「あれはレオンとソフィアかな~」

「え?」


 逆光だから遠目にはよく見えない。
 言われてみれば時折、緑や赤の光がぱしぱしと明滅してる。
 きっとあれは具現化リアライズのぶつかり合い。

 リアムさんには誰だかも判断がつくようだった。
 眼鏡をかけているのにどうして視力がそんなにあるの?
 まだ100メートル近く離れているのに。


「穏やかではないわね。様子を見ながら近づいて」

「わかった」


 足を止め、皆が揃ったことを確認したジャンヌさん。
 前を向いてゆっくりと歩き始めた。
 槍に両手を添えていることから警戒していることがわかった。

 さっきまでの魔物も十分に怖いと思ったけど。
 この事態を引き起こした何かがあるんだ。
 だからもっと危ないことがあるに決まっている。

 ここに来るまでに抱いていた変な高揚感はまだ続いていた。
 怖いことがあっても飛び込んでいけるくらいには。

 進んでいくと腰まである長い髪の女の人がこちらへやってくるのが見えた。


「ジャンヌさん!」

「! さくら! 結弦まで」


 九条先輩だ。
 大型の魔物の迎撃が終わったんだろう。
 橘先輩もそこにいた。
 向こうで闘っているのはレオンさん、ソフィアさんと・・・凛花さん!?
 その向こうにも誰かがいる。


「澪さん! 来てくれたのね」


 そのひとことでこの場で彼女たちの手に負えない何かがあるとわかってしまった。
 同じように察した大先輩のお姉さんが、優しい声で言った。


「無事で良かったわ、香。早速で悪いのだけど状況を説明して」

「ん。みんな、落ち着いて聞いて」


 促され、橘先輩はゆっくりと話し始めた。
 簡潔に事実を述べる彼女が、それを取り乱さずに説明できることが不思議だった。


 ◇


 皆が押し黙っていた。
 説明された状況を覆す手段が誰も思いつかなかったからだ。
 さっきまでの高揚感は嘘のように消えた。
 絶望的な状況がきりきりと私の胸を締め付ける。
 自分の無力さを改めて知るだけだった。


「先輩が、死んじゃう・・・!」


 私の声に九条先輩は目を背けた。
 最悪の結果を受け入れたくない、受け入れないために。
 まだ諦めていないからこそ私の発言を受け流したんだろう。
 軽率にあって欲しくない可能性を口にした自分が恥ずかしくなった。

 でも、どうすれば良い?
 すぐにでも先輩のところへ駆け付けたいのに!
 私だけじゃない、皆がそうだ。

 時間だけがじりじりと肌を焼いていく感じがした。
 そんな中、うんうんとひとりで頷いて考えを纏めている人が居た。


「アレクサンドラめ、そういうこと。請求は覚悟しておくのね」


 大先輩のお姉さんが無表情のまま、苛立ったように呟いた。


「皆、方法があることにはあるの。反魔結界アンチフィールドを弱めて突破する方法が」

「「「どうすれば!?」」」


 橘先輩と九条先輩、そして私の声の食い気味な声が被った。
 結弦さんと響ちゃんが目を丸くするくらいに。


反魔結界アンチフィールドは、反魔結界アンチフィールドを逆向きに重ねると相殺できる。それで斥力を下げれば通過できる」

「その、澪先輩は反魔結界アンチフィールドを使えるのですか?」

「ええ。魔法を専属で習っていればどの属性でも上級魔法として教えているはずよ」

「どの属性でも? それでは、わたしやジャンヌさんでも可能なのですか」

「可能よ。普通・・の魔力なら」


 その言い回しで問題があることを皆が悟る。
 食い気味な九条先輩も大先輩のお姉さんの言葉を待った。


反魔結界アンチフィールドは使われている魔力の対立属性に対する斥力を生む」

「対立属性。土ならば風、火ならば水、ですね」

「だから普通なら対立属性の反魔結界アンチフィールドを重ねるの。でも武さんの魔力は白。白とは、すなわち全属性のこと」

「全属性・・・え!? 魔力なら何でも跳ね返すということですか!?」

「そう。だから、あの結界は魔力を帯びたものは何も通れないの」


 そこまでの説明で誰しもが状況を理解した。
 白属性の反魔結界を用意する必要がある、と。


「幸いに私なら白属性の反魔結界アンチフィールドを生成できるわ。ただ、問題があるの」


 言い淀んだ大先輩のお姉さんに皆が傾注した。


「仮に同レベルの魔力で結界を重ねても完全に相殺することはできない。強行突破する際に僅かながら抵抗を受ける。その抵抗を受けにくい人が行く必要があるの」

「誰なら行けるの?」

「反魔は魔力のない人・・・AR値の少ない人なら、抵抗が少ないわ」

「少ない人?」

「そのとおり。美晴、響。アレクサンドラの選んだ貴女たちならできる」


 大先輩のお姉さんに指され、私と響ちゃんは顔を見合わせた。
 そして理解した。ぞくりとした。
 アレクサンドラさんに与えられた使命はこれだったのだと。


「結界の抵抗が少ないと言ってもかなりの影響を受ける。覚悟がないならこの方法は取れないわ。どう、やれる?」

「やる。やります!」

「あたしもやるぜ~」


 私も響ちゃんも即答だった。
 あの状況の先輩を前にしてやらない理由はなかった。


「もうひとつ、問題があるの」

「なんですか?」

「相殺は出来るだけ同じ強度の反魔結界アンチフィールドを重ねる必要があるの。そうしないと十分に弱まらない」

「それはつまり武さんと同レベルの魔力で、ということですよね?」

「ええ。ただ私は彼のAR値を知らないの。相当に高いということだけわかっているのだけれど」

「え、武のって・・・彼、AR値92よ!?」


 橘先輩が叫んでいた。
 皆が彼女に注目すると、しまったと両手で口を塞いでいる。
 こんな事態だというのにちょっと可笑しかった。
 ・・・先輩、ゼロだって言ってたのに。
 そんな、世界記録的なAR値があったの?


「ごめん。今の、聞かなかったことにしてくれる?」

「いや、今は正確な数値が必要。各位が黙秘すればいい。必要なら誓約させる」


 橘先輩のやらかしを大先輩のお姉さんが取りなしていた。
 誓約って何だろう?
 と、今はそのことよりも・・・。


「誤算だわ、まさかそんなに高いとは・・・。これでは強行突破するにしても反動が強すぎる」

「でも、92って・・・」

「うん、強度92の結界なんて私では・・・いえ、世界中の誰にもできない」

「どうにかできないの?」

「・・・方法はあるのだけれど。現実的でない」

「「「何をすれば!?」」」


 私たちはまた食い気味に被った。
 手繰り寄せることができるものならば、何だって手繰り寄せるつもりだった。


「実現可能性はゼロに近いのよ。時間の無駄だわ」

「それでも教えてください!」

「・・・誰かが私と魔力導通マジック・リンクでパスを繋いで魔力を共有すれば、私の出力を底上げできる」

「武さんが前に使っていたのを見ました。受け取ることもできるのですね」

「ええ。魔力を行き来できるようにする魔法だから。それで繋いだ人の魔力も使うことができる」

「でも、それでは繋いだ人の属性になってしまうのでは」

「うん。だからそのままでは白属性とならない」

「この場に白属性なんて聖女様とタケシ以外にいないわ」

「だから作るの。4属性の魔力を混合させれば白になるわ」

「え!? そんなことが可能なのですか!?」

「本来はレゾナンスで実現するのだけれど・・・貴女たちはまだそこまで通じていないでしょう。それは私が何とかできる」


 皆、息を飲んだ。
 そんな曲芸みたいなことができるんだろうか。


「私のAR値が52。混合やパスのロスを考えると各属性60近く必要になる」

「60・・・!?」

「私が同時に繋げるパスは4つが限界。だから、4人で揃える必要がある」

「「「・・・」」」


 そこで現実的ではないという意味を知った。
 この場に、各属性のAR値60の人を連れて来るなんて。
 希望が見えたと思った直後に奈落へ突き落された気分だった。


「嘘・・・各属性の、ですよね・・・」

「あ? そんなん探してもいねーよ。AR値60なんて1億人にひとりじゃん」

「いるわけないじゃない・・・」


 私と響ちゃんと橘先輩と。
 揃って諦観を抱いてしまうくらいに、その方法が非現実的な話だと悟った。
 そんなにAR値が特別に高い人がいるなら世界中が黙っていない。
 要人を引っ張ってくるようなものだ。
 仮にいたとしても今すぐこの場に連れてくるというだけでも無茶だというのに。


「あの・・・」


 おずおずと九条先輩が手を挙げていた。
 そうしてリアムさんとジャンヌさん、結弦さんに目配せをしていた。


「わたしは水属性のAR値65です」

「僕は土属性でAR値58だよ」

「あたしは火属性で61」

「オレは風属性で60だ」

「「「「え?」」」」


 無理だと思っていた皆が、揃って声をあげた。
 だって、そんな・・・そんな奇跡みたいなことが起きようとしているんだから!


「貴女たち、提供したら魔力が底をつくのよ? それでも良いの?」


 九条先輩たち4人は迷わずその問いに肯首していた。
 それを見たお姉さんが・・・僅かに口角をあげていた。


「ならこの作戦でいく。全体を整理するのでよく聞いて」


 ◇


「どうしたぁ、黄色人種イエローモンキー!! その程度か!」

「は! さすが宮廷のボンボンだな、口ばかりが回るね!」


 向こう側で凛花さんを詰っているゲルオクさん。
 凛花さんは苦戦しながらも強気に返している。

 彼女はレオンさんやソフィアさんを怪我させないように立ち回っていた。
 いくら強くたって具現化リアライズされた武器を相手に無手の防戦は厳しそうだ。

 ばちぃぃぃん! がきん!

 レオンさんの剣撃を躱し、ソフィアさんの突きを受け流し。
 私が見えるくらいの速度だからレオンさんもソフィアさんも本気じゃない。
 操られているせいなのだろう。
 それでも飛び散る赤や緑の火花が、その激しさを物語る。


「ほんと、羽虫みたいにうろちょろと逃げ回るのね、鬱陶しい。ほうら、プレゼントよ!」


 赤毛のレベッカさんが狙いをつけて槍を投げようとしている。
 その先にはレオンさんの大剣を受け止めて足を止めた凛花さん。
 ・・・危ない!!


「凛花さん!!」


 投擲された槍が凛花さんの脇腹を貫いた!
 血飛沫と共に、その槍は地面へと刺さった。
 あんなの、死んじゃう!


「がふっ!? 文字通り横やりとは、良い趣味してるじゃないか」

「ギャラリーも増えたことだし、そろそろお終いにしなくちゃね」

「そりゃいいね。・・・ぉぉぉおおおおおお!!」


 その状態でも凛花さんは冷静に、レオンさんの剣を押し返し、ソフィアさんの突きを弾いていた。
 すごい・・・あれでも平気そうに動いてる!
 体育館で見た試合とは比べ物にならない。
 すぐそこで闘っている凛花さんの背中が巨人のように大きく見えた。


「おい美晴」

「は、はい!?」

「澪が来たんだろう、用意・・はできたか?」


 私に背中を向けたまま、凛花さんが小声で尋ねていた。
 用意。先輩を助ける算段のことだ。


「で、できます。あと1分くらいです」

「そりゃ良い。こっちはもう限界だからな」

「え?」


 見れば凛花さんの足元が血溜まりになっていた。
 あんなに血を流してる!?
 さっきの槍!?
 ううん、それだけじゃない。
 よく見れば腕だってぼろぼろだ。
 身体にも血の滲む傷がたくさんあった。
 あんなの、いつ倒れてもおかしくない!

 もどかしい! 何も出来ない自分が!
 あんなになっている人をここで見守ることしかできないなんて!


「任せたぞ。うまくやれよ!」


 彼女の返事はとても軽やかだった。冗談を言うくらいに。
 私が返事をする間もなく、凛花さんは飛び出した。
 防戦だけの終わりのない闘いに。
 こんな私を、この場の人たちを信じている。
 凛花さんのその姿に・・・私の胸が熱くなった。

 レオンさんとソフィアさんを相手にばちん、がきんと派手に闘い始めていた。
 防戦ばかりだったのに、地面を派手に殴りつけたり。
 あれはきっと、向こうに気を引き付けるために・・・!


「混合は終わったわ」


 後ろから大先輩のお姉さんの声がした。
 大先輩のお姉さんの後ろに4人。
 九条先輩に結弦さん、ジャンヌさん、リアムさん。
 皆、お姉さんの背中に手を添えていた。
 あれできっとパスを繋いでいる。

 お姉さんの周りに白いモヤが見えた。
 あれが・・・AR値90近い魔力!
 私にも見えるほどの濃さだ。


「香、美晴、響。準備は良い?」

「は、はい!」

「いつでも良いわ!」

「いけるぜ~」


 前を見て構える。
 ちらりと後ろを見ると、九条先輩が微笑して頷いてくれた。
 「お願いしますね」と。
 誰もが同じところを目指している。
 その想いを受け取った気がした。

 徒競走のスタートラインのように。
 私の横に構えているのは響ちゃん。
 少し前に橘先輩がいた。

 そして審判のように合図をするのは大先輩のお姉さん。
 ゴールである先輩のところまでは、おおよそ50メートル。
 障害物がなければひといきで駆け抜けられる距離。


「走って!」


 私は地面を蹴った。
 橘先輩が先頭を行く。
 少し遅れて私と響ちゃんが続いた。

――私と4人は結界発動で魔力をほとんど使う。一時的に戦うことはできないから、残った3人で武さんを助けるしかない。

 目は正面を見据えてる。
 あそこで倒れて苦しそうにしている先輩。
 あの忌々しい短剣を抜き放つんだ!


「きゃは! 下民が自棄になったってわけぇ!?」


 私たちが同時に駆けるのを、レベッカさんが見下すように嗤っていた。
 今はあなたのことなんてどうでもいい。
 先輩を・・・。
 先輩を助ける!!

――関門は4つある。協力してぜんぶを乗り越えて。

 半分より少し手前。
 私たちが結界に到達するタイミング。
 後ろからお姉さんの大きな声が聞こえた。


「――静謐を齎す雄大なる護りの力よ、ここに!」


 ばしん!
 高速鉄道の列車がトンネルを抜けたときのような大きな音が周囲を走り抜けた。
 私と先輩の間に、半透明の白い膜が見えた。
 それは先輩を同心球状に包んでいって・・・もういちど、ばしん、と音を立て、白い光を放った。
 きっとこれで・・・結界が相殺したんだ!


「な、なにをした!?」


 慌てるゲルオクさんの声が状況が変化したことを告げる。

――1つ目の関門。結界に手を出せば彼らは黙っていない。先頭を走る人がまず狙われる。


「く、走破雷撃ライトニング!」


 ばちばちと前方のゲルオクさんから雷が放たれる。
 その電撃は先頭の橘先輩へと向かった。


――なら、先頭は私で決まりね!

「きゃああ!!」


 雷を受けた橘先輩がごろごろと地面を転がった。
 きっと酷い火傷をしている。
 でもそっちは見ない。
 見ても何もできない。
 残った人が受け継ぐ、そう頷き合ったから!
 だから私は足を止めない。
 余計なことは考えない、前のことだけを考える!

 そうして私は結界の場所に来た。
 地面に同心円の跡があったからすぐにわかった。

――2つ目の関門。結界は完全に無効化できない。相殺しきれない部分で抵抗される。でも魔力・・・AR値の低い貴女たちならほぼ抵抗がないはず。痛みを感じるけれど、微弱な結界なら死ぬことはない。突き抜けて。

 お姉さん、そんな大雑把な説明じゃ結界に触れて何が起こるのかわからないよ。
 でも痛いことは間違いない。死ぬなんて言うくらいだから。
 電気ショックかな。火傷はするかも。
 痛いのは嫌だな。
 私の覚悟が試されているようだった。

 脚が竦み立ち止まって1秒。
 響ちゃんもそこで立ち止まっていた。
 考えてることは同じかな。
 怖いよね。怖い。怖い!

 崖から飛び降りるような感覚だった。
 怯える私の瞳に、すぐそこにいる先輩の横顔が映った。
 先輩・・・!!
 私の脚は、自然と前に出た!

 先に両手を突っ込む。
 ばちん、と静電気を受けたような強い痛みが走る。

 ばちばちばちばち。


「いやあああぁぁぁ!」


 肩が、胴体がその電流の渦へ飛び込んだ。
 全身に電気を流されているかのように激しい痛みが走り続ける。
 痛い、痛い、痛い!!
 これが『微弱な結界』!?

 ばちばちばちばちばち。


「いたああぁぁぁぁぃぃぃ!!」


 身体が、脚ががくがくと震えてしまう。
 膝が笑って言うことを聞かない。
 脚が止まってしまう。
 思考が真っ白になる!
 ・・・脚を、前に!!


「ぐうぅぅぅ!!」


 ばちばちと煩いはずの耳に届く先輩の声。
 その声が私の心を締めつける。
 これは先輩の魔力。
 この痛みは先輩の痛み。
 先輩の・・・!!

 脚、動け!
 先輩のところまで、動け!!
 動いて!!!

 ばちばちばちばちぃん・・・


「ぁぁぁああああ!!!」


 抜けた!!

 全身が正座の後の足の痺れのようなざわざわとした感じになっていた。
 身体は動くけれど5感が失われうまく動いているのかどうかもわからない。
 駄目! 止まっちゃ、駄目!
 行くんだ!

――3つ目の関門。結界内に入ると彼らが止めに来る。誰か・・が捨て身で飛びついて止めて、その間に残った人が武さんの短剣を抜くの。だから2人は結界に入れないと詰む。

 誰かって、3人しかいないんだから。
 残っているとしても響ちゃん。
 響ちゃん、抜けられた・・・?
 もう確認する余裕もない。
 立っているだけで精一杯なくらいだから。

 ふらふらとする脚を動かした。
 ただ先輩を目指して。
 動いて、動いて!

 先輩に手が届きそうな位置まで来たとき。
 レベッカさんが私の横に立っていた。


「癖の悪い端女ね。ほうら、跪きなさい!」


 苛立っているような声とともに、彼女は槍を振り上げていた。
 振り下ろされるそれを躱す元気も気力もない。
 私はただ、先輩に向かって脚を動かすだけだった。

 私ができるのは進むことだけ。
 なら、先輩のところまで行ければそれでいい。
 倒れても先輩に触れられればそれでいい。

 私はぎゅっと目を閉じた。
 脚だけはそのまま動かして。
 あと、3歩。


「みーちゃん! 行け!!」

「ぎゃっ!? 何を・・・ふざけるな!!」


 大先輩のお姉さんの作戦どおり。
 視界の隅で、響ちゃんがレベッカさんに飛びついたのが見えた。
 作戦どおり、身を呈して私を守ってくれていた。


「うぐっ!! 離さねー!!」

「この・・・死ね!!」

「響ちゃん!?」

「みーちゃん!! いいから行けー!!」


 前へ。
 響ちゃんを助けなきゃ、という想いさえも捨てて。
 足を動かす。


「貴様・・・!」


 向こう側でゲルオクさんの声が聞こえた。
 でも、私が先に先輩にたどり着いた。
 膝をつき、先輩の身体に手を添える。

――最後の関門。穿つピアッシング・聖域サンクチュアリは手をかけられると結界と同程度の抵抗をする。AR値が低いなら影響は少ないけれど、手にかけたら迷わず、止まらず引き抜いて。


「せん、ぱい・・・! 今、抜きます!!」


 さっきので手のひらの感覚もなかった。
 何となく、触っているのかな、という程度の感触のまま。
 両手でその忌々しい短剣に手をかける。

 ばちばちばちばちばち。


「ああああぁぁぁ!」


 私の両手が、両腕が電気が走ったみたいに何かが弾けていた。
 身体まで伝わるそれは結界のときよりも強い刺激。
 もう痛みは感じないけれど・・・腕が言うことを聞かない。
 これじゃ抜けない・・・!!


「があああぁぁ・・・た、かなし、さん・・・」

「!!!」


 その声を聞いたその一瞬に。
 私の中にあった気持ちが溢れ出た。
 先輩、先輩、先輩!!
 私、先輩のところまで来たよ!
 先輩を助けるために!
 もう苦しまないで!!

 そうして自分に出来ることが何かを、頭が全力で考えていた。

 そうか、簡単なこと。
 腕が動かせないなら身体を使うんだ。
 身体が動かせないなら脚を使うんだ。
 
 電気のような刺激で痺れた腕は力が入りっぱなし。
 短剣を掴んだ私の両腕はしっかりと固定されていた。

 ばちばちばちばちばち。


「ぁぁぁああああ!」


 私は立ち上がった。
 でも脚が笑っていて半立ちの姿勢まで。
 そのままバランスを崩して横に倒れた。
 両腕はしっかりと短剣を握りしめたまま。

 先輩の身体から、短剣は抜けていた。

 倒れながら、私は歓喜していた。

 できた。
 私にも、できた。
 みんなの想いを、ここまで繋げた。
 少しは主人公ヒロインらしくなったかな。

 先輩・・・。
 先輩・・・!
 私はやっぱり、貴方が大好きです!
 みんなが・・・貴方を・・・好きなんです!




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