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第4章 解明! 時空の迷路
109
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武器棟や魔法棟、体育館といった大規模施設がひしめく高天原。
トレーニングルームもそのひとつで日曜日でもそれなりの学生が出入りしている。
庭園でのお茶の後、俺はそのトレーニングルームに居た。
「先ずは大きな部位を中心にやる。小さい部位も一緒に鍛えられるからな」
「ほー」
「ダンベルベンチプレスかチェストプレスを使うといい」
「じゃ、チェストプレスを・・・」
レオンに声をかけたところ、一緒に筋トレをすることになった。
前にもいちど筋トレに付き合ったことはあるが、それは屋外で。
こうして本格的に彼とご一緒するのは初めてだった。
「お前なら重さはこんなものだな」
「げっ・・・重すぎんだけど」
「やればできる」
・・・。おいまさか脳筋発言じゃねぇよな。
引っ張ってみても前に動かねぇんだけど。
「設定、体重の何%にしてる?」
ちなみにこのトレーニングマシンたちも未来仕様。
座ったら自動で体重を検知して、体重の割合で重さを指定できる。
一般的な目安とかもわかりやすい。
「250%だが」
「動くわけねぇだろ! 軍人か!!」
ちょっと!
わかりやすいっても、設定する奴の頭がアレだったよ!
初心者向けなら体重の80%くらいだって、これ。
俺が多少、自力で頑張ってるっても自分の重量の2倍を動かせるものじゃない。
お前、自分基準で考え過ぎ。
「せめて150%くらいにしてくれ・・・」
「む、わかった」
そうして何とか筋トレを始める俺。
十分重いって、これ。すぐ筋肉痛になれそう。
残念そうな顔をしながらも、俺が始めるのを見て彼もチェストプレスを始めるようだ。
設定、300%になってるけどね!?
「ふっ・・・!」
そして平気な顔でカウントアップしていくレオン。
うん、さすが主人公で腕力がトップなだけある。
彼は典型的な戦士タイプだからな。
・・・こいつは俺にそれと同じレベルを求めてんのかな?
「次は何をやんだ?」
「腕立て伏せだな」
「回数は?」
「いきなり1000だと厳しいだろう、100を目指そうか」
「は?」
ちょっと待て。言い直す前の桁がおかしい。
100でも十分、一般人にはきついんだけど。
俺も時間があるときはやってるけど、何回かにわけて1日にやる回数だよ。
1セットでやる回数じゃねぇって。
「いくぞ。1、2、3・・・」
「はっ、ふっ、はっ!? 早ぇよ!!」
文句を言うとレオンは怪訝な顔をする。
「それでは時間が足りなくなる」
「お前はお前のペースでやってくれ。俺は自分のペースで十分だよ」
「む、そうか」
一緒にトレーニングができて嬉しいが、俺がついてきてくれなくて残念。
そんな雰囲気だよこれ。
ううむ、彼の要望には応えてやりたいんだが・・・物理的に限界が。
せめて目標として示された100回を・・・くそ、きつい!?
「56、57・・・」
いや無理だろこれ!?
もう腕が固まってきたぞ・・・!
額から汗が出てくるし震えてるって!
「73、74・・・」
くそくそ、何とか100までは・・・!
「・・・っ90! ・・・っ91!」
あと、あと少し・・・!
「・・・・・・99! ・・・・・・100!」
ぐおおおぉぉぉ!
やったぞ!!
ばたり、と床に身体を落とす俺。
肺に酸素を送り込む。
汗で床が濡れていく。
ああ・・・腕が熱い。
これ絶対、筋肉痛になるやつだ。
「やればできただろう」
「ああ・・・何とかな・・・」
爽やかに汗を流しながらレオンが横に立つ。
ちなみにこいつは500回以上やっていた。すごすぎ。
ほんとに1000回、普段からやっていそうだな。
「お前は小柄なのだから押し負けないよう、もう少し筋力をつけたほうがいい」
「そんなに小柄じゃねぇだろ!?」
身長175cmって小柄!?
・・・いやもうさ、主人公の特異体質と比較しちゃいかんことがわかった。
正直、こいつから見れば俺は赤子同然なんだな・・・怖ぇよ。
◇
その後、腹筋やレッグプレスをこなした頃には俺はぐでぐでになった。
無理・・・もう無理・・・。
「1週間も続ければもう少しできるようになる」って、そりゃあね!
そんだけ追い込めば見違えるだろうよ!
今日だけで向こう1か月ぶんくらいの筋トレしたぞ・・・誰か褒めてくれよ・・・。
デロデロになってベンチで休む俺。
レオンがスポーツドリンクを持ってきてくれた。
【Thanks, for yor kind】
【No problem】
気軽な呼びかけ親しみを込めて母国語でね。
そう思って英語で会話をしてみる。
いや、英語なんて大してわからねぇよ?
リアルなら小学生でも知ってる簡単なやつ。
「うん? 日本では英語を教えなくなったと聞いていたが」
「あ、ああ。親が趣味で多言語やってたんでな。簡単な挨拶なら小さい頃に耳にしてたんだ」
ごめん両親、例により言い訳に活用させてくれ。
危ねえな、変なとこで俺の知らない変化があったよ。
つか日本人、英語やらなくなったのか。
確かに中学じゃ世界語しかやってなかったけどさ。
カタカナ英語はいっぱい残ってんのになぁ。
「ほう、それは博学なご両親だな。会ってみたいものだ」
「あ~、ちっと前に事故で死んじまってな。すまんが叶えてやれん」
「む、そうだったか・・・」
ちょっと気まずい雰囲気。地雷じゃないから平気だぞ。
「気にすんな。お前との仲だろ」
「そうか、ありがとう。・・・そうだな、詫びと言って釣り合うかわからないが俺の昔の話も聞いてくれ」
「昔の話?」
おう、お返しにって?
ドリンクから口を離すと、天井を見上げながらレオンは話し始めた。
◇
・・・
・・・・・・
彼の生まれはイギリスはロンドン。
アインホルン侯爵家の次男として生まれる。
21世紀後半の平和な時代は商家として名を馳せた家柄。
財を築き貴族社会での地位をあげていった。
彼は貴族としての教育を受けるが窮屈な社交界は肌に合わなかった。
「それに親の言うとおりにしたくないと感じることが多くてな」
彼は家を抜け出して裏路地の子供たちと遊ぶことが多かった。
5歳から10歳くらいまでの小さな子供たちの社会だ。
下らない遊びも、その日に食べるものを確保するのも、皆で一緒。
喧嘩もよくあったがとても楽しかったそうだ。
「だがよく親父に叱られた。身分を弁えろ、と」
身分差は互いを不幸にする。
庶民のシンデレラが王族の王子様と結婚ができないよう。
物語では夢のように解決することが現実では壁になる。
レオンを想った父の忠告も、反抗心を抱く彼には届かなかった。
「俺の兄、カイはそんな俺をよく庇ってくれたものだ。市井を知るも貴族の嗜みと言って」
レオンを庇い、レオンの話をよく聞いて、的確なアドバイスもする。
カイは理想の兄を体現したような存在だった。
歳が15も離れていた兄の優秀さは幼心にも理解できたという。
理解のある兄のおかげで彼は裏路地での子供社会に溶け込んだ。
それは彼の人間性や社会性を高めるのに大いに役立ったという。
だが時間は残酷なもので、その環境は長く続かなかった。
「希望の十字軍・・・第二次魔物討伐にカイは参加していた」
知っている。説明書にも書いてあるラリクエの歴史。
西暦2200年、人類は魔物討伐を掲げて魔物の本拠地、ムー大陸に2度目の遠征を敢行したのだ。
主導は世界政府だが、その中核組織となったのは欧州にあるキャメロット。
東亜の高天原。
北米のトゥラン。
そして欧州のキャメロット。
世界で3つしかない新人類戦士の育成機関。
その生徒や卒業生は人類の希望であり、持てる者に課せられた使命を併せ持つ。
「カイはキャメロットで有数の成績を残した。世界戦線では指揮官をしていたと聞く」
指揮官。
きっとキャメロットでは成績優秀者であったに違いない。
若くして世界戦線で抜擢されるくらいなのだから。
希望の十字軍で優秀に立ち回ったのは想像に難くない。
「知ってのとおり遠征は失敗に終わった。兄も帰らぬ人となった」
そう。希望の十字軍は魔王の存在を確認したものの退却を余儀なくされた。
殿を務めた欧州の新人類が多く犠牲になったと伝えられている。
彼の兄はその中心にいたのかもしれない。
「兄を失った父はよほど落胆したのだろう。ひとり酒に逃げるようになった。幸い商売は家人がうまくやっているので身分を追われることはなかったが」
彼に残されたのはアインホルンという家だけ。
早くに亡くなっていた母はおらず、唯一の肉親の父は酒の勢いで彼に強く当たるようになった。
当然、反抗をしたが大人と子供。
家庭の事情が悪化したこともあり裏路地にはなかなか顔を出せなくなった。
「そんなときだった。あの事件が起きたのは」
ある日、久しぶりに裏路地に顔を出したところ、黒服の男たちが子供の溜まり場にいた。
レオンは只ならぬ雰囲気を察し、隠れて近付いた。
するとどうだ、その男たちはレオンを待ち構えていたのだ。
マフィアなのだろう、アインホルンへ身代金を要求するという話をしている。
レオンを誘い込むように裏路地の子供たちをロープで縛って。
無駄話を吹いてレオンに状況を察せさせるくらい、暇を持て余して待っていたようだった。
「無力な俺は、あんな父でも助けを求めるしかなかったのだ」
事態を把握した彼は家へ戻り父に訴えた。
だが「裏路地には行くなと言っただろう!」と叱責され部屋に押し込まれる。
自分が行かねば彼らは殺されてしまう。
そう思ったレオンは軟禁されていた屋敷を抜け出し、再度、裏路地へ向かった。
なんとかして戻った裏路地で彼が目にしたものは凄惨なものだった。
一向に来ないレオンに業を煮やしたのだろう、子供たちが暴行を受けて倒れていた。
レオンが声をかけてまわるも事切れている者が多かった。
「死んだのだ。あいつも、あいつも・・・!!」
俺が遅かったせいで!
あのとき姿を現していれば!
俺がこの場所に通わなければ!
打ちひしがれる彼は、近くをうろついていた例の黒服の男を見つける。
怒ったレオンは殴りかかったが、やはり大人と子供、簡単に殴り飛ばされた。
そしてそのまま暴行を受けた。
全身を殴打され意識が遠のく中で無力感に苛まれた。
もっと自分に力があれば、こいつらを守れたのに!
もっと自分に力があれば、こんな奴らを近付けなかったのに!
もっと自分に力があれば、父の言う事など無視をできたのに!
もっと自分に力があれば――
彼は叫んだ。
逆上して意識が飛んでいた。
そうして気付いたとき、彼の手には一振りの剣が握られていた。
重さも感じない、赤く光るその大きな剣。
周囲に倒れ伏す黒服の男たちはその初めての餌食となっていた。
後にわかったことだが、カイが存命の頃はそういった不穏分子が近付かぬよう手配していたらしい。
すべてはレオンの預かり知らぬところで収まっていたのだ。
年齢も、身長も、体重も、知識も、経験も、財力も、人脈も、何もかもが足りなかった。
そうして彼は欠けることのない力を追い求めるようになる。
・・・・・・
・・・
◇
「弱い者は虐げられる。俺のこの力は弱者のための牙だ」
気付けばスポーツドリンクは空になっていた。
ひとしきり話し終えるとレオンはすっきりとした顔をしていた。
「俺の両親の話に比べて、随分と天秤が傾く話をしてくれたな」
「武、お前との仲だろう」
「・・・はは、そうだな」
隠すことはない。
俺はお前の話を聞いた。
お前は俺の話を受け止めた。
それでもここにいるじゃないか、と。
互いに口角が上がるくらいには信頼を感じていた。
「お前は強い。俺の傍に来る死神に負けないくらいに」
「俺が?」
「隣に立てる日を楽しみにしているぞ」
レオンはそう言うとタオルを肩にひとりでトレーニングルームを出ていった。
静かになった部屋の片隅で、俺は手に持ったスポーツドリンクに口をつける。
甘くてしょっぱい味。
この生理食塩水に味をつけたものはいつの時代も独特の味がするものだ。
「隣に立てる、ね」
俺はぼやいた。
レオンが過去を語るのは彼への攻略が進んだとき。
具体的にはさくら、結弦、ジャンヌでレオンルートを進めると聞ける話だ。
そうして最後に「隣に立てる」というセリフを言うのだ。
・・・いやね、どうして俺がレオンを攻略してんだよ。
他の連中と比べてもそんな好感度を稼いでないはずなんだが。
ううむ・・・誰も彼も、ほんとにもうあと一歩のところまで来ている。
正直、レオンとは心地良い男友達という認識でいた。
最近は何となく親友と呼べるくらい深い交流が増えたように思うし。
今日なんか特に顕著だ。
だけどなぁ・・・。
友情から来る共鳴ってどのくらい踏み込めば発動しちゃうの?
・・・もう本格的に距離を置くしかねぇのかな。
溜息しか出てこねぇ。
考えれば考えるほど、先輩たちの作戦に賛同せざるを得なかった。
トレーニングルームもそのひとつで日曜日でもそれなりの学生が出入りしている。
庭園でのお茶の後、俺はそのトレーニングルームに居た。
「先ずは大きな部位を中心にやる。小さい部位も一緒に鍛えられるからな」
「ほー」
「ダンベルベンチプレスかチェストプレスを使うといい」
「じゃ、チェストプレスを・・・」
レオンに声をかけたところ、一緒に筋トレをすることになった。
前にもいちど筋トレに付き合ったことはあるが、それは屋外で。
こうして本格的に彼とご一緒するのは初めてだった。
「お前なら重さはこんなものだな」
「げっ・・・重すぎんだけど」
「やればできる」
・・・。おいまさか脳筋発言じゃねぇよな。
引っ張ってみても前に動かねぇんだけど。
「設定、体重の何%にしてる?」
ちなみにこのトレーニングマシンたちも未来仕様。
座ったら自動で体重を検知して、体重の割合で重さを指定できる。
一般的な目安とかもわかりやすい。
「250%だが」
「動くわけねぇだろ! 軍人か!!」
ちょっと!
わかりやすいっても、設定する奴の頭がアレだったよ!
初心者向けなら体重の80%くらいだって、これ。
俺が多少、自力で頑張ってるっても自分の重量の2倍を動かせるものじゃない。
お前、自分基準で考え過ぎ。
「せめて150%くらいにしてくれ・・・」
「む、わかった」
そうして何とか筋トレを始める俺。
十分重いって、これ。すぐ筋肉痛になれそう。
残念そうな顔をしながらも、俺が始めるのを見て彼もチェストプレスを始めるようだ。
設定、300%になってるけどね!?
「ふっ・・・!」
そして平気な顔でカウントアップしていくレオン。
うん、さすが主人公で腕力がトップなだけある。
彼は典型的な戦士タイプだからな。
・・・こいつは俺にそれと同じレベルを求めてんのかな?
「次は何をやんだ?」
「腕立て伏せだな」
「回数は?」
「いきなり1000だと厳しいだろう、100を目指そうか」
「は?」
ちょっと待て。言い直す前の桁がおかしい。
100でも十分、一般人にはきついんだけど。
俺も時間があるときはやってるけど、何回かにわけて1日にやる回数だよ。
1セットでやる回数じゃねぇって。
「いくぞ。1、2、3・・・」
「はっ、ふっ、はっ!? 早ぇよ!!」
文句を言うとレオンは怪訝な顔をする。
「それでは時間が足りなくなる」
「お前はお前のペースでやってくれ。俺は自分のペースで十分だよ」
「む、そうか」
一緒にトレーニングができて嬉しいが、俺がついてきてくれなくて残念。
そんな雰囲気だよこれ。
ううむ、彼の要望には応えてやりたいんだが・・・物理的に限界が。
せめて目標として示された100回を・・・くそ、きつい!?
「56、57・・・」
いや無理だろこれ!?
もう腕が固まってきたぞ・・・!
額から汗が出てくるし震えてるって!
「73、74・・・」
くそくそ、何とか100までは・・・!
「・・・っ90! ・・・っ91!」
あと、あと少し・・・!
「・・・・・・99! ・・・・・・100!」
ぐおおおぉぉぉ!
やったぞ!!
ばたり、と床に身体を落とす俺。
肺に酸素を送り込む。
汗で床が濡れていく。
ああ・・・腕が熱い。
これ絶対、筋肉痛になるやつだ。
「やればできただろう」
「ああ・・・何とかな・・・」
爽やかに汗を流しながらレオンが横に立つ。
ちなみにこいつは500回以上やっていた。すごすぎ。
ほんとに1000回、普段からやっていそうだな。
「お前は小柄なのだから押し負けないよう、もう少し筋力をつけたほうがいい」
「そんなに小柄じゃねぇだろ!?」
身長175cmって小柄!?
・・・いやもうさ、主人公の特異体質と比較しちゃいかんことがわかった。
正直、こいつから見れば俺は赤子同然なんだな・・・怖ぇよ。
◇
その後、腹筋やレッグプレスをこなした頃には俺はぐでぐでになった。
無理・・・もう無理・・・。
「1週間も続ければもう少しできるようになる」って、そりゃあね!
そんだけ追い込めば見違えるだろうよ!
今日だけで向こう1か月ぶんくらいの筋トレしたぞ・・・誰か褒めてくれよ・・・。
デロデロになってベンチで休む俺。
レオンがスポーツドリンクを持ってきてくれた。
【Thanks, for yor kind】
【No problem】
気軽な呼びかけ親しみを込めて母国語でね。
そう思って英語で会話をしてみる。
いや、英語なんて大してわからねぇよ?
リアルなら小学生でも知ってる簡単なやつ。
「うん? 日本では英語を教えなくなったと聞いていたが」
「あ、ああ。親が趣味で多言語やってたんでな。簡単な挨拶なら小さい頃に耳にしてたんだ」
ごめん両親、例により言い訳に活用させてくれ。
危ねえな、変なとこで俺の知らない変化があったよ。
つか日本人、英語やらなくなったのか。
確かに中学じゃ世界語しかやってなかったけどさ。
カタカナ英語はいっぱい残ってんのになぁ。
「ほう、それは博学なご両親だな。会ってみたいものだ」
「あ~、ちっと前に事故で死んじまってな。すまんが叶えてやれん」
「む、そうだったか・・・」
ちょっと気まずい雰囲気。地雷じゃないから平気だぞ。
「気にすんな。お前との仲だろ」
「そうか、ありがとう。・・・そうだな、詫びと言って釣り合うかわからないが俺の昔の話も聞いてくれ」
「昔の話?」
おう、お返しにって?
ドリンクから口を離すと、天井を見上げながらレオンは話し始めた。
◇
・・・
・・・・・・
彼の生まれはイギリスはロンドン。
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21世紀後半の平和な時代は商家として名を馳せた家柄。
財を築き貴族社会での地位をあげていった。
彼は貴族としての教育を受けるが窮屈な社交界は肌に合わなかった。
「それに親の言うとおりにしたくないと感じることが多くてな」
彼は家を抜け出して裏路地の子供たちと遊ぶことが多かった。
5歳から10歳くらいまでの小さな子供たちの社会だ。
下らない遊びも、その日に食べるものを確保するのも、皆で一緒。
喧嘩もよくあったがとても楽しかったそうだ。
「だがよく親父に叱られた。身分を弁えろ、と」
身分差は互いを不幸にする。
庶民のシンデレラが王族の王子様と結婚ができないよう。
物語では夢のように解決することが現実では壁になる。
レオンを想った父の忠告も、反抗心を抱く彼には届かなかった。
「俺の兄、カイはそんな俺をよく庇ってくれたものだ。市井を知るも貴族の嗜みと言って」
レオンを庇い、レオンの話をよく聞いて、的確なアドバイスもする。
カイは理想の兄を体現したような存在だった。
歳が15も離れていた兄の優秀さは幼心にも理解できたという。
理解のある兄のおかげで彼は裏路地での子供社会に溶け込んだ。
それは彼の人間性や社会性を高めるのに大いに役立ったという。
だが時間は残酷なもので、その環境は長く続かなかった。
「希望の十字軍・・・第二次魔物討伐にカイは参加していた」
知っている。説明書にも書いてあるラリクエの歴史。
西暦2200年、人類は魔物討伐を掲げて魔物の本拠地、ムー大陸に2度目の遠征を敢行したのだ。
主導は世界政府だが、その中核組織となったのは欧州にあるキャメロット。
東亜の高天原。
北米のトゥラン。
そして欧州のキャメロット。
世界で3つしかない新人類戦士の育成機関。
その生徒や卒業生は人類の希望であり、持てる者に課せられた使命を併せ持つ。
「カイはキャメロットで有数の成績を残した。世界戦線では指揮官をしていたと聞く」
指揮官。
きっとキャメロットでは成績優秀者であったに違いない。
若くして世界戦線で抜擢されるくらいなのだから。
希望の十字軍で優秀に立ち回ったのは想像に難くない。
「知ってのとおり遠征は失敗に終わった。兄も帰らぬ人となった」
そう。希望の十字軍は魔王の存在を確認したものの退却を余儀なくされた。
殿を務めた欧州の新人類が多く犠牲になったと伝えられている。
彼の兄はその中心にいたのかもしれない。
「兄を失った父はよほど落胆したのだろう。ひとり酒に逃げるようになった。幸い商売は家人がうまくやっているので身分を追われることはなかったが」
彼に残されたのはアインホルンという家だけ。
早くに亡くなっていた母はおらず、唯一の肉親の父は酒の勢いで彼に強く当たるようになった。
当然、反抗をしたが大人と子供。
家庭の事情が悪化したこともあり裏路地にはなかなか顔を出せなくなった。
「そんなときだった。あの事件が起きたのは」
ある日、久しぶりに裏路地に顔を出したところ、黒服の男たちが子供の溜まり場にいた。
レオンは只ならぬ雰囲気を察し、隠れて近付いた。
するとどうだ、その男たちはレオンを待ち構えていたのだ。
マフィアなのだろう、アインホルンへ身代金を要求するという話をしている。
レオンを誘い込むように裏路地の子供たちをロープで縛って。
無駄話を吹いてレオンに状況を察せさせるくらい、暇を持て余して待っていたようだった。
「無力な俺は、あんな父でも助けを求めるしかなかったのだ」
事態を把握した彼は家へ戻り父に訴えた。
だが「裏路地には行くなと言っただろう!」と叱責され部屋に押し込まれる。
自分が行かねば彼らは殺されてしまう。
そう思ったレオンは軟禁されていた屋敷を抜け出し、再度、裏路地へ向かった。
なんとかして戻った裏路地で彼が目にしたものは凄惨なものだった。
一向に来ないレオンに業を煮やしたのだろう、子供たちが暴行を受けて倒れていた。
レオンが声をかけてまわるも事切れている者が多かった。
「死んだのだ。あいつも、あいつも・・・!!」
俺が遅かったせいで!
あのとき姿を現していれば!
俺がこの場所に通わなければ!
打ちひしがれる彼は、近くをうろついていた例の黒服の男を見つける。
怒ったレオンは殴りかかったが、やはり大人と子供、簡単に殴り飛ばされた。
そしてそのまま暴行を受けた。
全身を殴打され意識が遠のく中で無力感に苛まれた。
もっと自分に力があれば、こいつらを守れたのに!
もっと自分に力があれば、こんな奴らを近付けなかったのに!
もっと自分に力があれば、父の言う事など無視をできたのに!
もっと自分に力があれば――
彼は叫んだ。
逆上して意識が飛んでいた。
そうして気付いたとき、彼の手には一振りの剣が握られていた。
重さも感じない、赤く光るその大きな剣。
周囲に倒れ伏す黒服の男たちはその初めての餌食となっていた。
後にわかったことだが、カイが存命の頃はそういった不穏分子が近付かぬよう手配していたらしい。
すべてはレオンの預かり知らぬところで収まっていたのだ。
年齢も、身長も、体重も、知識も、経験も、財力も、人脈も、何もかもが足りなかった。
そうして彼は欠けることのない力を追い求めるようになる。
・・・・・・
・・・
◇
「弱い者は虐げられる。俺のこの力は弱者のための牙だ」
気付けばスポーツドリンクは空になっていた。
ひとしきり話し終えるとレオンはすっきりとした顔をしていた。
「俺の両親の話に比べて、随分と天秤が傾く話をしてくれたな」
「武、お前との仲だろう」
「・・・はは、そうだな」
隠すことはない。
俺はお前の話を聞いた。
お前は俺の話を受け止めた。
それでもここにいるじゃないか、と。
互いに口角が上がるくらいには信頼を感じていた。
「お前は強い。俺の傍に来る死神に負けないくらいに」
「俺が?」
「隣に立てる日を楽しみにしているぞ」
レオンはそう言うとタオルを肩にひとりでトレーニングルームを出ていった。
静かになった部屋の片隅で、俺は手に持ったスポーツドリンクに口をつける。
甘くてしょっぱい味。
この生理食塩水に味をつけたものはいつの時代も独特の味がするものだ。
「隣に立てる、ね」
俺はぼやいた。
レオンが過去を語るのは彼への攻略が進んだとき。
具体的にはさくら、結弦、ジャンヌでレオンルートを進めると聞ける話だ。
そうして最後に「隣に立てる」というセリフを言うのだ。
・・・いやね、どうして俺がレオンを攻略してんだよ。
他の連中と比べてもそんな好感度を稼いでないはずなんだが。
ううむ・・・誰も彼も、ほんとにもうあと一歩のところまで来ている。
正直、レオンとは心地良い男友達という認識でいた。
最近は何となく親友と呼べるくらい深い交流が増えたように思うし。
今日なんか特に顕著だ。
だけどなぁ・・・。
友情から来る共鳴ってどのくらい踏み込めば発動しちゃうの?
・・・もう本格的に距離を置くしかねぇのかな。
溜息しか出てこねぇ。
考えれば考えるほど、先輩たちの作戦に賛同せざるを得なかった。
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