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ドキドキの中学1年生
011
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無事に退院した俺。
医者からは、1週間、体幹に力や衝撃を加えないよう厳命された。
それさえ守れば後はいつも通り過ごして良いらしい。
九条さんの退院お手伝いも意義があったので良し。
万能ツール、テクスタントがあるので通学鞄は小さい。
むしろ体育が無いときはポケットにテクスタントを突っ込んで終わり、というスタイルさえ許される。
だから今週は朝の運動と体育を休んでおけば、通学は手ぶらだ。お陰で身体に影響はない。
週明け、月曜日。
実質的に休んだのは3日間だったけど、土日を挟んだのでかなり長く休んだ気分だ。
教室に入る。特に何事もなかったように席に着く。
クラスメイトから視線を感じることもない。
良かった、担任は風邪扱いで通してくれたようだ。九条さんを除く。
まぁ九条さんは仕方ねぇ・・・同じ寮だし。
◇
放課後。しばらく弓道部に関することは放置しておく方針とする。
久しぶりにリア研に顔を出した。
「京極君、久しぶり。お休みしてたんだって?」
「うん、心配かけてごめん。風邪ひいちゃってさ」
飯塚先輩にも心配をかけてしまった。
「また世界語、お願いします」
「うん、頑張ろう」
1時間、世界語の勉強に勤しむ。
相変わらず飯塚先輩の教え方は上手い。
教師を目指しても良いんじゃないかってくらいだ。
先輩がスピーキングして俺がリスニングするという訓練も開始した。
おかげでリスニングにも強くなってきた。
1年生でやるレベルじゃない。トップ目指して邁進中だ。
個別指導後はAR値の研究だ。
今はAR値に変化がありそうでなかった事例を探している。
比較的ヤバそうな例を挙げるなら・・・
魔物の死骸を食べる。
AR値の差が大きい新人類同士の臓器移植をする。
AR値の高い新人類の身体の一部を食べる。
魔力が濃いとされる場所、魔力溜まりに滞在する・・・など。
これらの事例はチャレンジした新人類に効果が無かったことが報告されている。
統計的な事例ではないので怪しいところはある。
だが効果があったならもっと喧伝されている可能性が高いので、無効だったことは事実だろう。
新人類が駄目でも、俺なら可能性があるかもしれない。
そういう観点で先輩は食べるものなら準備できるかも、と張り切っていた。
食人は止めて! 全力拒否!
魔物を食べるのもやりたくない。
そもそもそんな非合法なもんをどっから手に入れてんだよ。
資金だって馬鹿にならねぇだろ。
弱小同好会に部費なんてねぇだろし。
ちなみに魔物の生命活動を停止させ、ある程度時間が経過すると魔力に変わって消滅するらしい。
見た目はガスみたいに霧散するそうな。
だから魔物の死骸を手に入れようとするなら倒したその場に行くか、氷漬けの冷凍保存しかない。
このため入手不可能ではないけれども非常に貴重な研究素材として取引されている。
霧散するのって、ARPGで敵を倒して消えるのとノリが似てるよね。ちょっと見てみたい。
しかし、駄目先輩が頑張るのって駄目なことが多い気がするんだよなぁ・・・。
◇
2,3日はそんな調子で過ごしていた。
どうせ身体も動かせないし休養だと割り切って体力回復に努めた。
そのおかげか、金曜日の通院でもう大丈夫というお墨付きをもらえた。
良かった、来週から元の日常に戻せそうだ。
土日は軽く身体を動かしてリハビリだな。
通院を終えて16時。
心配をかけた橘先輩に報告することにして、学校に戻って弓道場へ向かった。
まだ終了時刻ではなかったので気合の入った声が聞こえる。
邪魔をしては悪いのでまた木窓から中を覗く。
様子が気になるだけで、覗きじゃないんだからね!
九条さんが奥の方で弓の手入れをしている。
相変わらずか・・・と思ったら、その隣で何人か一緒に作業していた。
やったぞ九条さん! 頑張ったじゃないか! 仲間を作れたんだ!
少し安心して手前を見れば、2,3年生が真剣に的前をしていた。
もうすぐ夏だし練習も佳境に入ってくるだろうからな。
先週休みだったぶん取り返そうとしているんだろう。
ふと、橘先輩と目があった。
・・・最初から気付いていたんですね、分かります。
ごめんなさいおまわりさん呼ばないでください。
拝むような仕草をして謝罪の意を伝えると、真剣な表情からふっと笑顔をこちらに向けてきた。
え? 何?
・・・後で来いって意味だろうな。
どうせ報告に来たんだ。とにかく待とう。
17時を過ぎて弓道部員が帰宅を始める。
前と同じように20分くらい待つと弓道場が静かになった。
皆が帰ったと思しきタイミングで弓道場に入った。
相変わらず橘先輩がひとりで片付けをしている。
「橘先輩、お疲れ様です」
「あら京極君。お疲れ様」
「あれ? 京極さん」
げ、九条さん!?
奥から制服に着替えた九条さんが出てきた。
橘先輩が悪戯な笑みを浮かべる。
これ、片付けを手伝わせて遅くさせた!?
橘先輩、謀ったな!
「九条さんもお疲れ様」
「どうしてこちらに?」
「ああ、ええと・・・橘先輩に用事があって」
笑顔で応対してくれていた九条さんの表情が曇る。
ああ、そっか。俺が橘先輩と対峙しに来たと思ってるのか。
・・・どう説明したものか。
「九条、京極君はね、貴方のことを心配して来たそうよ」
「え?」
「私が貴女をこき使ってるってね」
笑顔でその台詞、怖いです。
九条さんは真に受けて真剣な表情になっちゃったし。
・・・なんか引っ掻き回してない? 橘先輩。
「・・・その話は前にお願いしたでしょう」
「ええ、だから九条にも説明したわ。今度の大会の団体戦で成績を残せば待遇の改善を考えるって」
「九条さん、そうなの?」
念のため九条さんに確認すると、おどおどしながら肯首する。
どうやらあの時の言葉通りにしてくれたようだ。
「ああ、そうだ。九条、言い忘れてたんだけど」
「はい?」
「私が個人戦で貴女より結果が良かったら、京極君に1日デートしてもらうって約束したの」
「え!? どういうことですか!」
「ちょ、橘先輩!?」
怪訝な顔から一転、九条さんは慌てて橘先輩に詰め寄る。
俺も突っ込みたい。なんか話が変わっている。
「先輩! 京極さんは弓道部には関係がありません!」
「でも貴女のために私に話をしに来たんだよ? 無関係じゃない」
「それがどうしてデートなのですか!」
おいおい、九条さんけっこうな剣幕だ。
俺が蚊帳の外のまま、ふたりは対峙する。
「えー、だってぇ。京極君が怪我したのって、ここで私を助けてくれたからだもん」
「え!?」
言い方! あざとい!!
九条さんは驚いて俺の方を見る。
いや、そのタイミングでパスしないで橘先輩。
「怪我までして助けてくれちゃったらさ、惚れるなって方が無理じゃない?」
うっわ! 橘先輩、なんて悪そうな表情なんだよ!
わざとらしく顔を赤くして頬に手まで当てている。
九条さんが完全に呑まれてるぞ。
「そんな! 本当にそんな約束したのですか、京極さん!」
「橘先輩が九条さんに勝ったら」なんて約束はしてねぇよ。
橘先輩、なに盛ってるんだよ。
九条さんも詰め寄ってこないで。なんか罪悪感しかしねぇ。
首を横に振りながら橘先輩に視線で助け舟を求めるが、素知らぬ顔だ。
女狐ぇ・・・。
「京極さん!」
「は、はい」
「わたしが先輩よりも個人戦の成績が良かったら、わたしとデートしてください!」
「はい・・・ええ!?」
どうしてそうなるの!?
そこで張り合う必要、なくない?
思わず返事しちゃったよ。
「ふふ。それじゃ九条、私と貴女の勝負ね。9月までにせいぜい腕を磨くといいわ」
「わたし、負けませんから!」
「結構。1年生と張り合いができて良いわ」
余裕綽々の橘先輩に、ぐぬぬという表情の九条さん。
もはや空気な俺。
いやね、役得感はあるよ?
美人ふたりが俺を巡ってって、男なら憧れるシチュエーションじゃん?
けどさ、橘先輩のマッチポンプ感が否めない。
九条さんからの好意は多少感じていたけれど、無理やり引き出してる感もあるし。
第一、こいつら中学生だぜ? JC。
高校生なら大人っぽく見えるからまだ対象にもなるんだけどさ。
お子様相手感が拭えないし、下手したら犯罪臭しかしねぇ。
素直に喜べる状況じゃねぇんだ。
俺の脳内大戦争を後目に、橘先輩は着替えに裏へ入って行った。
「・・・帰りましょう、京極さん」
「・・・そうだな」
完全に橘先輩の手のひらで踊らされてしまった。
策士だな・・・切れ過ぎるぜ、橘先輩。
訂正する暇すら無かったよ。
◇
九条さんも勢いで宣言してしまったのか、終始無言のまま寮まで帰ってきた。
気まずい・・・。どうしてこうなった。
夕食も相席なのに無言。
いやいやいや、気まずすぎるでしょ。
九条さんも頑張りすぎだろ、どうして告白まがいのデート宣言したのさ。
喋れなくなるくらいなら言わないでよ・・・後に引けなくなったし。
食べながら悶々としていると、かちゃんと箸を置く音がした。
「京極さん」
「はい、ごめんなさい」
「どうして謝っているのです?」
「え、いや・・・」
何でこんなに後ろめたいんだよ!
嘘を重ねすぎたせいか! そうなのか!?
「わたし、頑張ります。先輩になんて負けませんから」
「う、うん」
「その様子だと、橘先輩は無理やり京極さんに約束させたのですよね?」
はいそうです、流されました。
と答えるわけにはいかない。
どう説明したものか・・・。
「良いのです。わたしの知らないところで先輩とお話してくれたのですから」
そこは間違いでないので頷く。
決意して凛とした表情で九条さんが宣言した。
「だから、京極さん。わたしが頑張るところ、見ていてください」
「・・・うん、分かった」
それは約束する。
だって、応援するって最初に約束をしたのだから。
しばらく真剣な表情で向き合った後、ふたりで笑いあった。
◇
その日の夜、攻略のための時間。
勉強の進行に余裕があることを確認できていたので、しばらくぶりに攻略ノートを見直していた。
結局、今回の九条さんイベントに手を出してしまった。
あの様子だと放っておいても解決したのだから悪手だったろう。
でも俺が彼女と友達になって相談を受けた時から世界線が変わっていたのだろうから今更だ。
俺は最初にノートを5冊買ってきた。
1冊目は俺の行動に関しての記録と行動指針を確認するためのもの。
2,3,4冊目は高天原の主人公攻略ルートを思い出せる限り書き出したもの。
30周ぶんだぜ? すげえ量だった・・・。
5冊目は未使用だ。
この5冊目にラリクエ本編ストーリーに影響がありそうなイベントを記録することにした。
今回の弓道部の経緯を書き込み現状まで記録しておく。
・・・単なる日記みたいになってしまったがそれはお愛嬌。
でもあれだなぁ、人の将来を勝手に把握しているってのは、ある意味気持ち悪い。
そもそも俺が異分子だからな。
モブキャラでさえないわけだから。
そこまで記録してふと気付く。
あれ、橘先輩って、別に主人公でもモブキャラでも登場してなくね?
橘先輩が俺に興味あって、俺が応じたとして。
別に本編に影響ないじゃん!
そっか・・・橘先輩となら良いのか・・・。
でも・・・どうして俺は浮気してる気分になるんだ。
いや浮気だろ、嫁の雪子一筋なんだから。
あれ、でもここはゲームの中だし・・・。
この若い身体はそういうリアルの深い愛情とは別に反応しそうになる。
いやね、せめて高校生にしたいのよ・・・。
中学はロリショタの域だろよ・・・。
俺は悶々としながらせめて橘先輩が勝ってくれないかな、と淡い期待を抱いてしまった。
医者からは、1週間、体幹に力や衝撃を加えないよう厳命された。
それさえ守れば後はいつも通り過ごして良いらしい。
九条さんの退院お手伝いも意義があったので良し。
万能ツール、テクスタントがあるので通学鞄は小さい。
むしろ体育が無いときはポケットにテクスタントを突っ込んで終わり、というスタイルさえ許される。
だから今週は朝の運動と体育を休んでおけば、通学は手ぶらだ。お陰で身体に影響はない。
週明け、月曜日。
実質的に休んだのは3日間だったけど、土日を挟んだのでかなり長く休んだ気分だ。
教室に入る。特に何事もなかったように席に着く。
クラスメイトから視線を感じることもない。
良かった、担任は風邪扱いで通してくれたようだ。九条さんを除く。
まぁ九条さんは仕方ねぇ・・・同じ寮だし。
◇
放課後。しばらく弓道部に関することは放置しておく方針とする。
久しぶりにリア研に顔を出した。
「京極君、久しぶり。お休みしてたんだって?」
「うん、心配かけてごめん。風邪ひいちゃってさ」
飯塚先輩にも心配をかけてしまった。
「また世界語、お願いします」
「うん、頑張ろう」
1時間、世界語の勉強に勤しむ。
相変わらず飯塚先輩の教え方は上手い。
教師を目指しても良いんじゃないかってくらいだ。
先輩がスピーキングして俺がリスニングするという訓練も開始した。
おかげでリスニングにも強くなってきた。
1年生でやるレベルじゃない。トップ目指して邁進中だ。
個別指導後はAR値の研究だ。
今はAR値に変化がありそうでなかった事例を探している。
比較的ヤバそうな例を挙げるなら・・・
魔物の死骸を食べる。
AR値の差が大きい新人類同士の臓器移植をする。
AR値の高い新人類の身体の一部を食べる。
魔力が濃いとされる場所、魔力溜まりに滞在する・・・など。
これらの事例はチャレンジした新人類に効果が無かったことが報告されている。
統計的な事例ではないので怪しいところはある。
だが効果があったならもっと喧伝されている可能性が高いので、無効だったことは事実だろう。
新人類が駄目でも、俺なら可能性があるかもしれない。
そういう観点で先輩は食べるものなら準備できるかも、と張り切っていた。
食人は止めて! 全力拒否!
魔物を食べるのもやりたくない。
そもそもそんな非合法なもんをどっから手に入れてんだよ。
資金だって馬鹿にならねぇだろ。
弱小同好会に部費なんてねぇだろし。
ちなみに魔物の生命活動を停止させ、ある程度時間が経過すると魔力に変わって消滅するらしい。
見た目はガスみたいに霧散するそうな。
だから魔物の死骸を手に入れようとするなら倒したその場に行くか、氷漬けの冷凍保存しかない。
このため入手不可能ではないけれども非常に貴重な研究素材として取引されている。
霧散するのって、ARPGで敵を倒して消えるのとノリが似てるよね。ちょっと見てみたい。
しかし、駄目先輩が頑張るのって駄目なことが多い気がするんだよなぁ・・・。
◇
2,3日はそんな調子で過ごしていた。
どうせ身体も動かせないし休養だと割り切って体力回復に努めた。
そのおかげか、金曜日の通院でもう大丈夫というお墨付きをもらえた。
良かった、来週から元の日常に戻せそうだ。
土日は軽く身体を動かしてリハビリだな。
通院を終えて16時。
心配をかけた橘先輩に報告することにして、学校に戻って弓道場へ向かった。
まだ終了時刻ではなかったので気合の入った声が聞こえる。
邪魔をしては悪いのでまた木窓から中を覗く。
様子が気になるだけで、覗きじゃないんだからね!
九条さんが奥の方で弓の手入れをしている。
相変わらずか・・・と思ったら、その隣で何人か一緒に作業していた。
やったぞ九条さん! 頑張ったじゃないか! 仲間を作れたんだ!
少し安心して手前を見れば、2,3年生が真剣に的前をしていた。
もうすぐ夏だし練習も佳境に入ってくるだろうからな。
先週休みだったぶん取り返そうとしているんだろう。
ふと、橘先輩と目があった。
・・・最初から気付いていたんですね、分かります。
ごめんなさいおまわりさん呼ばないでください。
拝むような仕草をして謝罪の意を伝えると、真剣な表情からふっと笑顔をこちらに向けてきた。
え? 何?
・・・後で来いって意味だろうな。
どうせ報告に来たんだ。とにかく待とう。
17時を過ぎて弓道部員が帰宅を始める。
前と同じように20分くらい待つと弓道場が静かになった。
皆が帰ったと思しきタイミングで弓道場に入った。
相変わらず橘先輩がひとりで片付けをしている。
「橘先輩、お疲れ様です」
「あら京極君。お疲れ様」
「あれ? 京極さん」
げ、九条さん!?
奥から制服に着替えた九条さんが出てきた。
橘先輩が悪戯な笑みを浮かべる。
これ、片付けを手伝わせて遅くさせた!?
橘先輩、謀ったな!
「九条さんもお疲れ様」
「どうしてこちらに?」
「ああ、ええと・・・橘先輩に用事があって」
笑顔で応対してくれていた九条さんの表情が曇る。
ああ、そっか。俺が橘先輩と対峙しに来たと思ってるのか。
・・・どう説明したものか。
「九条、京極君はね、貴方のことを心配して来たそうよ」
「え?」
「私が貴女をこき使ってるってね」
笑顔でその台詞、怖いです。
九条さんは真に受けて真剣な表情になっちゃったし。
・・・なんか引っ掻き回してない? 橘先輩。
「・・・その話は前にお願いしたでしょう」
「ええ、だから九条にも説明したわ。今度の大会の団体戦で成績を残せば待遇の改善を考えるって」
「九条さん、そうなの?」
念のため九条さんに確認すると、おどおどしながら肯首する。
どうやらあの時の言葉通りにしてくれたようだ。
「ああ、そうだ。九条、言い忘れてたんだけど」
「はい?」
「私が個人戦で貴女より結果が良かったら、京極君に1日デートしてもらうって約束したの」
「え!? どういうことですか!」
「ちょ、橘先輩!?」
怪訝な顔から一転、九条さんは慌てて橘先輩に詰め寄る。
俺も突っ込みたい。なんか話が変わっている。
「先輩! 京極さんは弓道部には関係がありません!」
「でも貴女のために私に話をしに来たんだよ? 無関係じゃない」
「それがどうしてデートなのですか!」
おいおい、九条さんけっこうな剣幕だ。
俺が蚊帳の外のまま、ふたりは対峙する。
「えー、だってぇ。京極君が怪我したのって、ここで私を助けてくれたからだもん」
「え!?」
言い方! あざとい!!
九条さんは驚いて俺の方を見る。
いや、そのタイミングでパスしないで橘先輩。
「怪我までして助けてくれちゃったらさ、惚れるなって方が無理じゃない?」
うっわ! 橘先輩、なんて悪そうな表情なんだよ!
わざとらしく顔を赤くして頬に手まで当てている。
九条さんが完全に呑まれてるぞ。
「そんな! 本当にそんな約束したのですか、京極さん!」
「橘先輩が九条さんに勝ったら」なんて約束はしてねぇよ。
橘先輩、なに盛ってるんだよ。
九条さんも詰め寄ってこないで。なんか罪悪感しかしねぇ。
首を横に振りながら橘先輩に視線で助け舟を求めるが、素知らぬ顔だ。
女狐ぇ・・・。
「京極さん!」
「は、はい」
「わたしが先輩よりも個人戦の成績が良かったら、わたしとデートしてください!」
「はい・・・ええ!?」
どうしてそうなるの!?
そこで張り合う必要、なくない?
思わず返事しちゃったよ。
「ふふ。それじゃ九条、私と貴女の勝負ね。9月までにせいぜい腕を磨くといいわ」
「わたし、負けませんから!」
「結構。1年生と張り合いができて良いわ」
余裕綽々の橘先輩に、ぐぬぬという表情の九条さん。
もはや空気な俺。
いやね、役得感はあるよ?
美人ふたりが俺を巡ってって、男なら憧れるシチュエーションじゃん?
けどさ、橘先輩のマッチポンプ感が否めない。
九条さんからの好意は多少感じていたけれど、無理やり引き出してる感もあるし。
第一、こいつら中学生だぜ? JC。
高校生なら大人っぽく見えるからまだ対象にもなるんだけどさ。
お子様相手感が拭えないし、下手したら犯罪臭しかしねぇ。
素直に喜べる状況じゃねぇんだ。
俺の脳内大戦争を後目に、橘先輩は着替えに裏へ入って行った。
「・・・帰りましょう、京極さん」
「・・・そうだな」
完全に橘先輩の手のひらで踊らされてしまった。
策士だな・・・切れ過ぎるぜ、橘先輩。
訂正する暇すら無かったよ。
◇
九条さんも勢いで宣言してしまったのか、終始無言のまま寮まで帰ってきた。
気まずい・・・。どうしてこうなった。
夕食も相席なのに無言。
いやいやいや、気まずすぎるでしょ。
九条さんも頑張りすぎだろ、どうして告白まがいのデート宣言したのさ。
喋れなくなるくらいなら言わないでよ・・・後に引けなくなったし。
食べながら悶々としていると、かちゃんと箸を置く音がした。
「京極さん」
「はい、ごめんなさい」
「どうして謝っているのです?」
「え、いや・・・」
何でこんなに後ろめたいんだよ!
嘘を重ねすぎたせいか! そうなのか!?
「わたし、頑張ります。先輩になんて負けませんから」
「う、うん」
「その様子だと、橘先輩は無理やり京極さんに約束させたのですよね?」
はいそうです、流されました。
と答えるわけにはいかない。
どう説明したものか・・・。
「良いのです。わたしの知らないところで先輩とお話してくれたのですから」
そこは間違いでないので頷く。
決意して凛とした表情で九条さんが宣言した。
「だから、京極さん。わたしが頑張るところ、見ていてください」
「・・・うん、分かった」
それは約束する。
だって、応援するって最初に約束をしたのだから。
しばらく真剣な表情で向き合った後、ふたりで笑いあった。
◇
その日の夜、攻略のための時間。
勉強の進行に余裕があることを確認できていたので、しばらくぶりに攻略ノートを見直していた。
結局、今回の九条さんイベントに手を出してしまった。
あの様子だと放っておいても解決したのだから悪手だったろう。
でも俺が彼女と友達になって相談を受けた時から世界線が変わっていたのだろうから今更だ。
俺は最初にノートを5冊買ってきた。
1冊目は俺の行動に関しての記録と行動指針を確認するためのもの。
2,3,4冊目は高天原の主人公攻略ルートを思い出せる限り書き出したもの。
30周ぶんだぜ? すげえ量だった・・・。
5冊目は未使用だ。
この5冊目にラリクエ本編ストーリーに影響がありそうなイベントを記録することにした。
今回の弓道部の経緯を書き込み現状まで記録しておく。
・・・単なる日記みたいになってしまったがそれはお愛嬌。
でもあれだなぁ、人の将来を勝手に把握しているってのは、ある意味気持ち悪い。
そもそも俺が異分子だからな。
モブキャラでさえないわけだから。
そこまで記録してふと気付く。
あれ、橘先輩って、別に主人公でもモブキャラでも登場してなくね?
橘先輩が俺に興味あって、俺が応じたとして。
別に本編に影響ないじゃん!
そっか・・・橘先輩となら良いのか・・・。
でも・・・どうして俺は浮気してる気分になるんだ。
いや浮気だろ、嫁の雪子一筋なんだから。
あれ、でもここはゲームの中だし・・・。
この若い身体はそういうリアルの深い愛情とは別に反応しそうになる。
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