16 / 62
ドキドキの中学1年生
016
しおりを挟む
橘先輩に散々引っ張り回されて、その度に膝枕で休憩。
傍目には役得なのかもしれないけど、橘先輩ハツラツ、俺デロデロ。
身体が若いせいか、娘の楓と行った絶叫マシンのテーマパークの時より休憩は短くて済んだ。
精神はガリガリ削られたけどな!
絶叫マシン恐怖症になりそうだぜ!
並び時間が少なくやたらアトラクションに乗れた。
不思議に思って聞いてみたら橘先輩の端末で搭乗予約しているらしい。
俺はテクスタントしか知らなかったけど橘先輩の腕時計がスマホ的なホログラムデバイスになっていた。
すげぇぜ未来。橘先輩もいつの間にやってたんだ。
というか今まで必要なかったから考えなかったけど当然スマホ的なデバイスあるよね。
長い長い時間が過ぎ去ったような気がしたがようやくお昼の時間になった。
待ち時間が少ないから時間感覚もおかしい。
ようやく休憩だ・・・拷問されてる気分だよ・・・。
「あー楽しかった! ね、お昼、何食べたい?」
「正直、何も食べたくねぇ・・・リバースする未来が見える・・・」
「もう、武君、ほんと弱いんだから! 仕方ない、もうちょっと休憩しよ」
引っ張られて行ったところは屋内の休憩所。
例により予約をすれば自由に使える場所のようで映画館のカップルシートのような個室に入った。
「ふふ、無理させたね。しばらく休んでいいから」
「ごめん、香さん。ちょっとだけ寝れば治ると思うから・・・」
再び膝枕。相変わらず役得を感じる余裕もねぇ。
横になって少ししたら隣の部屋に「良かった空いてる!」とバタバタ誰かが入っていく音が聞こえた。
個室といっても防音はしてないんだな、変な行為とかさせないためだろう。
変な会話をしないよう気をつけないと・・・。
◇
澱んでいた思考がスッキリして覚醒する。
目を開けたら目の前に橘先輩の顔があった。
否応なしに目が合う。
「ん、橘先輩・・・」
「減点8ね?」
無理だって、急に変えるの。
それに怒っている様子はなく、穏やかな笑みを浮かべている。
「香さん。ごめん、ずっと寝てた?」
「30分くらい?」
良かった、思ったほどは寝てなかった。
お昼の時間帯をぶっちするところだった。
「うー、情けねぇ。こんなに苦手だったって」
「あはは、大丈夫大丈夫。ずっと武君の寝顔を見られたから。役得役得~♪」
「ええー・・・それって男の台詞じゃ?」
「ん? 女も普通に使うよ?」
んん? 常識のすれ違いの予感。
なんだかすっと頭を撫でられている。
人に撫でられるのは気持ちいい。
そいや膝枕だったな。
ジーンズ越しでも腿の柔らかさと温かさを感じる。
このまま流されてしまいそうな予感がする。
俺の目に気力が戻ってきたのを察した橘先輩は俺の頭を軽く押さえた。
「橘先輩?」
「減点9。ほら、もう後がないぞ」
やっべ。
流されついでに既成事実作られそうだ。
起き上がろうとしたら頭を押さえられたままだったので動けなかった。
「・・・今は、このまま・・・」
愛おしそうな表情を見せる。
う・・・。
・・・この状況。
マウント取られてるどころじゃねぇよ。ヤバい。
いやね、橘先輩は魅力的だよ?
何のしがらみもなけりゃ、このまま流されたい。
けどラリクエ中なんだ、俺は。
橘先輩との絡みが九条さんにどう影響するか分からねぇ。
って迷ってたら顔が近づいてきた!
目ぇ閉じてるよ! ぷっくりとした唇が・・・!
ふっと、俺の額に柔らかいものが触れた。
これは、うん。セーフ?
大人しくしてると橘先輩の顔が離れた。
額が熱い。
きっと俺の顔も赤い。
橘先輩の顔も少し赤みを帯びていた。
がこん、と隣のブースで人が動く音がした。
ずっと静かだったので咎められたような気持ちになる。
びっくりした俺は慌てて起き上がった。
「っと! よし、香さん! 飯、食べに行こうぜ」
「ふふ。行きましょ」
立ち上がった俺に、先輩は大人しくエスコートされてくれた。
◇
お昼ごはんは中央にあるフードコートでパスタを食べた。
俺が和食以外が良いと言ったところ、このチョイスとなった。
九条さんと被った気がしたが仕方ない。
俺の中で「女の子とデートでお昼=イタリアン」という式が出来上がっているせいだ。
だってよ、他の選択肢って無理だろ?
初めての相手と最初から和食とか、丼ものとか、ステーキとか、寿司とか、ラーメンとか。
ハードル高すぎ。
自然とパスタやピザに落ち着く。
・・・どうせ俺はデート慣れしてねぇよ!
雪子が喜んでくれればそれで十分だったんだよ!
ともあれ橘先輩は満足してくれたようで終始にこにこしていた。
こう笑っている姿を見ると橘先輩、美人なんだよな・・・。
今はJCだけあって体つきも子供。
3年後くらいに出直してくれたらきっと俺は落ちる。
そういった意味では桜坂中学のうちは流されない自信があるのだ。
まぁ・・・シチュエーションには流されてるんだけども。
既成事実だけ気を付けよう。
午後のアトラクションに絶叫マシンのチョイスはなかった。
リバースを警戒した橘先輩の心遣いなのかもしれない。
お化け屋敷とか探検ものとか。
夏らしくウォータースライダーとか水を被るものもあった。
そういった定番で無難なものは素直に楽しめた。
もちろん未来仕様で度肝を抜かれたのだけれど。
◇
「はー! 満足満足!!」
出店で買った飲み物をストローで飲みながらふたりでベンチに座る。
そろそろ日も傾いてきて帰るべき時間が近付いてきた。
「香さんタフだよ・・・。俺、もう疲れた」
「もう! 武君、若いんだからおとーさんみたいなこと言わない!」
ごめんなさい、おとーさんです。
「中学3年分、遊び倒してやるつもりで来たから」
「ん・・・ずっと部活だったから?」
「あはは、そうそう。日本大会が終わったらあとは全力で受験勉強かな~」
橘先輩は少し橙に染まってきた空を見上げる。
色々なことをやりきったぞ、という満足げな顔だ。
俺が知らない2年間も橘先輩は部活に全力疾走していたのだろう。
本当に尊敬する。
これも橘先輩が大好きな先輩への想いが為せる技なのか。
・・・そうだ、先輩の先輩。
橘先輩の先輩との約束はどうなったんだろう。
ふとした疑問が口を突きそうになったところで思い留まる。
あまりにも無粋だろ、デート中に他の人の話なんて。百合だけど。
少しだけ悶々としてしまったそのときだった。
「--、良いじゃん。ひとりなんでしょ? 一緒に遊ぼうよ」
「やめてください、結構です」
「えー、こんなとこでひとりなんて寂しいじゃん。あたしたち、一緒にいてあげるからさ」
「ですから・・・」
その不穏なやり取りは遠くから聞こえてきた。
橘先輩は空を見上げたまま。きっと聞こえていない。
こういうのは止める一択だろ、と思うんだが・・・声が全員、女なんだよね。
女が女を誘ってるのか。やっぱ貞操感が崩壊しそう。
いやいやいや! そこじゃない。
問題は無理やりだってところなんだ。
男女が逆だろうと何だろうと、止めるものは止めるぞ。
「ごめん、橘先輩。ちょっと待ってて」
「え、ちょっと・・・!?」
俺が急に立ち上がって行くものだから、橘先輩は反応できなかった。
そのまま待っていてくれればいい。
その声が聞こえた方に行く。
なるほど、ふたり組の高校生くらいのギャルが深々と白いクロッシェ帽を被った色白の子を囲っていた。
囲われている女の子の身長はそんなに高くない。中学生だな。
「ほら、遠慮しないでさ。遊ぼ?」
「きゃっ! やめ・・・」
うん、無理やりだよね。
係員の人やお店の人の目が届かない位置で誘っているのも狡賢い感じ。
「ねえ、お姉さん。嫌がってんじゃん」
ちょっとぶっきら棒な調子で俺は声をかける。
「やめ・・・え!?」
「なに~? あ~、君が代わりに遊んでくれんの?」
「皆で一緒に遊べば良くね? ほら、君もおいでよ~」
女の子は手を掴まれたまま。抵抗していたけど俺に気を取られて動きが止まった。
ギャルは聞く耳持たない感じか。
なら、強硬手段しかないな。
「ほら、こっち!」
「え!? きゃっ!」
急に飛び出し、ギャルが掴んでいる手を俺の体当たりで無理やり引き離す。
そのまま女の子の手を取って走り出す。
「ちょ、なにすんの!」
「待ってよぉ~」
ギャルは不満げな声を出していたが、悪いことをしている自覚があるのか追ってこない。
しばらく女の子の手を引いて走り続ける。
無我夢中で走って、中央広場の噴水近くまで来た。
ここなら人目が多いから大丈夫だろ。
ずっと引っ張っていた女の子の手を離し、その顔を見た。
「あの・・・」
「え!?」
いつの間にか帽子が取れていた。
まぁ、それは走ったから仕方ない。
問題は引っ張った人。九条さんじゃん!!
「えっと・・・その。九条さん?」
「きょ、京極さん! これは、その・・・」
ナニコレ。
あれか、恋敵が先駆けたのが気になって見に来ちゃったってやつか。
・・・。
けっこう酷いシチュエーションでお友達宣言したつもりだったんだけどな。
思ったより逞しい?
「・・・武君」
後ろから、穏やかならぬ声が聞こえる。
うん、分かってるよ。ある意味、テンプレだ。
振り返れば、にこにこ顔で腰に手をあてて佇んでいる橘先輩がいる。
笑顔だよ!!
こ、怖えぇぇぇ!!
「減点10。ペナルティよ」
「・・・ハイ」
さっき先輩って言ったやつか。緊急事態だったんですけどね!
冷や汗って、こういう時に出るんだね!
勉強になります!
「あの、橘先輩! 京極さんはわたしを助けるために動いてくれたのです! ペナルティなんて」
「ふうん? 人のデートをつけて邪魔しようとする泥棒猫ちゃんの手助けを許せと?」
「ちょ、ちょっと。ふたりとも」
「京極さんは黙っててください」
「武くんは黙って」
「あ、ハイ」
◇
結局、俺は蚊帳の外に置かれたまま、俺の聞こえないところでふたりの講和会議が行われた。
・・・なんで人助けをしたら俺が針筵になってんのさ。
理不尽だ・・・。
待つこと10分。何かしらの協定が結ばれたらしい。
橘先輩が笑顔で、九条さんが悔しそうな顔で、こちらにやって来た。
まぁ・・・そうなるよね。
どう考えても九条さんが不利だ。
「武君。九条をひとりにすると危ないから、人目があるところで待ってもらって一緒に帰ることになりました」
「・・・」
九条さんは全体的にグレーの服装で目立たない格好だけど、帽子を落としてしまったので銀髪が剥き出しだ。
端正な顔つきもあり色白なのも加わってとても目立つ。
既に時間も遅くなってきている。
また良からぬ人から声をかけられる可能性を考えれば妥当な判断だ。
でもまぁ唇を噛んで俯いてるその姿を見ると、何故か罪悪感を感じる。
うん・・・そりゃね。悔しいだろうね。
ごめんね、今は助け舟も出せそうにないよ。
なるべく早く迎えに来るしかなさそうだ。
「香さん。待ってもらって何をすんの?」
「あれに乗ったら終わり♪」
勝ち誇った笑顔で誘われた。
あれとは観覧車だ。
これならまぁ・・・1回転だけ待てば良いから15分くらいだろ。
よし、早く乗ろう。
「それで最後な。香さん、乗ろう」
「うん♪」
ここでこれ見よがしに腕くんでくるなんて・・・。
露骨だよ橘先輩ェ・・・。
九条さんの悔しそうな顔を見ちゃいられん。
さっさと乗って、帰ろう。
傍目には役得なのかもしれないけど、橘先輩ハツラツ、俺デロデロ。
身体が若いせいか、娘の楓と行った絶叫マシンのテーマパークの時より休憩は短くて済んだ。
精神はガリガリ削られたけどな!
絶叫マシン恐怖症になりそうだぜ!
並び時間が少なくやたらアトラクションに乗れた。
不思議に思って聞いてみたら橘先輩の端末で搭乗予約しているらしい。
俺はテクスタントしか知らなかったけど橘先輩の腕時計がスマホ的なホログラムデバイスになっていた。
すげぇぜ未来。橘先輩もいつの間にやってたんだ。
というか今まで必要なかったから考えなかったけど当然スマホ的なデバイスあるよね。
長い長い時間が過ぎ去ったような気がしたがようやくお昼の時間になった。
待ち時間が少ないから時間感覚もおかしい。
ようやく休憩だ・・・拷問されてる気分だよ・・・。
「あー楽しかった! ね、お昼、何食べたい?」
「正直、何も食べたくねぇ・・・リバースする未来が見える・・・」
「もう、武君、ほんと弱いんだから! 仕方ない、もうちょっと休憩しよ」
引っ張られて行ったところは屋内の休憩所。
例により予約をすれば自由に使える場所のようで映画館のカップルシートのような個室に入った。
「ふふ、無理させたね。しばらく休んでいいから」
「ごめん、香さん。ちょっとだけ寝れば治ると思うから・・・」
再び膝枕。相変わらず役得を感じる余裕もねぇ。
横になって少ししたら隣の部屋に「良かった空いてる!」とバタバタ誰かが入っていく音が聞こえた。
個室といっても防音はしてないんだな、変な行為とかさせないためだろう。
変な会話をしないよう気をつけないと・・・。
◇
澱んでいた思考がスッキリして覚醒する。
目を開けたら目の前に橘先輩の顔があった。
否応なしに目が合う。
「ん、橘先輩・・・」
「減点8ね?」
無理だって、急に変えるの。
それに怒っている様子はなく、穏やかな笑みを浮かべている。
「香さん。ごめん、ずっと寝てた?」
「30分くらい?」
良かった、思ったほどは寝てなかった。
お昼の時間帯をぶっちするところだった。
「うー、情けねぇ。こんなに苦手だったって」
「あはは、大丈夫大丈夫。ずっと武君の寝顔を見られたから。役得役得~♪」
「ええー・・・それって男の台詞じゃ?」
「ん? 女も普通に使うよ?」
んん? 常識のすれ違いの予感。
なんだかすっと頭を撫でられている。
人に撫でられるのは気持ちいい。
そいや膝枕だったな。
ジーンズ越しでも腿の柔らかさと温かさを感じる。
このまま流されてしまいそうな予感がする。
俺の目に気力が戻ってきたのを察した橘先輩は俺の頭を軽く押さえた。
「橘先輩?」
「減点9。ほら、もう後がないぞ」
やっべ。
流されついでに既成事実作られそうだ。
起き上がろうとしたら頭を押さえられたままだったので動けなかった。
「・・・今は、このまま・・・」
愛おしそうな表情を見せる。
う・・・。
・・・この状況。
マウント取られてるどころじゃねぇよ。ヤバい。
いやね、橘先輩は魅力的だよ?
何のしがらみもなけりゃ、このまま流されたい。
けどラリクエ中なんだ、俺は。
橘先輩との絡みが九条さんにどう影響するか分からねぇ。
って迷ってたら顔が近づいてきた!
目ぇ閉じてるよ! ぷっくりとした唇が・・・!
ふっと、俺の額に柔らかいものが触れた。
これは、うん。セーフ?
大人しくしてると橘先輩の顔が離れた。
額が熱い。
きっと俺の顔も赤い。
橘先輩の顔も少し赤みを帯びていた。
がこん、と隣のブースで人が動く音がした。
ずっと静かだったので咎められたような気持ちになる。
びっくりした俺は慌てて起き上がった。
「っと! よし、香さん! 飯、食べに行こうぜ」
「ふふ。行きましょ」
立ち上がった俺に、先輩は大人しくエスコートされてくれた。
◇
お昼ごはんは中央にあるフードコートでパスタを食べた。
俺が和食以外が良いと言ったところ、このチョイスとなった。
九条さんと被った気がしたが仕方ない。
俺の中で「女の子とデートでお昼=イタリアン」という式が出来上がっているせいだ。
だってよ、他の選択肢って無理だろ?
初めての相手と最初から和食とか、丼ものとか、ステーキとか、寿司とか、ラーメンとか。
ハードル高すぎ。
自然とパスタやピザに落ち着く。
・・・どうせ俺はデート慣れしてねぇよ!
雪子が喜んでくれればそれで十分だったんだよ!
ともあれ橘先輩は満足してくれたようで終始にこにこしていた。
こう笑っている姿を見ると橘先輩、美人なんだよな・・・。
今はJCだけあって体つきも子供。
3年後くらいに出直してくれたらきっと俺は落ちる。
そういった意味では桜坂中学のうちは流されない自信があるのだ。
まぁ・・・シチュエーションには流されてるんだけども。
既成事実だけ気を付けよう。
午後のアトラクションに絶叫マシンのチョイスはなかった。
リバースを警戒した橘先輩の心遣いなのかもしれない。
お化け屋敷とか探検ものとか。
夏らしくウォータースライダーとか水を被るものもあった。
そういった定番で無難なものは素直に楽しめた。
もちろん未来仕様で度肝を抜かれたのだけれど。
◇
「はー! 満足満足!!」
出店で買った飲み物をストローで飲みながらふたりでベンチに座る。
そろそろ日も傾いてきて帰るべき時間が近付いてきた。
「香さんタフだよ・・・。俺、もう疲れた」
「もう! 武君、若いんだからおとーさんみたいなこと言わない!」
ごめんなさい、おとーさんです。
「中学3年分、遊び倒してやるつもりで来たから」
「ん・・・ずっと部活だったから?」
「あはは、そうそう。日本大会が終わったらあとは全力で受験勉強かな~」
橘先輩は少し橙に染まってきた空を見上げる。
色々なことをやりきったぞ、という満足げな顔だ。
俺が知らない2年間も橘先輩は部活に全力疾走していたのだろう。
本当に尊敬する。
これも橘先輩が大好きな先輩への想いが為せる技なのか。
・・・そうだ、先輩の先輩。
橘先輩の先輩との約束はどうなったんだろう。
ふとした疑問が口を突きそうになったところで思い留まる。
あまりにも無粋だろ、デート中に他の人の話なんて。百合だけど。
少しだけ悶々としてしまったそのときだった。
「--、良いじゃん。ひとりなんでしょ? 一緒に遊ぼうよ」
「やめてください、結構です」
「えー、こんなとこでひとりなんて寂しいじゃん。あたしたち、一緒にいてあげるからさ」
「ですから・・・」
その不穏なやり取りは遠くから聞こえてきた。
橘先輩は空を見上げたまま。きっと聞こえていない。
こういうのは止める一択だろ、と思うんだが・・・声が全員、女なんだよね。
女が女を誘ってるのか。やっぱ貞操感が崩壊しそう。
いやいやいや! そこじゃない。
問題は無理やりだってところなんだ。
男女が逆だろうと何だろうと、止めるものは止めるぞ。
「ごめん、橘先輩。ちょっと待ってて」
「え、ちょっと・・・!?」
俺が急に立ち上がって行くものだから、橘先輩は反応できなかった。
そのまま待っていてくれればいい。
その声が聞こえた方に行く。
なるほど、ふたり組の高校生くらいのギャルが深々と白いクロッシェ帽を被った色白の子を囲っていた。
囲われている女の子の身長はそんなに高くない。中学生だな。
「ほら、遠慮しないでさ。遊ぼ?」
「きゃっ! やめ・・・」
うん、無理やりだよね。
係員の人やお店の人の目が届かない位置で誘っているのも狡賢い感じ。
「ねえ、お姉さん。嫌がってんじゃん」
ちょっとぶっきら棒な調子で俺は声をかける。
「やめ・・・え!?」
「なに~? あ~、君が代わりに遊んでくれんの?」
「皆で一緒に遊べば良くね? ほら、君もおいでよ~」
女の子は手を掴まれたまま。抵抗していたけど俺に気を取られて動きが止まった。
ギャルは聞く耳持たない感じか。
なら、強硬手段しかないな。
「ほら、こっち!」
「え!? きゃっ!」
急に飛び出し、ギャルが掴んでいる手を俺の体当たりで無理やり引き離す。
そのまま女の子の手を取って走り出す。
「ちょ、なにすんの!」
「待ってよぉ~」
ギャルは不満げな声を出していたが、悪いことをしている自覚があるのか追ってこない。
しばらく女の子の手を引いて走り続ける。
無我夢中で走って、中央広場の噴水近くまで来た。
ここなら人目が多いから大丈夫だろ。
ずっと引っ張っていた女の子の手を離し、その顔を見た。
「あの・・・」
「え!?」
いつの間にか帽子が取れていた。
まぁ、それは走ったから仕方ない。
問題は引っ張った人。九条さんじゃん!!
「えっと・・・その。九条さん?」
「きょ、京極さん! これは、その・・・」
ナニコレ。
あれか、恋敵が先駆けたのが気になって見に来ちゃったってやつか。
・・・。
けっこう酷いシチュエーションでお友達宣言したつもりだったんだけどな。
思ったより逞しい?
「・・・武君」
後ろから、穏やかならぬ声が聞こえる。
うん、分かってるよ。ある意味、テンプレだ。
振り返れば、にこにこ顔で腰に手をあてて佇んでいる橘先輩がいる。
笑顔だよ!!
こ、怖えぇぇぇ!!
「減点10。ペナルティよ」
「・・・ハイ」
さっき先輩って言ったやつか。緊急事態だったんですけどね!
冷や汗って、こういう時に出るんだね!
勉強になります!
「あの、橘先輩! 京極さんはわたしを助けるために動いてくれたのです! ペナルティなんて」
「ふうん? 人のデートをつけて邪魔しようとする泥棒猫ちゃんの手助けを許せと?」
「ちょ、ちょっと。ふたりとも」
「京極さんは黙っててください」
「武くんは黙って」
「あ、ハイ」
◇
結局、俺は蚊帳の外に置かれたまま、俺の聞こえないところでふたりの講和会議が行われた。
・・・なんで人助けをしたら俺が針筵になってんのさ。
理不尽だ・・・。
待つこと10分。何かしらの協定が結ばれたらしい。
橘先輩が笑顔で、九条さんが悔しそうな顔で、こちらにやって来た。
まぁ・・・そうなるよね。
どう考えても九条さんが不利だ。
「武君。九条をひとりにすると危ないから、人目があるところで待ってもらって一緒に帰ることになりました」
「・・・」
九条さんは全体的にグレーの服装で目立たない格好だけど、帽子を落としてしまったので銀髪が剥き出しだ。
端正な顔つきもあり色白なのも加わってとても目立つ。
既に時間も遅くなってきている。
また良からぬ人から声をかけられる可能性を考えれば妥当な判断だ。
でもまぁ唇を噛んで俯いてるその姿を見ると、何故か罪悪感を感じる。
うん・・・そりゃね。悔しいだろうね。
ごめんね、今は助け舟も出せそうにないよ。
なるべく早く迎えに来るしかなさそうだ。
「香さん。待ってもらって何をすんの?」
「あれに乗ったら終わり♪」
勝ち誇った笑顔で誘われた。
あれとは観覧車だ。
これならまぁ・・・1回転だけ待てば良いから15分くらいだろ。
よし、早く乗ろう。
「それで最後な。香さん、乗ろう」
「うん♪」
ここでこれ見よがしに腕くんでくるなんて・・・。
露骨だよ橘先輩ェ・・・。
九条さんの悔しそうな顔を見ちゃいられん。
さっさと乗って、帰ろう。
0
あなたにおすすめの小説
詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~
Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」
病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。
気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた!
これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。
だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。
皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。
その結果、
うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。
慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。
「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。
僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに!
行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。
そんな僕が、ついに魔法学園へ入学!
当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート!
しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。
魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。
この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――!
勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる!
腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!
痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~
ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。
食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。
最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。
それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。
※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。
カクヨムで先行投稿中!
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
魔道具は歌う~パーティ追放後に最高ランクになった俺を幼馴染は信じない。後で気づいてももう遅い、今まで支えてくれた人達がいるから~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界転生者シナグルのスキルは傾聴。
音が良く聞こえるだけの取り柄のないものだった、
幼馴染と加入したパーティを追放され、魔道具に出会うまでは。
魔道具の秘密を解き明かしたシナグルは、魔道具職人と冒険者でSSSランクに登り詰めるのだった。
そして再び出会う幼馴染。
彼女は俺がSSSランクだとは信じなかった。
もういい。
密かにやってた支援も打ち切る。
俺以外にも魔道具職人はいるさ。
落ちぶれて行く追放したパーティ。
俺は客とほのぼのとした良い関係を築きながら、成長していくのだった。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる