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ドキドキの中学1年生
018
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10月になり学校の後期授業が始まった。
勉強も順調だ。世界語も夜の自習も何とかなっている。
安定していた6月頃と同じ調子だ。
変わったことと言えば・・・。
「京極さん、お昼、行きましょう」
「あ、うん。行こうか」
九条さんが積極的になっていた。
いつもは俺が誘っていたのだけれども、いつの間にか逆転していたのだ。
ディスティニーランドの後からだから、まぁお察し。
食堂に向かうのでふたりで連れ立って廊下に出る。
すると目の前に、腰に手を当てて待ち構えている人がいた。
「や、武君。私もご一緒するね」
「今日も早ぇな、橘先輩」
変わったことその2。橘先輩のご同行。
ポニーテールで吊り目の美人。
この人、チャイム鳴ってすぐに来てない?
3年の教室って遠かったよね?
お見舞いもそうだったけど行動力ありすぎ。
「橘先輩。毎日下級生のところに来ていると同級生に疎遠にされますよ?」
「んー? 私が武君に会いたくて来てるから良いの」
九条さんの牽制は全く効かない。
この年代の2歳差は大きい。
いつも九条さんは橘先輩に弄ばれている。
仲の良い姉妹みたいになってんな。
そのまま3人で食堂へ向かう。
あれからお昼を一緒に食べるようになった橘先輩。
1日デートで終わりかと思っていたら、翌日、普通に絡みに来た。
理由は在学中に俺との接点を作るため。
朝礼前の時間帯にやいやいと乗り込んできたのだ。
お陰でモブで通していたのに注目を浴びた。
また休みの日に遊んだり、弓道部に顔を出して欲しい。
そんな要求をされた。
だけど俺がリア研と勉強に忙しく全く会えないと分かると怒り出した。
「私のこと、遊びだったのね!」とあざとく、俺のクラスで大声で。
外堀埋めんなって!!
仕方ねぇだろ、成績維持しなきゃなんねぇんだ!
妥協してお昼ならとなり、返事ふたつでこうなった。
いや、そもそも恋仲になってないはずなんだ。
俺、キープしたけど返事してないよね?
3年後に返事するってヘタレしたよね?
すっかり恋人然としてるってどうなのか。
そりゃ好きって言ったけどさ・・・。
LikeとLoveの間だよ。(英語って便利)
「わたしと京極さんだけだったのに・・・」
歩きながらぽつりと九条さんが呟く。
「あ、聞いた? 武君、九条は友達なのに武君を独占したいんだって! 友達なのに!」
「・・・!」
友達のところを何度も強調する。
九条さんが段々と涙目になっていく。
弄るの好きすぎだろ、橘先輩。
「橘先輩。あんまし露骨だとご一緒しねぇぞ・・・」
「あーん、ごめんごめん! ほら、九条、悪かったってば」
俺の橘先輩に対する口調もこれで落ち着いた。
弓道部から外に出ると調子軽いんだもんこの人。
あの凛々しい佇まいの尊敬できる先輩、どこ行った。
そんな調子なので橘先輩との距離感もこれで良いかと思った。
食堂に着くと各々、注文してトレーを持つ。
好みのメニューを手に、いつも座るところに集まった。
「武君って何でも食べるんだね」
「好き嫌いはねぇからな。嫌いなもん作ると人生、損すんだろ」
「なるほどねー。うんうん、良い心がけ」
俺のトレーには秋刀魚定食だ。
「そう言う橘先輩は肉類が多いな。今日はビーフカレーか。しかも大盛り」
「私、動くからお腹空くしね。成長期だしガッツリ食べたいのよ」
得意げに胸を張る橘先輩。
その横で大人しくカルボナーラを食べる九条さん。
寂しげなのを気にしてか橘先輩が水を向けた。
「九条はいつもパスタね?」
「わたし、パスタがお気に入りなんです」
「へぇ? どうして?」
「その・・・初めての外食で食べて、感動したからなんです」
「ほー」
前に和食三昧だったせいで洋食が良いって言ってたな。
その中でもパスタが好きな理由はそれなのか。
気持ちはわからんでも無い。
俺も初めてステーキを食べた時の衝撃は忘れない。
あの口に入れた時の香ばしい匂い、溢れる肉汁。
後にも先にも、あのステーキを超えるステーキに出会ったことはない。
良い店で初めてをくれた父親に感謝だ。
(リアルの記憶だけどね!)
「その、初めてのパスタの時の味に敵うパスタを探して、いつもパスタ食べてるとか?」
自分の体験を勝手に重ねて俺は適当なことを言う。
すると、ぴたりと九条さんの手が止まった。
「・・・どうしてそれを・・・」
九条さんは驚きの表情で俺を見る。
え、当たり?
ずっとその味をって探してるの?
だからいつもパスタなの?
・・・味を変えているのはお愛嬌ってか?
「そも、同じところで食べても見つからないんじゃ?」
「九条、食堂は自動調理機だよ? 味も同じじゃん」
俺と橘先輩で突っ込むと、九条さんは俯いて涙目になる。
「ま、まぁ、天候とか材料の差で味が変わるかもしれないし」
「・・・」
く、苦しい。なんて屁理屈。
やっべ、弄りすぎた。
13歳はまだ夢と現実が混ざってるお年頃だ、全否定は高校生のノリだな。
橘先輩、私しーらないって黙々と食べないでくれます?
あんた、一緒に畳みかけたじゃねぇか。
恨みがましい視線を俺に向ける九条さん。
これはあれだ、話題転換に限る。
「じゃ、今度、パスタを食べに行こうよ。俺も一緒に探すよ」
「え? はい、ご一緒しましょう!」
落ち込んでいたのが嘘のように、反転して華やかな笑顔を向けてくる。
・・・ゲンキンな感じだけどこの際、仕方ない。
「いいね、私も一緒に行く~」
「橘先輩! これはわたしと京極さんの約束です!」
「じゃ、武君。私とも別の日に食べに行こ?」
「駄目です!」
橘先輩、弄らないで! ややこしくなる!
我儘九条さん。頬を膨らませて怒っている。
これはこれで可愛いけどさ!
でも鑑賞するのは可哀想だ、話を終わらせよう。
「3人で行こうか。その方が安心だろ」
「ん、そうね」
橘先輩は俺の意図を察したのか落とし所に納得した返事をした。
「わたしとの約束だったのに・・・」
ぶつぶつと文句を言いながらパスタを食べる九条さん。
うん、九条さん?
橘先輩の女狐具合を理解しないと、当分、勝てないよ?
◇
そんな約束をしたので3人でパスタ探索の日。
日本大会が終わった最初の日曜日だ。
橘先輩は見事、大会3位の成績を残した。
団体戦とはいえ日本3位だぜ?
学校の校舎に垂れ幕で「祝!弓道部 日本大会3位!」って掲げられてる。
素直に偉業だと思う。
九条さんも今年は残念だったけど、来年以降に成績残してほしい。
あの弓道部はそのくらいの力があるのだから。
俺は集合時間30分前に来て、暇なのでそんな事を考えていた。
「あ、はやーい! お待たせ!」
橘先輩だ。いつも元気だよね。
デニムに白スニーカー、白いブラウスにニットのベスト。
色々、着こなす人だ。
「こんにちは。いつもオシャレだな」
「もー、さらっと誉め殺ししないの!」
ぱしん、と俺の肩を軽く叩く橘先輩。
嬉しそうな顔をしてるから照れ隠しだろう。
「すみません、お待たせしました」
「無問題! まだ10分前!」
橘先輩がビシッと指差す先に九条さんの姿。
長い銀髪に銀の睫毛。
ワンピースにニットベストを重ねた穏やかな雰囲気。
誰が見ても息を呑む可憐さだ。
楽しげな表情をしているのは純粋にお出かけが楽しみなのだろう。
デスティニーランドの時は尾行だったしね!
今日は堂々と一緒だね!
「九条さん、こんにちは。綺麗な格好だね」
「あ・・・こんにちは」
お、九条さんはお世辞に照れている。初々しい。
でも俺、女子を誉める語彙力ねぇんだよ。
雪子ひとりだったから何とかなったんだ。
同時にふたりで限界だ。
リップサービスは最初だけかも・・・今後期待しないで。
まぁあれだ。
世辞抜きにして、2人とも可愛い。
美人になること間違いなし。
JK時代以降に期待。今は俺にはまだ子供だ・・・たぶん。
「今日のお店はどこにするの?」
「はい。ちょっと距離がありますが、浜港駅の近くにある商業施設の中です」
「え? 行動範囲、広!?」
「あの・・・この街のお店は行き尽くしてしまいましたので」
「え!?」
なんということでしょう、衝撃の事実!
いつも寮にいると思っていた九条さんは遠征していた。
パスタを求めて三千里。
こうと決めたら頑張る性格なのは知ってるけど、中学1年でここまで開拓すんのか。
一途な性格ってすげえ。
これ、間違った方向に行ったらヤバい子だぞ。
「はー、そんなところまで。こりゃ期待だね!」
「うん、素直にすげぇな。そのお店って、やっぱり評判なの?」
「はい。行列ができるそうですから、この時間から向かったほうが良いかと」
時刻は10時。
お店は11時から開くそうだ。現地までおよそ30分。
なるほど計画的だ。
「それじゃ、しゅっぱ~つ!」
「え?」
当たり前のように俺の腕を組んで歩き出す橘先輩。
「・・・!」
「え?」
対抗意識を燃やして反対側の腕を掴む九条さん。
「待って」
「どうしたの?」
「どうしました?」
なぁに? と満面の笑顔で俺を覗き込んでるふたり。
「デートじゃなくて食レポだよね?」
◇
予定通りパスタのお店についた。
開店時間までは待機したけれど11時には入店できた。
既に後ろには長い行列が出来ており、九条さんの計画がなければかなり待ったことだろう。
カップルが多いから待っている間にイチャつける人たちはそれも楽しいのかもしれない。
・・・男、男ペアや、女、女ペアが腕を組んでいるのは友達同士のスキンシップと思いたい。
早速注文をし、大した待ち時間もなくパスタが運ばれてくる。
俺が頼んだのはミートスパ。俺はこれが一番好き。
橘先輩はペペロンチーノ。
そして九条さんはカルボナーラ。
それぞれ美味しそうに見える。さすが人気店。
「いただきます」
挨拶をして口に運ぶ。
濃厚なミートソースの香りが口いっぱいに広がる。
もっちりとしたパスタと絡み合ってハーモニーを奏でる。
「美味しい!」
「これはいける!」
俺も橘先輩も感激だ。
遠征して食べるだけの価値があった!
九条さんもさぞ感激だろうと思ったら、
「うん・・・これならあの角のお店・・・でも・・・」
ぶつぶつと喋っている。なんか怖え。
食レポってよりも品評ですね。さすが通ですね。
もしかしていつもひとりでもこの調子なのか!?
こくこくと頷きながら美味しそうに食べてはいるんだけど!
「九条の、ちょっと分けて~」
橘先輩が有無を言わさず九条さんのお皿からパスタを奪う。
「ああ・・・!」
とても切なそうな顔で盗られていくパスタを見送る九条さん。
なんだその庇護欲をそそる表情。
「ほら、俺のをあげるから」
「え!」
俺の皿から小皿に取り分け、九条さんに差し出す。
ぱぁっと嬉しそうに顔を綻ばせる九条さん。
「あ、私にもちょうだいよ~」
「ああ!?」
九条さんに差し出したお皿を横からかっさらう橘先輩。
涙目で頬を膨らませる九条さん。
おい、橘先輩。百面相させて遊んでんだろ!
「・・・橘先輩もみんなに分けてくれよ?」
「あ、ちょ、ちょっと! そんなにぃ!」
悪戯を咎められた表情の橘先輩の皿から多めに小皿に取り分け、九条さんに渡した。
そして改めて俺のミートパスタも盛って渡した。
無事にパスタを確保できた九条さんは、腕を組んだ時のように満面の笑みを浮かべていた。
その表情を見て癒やされた俺と橘先輩は、くすりと笑い合った。
◇
美味しくいただいた帰り道の電車の中。
橘先輩がちょっと真面目な顔をして言った。
「あのさ。私、受験勉強が忙しくなるんだ。ずっと部活だったし」
「うん」
「大会も終わったし、部活はもう引退なんだ」
「そうですよね・・・わたしたちも、いつまでも先輩に頼っていられません」
あの凛とした雰囲気の橘先輩。
九条さんも橘先輩の意図を汲んだのか、真剣な表情で受ける。
「また部活で話するけどさ、後は頼んだよ、九条」
「はい、任されました」
うんうん。美しい先輩後輩の絆だ。
大会で抱き合った一幕もあり、このふたり、弓道という点で通じ合う。
「九条、貴方には個人戦でも結果を残してほしい」
「はい」
「もちろん、団体戦でも。貴女ならできる」
「はい。・・・橘先輩、ご指導、ありがとうございました」
ぺこりと頭を下げる九条さん。
橘先輩は九条さんの肩に手を置く。
・・・意思の引き継ぎだなぁ。美しい。
きっと九条さんも日本大会に出場するんだろう。
割り込む空気でもなかったので外の景色を見ていた。
すると満足したのか橘先輩が伸びをしてすっきりした表情になった。
「それでね! 勉強詰めだと大変だし、息抜き無いからさぁ~」
すっかり空気抜けましたね、橘先輩。
「月に1度くらい、こうやってお出かけしたいな~って・・・」
例の上目遣いで俺にすり寄ってくる。
九条さんが見咎めて間に割り込んだ。
「それなら! 3人で一緒に行きましょう!」
「ふふ、3人で、ね。いいよ」
ちょっと剣呑とした雰囲気だった九条さんに、素直に笑顔で応じた橘先輩。
九条さんは毒気を抜かれたように、あれっとした表情を浮かべた後に。
「はい!」
また満面の笑みを浮かべたのだった。
勉強も順調だ。世界語も夜の自習も何とかなっている。
安定していた6月頃と同じ調子だ。
変わったことと言えば・・・。
「京極さん、お昼、行きましょう」
「あ、うん。行こうか」
九条さんが積極的になっていた。
いつもは俺が誘っていたのだけれども、いつの間にか逆転していたのだ。
ディスティニーランドの後からだから、まぁお察し。
食堂に向かうのでふたりで連れ立って廊下に出る。
すると目の前に、腰に手を当てて待ち構えている人がいた。
「や、武君。私もご一緒するね」
「今日も早ぇな、橘先輩」
変わったことその2。橘先輩のご同行。
ポニーテールで吊り目の美人。
この人、チャイム鳴ってすぐに来てない?
3年の教室って遠かったよね?
お見舞いもそうだったけど行動力ありすぎ。
「橘先輩。毎日下級生のところに来ていると同級生に疎遠にされますよ?」
「んー? 私が武君に会いたくて来てるから良いの」
九条さんの牽制は全く効かない。
この年代の2歳差は大きい。
いつも九条さんは橘先輩に弄ばれている。
仲の良い姉妹みたいになってんな。
そのまま3人で食堂へ向かう。
あれからお昼を一緒に食べるようになった橘先輩。
1日デートで終わりかと思っていたら、翌日、普通に絡みに来た。
理由は在学中に俺との接点を作るため。
朝礼前の時間帯にやいやいと乗り込んできたのだ。
お陰でモブで通していたのに注目を浴びた。
また休みの日に遊んだり、弓道部に顔を出して欲しい。
そんな要求をされた。
だけど俺がリア研と勉強に忙しく全く会えないと分かると怒り出した。
「私のこと、遊びだったのね!」とあざとく、俺のクラスで大声で。
外堀埋めんなって!!
仕方ねぇだろ、成績維持しなきゃなんねぇんだ!
妥協してお昼ならとなり、返事ふたつでこうなった。
いや、そもそも恋仲になってないはずなんだ。
俺、キープしたけど返事してないよね?
3年後に返事するってヘタレしたよね?
すっかり恋人然としてるってどうなのか。
そりゃ好きって言ったけどさ・・・。
LikeとLoveの間だよ。(英語って便利)
「わたしと京極さんだけだったのに・・・」
歩きながらぽつりと九条さんが呟く。
「あ、聞いた? 武君、九条は友達なのに武君を独占したいんだって! 友達なのに!」
「・・・!」
友達のところを何度も強調する。
九条さんが段々と涙目になっていく。
弄るの好きすぎだろ、橘先輩。
「橘先輩。あんまし露骨だとご一緒しねぇぞ・・・」
「あーん、ごめんごめん! ほら、九条、悪かったってば」
俺の橘先輩に対する口調もこれで落ち着いた。
弓道部から外に出ると調子軽いんだもんこの人。
あの凛々しい佇まいの尊敬できる先輩、どこ行った。
そんな調子なので橘先輩との距離感もこれで良いかと思った。
食堂に着くと各々、注文してトレーを持つ。
好みのメニューを手に、いつも座るところに集まった。
「武君って何でも食べるんだね」
「好き嫌いはねぇからな。嫌いなもん作ると人生、損すんだろ」
「なるほどねー。うんうん、良い心がけ」
俺のトレーには秋刀魚定食だ。
「そう言う橘先輩は肉類が多いな。今日はビーフカレーか。しかも大盛り」
「私、動くからお腹空くしね。成長期だしガッツリ食べたいのよ」
得意げに胸を張る橘先輩。
その横で大人しくカルボナーラを食べる九条さん。
寂しげなのを気にしてか橘先輩が水を向けた。
「九条はいつもパスタね?」
「わたし、パスタがお気に入りなんです」
「へぇ? どうして?」
「その・・・初めての外食で食べて、感動したからなんです」
「ほー」
前に和食三昧だったせいで洋食が良いって言ってたな。
その中でもパスタが好きな理由はそれなのか。
気持ちはわからんでも無い。
俺も初めてステーキを食べた時の衝撃は忘れない。
あの口に入れた時の香ばしい匂い、溢れる肉汁。
後にも先にも、あのステーキを超えるステーキに出会ったことはない。
良い店で初めてをくれた父親に感謝だ。
(リアルの記憶だけどね!)
「その、初めてのパスタの時の味に敵うパスタを探して、いつもパスタ食べてるとか?」
自分の体験を勝手に重ねて俺は適当なことを言う。
すると、ぴたりと九条さんの手が止まった。
「・・・どうしてそれを・・・」
九条さんは驚きの表情で俺を見る。
え、当たり?
ずっとその味をって探してるの?
だからいつもパスタなの?
・・・味を変えているのはお愛嬌ってか?
「そも、同じところで食べても見つからないんじゃ?」
「九条、食堂は自動調理機だよ? 味も同じじゃん」
俺と橘先輩で突っ込むと、九条さんは俯いて涙目になる。
「ま、まぁ、天候とか材料の差で味が変わるかもしれないし」
「・・・」
く、苦しい。なんて屁理屈。
やっべ、弄りすぎた。
13歳はまだ夢と現実が混ざってるお年頃だ、全否定は高校生のノリだな。
橘先輩、私しーらないって黙々と食べないでくれます?
あんた、一緒に畳みかけたじゃねぇか。
恨みがましい視線を俺に向ける九条さん。
これはあれだ、話題転換に限る。
「じゃ、今度、パスタを食べに行こうよ。俺も一緒に探すよ」
「え? はい、ご一緒しましょう!」
落ち込んでいたのが嘘のように、反転して華やかな笑顔を向けてくる。
・・・ゲンキンな感じだけどこの際、仕方ない。
「いいね、私も一緒に行く~」
「橘先輩! これはわたしと京極さんの約束です!」
「じゃ、武君。私とも別の日に食べに行こ?」
「駄目です!」
橘先輩、弄らないで! ややこしくなる!
我儘九条さん。頬を膨らませて怒っている。
これはこれで可愛いけどさ!
でも鑑賞するのは可哀想だ、話を終わらせよう。
「3人で行こうか。その方が安心だろ」
「ん、そうね」
橘先輩は俺の意図を察したのか落とし所に納得した返事をした。
「わたしとの約束だったのに・・・」
ぶつぶつと文句を言いながらパスタを食べる九条さん。
うん、九条さん?
橘先輩の女狐具合を理解しないと、当分、勝てないよ?
◇
そんな約束をしたので3人でパスタ探索の日。
日本大会が終わった最初の日曜日だ。
橘先輩は見事、大会3位の成績を残した。
団体戦とはいえ日本3位だぜ?
学校の校舎に垂れ幕で「祝!弓道部 日本大会3位!」って掲げられてる。
素直に偉業だと思う。
九条さんも今年は残念だったけど、来年以降に成績残してほしい。
あの弓道部はそのくらいの力があるのだから。
俺は集合時間30分前に来て、暇なのでそんな事を考えていた。
「あ、はやーい! お待たせ!」
橘先輩だ。いつも元気だよね。
デニムに白スニーカー、白いブラウスにニットのベスト。
色々、着こなす人だ。
「こんにちは。いつもオシャレだな」
「もー、さらっと誉め殺ししないの!」
ぱしん、と俺の肩を軽く叩く橘先輩。
嬉しそうな顔をしてるから照れ隠しだろう。
「すみません、お待たせしました」
「無問題! まだ10分前!」
橘先輩がビシッと指差す先に九条さんの姿。
長い銀髪に銀の睫毛。
ワンピースにニットベストを重ねた穏やかな雰囲気。
誰が見ても息を呑む可憐さだ。
楽しげな表情をしているのは純粋にお出かけが楽しみなのだろう。
デスティニーランドの時は尾行だったしね!
今日は堂々と一緒だね!
「九条さん、こんにちは。綺麗な格好だね」
「あ・・・こんにちは」
お、九条さんはお世辞に照れている。初々しい。
でも俺、女子を誉める語彙力ねぇんだよ。
雪子ひとりだったから何とかなったんだ。
同時にふたりで限界だ。
リップサービスは最初だけかも・・・今後期待しないで。
まぁあれだ。
世辞抜きにして、2人とも可愛い。
美人になること間違いなし。
JK時代以降に期待。今は俺にはまだ子供だ・・・たぶん。
「今日のお店はどこにするの?」
「はい。ちょっと距離がありますが、浜港駅の近くにある商業施設の中です」
「え? 行動範囲、広!?」
「あの・・・この街のお店は行き尽くしてしまいましたので」
「え!?」
なんということでしょう、衝撃の事実!
いつも寮にいると思っていた九条さんは遠征していた。
パスタを求めて三千里。
こうと決めたら頑張る性格なのは知ってるけど、中学1年でここまで開拓すんのか。
一途な性格ってすげえ。
これ、間違った方向に行ったらヤバい子だぞ。
「はー、そんなところまで。こりゃ期待だね!」
「うん、素直にすげぇな。そのお店って、やっぱり評判なの?」
「はい。行列ができるそうですから、この時間から向かったほうが良いかと」
時刻は10時。
お店は11時から開くそうだ。現地までおよそ30分。
なるほど計画的だ。
「それじゃ、しゅっぱ~つ!」
「え?」
当たり前のように俺の腕を組んで歩き出す橘先輩。
「・・・!」
「え?」
対抗意識を燃やして反対側の腕を掴む九条さん。
「待って」
「どうしたの?」
「どうしました?」
なぁに? と満面の笑顔で俺を覗き込んでるふたり。
「デートじゃなくて食レポだよね?」
◇
予定通りパスタのお店についた。
開店時間までは待機したけれど11時には入店できた。
既に後ろには長い行列が出来ており、九条さんの計画がなければかなり待ったことだろう。
カップルが多いから待っている間にイチャつける人たちはそれも楽しいのかもしれない。
・・・男、男ペアや、女、女ペアが腕を組んでいるのは友達同士のスキンシップと思いたい。
早速注文をし、大した待ち時間もなくパスタが運ばれてくる。
俺が頼んだのはミートスパ。俺はこれが一番好き。
橘先輩はペペロンチーノ。
そして九条さんはカルボナーラ。
それぞれ美味しそうに見える。さすが人気店。
「いただきます」
挨拶をして口に運ぶ。
濃厚なミートソースの香りが口いっぱいに広がる。
もっちりとしたパスタと絡み合ってハーモニーを奏でる。
「美味しい!」
「これはいける!」
俺も橘先輩も感激だ。
遠征して食べるだけの価値があった!
九条さんもさぞ感激だろうと思ったら、
「うん・・・これならあの角のお店・・・でも・・・」
ぶつぶつと喋っている。なんか怖え。
食レポってよりも品評ですね。さすが通ですね。
もしかしていつもひとりでもこの調子なのか!?
こくこくと頷きながら美味しそうに食べてはいるんだけど!
「九条の、ちょっと分けて~」
橘先輩が有無を言わさず九条さんのお皿からパスタを奪う。
「ああ・・・!」
とても切なそうな顔で盗られていくパスタを見送る九条さん。
なんだその庇護欲をそそる表情。
「ほら、俺のをあげるから」
「え!」
俺の皿から小皿に取り分け、九条さんに差し出す。
ぱぁっと嬉しそうに顔を綻ばせる九条さん。
「あ、私にもちょうだいよ~」
「ああ!?」
九条さんに差し出したお皿を横からかっさらう橘先輩。
涙目で頬を膨らませる九条さん。
おい、橘先輩。百面相させて遊んでんだろ!
「・・・橘先輩もみんなに分けてくれよ?」
「あ、ちょ、ちょっと! そんなにぃ!」
悪戯を咎められた表情の橘先輩の皿から多めに小皿に取り分け、九条さんに渡した。
そして改めて俺のミートパスタも盛って渡した。
無事にパスタを確保できた九条さんは、腕を組んだ時のように満面の笑みを浮かべていた。
その表情を見て癒やされた俺と橘先輩は、くすりと笑い合った。
◇
美味しくいただいた帰り道の電車の中。
橘先輩がちょっと真面目な顔をして言った。
「あのさ。私、受験勉強が忙しくなるんだ。ずっと部活だったし」
「うん」
「大会も終わったし、部活はもう引退なんだ」
「そうですよね・・・わたしたちも、いつまでも先輩に頼っていられません」
あの凛とした雰囲気の橘先輩。
九条さんも橘先輩の意図を汲んだのか、真剣な表情で受ける。
「また部活で話するけどさ、後は頼んだよ、九条」
「はい、任されました」
うんうん。美しい先輩後輩の絆だ。
大会で抱き合った一幕もあり、このふたり、弓道という点で通じ合う。
「九条、貴方には個人戦でも結果を残してほしい」
「はい」
「もちろん、団体戦でも。貴女ならできる」
「はい。・・・橘先輩、ご指導、ありがとうございました」
ぺこりと頭を下げる九条さん。
橘先輩は九条さんの肩に手を置く。
・・・意思の引き継ぎだなぁ。美しい。
きっと九条さんも日本大会に出場するんだろう。
割り込む空気でもなかったので外の景色を見ていた。
すると満足したのか橘先輩が伸びをしてすっきりした表情になった。
「それでね! 勉強詰めだと大変だし、息抜き無いからさぁ~」
すっかり空気抜けましたね、橘先輩。
「月に1度くらい、こうやってお出かけしたいな~って・・・」
例の上目遣いで俺にすり寄ってくる。
九条さんが見咎めて間に割り込んだ。
「それなら! 3人で一緒に行きましょう!」
「ふふ、3人で、ね。いいよ」
ちょっと剣呑とした雰囲気だった九条さんに、素直に笑顔で応じた橘先輩。
九条さんは毒気を抜かれたように、あれっとした表情を浮かべた後に。
「はい!」
また満面の笑みを浮かべたのだった。
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ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
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※本作品は他サイト様でも掲載中です。
魔道具は歌う~パーティ追放後に最高ランクになった俺を幼馴染は信じない。後で気づいてももう遅い、今まで支えてくれた人達がいるから~
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スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
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S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
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[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
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職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
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