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怒涛の中学3年生
055
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11月上旬、俺は忙しかった。
何はともあれ、先ず身体のリハビリだ。
動けなけりゃ何も出来ない。
とにかく必死で脚や腕を動かすところから始めた。
寝たきりになるとこんなにも体力が落ちるのかとびっくりした。
なるほどね、そりゃ寝たきり老人になったら余計に動けなくなるわけだ。
こんな成長期の若い身体でさえこれなんだから。
もっとも、俺の身体は魔王の霧で筋組織までボロボロになっていたそうで。
未来医療により1から再生されたような身体だから、馴染むまでは本当にきつかった。
単純に腕や脚、首といった部分を動かす訓練はひとりで頑張るしかない。
お見舞いに来る香さんはいつもリンゴを持ってきてくれた。
「好きなんだよね」と持ってきてくれる度に感動してしまう。
当初は食べられなくて「あ~ん」して貰ったのも気恥ずかしいながら嬉しかった。
日中のリハビリは看護師さんが付き添ってくれた。
けど、夕方になるといつも香さんがやって来て、夜まで面倒を見てくれる。
部活や勉強もやってくれと訴えたが、付き添いは頑として譲らなかった。
「貴方と両想いになれた」「傍に居させて」と、毎日、本当に嬉しそうに言うのだから。
その笑顔を見るたび絆されてしまい、強く拒否することができなかった。
◇
脚の訓練のとき。
寝たまま脚を上下する。
ベッドに腰掛けて脚を上下する。
それだけで汗が吹き出て倒れ込みそうになる。
香さんはその度に身体を支え、汗を拭き、俺を労ってくれた。
歩行訓練のとき。
手すりに掴まり一歩一歩、慎重に歩く。
うまく力が入らず倒れそうになると、すかさず香さんが抱き止めてくれた。
もう一度、手すりに掴まれる姿勢まで優しく戻してくれて。
屈辱を感じることもなく、また歩こう、という気持ちにさせてくれた。
こうして香さんが傍にいるといつも気力が充実した。
毎日、汗だくになるまで訓練を続け・・・。
医者も驚く速度で俺は身体を取り戻していった。
あの死の恐怖に比べれば、今は何だってできる気がした。
自分で与える痛みや苦しみなんて軽いものだ。
俺はただ、元の身体に戻って・・・香さんと一緒に歩きたいと思った。
いつも1番最初に思いつくのは香さんのことだったから。
もちろん本来の目的のためにも、とは思っていた。
それは2番目に思いつくことだった。
◇
目を覚まして1週間もする頃には自由に歩き回れるくらいになった。
2週間を目前にして退院の許可が出た。
やった、シャバに出られると喜んでいたところに水を差すような話が来る。
世界政府の監視官という、良く分からない身分の人が面会するというのだ。
スーツに身を包みサングラスをした髪の長い怪しいお姉さんだった。
「貴方は貴重な事例です」
と、開口1番、モルモット宣言をしてくれた。
監視官は対魔物戦線、いわゆる世界戦線に役立つ能力を持つとされる人物を追跡する人らしい。
えーと。何で俺?
そう聞いてみると
「AR値が世界最高水準にあります」
とのお言葉。
え?
そういえば測ってなかったよな。
そう思って数値を聞いてみた。
「92%、です」
「は?」
ゼロから92。
何の冗談だよってくらいギャップがある。
え、何?
俺、黒部ダムを見上げてたと思ってたら、今はヘリから黒部ダムへダイブできる位置にいるってこと?
怖ぇよ!!!
ということで。
旧人類が魔王の霧を全身に浴び心身を全リセットし、復活するとAR値が急上昇する。
そんな誰得な事例として国の監視対象にされたそうだ。
いやね・・・たぶん、1度死んでるから、俺。
真似しちゃいけんやつだよ・・・。
事例にしちゃいかん。
◇
11月中旬。
退院してからも俺は忙しかった。
先ずは復学。
休学を含めてほぼ4か月いなかったわけだ。
義務教育とはいえ進学資格が得られるのか。
担任を通して学校長と面接となった。
自立後見もあり、俺の意思でこのまま卒業を希望すること。
そのために単位などが不足するなら補習など必要な措置を受けること。
そして受験のための内申を出してほしいということ。
それらを訴えた。
難色を示されたものの、休学はボランティアであり、その後は事故の療養であったことを考慮され、最終的に許可された。
次に大変だったのが高天原学園の受験申し込みだ。
願書出願に際してAR値の証明書であるとか内申であるとか、そういった添付書類が多かった。
どこで入手できるんだよ、と通学と経過観察の通院に追われながら書類をかき集めた。
病院で検査ついでに取得したAR値証明。
「あなたの魔力適合値は 92% です」
とだけ書かれたシンプルなこの証明書。
これを得るためにどれほど苦労したというのか・・・。
書類を手にひとりでニヤけるくらい許されても良いと思う。
最終的に役所に行って必要書類一式を電子証明化して。
それを送信して出願完了が出来たのは申込み期限の前日、11月29日だった。
◇
時間は少し遡り、退院した直後の11月中旬。
俺は学校の授業に復帰した。
久しぶりに入る教室は前と変わっていなかった。
席替えもあったはずだが俺の席はそのまま。
御子柴君や花栗さん、九条さんも同じ席だった。
ただ、その3人も含めてクラスメイトたちは遠巻きに俺を見ていた。
腫れ物に触るような態度。
3人は仕方ない。俺がそう仕向けたのだから。
クラスメイトには色々な噂が流れたのだろう。
休学期間が長すぎたのだ、自宅謹慎でもしていたと思われたかもしれない。
やれ、問題を起こして停学になったとか、成績が足りなくて不登校になったとか。
幾らでも邪推することはできただろう。
自席に座って朝礼が終わり午前中の授業を受ける。
1年の頃はぼっちをやっていたから誰とも会話しない状態もそんなに違和感がない。
俺は遅れを取り戻すためとにかく必死だった。
休み時間も教科書や参考資料にかじりつき読み漁った。
受験勉強で上積みがあった分、どうにかなりそうだと目処がついた頃、既に放課後だった。
皆、部活に行ってしまい俺は教室にひとりだった。
今はこれでいい。
誰かに構う時間はない。
・・・と思ったが、後輩のふたりの顔が思い浮かんだ。
そうだ、ずっと放置しているじゃないか。
荷物を引っ掴むと、俺はリア研の部室へ向かった。
部室の電気はついていた。
あのふたりが居るのだろう。
がらりと扉を開けた。
真ん中の机で隣り合って勉強をしていたであろうふたりが、こちらを振り返った。
「よう、元気してたか」
「・・・先輩?」
「あ~! 久しぶりの先輩じゃん!」
驚いたような表情を浮かべた後。
ふたりとも嬉しそうにこちらに駆け寄ってきた。
「ごめん。ボランティアから帰ってからちょっと怪我で入院してて」
「あ~、聞いたよ~。大変だったって~」
「無事で良かったです!」
ここでも心配をかけていた。
思ったよりも慕われていた?
何やらくすぐったい。
「あれ、ふたりとも勉強してんの?」
「えへへ、褒めてもらいたくて」
「え?」
「あ~、先輩の真似だぜ~」
ん~?
良く分からないけど、ふたりともずっとここで勉強していたのか。
いつの間にか勉強部になっていたらしい。
「・・・あれか。刷り込み?」
「あたしは鳥じゃねぇよ。小鳥は小鳥遊だ」
「あ、ほんとうです」
仲良いね、君ら。
ともあれ頑張っていたであろうことは事実。
そのくらい褒めてあげよう。
「よし。俺が居ない間、よく頑張ったな!」
ふたりの頭をわしわしと撫でまくる。
「ひゃー!!」
「きゃー!!」
身を屈めながらも、ふたりとも嬉しそうだ。
小鳥じゃなくて子犬だろ。
・・・ま、心配をかけたんだし、頑張ったんだし。
気が済むまで撫でてやろうじゃないか。
◇
放課後、俺は時間の許す限りリア研で勉強をすることにした。
高天原の受験までの短い間だけど。
この場で全力で頑張る姿を後輩に見せておこう。
テクスタントを取り出して、ふと思い出した。
「世界語マスターへの道」へ接続する。
戻ってから練習に付き合ってくれと頼んでいた先輩がいるかも、と思ったのだ。
10月当初の予定が11月下旬だ。
駄目元でルームを探してみると・・・
「京極君、おかえりなさい」
あったよ・・・。
先輩、これ、毎日立ててたのか?
ちょっと震える指でルームを選択すると・・・先輩の顔が映った。
『あ! 来てくれた!』
「先輩、久しぶり」
『あ~もう、良かったよ~。ほんとに心配したんだよ~』
「悪ぃ悪ぃ。結局、アレで入院しちまってさ」
『・・・やっぱり、そうなったんだね。でも何とかなったみたいだね』
「うん。どうにか戻って来られたよ」
『そっか。そうだ、お守りって持ってる?』
「ああ、うん。確かまだ荷物に・・・」
俺は鞄の中から赤い巾着を取り出した。
『それ、中身を出してみて?』
「ん? 何だこれ、割れてる」
『・・・割れちゃったかぁ』
中身は綺麗な真珠みたいな丸い石だった。
ひび割れて綺麗に2つになっていた。
『それね、エンジェルストーンっていうの』
「へえ、エンジェルストーン・・・!?」
聞き覚えがある。
というか、よく知っている。
ゲーム後半、アトランティス大陸で手に入るアーティファクト。
キャラが即死攻撃を受けた時に身代わりになってくれるやつ。
『京極君の身代わりになってくれたんだよ~。良かったよ~』
「そ、そうなんだ・・・助かったよ、ありがとう、先輩」
つまり・・・何だ。
魔王の霧って即死攻撃!?
触れたら確率で死ぬってやつ!?
ダメージだけじゃねぇって、初見殺しどころじゃねえじゃん!!
しかも即死免れても瀕死になってたよ!!
うへぇ、旧人類限定の攻撃とはいえ、なんて無謀な挑戦だったんだよ・・・。
「先輩、これって・・・入手すんの、とんでもなく難しいものなんじゃ?」
『え~、ナイショ! 京極君の役に立ったなら良いんだよ~』
・・・。やっぱり謎だ、この人。
魔物?のアレといい、関係者に世界戦線で闘ってる人がいるんじゃんねぇのか?
プライスレスなアイテムを、プライスレスなタイミングで貰えた。
僥倖として受け止め、飯塚先輩に感謝しておこう。
「先輩、本当に助かった。ありがとう」
『良いんだよ。それで・・・AR値、どうなった?』
「ええと・・・92」
『え・・・? 92・・・?』
また、微妙な反応ですね。
『・・・それ、監視官がついたんじゃない?』
「よくご存知で」
『そっか。うん・・・また、何か困ったことがあったら言ってね?』
「うん」
先輩の謎は色々あんだけどさ。
今も含むような言い方をしてるあたりが、更に謎を呼ぶんだよね。
香さんとは別の意味で、飯塚先輩には頭が上がらねぇな・・・。
『それで、受験までもう時間がないんだよね? 世界語、やるでしょ?』
「ああ、うん。頼むよ先輩」
久しぶりの先輩との世界語講座。
ボランティアで散々に扱ったこともあり、スピーキングやリスニングは完璧だとお墨付きを貰った。
あと数回、リハビリに付き合ってくれるそうだ。
本当に助かるよ、先輩!
何はともあれ、先ず身体のリハビリだ。
動けなけりゃ何も出来ない。
とにかく必死で脚や腕を動かすところから始めた。
寝たきりになるとこんなにも体力が落ちるのかとびっくりした。
なるほどね、そりゃ寝たきり老人になったら余計に動けなくなるわけだ。
こんな成長期の若い身体でさえこれなんだから。
もっとも、俺の身体は魔王の霧で筋組織までボロボロになっていたそうで。
未来医療により1から再生されたような身体だから、馴染むまでは本当にきつかった。
単純に腕や脚、首といった部分を動かす訓練はひとりで頑張るしかない。
お見舞いに来る香さんはいつもリンゴを持ってきてくれた。
「好きなんだよね」と持ってきてくれる度に感動してしまう。
当初は食べられなくて「あ~ん」して貰ったのも気恥ずかしいながら嬉しかった。
日中のリハビリは看護師さんが付き添ってくれた。
けど、夕方になるといつも香さんがやって来て、夜まで面倒を見てくれる。
部活や勉強もやってくれと訴えたが、付き添いは頑として譲らなかった。
「貴方と両想いになれた」「傍に居させて」と、毎日、本当に嬉しそうに言うのだから。
その笑顔を見るたび絆されてしまい、強く拒否することができなかった。
◇
脚の訓練のとき。
寝たまま脚を上下する。
ベッドに腰掛けて脚を上下する。
それだけで汗が吹き出て倒れ込みそうになる。
香さんはその度に身体を支え、汗を拭き、俺を労ってくれた。
歩行訓練のとき。
手すりに掴まり一歩一歩、慎重に歩く。
うまく力が入らず倒れそうになると、すかさず香さんが抱き止めてくれた。
もう一度、手すりに掴まれる姿勢まで優しく戻してくれて。
屈辱を感じることもなく、また歩こう、という気持ちにさせてくれた。
こうして香さんが傍にいるといつも気力が充実した。
毎日、汗だくになるまで訓練を続け・・・。
医者も驚く速度で俺は身体を取り戻していった。
あの死の恐怖に比べれば、今は何だってできる気がした。
自分で与える痛みや苦しみなんて軽いものだ。
俺はただ、元の身体に戻って・・・香さんと一緒に歩きたいと思った。
いつも1番最初に思いつくのは香さんのことだったから。
もちろん本来の目的のためにも、とは思っていた。
それは2番目に思いつくことだった。
◇
目を覚まして1週間もする頃には自由に歩き回れるくらいになった。
2週間を目前にして退院の許可が出た。
やった、シャバに出られると喜んでいたところに水を差すような話が来る。
世界政府の監視官という、良く分からない身分の人が面会するというのだ。
スーツに身を包みサングラスをした髪の長い怪しいお姉さんだった。
「貴方は貴重な事例です」
と、開口1番、モルモット宣言をしてくれた。
監視官は対魔物戦線、いわゆる世界戦線に役立つ能力を持つとされる人物を追跡する人らしい。
えーと。何で俺?
そう聞いてみると
「AR値が世界最高水準にあります」
とのお言葉。
え?
そういえば測ってなかったよな。
そう思って数値を聞いてみた。
「92%、です」
「は?」
ゼロから92。
何の冗談だよってくらいギャップがある。
え、何?
俺、黒部ダムを見上げてたと思ってたら、今はヘリから黒部ダムへダイブできる位置にいるってこと?
怖ぇよ!!!
ということで。
旧人類が魔王の霧を全身に浴び心身を全リセットし、復活するとAR値が急上昇する。
そんな誰得な事例として国の監視対象にされたそうだ。
いやね・・・たぶん、1度死んでるから、俺。
真似しちゃいけんやつだよ・・・。
事例にしちゃいかん。
◇
11月中旬。
退院してからも俺は忙しかった。
先ずは復学。
休学を含めてほぼ4か月いなかったわけだ。
義務教育とはいえ進学資格が得られるのか。
担任を通して学校長と面接となった。
自立後見もあり、俺の意思でこのまま卒業を希望すること。
そのために単位などが不足するなら補習など必要な措置を受けること。
そして受験のための内申を出してほしいということ。
それらを訴えた。
難色を示されたものの、休学はボランティアであり、その後は事故の療養であったことを考慮され、最終的に許可された。
次に大変だったのが高天原学園の受験申し込みだ。
願書出願に際してAR値の証明書であるとか内申であるとか、そういった添付書類が多かった。
どこで入手できるんだよ、と通学と経過観察の通院に追われながら書類をかき集めた。
病院で検査ついでに取得したAR値証明。
「あなたの魔力適合値は 92% です」
とだけ書かれたシンプルなこの証明書。
これを得るためにどれほど苦労したというのか・・・。
書類を手にひとりでニヤけるくらい許されても良いと思う。
最終的に役所に行って必要書類一式を電子証明化して。
それを送信して出願完了が出来たのは申込み期限の前日、11月29日だった。
◇
時間は少し遡り、退院した直後の11月中旬。
俺は学校の授業に復帰した。
久しぶりに入る教室は前と変わっていなかった。
席替えもあったはずだが俺の席はそのまま。
御子柴君や花栗さん、九条さんも同じ席だった。
ただ、その3人も含めてクラスメイトたちは遠巻きに俺を見ていた。
腫れ物に触るような態度。
3人は仕方ない。俺がそう仕向けたのだから。
クラスメイトには色々な噂が流れたのだろう。
休学期間が長すぎたのだ、自宅謹慎でもしていたと思われたかもしれない。
やれ、問題を起こして停学になったとか、成績が足りなくて不登校になったとか。
幾らでも邪推することはできただろう。
自席に座って朝礼が終わり午前中の授業を受ける。
1年の頃はぼっちをやっていたから誰とも会話しない状態もそんなに違和感がない。
俺は遅れを取り戻すためとにかく必死だった。
休み時間も教科書や参考資料にかじりつき読み漁った。
受験勉強で上積みがあった分、どうにかなりそうだと目処がついた頃、既に放課後だった。
皆、部活に行ってしまい俺は教室にひとりだった。
今はこれでいい。
誰かに構う時間はない。
・・・と思ったが、後輩のふたりの顔が思い浮かんだ。
そうだ、ずっと放置しているじゃないか。
荷物を引っ掴むと、俺はリア研の部室へ向かった。
部室の電気はついていた。
あのふたりが居るのだろう。
がらりと扉を開けた。
真ん中の机で隣り合って勉強をしていたであろうふたりが、こちらを振り返った。
「よう、元気してたか」
「・・・先輩?」
「あ~! 久しぶりの先輩じゃん!」
驚いたような表情を浮かべた後。
ふたりとも嬉しそうにこちらに駆け寄ってきた。
「ごめん。ボランティアから帰ってからちょっと怪我で入院してて」
「あ~、聞いたよ~。大変だったって~」
「無事で良かったです!」
ここでも心配をかけていた。
思ったよりも慕われていた?
何やらくすぐったい。
「あれ、ふたりとも勉強してんの?」
「えへへ、褒めてもらいたくて」
「え?」
「あ~、先輩の真似だぜ~」
ん~?
良く分からないけど、ふたりともずっとここで勉強していたのか。
いつの間にか勉強部になっていたらしい。
「・・・あれか。刷り込み?」
「あたしは鳥じゃねぇよ。小鳥は小鳥遊だ」
「あ、ほんとうです」
仲良いね、君ら。
ともあれ頑張っていたであろうことは事実。
そのくらい褒めてあげよう。
「よし。俺が居ない間、よく頑張ったな!」
ふたりの頭をわしわしと撫でまくる。
「ひゃー!!」
「きゃー!!」
身を屈めながらも、ふたりとも嬉しそうだ。
小鳥じゃなくて子犬だろ。
・・・ま、心配をかけたんだし、頑張ったんだし。
気が済むまで撫でてやろうじゃないか。
◇
放課後、俺は時間の許す限りリア研で勉強をすることにした。
高天原の受験までの短い間だけど。
この場で全力で頑張る姿を後輩に見せておこう。
テクスタントを取り出して、ふと思い出した。
「世界語マスターへの道」へ接続する。
戻ってから練習に付き合ってくれと頼んでいた先輩がいるかも、と思ったのだ。
10月当初の予定が11月下旬だ。
駄目元でルームを探してみると・・・
「京極君、おかえりなさい」
あったよ・・・。
先輩、これ、毎日立ててたのか?
ちょっと震える指でルームを選択すると・・・先輩の顔が映った。
『あ! 来てくれた!』
「先輩、久しぶり」
『あ~もう、良かったよ~。ほんとに心配したんだよ~』
「悪ぃ悪ぃ。結局、アレで入院しちまってさ」
『・・・やっぱり、そうなったんだね。でも何とかなったみたいだね』
「うん。どうにか戻って来られたよ」
『そっか。そうだ、お守りって持ってる?』
「ああ、うん。確かまだ荷物に・・・」
俺は鞄の中から赤い巾着を取り出した。
『それ、中身を出してみて?』
「ん? 何だこれ、割れてる」
『・・・割れちゃったかぁ』
中身は綺麗な真珠みたいな丸い石だった。
ひび割れて綺麗に2つになっていた。
『それね、エンジェルストーンっていうの』
「へえ、エンジェルストーン・・・!?」
聞き覚えがある。
というか、よく知っている。
ゲーム後半、アトランティス大陸で手に入るアーティファクト。
キャラが即死攻撃を受けた時に身代わりになってくれるやつ。
『京極君の身代わりになってくれたんだよ~。良かったよ~』
「そ、そうなんだ・・・助かったよ、ありがとう、先輩」
つまり・・・何だ。
魔王の霧って即死攻撃!?
触れたら確率で死ぬってやつ!?
ダメージだけじゃねぇって、初見殺しどころじゃねえじゃん!!
しかも即死免れても瀕死になってたよ!!
うへぇ、旧人類限定の攻撃とはいえ、なんて無謀な挑戦だったんだよ・・・。
「先輩、これって・・・入手すんの、とんでもなく難しいものなんじゃ?」
『え~、ナイショ! 京極君の役に立ったなら良いんだよ~』
・・・。やっぱり謎だ、この人。
魔物?のアレといい、関係者に世界戦線で闘ってる人がいるんじゃんねぇのか?
プライスレスなアイテムを、プライスレスなタイミングで貰えた。
僥倖として受け止め、飯塚先輩に感謝しておこう。
「先輩、本当に助かった。ありがとう」
『良いんだよ。それで・・・AR値、どうなった?』
「ええと・・・92」
『え・・・? 92・・・?』
また、微妙な反応ですね。
『・・・それ、監視官がついたんじゃない?』
「よくご存知で」
『そっか。うん・・・また、何か困ったことがあったら言ってね?』
「うん」
先輩の謎は色々あんだけどさ。
今も含むような言い方をしてるあたりが、更に謎を呼ぶんだよね。
香さんとは別の意味で、飯塚先輩には頭が上がらねぇな・・・。
『それで、受験までもう時間がないんだよね? 世界語、やるでしょ?』
「ああ、うん。頼むよ先輩」
久しぶりの先輩との世界語講座。
ボランティアで散々に扱ったこともあり、スピーキングやリスニングは完璧だとお墨付きを貰った。
あと数回、リハビリに付き合ってくれるそうだ。
本当に助かるよ、先輩!
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