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3月の終わり。
卒業後、退寮の手続きを終え俺は荷物をバッグに詰めた。
今日はこの後、高天原の寮へ入寮する。
何もない部屋だったので片付けは本当に荷物を詰めるだけで終わってしまった。
望外に濃い3年を過ごした部屋なのに呆気がないものだと思った。
がらんとした部屋を見て。
こうして先達たちも部屋を後にしていったんだな、と少し感慨にふける。
そうして時計を見たら既に9時を過ぎていた。
いかん、待ち合わせに遅れる。
俺は急ぎ足で部屋に別れを告げ、寮を後にした。
◇
いつも走り込みをしていた土手は相変わらず閑散としていた。
こうして歩いていると青空や綺麗な川を独占している気分になれる。
でも今は独占するよりも共有したい人がいた。
「お待たせ」
「ん、時間ちょうど。待ってない」
俺が待たせていた人がそこにいた。
トレードマークのポニーテールに吊り目の先輩。
長い睫毛の下から覗く大きな黒い瞳が俺を映していた。
彼女はふわりと笑みを浮かべ、それから卒業した中学を指差す。
「ほら、ね、桜! 桜坂の桜って、ここから見ると綺麗!」
「うん、とっておきの場所だから」
「嬉し~! そんな場所にご相伴に預かれたんだ?」
彼女は顔を綻ばせて喜んでいる。
俺もその顔を見て笑いたかった・・・が。
「ところで・・・突っ込んでいい?」
「え~? 折角の気分が壊れちゃうじゃん」
「・・・」
俺が突っ込みたかったのは・・・。
香さん、どうして桜坂の制服を着てんだよ!
JKになって出るとこ出たからぱっつんぱっつんなんだよ!
もはやコスプレだよ、それ!!
一部地域で需要あるやつだぞ、ひとりで歩かせられねぇ!
・・・ふぅ。
・・・出逢ったのが桜坂中学って言いたくて着てくれてるのかもな。
そう考えるとちょっといじらしい。
「武君」
「うん」
「卒業、おめでと!」
「ん、ありがとう」
眩しい笑顔で祝福してくれる。
誰の笑顔よりも、それが嬉しい。
俺も自然と笑みが溢れた。
「・・・本当に頑張ったね。高天原に入っちゃうんだから」
「うん・・・頑張ったよ。我ながら信じられないくらい」
「ふふ、だよね」
香さんが俺のすぐ隣に立った。
「まずはお祝いだ! ほんとにおめでと!!」
「うわっぷ!?」
いきなり俺の首に手を回し、顔を彼女の胸に抱きかかえられた。
あ・・・やば。弾力があって・・・。
すっかりJKだよ! なんかヤバいプレイだよ、これ!?
「ぶはっ! 香さん!」
「あっはっは、照れちゃって~! まだまだ可愛いなぁ」
「もう・・・!」
相変わらずだよ、この人。
でもこういうのが心地良いんだよなぁ。
すっかり手籠にされてるぞ、俺。
「と、こ、ろ、で」
「うん?」
「ほら、答え。聞かせてもらえるんだよね?」
「・・・うん」
上目遣いで俺の顔を覗き込んでくる香さん。
それだけで心臓が跳ねてしまった。
あれ、おかしい。今更、なんで緊張してんだ俺。
さすがにそんな初じゃないんだが。
・・・と、とにかく。
言うべきことは言わないと。
「えっと・・・」
「・・・」
・・・。
ずっとこのタイミングで、今更な告白をするつもりだったんだけども。
攻略的に言っちゃって良いんだっけ?
すっかり流されてそのつもりになってたような気がする。
ええと。
香さんとはモブ以下同士だから、主人公絡みでは問題ない。
俺と香さんが全部共鳴しちゃったとしても・・・香さん22だから、70くらい残るはず。
って俺、ほんと数値おかしいな!?
他主人公の誰かと絡むとしても彼らは60前後のはずだから・・・ひとりは受け入れられる。
うん、たぶん大丈夫。
・・・という思考を1秒くらいで終え。
改めて香さんに告げる覚悟を固める。
ごめん、俺の頭の中はムードもへったくれも無くて。
「む・・・」
「?」
「別のこと、考え過ぎ!」
げ、鋭すぎでしょ!?
ほとんど思考時間なかったはずなんだけど!?
「ごめん」
「ほんとだよ! ドキドキで待ってるのに!」
「こほん・・・」
改めて。
香さん・・・俺の愛しい人。
うん、イメージできた。
あれ・・・なんか緊張度が上がってる!?
なんで言う事が決まってるのに心臓バクバク言ってんの!?
なんかじんわり身体まで熱くなってるよ!!
え、あれ? これ、共鳴してる?
ちょっとヤバいんじゃね?
「あ・・・ごめ、目眩・・・」
「・・・え!?」
いきなりぐわんぐわんしてバランスを崩した俺。
香さんがナイスタイミングで抱き止めてくれた。
あれぇ・・・おかしいな・・・?
身体接触してないんだけど・・・。
「・・・もう。ちょっと座ろうか」
「面目ない・・・」
香さんに肩を借りて、俺は土手の斜面に腰を降ろした。
「ほんと・・・ごめん。共鳴、してた?」
「・・・うん。ちょっと感じた」
「ええ・・・触れてないのに・・・」
俺は困惑した。
これ、ふたりが離れてないと告白出来ないんじゃないか?
いやね、俺的には甘い感じの中で告白するのが理想なのよ。
こう、肩がくっついた状態で、とか。抱きしめて、とか。
レゾナンス効果・・・今はちょっと控えてもらいたい。
「・・・ふふ」
「?」
呆れ顔だった香さんが、ちょっと笑った。
「ううん、何だか嬉しくて」
「どうして?」
「だって、私のこと考えてくれてそうなっちゃうんでしょ」
「・・・うん」
「嬉しいよ。言葉なんて無くても分かっちゃう」
ええ・・・。
聞かせて欲しいって言ったの香さんじゃん。
「ああもう、悔しい・・・」
俺は自分を呪った。どうして何かが邪魔ばかりするのだろうと。
「ううん。武君、それで良いんだって」
「え?」
「それも貴方だから。そういうとこ含めて好きなの」
「!?」
どくん、と鼓動が強くなる。
あああ!
嬉しい! 嬉しいけど!!
また共鳴しちゃってるよ!!
落ち着けレゾナンス!!
駄目、これ・・・ヤバい・・・。
◇
気付いたら香さんの顔がすぐ目の前にあった。
優しく髪を撫でられている。
あ、久しぶりの膝枕だ。
・・・お顔が半分、お胸で隠れてますよ。
はち切れそうな制服が悩ましい・・・。
前と違う光景だ。
「ふふ、目、覚めた?」
「うん・・・」
「今度は意識まで飛んじゃったみたいね。嬉し!」
「ええ・・・」
なんでそんな嬉しそうなの、香さん。
両手を頬に当てて喜んじゃってるよ。
当人としてはコントロールできなくて困るんだ・・・。
・・・あ、でも。
今なら大丈夫かも。
「香さん」
「うん」
「好きだ、俺の1番になってくれ」
「!?」
びくん、と。
香さんの身体が跳ね上がった。
見れば照れどころじゃなく、顔が真っ赤に茹で上がっている。
・・・そいや、攻めに弱かったんだっけ?
見てると可愛いな。
俺は身体を起こした。
どぎまぎと俺を見ては目線を外している香さんが愛しくて。
今度は俺が香さんの頭を抱いて、自分の胸に押し当てた。
「今まで待ってくれて、本当にありがとう」
「・・・」
「俺、香さんにいっぱい助けられた。高天原に合格できたのだって香さんのおかげだ」
「ん・・・」
「ずっと俺を好きでいてくれて・・・本当に嬉しい」
「うん」
「もう我慢しないで。俺も覚悟できたから」
「うん」
「好きだよ、香さん」
「・・・私も」
香さんは・・・しばらくそのまま大人しくしていた。
少し身体が震えていた。
これだけくっついていれば俺も全身で感じる。
暖かさと・・・心地よさと・・・嬉しさと・・・。
また意識が飛ぶかもしれないけど臨むところだ。
ぐっと。
香さんの頭を抱く力を強くした。
そうしたら・・・胸のあたりで燻っていた暖かいものが、俺の全身を電撃のように走り抜けた。
「・・・!?」
香さんの身体もびくん、と跳ねていた。
俺も何度かびくびくと身体が跳ねて・・・。
でも意識までは飛ばず。
彼女の頭を抱いていたはずなのに、気付けば、しがみつくような体勢になっていた。
「う・・・はぁ・・・」
あれ。
何がどうなった・・・。
深い眠りから覚めた直後のような感覚だ。
気怠い感じもする。
「・・・」
「・・・」
香さんも似たような状況だったのか。
互いにどうなった、と顔を見合わせていた。
「・・・ふふ」
「・・・はは」
そうして、自然と笑みが溢れた。
前途多難な予感はするけれども。
ふたりの想いは確かに通じ合っていた。
「これからもよろしくね、武」
「ん・・・香、も、よろしくな」
瞳と瞳を交わし。
自然と唇が重なった。
風で舞い上がった桜の花びらが俺たちを祝福してくれていた。
◇
2210年3月30日、夕方。
俺は天神市にある高天原学園の寮の前に立っていた。
この4月から。
いよいよ、虹色ルシファークエストが始まる。
俺はようやくスタート地点に立つことが出来たんだ。
3年間の絶え間ない努力の果てにここまで来られた。
だったら、この先も努力を重ねてどうにかできるはず。
また走り続ければ良いだけだ。
夕焼けに伸びる俺の影の隣に、もうひとつの影が並んだ。
「武さん」
「や、九条さん」
別々に出たはずなのに到着は同時になったようだ。
「また、同じ寮ですね」
「そうみたいだな」
「またお食事、ご一緒しましょう」
「うん。時間が合うときは一緒に食べようか」
「はい」
昨年の6月ごろから失われてしまった時間。
それを取り戻したい、と願う彼女の言葉だったろう。
「俺、また寝過ごしたりするかもしれねぇ」
「はい」
「そしたら、また起こしてくれよ」
「ふふ、わかりました」
もう一度・・・。
「またよろしく頼むな」
「はい! よろしくお願いします!」
もう一度、最初から始めれば良いと思うんだ。
だってこれからが本当のスタートなのだから。
to be continued ... ~攻略!高天原学園編~
卒業後、退寮の手続きを終え俺は荷物をバッグに詰めた。
今日はこの後、高天原の寮へ入寮する。
何もない部屋だったので片付けは本当に荷物を詰めるだけで終わってしまった。
望外に濃い3年を過ごした部屋なのに呆気がないものだと思った。
がらんとした部屋を見て。
こうして先達たちも部屋を後にしていったんだな、と少し感慨にふける。
そうして時計を見たら既に9時を過ぎていた。
いかん、待ち合わせに遅れる。
俺は急ぎ足で部屋に別れを告げ、寮を後にした。
◇
いつも走り込みをしていた土手は相変わらず閑散としていた。
こうして歩いていると青空や綺麗な川を独占している気分になれる。
でも今は独占するよりも共有したい人がいた。
「お待たせ」
「ん、時間ちょうど。待ってない」
俺が待たせていた人がそこにいた。
トレードマークのポニーテールに吊り目の先輩。
長い睫毛の下から覗く大きな黒い瞳が俺を映していた。
彼女はふわりと笑みを浮かべ、それから卒業した中学を指差す。
「ほら、ね、桜! 桜坂の桜って、ここから見ると綺麗!」
「うん、とっておきの場所だから」
「嬉し~! そんな場所にご相伴に預かれたんだ?」
彼女は顔を綻ばせて喜んでいる。
俺もその顔を見て笑いたかった・・・が。
「ところで・・・突っ込んでいい?」
「え~? 折角の気分が壊れちゃうじゃん」
「・・・」
俺が突っ込みたかったのは・・・。
香さん、どうして桜坂の制服を着てんだよ!
JKになって出るとこ出たからぱっつんぱっつんなんだよ!
もはやコスプレだよ、それ!!
一部地域で需要あるやつだぞ、ひとりで歩かせられねぇ!
・・・ふぅ。
・・・出逢ったのが桜坂中学って言いたくて着てくれてるのかもな。
そう考えるとちょっといじらしい。
「武君」
「うん」
「卒業、おめでと!」
「ん、ありがとう」
眩しい笑顔で祝福してくれる。
誰の笑顔よりも、それが嬉しい。
俺も自然と笑みが溢れた。
「・・・本当に頑張ったね。高天原に入っちゃうんだから」
「うん・・・頑張ったよ。我ながら信じられないくらい」
「ふふ、だよね」
香さんが俺のすぐ隣に立った。
「まずはお祝いだ! ほんとにおめでと!!」
「うわっぷ!?」
いきなり俺の首に手を回し、顔を彼女の胸に抱きかかえられた。
あ・・・やば。弾力があって・・・。
すっかりJKだよ! なんかヤバいプレイだよ、これ!?
「ぶはっ! 香さん!」
「あっはっは、照れちゃって~! まだまだ可愛いなぁ」
「もう・・・!」
相変わらずだよ、この人。
でもこういうのが心地良いんだよなぁ。
すっかり手籠にされてるぞ、俺。
「と、こ、ろ、で」
「うん?」
「ほら、答え。聞かせてもらえるんだよね?」
「・・・うん」
上目遣いで俺の顔を覗き込んでくる香さん。
それだけで心臓が跳ねてしまった。
あれ、おかしい。今更、なんで緊張してんだ俺。
さすがにそんな初じゃないんだが。
・・・と、とにかく。
言うべきことは言わないと。
「えっと・・・」
「・・・」
・・・。
ずっとこのタイミングで、今更な告白をするつもりだったんだけども。
攻略的に言っちゃって良いんだっけ?
すっかり流されてそのつもりになってたような気がする。
ええと。
香さんとはモブ以下同士だから、主人公絡みでは問題ない。
俺と香さんが全部共鳴しちゃったとしても・・・香さん22だから、70くらい残るはず。
って俺、ほんと数値おかしいな!?
他主人公の誰かと絡むとしても彼らは60前後のはずだから・・・ひとりは受け入れられる。
うん、たぶん大丈夫。
・・・という思考を1秒くらいで終え。
改めて香さんに告げる覚悟を固める。
ごめん、俺の頭の中はムードもへったくれも無くて。
「む・・・」
「?」
「別のこと、考え過ぎ!」
げ、鋭すぎでしょ!?
ほとんど思考時間なかったはずなんだけど!?
「ごめん」
「ほんとだよ! ドキドキで待ってるのに!」
「こほん・・・」
改めて。
香さん・・・俺の愛しい人。
うん、イメージできた。
あれ・・・なんか緊張度が上がってる!?
なんで言う事が決まってるのに心臓バクバク言ってんの!?
なんかじんわり身体まで熱くなってるよ!!
え、あれ? これ、共鳴してる?
ちょっとヤバいんじゃね?
「あ・・・ごめ、目眩・・・」
「・・・え!?」
いきなりぐわんぐわんしてバランスを崩した俺。
香さんがナイスタイミングで抱き止めてくれた。
あれぇ・・・おかしいな・・・?
身体接触してないんだけど・・・。
「・・・もう。ちょっと座ろうか」
「面目ない・・・」
香さんに肩を借りて、俺は土手の斜面に腰を降ろした。
「ほんと・・・ごめん。共鳴、してた?」
「・・・うん。ちょっと感じた」
「ええ・・・触れてないのに・・・」
俺は困惑した。
これ、ふたりが離れてないと告白出来ないんじゃないか?
いやね、俺的には甘い感じの中で告白するのが理想なのよ。
こう、肩がくっついた状態で、とか。抱きしめて、とか。
レゾナンス効果・・・今はちょっと控えてもらいたい。
「・・・ふふ」
「?」
呆れ顔だった香さんが、ちょっと笑った。
「ううん、何だか嬉しくて」
「どうして?」
「だって、私のこと考えてくれてそうなっちゃうんでしょ」
「・・・うん」
「嬉しいよ。言葉なんて無くても分かっちゃう」
ええ・・・。
聞かせて欲しいって言ったの香さんじゃん。
「ああもう、悔しい・・・」
俺は自分を呪った。どうして何かが邪魔ばかりするのだろうと。
「ううん。武君、それで良いんだって」
「え?」
「それも貴方だから。そういうとこ含めて好きなの」
「!?」
どくん、と鼓動が強くなる。
あああ!
嬉しい! 嬉しいけど!!
また共鳴しちゃってるよ!!
落ち着けレゾナンス!!
駄目、これ・・・ヤバい・・・。
◇
気付いたら香さんの顔がすぐ目の前にあった。
優しく髪を撫でられている。
あ、久しぶりの膝枕だ。
・・・お顔が半分、お胸で隠れてますよ。
はち切れそうな制服が悩ましい・・・。
前と違う光景だ。
「ふふ、目、覚めた?」
「うん・・・」
「今度は意識まで飛んじゃったみたいね。嬉し!」
「ええ・・・」
なんでそんな嬉しそうなの、香さん。
両手を頬に当てて喜んじゃってるよ。
当人としてはコントロールできなくて困るんだ・・・。
・・・あ、でも。
今なら大丈夫かも。
「香さん」
「うん」
「好きだ、俺の1番になってくれ」
「!?」
びくん、と。
香さんの身体が跳ね上がった。
見れば照れどころじゃなく、顔が真っ赤に茹で上がっている。
・・・そいや、攻めに弱かったんだっけ?
見てると可愛いな。
俺は身体を起こした。
どぎまぎと俺を見ては目線を外している香さんが愛しくて。
今度は俺が香さんの頭を抱いて、自分の胸に押し当てた。
「今まで待ってくれて、本当にありがとう」
「・・・」
「俺、香さんにいっぱい助けられた。高天原に合格できたのだって香さんのおかげだ」
「ん・・・」
「ずっと俺を好きでいてくれて・・・本当に嬉しい」
「うん」
「もう我慢しないで。俺も覚悟できたから」
「うん」
「好きだよ、香さん」
「・・・私も」
香さんは・・・しばらくそのまま大人しくしていた。
少し身体が震えていた。
これだけくっついていれば俺も全身で感じる。
暖かさと・・・心地よさと・・・嬉しさと・・・。
また意識が飛ぶかもしれないけど臨むところだ。
ぐっと。
香さんの頭を抱く力を強くした。
そうしたら・・・胸のあたりで燻っていた暖かいものが、俺の全身を電撃のように走り抜けた。
「・・・!?」
香さんの身体もびくん、と跳ねていた。
俺も何度かびくびくと身体が跳ねて・・・。
でも意識までは飛ばず。
彼女の頭を抱いていたはずなのに、気付けば、しがみつくような体勢になっていた。
「う・・・はぁ・・・」
あれ。
何がどうなった・・・。
深い眠りから覚めた直後のような感覚だ。
気怠い感じもする。
「・・・」
「・・・」
香さんも似たような状況だったのか。
互いにどうなった、と顔を見合わせていた。
「・・・ふふ」
「・・・はは」
そうして、自然と笑みが溢れた。
前途多難な予感はするけれども。
ふたりの想いは確かに通じ合っていた。
「これからもよろしくね、武」
「ん・・・香、も、よろしくな」
瞳と瞳を交わし。
自然と唇が重なった。
風で舞い上がった桜の花びらが俺たちを祝福してくれていた。
◇
2210年3月30日、夕方。
俺は天神市にある高天原学園の寮の前に立っていた。
この4月から。
いよいよ、虹色ルシファークエストが始まる。
俺はようやくスタート地点に立つことが出来たんだ。
3年間の絶え間ない努力の果てにここまで来られた。
だったら、この先も努力を重ねてどうにかできるはず。
また走り続ければ良いだけだ。
夕焼けに伸びる俺の影の隣に、もうひとつの影が並んだ。
「武さん」
「や、九条さん」
別々に出たはずなのに到着は同時になったようだ。
「また、同じ寮ですね」
「そうみたいだな」
「またお食事、ご一緒しましょう」
「うん。時間が合うときは一緒に食べようか」
「はい」
昨年の6月ごろから失われてしまった時間。
それを取り戻したい、と願う彼女の言葉だったろう。
「俺、また寝過ごしたりするかもしれねぇ」
「はい」
「そしたら、また起こしてくれよ」
「ふふ、わかりました」
もう一度・・・。
「またよろしく頼むな」
「はい! よろしくお願いします!」
もう一度、最初から始めれば良いと思うんだ。
だってこれからが本当のスタートなのだから。
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