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第一章
はじめての討伐②
しおりを挟む到着したハオスは、人は多いが長閑な街だった。
教会があり、常駐する神父がいるのに何故中央に魔獣討伐の依頼が来るのか、とラギに問うと、そういえば教えてなかったな、と笑った。正直笑い事ではないのだが、ラギは聞かないと話さない、そういう人だ。
転移装置がある、中央教会直轄区域に所属する神父は基本的に非戦闘員らしい。通常の教会業務が忙しい為、魔獣討伐も……となると、過労で倒れて魔獣どころではなくなる。過去にその事で神父の暴動が起きた事も踏まえて、魔獣の目撃情報及び被害報告があれば中央に要請が来て、魔獣討伐の神父が派遣される仕組みだ、とラギは言った。
地方の教会やサァシャ達が暮らしていたニルギスのように、転移装置のない小さな教会は教会業務と魔獣討伐を一手に担う神父が常駐するらしい。辺鄙な場所は人も多くない為、魔獣は基本的にいない。偶に目撃されるのは、縄張りを追われた手負いの魔獣くらいだ。人の血肉を喰らって生きる魔獣は、効率良く食事が出来る人の多い所に出没する。
だから、サァシャが魔獣──しかも、上位の魔獣に襲われたのは、普通なら有り得ないはずだった。
日が沈むまでもう少し時間がかかる。
それまでゆっくりお休み下さいと、ハオスの教会の神父に客間を案内され、サァシャ達はそれぞれの部屋で待機する事になった。
一人一部屋用意されていたが、ラギは当たり前のようにサァシャを自分の部屋へ引きずり込んだ。
サァシャも一人にはなりたく無かったので、素直に甘える事にした。
「──怖いか?」
ぼんやりと窓の外を眺めていると、武器の手入れをしていたラギがこちらを見ていた。
心の底を見透かすような視線に、おそらく誤魔化せない事を悟り、サァシャは苦笑いして頷いた。
「……少し。今は明るいから平和に見えるけど、夜の帳が降りると違うんだろうなって」
夕暮れ時のえもいえぬ寂寥感も相俟って、サァシャは自分で思っているよりも不安だった事に気付く。
「心配しないで、ちゃんとラギの迷惑にならないようにサポートに徹するから」
使えない奴、と思われたくない。だからサァシャは自分の胸を叩いて、任せて!と口角を上げると、ラギは眉間に皺を寄せた。
手入れしていた銃をテーブルに置くと立ち上がり、サァシャの身体を抱き上げてベッドに腰掛けた。膝の上に乗せて身体をすっぽりと包み込まれると、慣れ親しんた体温に安心する。
胸元に鼻先を擦り寄せると、いつもの煙草の匂いがして、サァシャは深く息を吸い込んだ。
「初めての魔獣討伐なんだ、怖いのは当たり前だろ」
まして、魔獣に襲われた事があるなら尚更な、とラギはサァシャの頭を撫でた。
あの双月の夜──眷属になってから、ラギはサァシャに触れる事が多くなった。それまではサァシャが擦り寄っても甘えてみても、軽くあしらわれて躱されていた。それこそ、気まぐれでラギが抱きしめてくるか、双月の夜以外は身体的に距離を置かれていたのだと今ならわかる。
「……ラギでも怖いって思う事、ある?」
窺うように見上げれば、ラギの金色の目が細められて苦い顔で笑った。
「ある」
まさかラギが怖いという感情を持ち合わせているとは思わず、サァシャは思わず目を見開いて固まった。
「……なんだその顔は」
「いやぁ、その……ラギにも人並みの感情あるんだなって」
意外すぎて笑うと、ラギは眉を寄せてサァシャの頬を引っ張った。
「お前、何気に失礼だよな……俺をなんだと思ってるんだ」
「はにっへはひははひはふ」
「ふはっ……何言ってるかわからないな」
屈託のない笑い方に、サァシャの胸がきゅんとする。
普段の無愛想な顔もかっこいいが、ラギは笑えば格段に良い男だ。──それを、人命救助とはいえ自分に縛り付けてしまった罪悪感に再び囚われる。
「……俺にだって怖い事くらいある。……いや、怖い事が出来た、と言った方が正しいのか」
サァシャの頭を大きな手で包み込み、自身の胸に押し付けた。普段より少しだけ鼓動が速い気がする。
「ラギの怖い事って、何?」
心音を聞きながら問うと、ラギの腕の力が強くなった。
「サァシャが傷付く事」
「え……?」
思ってもみない返答に、サァシャは顔を上げようとしたが、大きな手で頭を抑えられているため身動きが出来ない。
「今までは教会の結界の中で守ってやれた。危険なものから遠ざけて、安全な所にいたから平気だった。でも、俺の眷属になったが為に、お前はこれから嫌でも危険の中に身を置かなきゃいけない」
静かな声。淡々と話しているのに、胸が締め付けられるような声だった。
「俺は自分が怪我をしても、死にかけても何も思わなかったが、もし今後魔獣討伐でサァシャが怪我をするかもしれないと、失うかもしれないと思うと、怖い」
魔獣討伐がいかに危険かという事くらい、サァシャにもわかる。
ラギは強い。中央教会に来て色々な人から聞いた話で改めて実感した。それでも、怪我はするし死にかけた事だって何度もあるのだろう。ラギの身体には、傷跡が沢山ある。半吸血鬼だから、多少の怪我は吸血行為で治るが、致命傷にもなると傷跡までは消えない。
ラギ程の強さでも怪我をするのだから、戦闘経験のないサァシャを心配するのは尤もだ。
(……でも、勘違いしちゃだめだ)
ラギが心配してくれるのは、自分が彼の養い子だからと言う理由と、もう一つは命を共有しているからだ。
番の契約をしているから、サァシャが死ねばラギも死んでしまう。逆も然りだが、ラギよりリスクがあるのはサァシャだ。
決して甘い感情でサァシャを心配している訳ではない事くらい、サァシャにもわかる。
だから。
「大丈夫、僕が死んだらラギまで死んじゃうもんね……迷惑はかけないようにするから心配しないで」
上手く笑えたかわからないが、手の力が緩んだ隙に顔を上げれば、ラギは──苦い顔をしていて、予想外でサァシャは戸惑った。
「ラギ……?」
「ああ、そうだな」
問いかければ、深くため息をついてサァシャの身体を離す。
何故そんな苦しそうな顔なのか、サァシャにはわからないまま、日没の鐘が鳴った。
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