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第一章
番の契約②(※R18)
しおりを挟むサァシャが連れてこられたのは、ラギの寝室だった。ベッドに降ろされると、煙草とラギの匂いがしてどこか安心する。シャツのボタンを外すラギを見つめ、サァシャは問いかけた。
「僕の部屋じゃなくて、いいの?」
ラギの部屋は朝が弱いラギを起こしたり、掃除の時に入ったりするくらいだ。昔は一緒にこのベッドに寝ていたが、今は違う。サァシャは基本的に自分の部屋で眠り、双月の夜もラギはサァシャの部屋で寝ている。
窺うように見つめると、ラギの手が伸びて来る。そのまま、サァシャの破れて血塗れの寝間着を脱がせ床に落とした。
「汚れるからこっちでいい。風呂場も近いし……何かと都合がいいからな。本当は風呂に入れてからの方がいいんだろうが、時間がない」
ラギの言う通りサァシャの身体は、止まったとはいえ血塗れのままだ。相変わらず身体は冷たいままで、力も入らない。既にシーツには血がついていて、洗ったら落ちるかな、なんて場違いにも思う。
「それに、子供部屋でセックスなんて気分が萎える」
ラギの明け透けな物言いに、サァシャの頬が朱に染まる。確かにベッドには大きなクマのぬいぐるみがあるが、それはラギが昔くれた物で、自分の部屋はそこまで子供っぽくない……はずだ。
悶々と考え込んでいる間にサァシャは一糸まとわぬ姿にされ、ラギに押し倒された。
見上げた先のラギの表情は──いつも通り淡々としていて、照れや恥じらい、甘さなんてものは微塵もない。
それもそうだろう。ラギにとってサァシャはあくまでも養い子で、性の対象ではないのだ。今も人命救助の一環で、恋人でも何でもないサァシャを抱こうとしている。
込み上げてきた申し訳なさにラギを直視できずにぎゅっと目を瞑ると、サァシャの唇に柔らかい何かが触れた。柔らかく啄むそれがラギの唇だとわかり、サァシャの心臓が跳ねる。
「ん……ふぁ……っ」
上唇を舐められて、驚いて力の抜けた唇を割り、ラギの舌が入り込む。
舌を絡め表面をなぞられると、何かが身体の中に少しずつ流れ、身体の奥がじんわりと温かくなる。
(ラギの生命力、だ……)
流し込まれたラギの生命力は、冷たくなったサァシャの身体を、柔らかく包み込むように広がった。
「あ……」
唇が離れる際に一段と強く舌を吸われて、サァシャの身体が震えた。
「……嫌だったか?」
伺うように問われ、サァシャは首を振った。
嫌な訳がない。もし叶うのならいつかラギとキスしたい、と思っていた。でも、気持ちの伴わないこのキスに、喜びは感じない。
「精気は体液に多く含まれる。唾液、血液、精液。それらを効率的に摂取できるのが粘膜の接触だ」
再び唇を舐められピクりと反応するサァシャとは真逆で、あくまでもラギは淡々と説明する。甘さも雰囲気もない、極めて事務的な態度にサァシャの胸が傷んだ。
初めてのキスは煙草の味がして、瞬きと共に零れた涙は微かな苦さのせいなのか、心が苦しいからなのか、サァシャにはわからなかった。
「やっ……あぁっ」
ラギの長い指が、サァシャの昂りに絡みつく。ゆっくりと上下に扱かれると、腰の奥が疼くような感覚に襲われる。
思わず逃げようと上へとずり上がると、後孔をまさぐる指が曲げられ、サァシャの身体が跳ねた。
「んぁ、ダメッ……」
指を動かされる度に聞こえる水音が、自分の後孔からするのだと思うと、羞恥でいたたまれなくなる。サァシャの薄い腹には既に白濁が散っていて、先程ラギの手に翻弄されて出したばかりだというのに、再び込み上げる射精感に頭を振った。
胎の中を掻き混ぜる指が引き抜かれ、ラギは指にトロリとした液体をかけると、再びサァシャの後孔へと指を埋めた。
「ひぁっ……つめ、たぃ……」
「我慢しろ、すぐ馴染むから」
先程から指を増やされる度に足される液体は、潤滑油のようなもので、行為をスムーズにする為のものだ、とラギが教えてくれた。
何故そんな物がラギの部屋にあるのかと色々気にはなったが、絶え間なく与えられる快感に翻弄され、すぐにどうでも良くなった。
初めての筈なのに、ラギの指をすんなりと飲み込んだ後孔に、サァシャは少し戸惑っていた。
(変態って……思われない、よね……?)
勿論、誰かと身体を重ねた事も無ければ、自分で中を触った事もない。そもそも性に淡白なのか、自慰自体サァシャは殆どしない。
そんな中、チラリと窺い見たラギの表情に、胸の奥が苦しくなる。
ずっと、つまらなさそうな顔でサァシャを抱く準備をしているラギに、申し訳なさと罪悪感で息が詰まる。
「……もう、いいだろう」
「あっ」
ずるりと指が引き抜かれ、途端に襲われた喪失感にサァシャは眉を寄せた。
いつの間にか取り出されたラギの昂りの大きさに、サァシャは息を飲んだ。
(う……やっぱり大きい……)
一緒に風呂に入る事もあったから、勿論見たのは初めてではない。サァシャの小ぶりなソレとは全然違う。いつか、ラギに抱かれたいなんてぼんやりと思っていたが、あれはあくまでも「好き」の延長線の妄想で、まさかこんな形で抱かれるとは思っていなかった。
(あ、でも……)
ちゃんと、反応しているラギの性器に、サァシャはほっとした。
好みでもない、色気もない自分を抱かなければいけないのだ。反応しているという事は、少しは興奮してくれたのだと思うと、場違いにも嬉しくなる。
時間がないと言っていたのに、挿入時になるべく痛くないように、とナカを慣らしてくれた。無理矢理入れてさっさと済ませる事も出来ただろうに。
(……やっぱり、ラギは優しいな)
普段はつっけんどんで皮肉ばかりだけれど、いつもサァシャを大切にしてくれる。
そんなラギが堪らなく好きだ、と思った。
でも、この気持ちを今伝えてはいけない事くらいサァシャにもわかる。
だから──。
「……挿れるぞ」
はぁ、と深く息を吐いたラギに、サァシャは頷いて見せた。
窄まりに熱い切っ先が埋まり、ゆっくりと中を押し拡げる。
「っぅぐッ……」
丁寧に慣らされたとはいえ、指とは比べ物にならないほどの圧倒的な熱。内臓が迫り上がるような圧迫感に呼吸もままならない。
今まで何も受け入れた事のない隘路を割進む熱は、まるで胎の中を焼き尽くすかのように熱い。
「ぃ……っぁ……」
「っ……」
おそらくラギも苦痛を感じている。眉を寄せたラギを見つめ──サァシャは堪えていた涙が溢れるのを止められなかった。
「……サァシャ!?」
「ひっ、うぅ……」
引き裂かれるような痛みに、身体が震える。ボロボロと涙を零すサァシャに動揺したのか、ラギが珍しく慌てた声を上げた。
指先が、零れた涙を拭う。
「……痛いし、苦しいよな。でも、止めてやれない」
眉を寄せたラギの呟きに、サァシャはふるふると首を振った。
「違……ごめ、なさい……」
「サァシャ?」
サァシャは目を手の甲で覆い隠し、洟を啜る。いたたまれなさで、胸が張り裂けそうだった。
「僕の、せいでラギは、抱きたくもない僕を抱かなきゃ、いけないのに……苦しい思い、させて、ごめ……」
肩を震わせ、嗚咽まじりに謝る。
「僕は、平気だから……これくらい大丈夫、だから……」
──僕じゃない、誰かを想像して。少しでもラギが苦痛じゃないようにして欲しい。
そう、伝えると。
ラギはこれまで見たこともない苦い顔をした。眉間の皺は深く、どこか怒っているようにも思える。それから、深く深く息を吐き、サァシャは思わず肩を跳ねさせた。
何がいけなかったのだろう、とサァシャは瞬きをする。涙が頬を伝うと、ラギの唇がそっと涙を拭い、そのままサァシャの唇に噛み付いた。くちゅ、と濡れた音を立ててサァシャの舌を翻弄する。身体の奥が温かくなり、瞼が震える。暫くキスに没頭していると──。
「んっ……ふぁっ!?」
突如訪れた刺激に、サァシャは目を見開いた。
痛みですっかり萎えていたサァシャの性器を、ラギの指で緩やかに扱かれる。
「あっ、んんんっ……」
「子供が一丁前に人の心配しやがって……お前は自分の事だけ考えてろ」
「だっ、て……んぁっ……ふ、むぅ………」
反論しようとした言葉ごと、ラギの唇に食べられる。
前を刺激され、与えられる快楽に身体から力が抜けると、その隙にラギの昂りが中へと緩やかに入り込む。
「はぁ、ぁ……」
それでもまだ苦しくて唇を噛むと、ラギが指で唇を無理矢理こじ開け、そのまま自分の肩を叩いた。
「サァシャ、噛むならこっちを噛め」
「でも……」
「いいから」
そう言って、有無を言わさずにラギは自身の肩を押し付けて来るので、サァシャは恐る恐る肩を食んだ。
「ふ……ぅ……」
最初は遠慮がちに食んでいたサァシャだが、胎の中を緩やかに犯す熱に耐えきれず、思いっきり歯を立ててしまう。ラギの吐息が聞こえて離そうと力を弱めると、大きな手で後頭部を包まれ、離れられなくなる。
暫くするとラギの動きが止まり、後頭部を解放されたサァシャは肩から唇を離した。
案の定肩には痛々しい程の歯型がついていて、謝ろうとラギを見つめると──くしゃり、と頭を撫でられた。
「良い子だな、サァシャ」
「ッ……」
優しい顔で頭を撫でられ、サァシャは訳も分からない程顔が熱くなる。
鼻先にちゅっと唇を落とし「よく我慢できたな」とか「痛かったろ?」と優しい声で囁かれ、サァシャは心臓が壊れるのではないかと思う。思わず胸元を抑えると、ラギが首を傾げた。
「サァシャ?」
「……ぅ、ラギが、優しぃ……」
涙まで零れはじめて、サァシャは自分の身体なのにまったく思い通りにならない事に戸惑った。
「俺はいつでも優しいだろ」
「え」
つい口をでた声に、ラギは眉を顰めたが──バツが悪そうに顔を背けると、ボソボソと呟いた。
「……いや、悪い。──お前、初めてで怖くない筈ないのに、気ぃ使わせたなって反省しただけだ」
顔を背けたせいで、ラギの耳が微かに赤いのがわかり、サァシャは思わず顔を綻ばせた。
「うん。ありがとう、ラギ……もう大丈夫だから」
手を伸ばしてそっとラギの頬に触れると、金色の瞳が細められた。
そのまま唇が近づいて、サァシャの唇を柔く啄む。
「あッ……」
ラギの顔が離れる時に身体も少し動いたせいで、胎に穿たれたままの熱が中を擦り、サァシャの身体が跳ねた。
思わずこぼれ出た高い声に、サァシャは慌てて口を抑えたが遅かった。
恥ずかしくて視線を彷徨わせると、ラギがクスリと笑った。
「もう、動いて良さそうだな」
そう言うと、サァシャの腰を掴んで緩やかに揺すり始める。
「ひッ……や、だめ、まだ……ぁああッ」
指では届かなかった奥まで満たされ、サァシャの口からは甘い嬌声が零れる。こんなふうに素肌で触れ合うのも身体を重ねるのも、サァシャにとっては初めての事で、何もかもが強烈だった。
再び零れ始めた涙に、ラギは苦笑いすると額に唇を落とした。
「大丈夫、酷くはしない」
「ちが……そうじゃなくてッ、お腹の奥、熱くて、ンっおかし、い……」
繋がった所から、じんわりと熱が身体中に広がり、気持ちよさと幸福感に満たされる。
無意識に恍惚とした表情を浮かべると、ラギが舌舐りをした。
「精気が満ちてきてるからな」
くっと下腹部を押され、サァシャは悲鳴を上げた。中を擦られるだけでも気持ちがいいのに、外部からもたらされる刺激につま先に力が入る。
「あァっ……や、ぁっ」
腰を小刻みに揺すられると、先程までの身体を貫かれる痛さと圧迫感が霞む程、強烈な快感が押し寄せ、サァシャは声を抑える事も出来ない。
荒い呼吸のままラギを見つめると、頬を撫でられ、優しい手の温かさに思わず擦り寄った。
「だいぶ、顔色が良くなってきたな……」
どこかほっとした表情のラギの声も少し上擦っていて、彼も気持ちいいのだと思うと、サァシャは胸がいっぱいになる。
(良かった……少しでも気持ちいいと思ってもらえて)
思わず胎の中がキュッとなり、ラギが低く呻いた。
「っ……サァシャ、わざとか?」
「え、なん、の……事……んァっ!?や、やだ、なんで、おおきくな……ッあぁあっ」
中を満たす熱がぐっと体積を増し、サァシャは目を見開いた。
「……無自覚か」
ぼそりと呟いた声は聞き取れなかった。
お互いの呼吸が荒くなり、サァシャは強すぎる快楽にシーツを強く握りしめた。すかさずラギの指がサァシャの指を絡め取る。
(これじゃ、まるで──本当の恋人みたい……)
勿論、そんなはずはない。
サァシャはラギが好きだ。ラギもおそらくサァシャの事を嫌ってはいないと思うし、好きだと思う。でも、ラギの「好き」はおそらく養い子に対する愛情で、犬や猫を愛でるのと変わらない。
サァシャがもしラギの立場だったら、おそらくサァシャもラギを抱くだろう。家族と呼べるのはお互いしかいないのだ。
それに、血は繋がっていないのだから──倫理観的にもギリギリ問題ない、筈だ。
「──サァシャ?」
ぼんやりとしていたサァシャの顔を、ラギは心配そうに覗き込む。
大丈夫だと掠れた声で言えば、ラギは先程よりも早く腰を打ち付けて来る。肌がぶつかる音、胎の中を掻き混ぜる水音に鼓膜まで犯され、サァシャは堪らず喘いだ。
ガクガクと揺さぶられ、絶頂が近いのか太腿が痙攣する。
「やぁんッ……ッらぎ……も、だめぇ……ぁああアッ────……」
「くっ……」
ドクン、と胎の中が熱く濡れるのと、サァシャの昂ぶりが白濁を吐き出すのはほぼ同時だった。
荒い呼吸を繰り返すサァシャを見つめるラギの目が、あまりにも優しくて──。
好きだ、と思わず言いそうになり、サァシャはラギの顔に手を伸ばし──唇を重ねた。
♢♢♢
すやすやとした寝息を立て、サァシャは深い眠りについていた。湯浴みする時も、着替えさせる時も、一度も目を覚まさなかった。
それもそうか、とラギはサァシャの額に手を伸ばし、髪の毛を梳く。
あの後、ラギはサァシャの身体を何度も貫いた。
一度のセックスで身体を全て修復できる程、サァシャの身体は完全ではない。封印されていた淫魔の血は、まだまだ不安定だ。
淫魔は基本的には身体を重ねれば重ねる程、精気を得られる。
だから、なるべく精気をたくさん与えた。少しでも早く回復できるように。
(……いや、これは言い訳だな)
はぁ、と深く息を吐いた。
勿論嘘ではないのだが。
(歯止めが効かなかった、なんて童貞か俺は)
淫魔とはなかなかに厄介な生き物で、精力を奪う一方で、交合う相手には至極の快楽を与えるとされる。ラギは自制心を自負していて、呑まれる事はないだろうと思っていたのだが──呆気なく陥落した。
サァシャは半分淫魔とはいえ、まだ子供の域を出たばかりの、少々未発達な身体だ。本来なら女性を相手に能力を発揮するが、サァシャの小さな身体では女性を相手にするのは難しいだろう。男性相手でも精気は得られるが、受け入れる身体の負担は大きい。だから最低限で終わらせて、なるべく負担のないようにする、筈だった。
おまけに感情を抑えようと、表情を崩さないようにしていたのが仇となり、サァシャに気を遣わせてしまった事を後悔した。
何より、サァシャの「初めて」をこんな形で奪ってしまった罪悪感と、仄暗い征服欲に苦い思いが込み上げる。
思わず頭を掻きむしり、ラギは煙草に手を伸ばし──ここがサァシャの部屋だった事を思い出してやめた。
流石に血や体液塗れのシーツに寝かせる訳にはいかず、サァシャのベッドに眠る事にしたのだった。諸々の片付けは──明日でもいいかと、これ以上考えない事にする。
あどけない表情で眠る養い子の首を、そっと指で撫でた。
首元に刻まれた番契約の紋様。ラギの左の掌に刻まれたものと同じそれは、サァシャがラギのものだという証だ。
「悪いな、サァシャ……こんな形でお前を縛り付けて」
ずっと、心の奥底にしまい込んだ感情。
ラギのサァシャに対する感情はもうずっと養い子に対する気持ちではなかった。
だから、過ちを犯さないために、ラギはサァシャから距離を取った。擦り寄ってくるのを躱し、つっけんどんな態度で接した。
それなのに、気づけば腕の中に抱きしめてしまう。誰かと親密そうにしていると、奪われまいと目の前から攫ってしまう。
グズグズに甘やかして、自分に溺れさせてしまえたら、と何度も何度も考えた。
だが、サァシャがラギに向ける好意はきっと、家族に対する純粋な愛だ。ラギのように、薄汚れた大人の醜い感情ではない。
ラギはもう一度深くため息を吐くと、サァシャを腕の中に囲いこんで、ベッドに横になった。
「俺はもう、お前を手放してやれない」
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