不機嫌な神父様には半魔の番が必要です

emanon

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第一章

新しい関係②

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「ラギも……半魔、なの?」 
 今まで一緒に過ごしていて、全く気づかなかった。驚きに目を見開いたサァシャに、ラギはうなずいた。
半吸血鬼ダンピールと言っても……まぁ、文献にあるようにあまり血が飲めない。飲むと気持ち悪くなる」
 苦い顔で吐き捨てるように、ラギは呟いた。
「幸い、俺は魔力が人より多いくらいで殆ど純粋な人間と変わらない。魔力を使い過ぎなければ適当な人間とセックスするか双月ふたつづきの時に吸血するくらいで問題なかったんだ」
 明け透けな物言いに、サァシャは赤面しながら、前に読んだ本に書いてあった事を思い出した。
 半吸血鬼は吸血鬼を殺せる力があるとされている。だから殆どが生まれてすぐに殺されるか、生きながらえてもラギが言うように血を飲めずに死ぬ為、存在自体が珍しい。その代わり、ある程度まで成長できれば吸血行為の互換として、半吸血鬼は性行為で魔力を得る。だから、その存在は淫魔に近いと言われていた。
 そういえば、とサァシャは思う。ラギが今まで血を吸う所を見た事も無ければ、犬歯が尖った姿も見た事はない。 
 そこでふと、サァシャは気づいた。
「あれ?でも双月の夜って僕と一緒に寝てたよね?いつ、どこで誰の血を飲んでたの?もしくは……誰かと、そ、そういう事、してたの?」
 双月の夜は、決まってラギの腕の中で眠っていた。その間、ラギがどこかへ出かけて行った形跡は無かった筈だ。
 サァシャが気付いていなかっただけかもしれないが、ラギが誰かの血を飲む姿や誰かと肌を重ねる姿を想像し──胸がザワついた。  
 モヤモヤとした気持ちのままラギを見つめると、どこか気まずそうに視線を逸らした。
「……サァシャ」
「何?」
 名前を呼ばれ小首をかしげると、ラギは違う、と手を振った。
「名前を呼んだわけじゃなくて、サァシャ。眠るお前から、少しとはいえ勝手に血を貰ってた……今まで黙ってて悪い」
「えっ!?嘘……全然、気づかなかった」
 驚きに目を見開くサァシャとは裏腹に、ラギはぼそぼそと白状する。
「……俺は、お前の血だけは飲めたんだ。だから、吸血の対価としてお前を引き取り、育てる約束をしたんだよ……サァシャの母親と」
「僕のお母さん……とラギは、知り合いだったの?」
 消えかけた古い記憶の母は、綺麗で優しい人だった。病で亡くなったと聞かされていたが、サァシャに父親の記憶はない。その父親がおそらくインキュバスだったのだろう。
 サァシャの問いかけに、ラギは遠くを見つめた。その目は過去を懐かしんでいるようにも見え、ラギが全く知らない人に見えた。
「ああ……詳しい事は言えないが、昔世話になった」
 次々と明かされる色々な事実に、サァシャの頭はパンクしかけていた。自身が半魔だと知ったのもつい最近なのに、ラギも半魔でサァシャの母親と知りあいで──。
「サァシャ?」
 俯いたサァシャを覗き込むように、ラギの顔が近づく。
「もしかして、怒ってるか?」
 少しだけ、ほんの少しだけしゅん、としたラギが珍しくて、サァシャはつい悪戯心をくすぐられる。
「別に……」 
 少しだけ、むくれて見せる。今まで何も話してくれなかった事に、少し寂しさは感じていたが、サァシャをに育てようとしてラギなりに気を使ってくれていたのがわかる。だから、特に怒ってはいない、のだが。
「何も言わなかったのは悪かったと思ってる。……言い訳にしか聞こえないかもしれないが、いずれは話すつもりでいた」
 そっと手が伸びてきて、サァシャの頭をゆっくりと撫でる。あやす様な手の動きに、ラギの肩に頭を乗せて甘えても、振り払われる事はなかった。
「ねぇ、ラギは今まで……僕と暮らすようになってから、僕以外から血を飲んだ?」
 おそるおそる、上目遣いで聞けば──ラギは、指先でサァシャのおでこを弾いた。
「いたっ」
「人の話聞いてたか?俺はお前以外の血は飲めないって。……お前だけだよ」
 おでこを抑えて涙目で睨むと、どこか不貞腐れたような顔で、ラギは視線を逸らした。
「……そっか」
(どうしよう、なんか……嬉しい)
 こんな独占欲間違えていると、頭では理解しているのに。ラギにとって、自分が少しでも必要とされる存在なのが、嬉しかった。
「お前何ニヤけてるんだ?」
 今度は頬を引っ張られ、サァシャはラギの手を離そうと掴んだ。
「ニヤけてないもん……ただ」
 掴んだ指先を握り込む。乾いた指先は、やっぱり煙草の匂いがした。
「僕でも、ラギの役に立てる事があって良かったなって。ホラ、僕って何にも無いから」
 育ててもらって、守ってもらってばかりの自分はずっとラギのお荷物だと、心の何処かで思っていた。自分が居なければ、ラギはもっと自由だった筈だから。
「っ……お前は本当に……いや、なんでもない」
 ふにゃりと笑えば、ラギは顔を抑えて深く息を吐いた。そのままじっとサァシャを見つめ──その目はどこか剣呑な光を帯びていた。
「……ラギ?」
「俺の話はここまでだ。さて、サァシャ」
 首元に、ラギの指先が触れる。頸動脈をなぞる感触に、つい吐息が零れた。
「っ……擽ったい」
 思わず首を竦めると、ラギの顔が近付き──薄い皮膚を、唇で食まれた。
「俺はお前に魔力を分けたり抑制具を作ったりで……血を飲んでも、いいか?」

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