売名恋愛(別ver)

江上蒼羽

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落ちぶれた女芸人

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私は、高校時代の同級生である間宮とまんぼうライダーという名のお笑いコンビを結成した。

間宮から話を持ち掛けられた当初は、お笑いなんて全く興味がなかった。

何より、彼女とは一切の接点がなかったし。

学科は違うし、教室のある階も違う。

普通に生活している分には、彼女と顔を合わせる事はない。

それを何故か突然に私の前に現れて、高校生活最後の学園祭のステージで出し物がしたいから協力して欲しいと頭を下げてきた。

何でも、私の森川 素良もりかわ そらという名前がネタに使えるからとか何とか。

最初は頑なに拒否していたものの、最後は彼女の熱意に根負けしてコンビを組む事に。

やらされてる感たっぷりで挑んだ学祭は意外にも大盛況。

ステージ上で浴びた大きな歓声と高揚感が忘れられず、決まっていた進路を蹴ってお笑い芸人という道へ進んだ。

当然家族は大反対。

でも一度覚えた快感はそうそう忘れる事は出来なくて、反対を押し切り、芸能界という未知の領域に飛び込んだのだ。




あれから10年。

今の私はお笑い芸人とは名ばかりの生活を送っている。

ピーク時は寝る間もない程忙しい超売れっ子だったにも拘わらず、それが嘘のように出番が減った。

あちこちから引っ張りだこで、休みが欲しいと嘆いていた頃が懐かしく思える程暇だ。

びっしり予定が書き込まれて黒々していたスケジュール張は現在真っ白け。

テレビやラジオ出演の予定の代わりに書き込まれているのは、生計の為にやむ無くしているバイトのシフトのみ。


「………っと、そろそろバイトの時間だ」


テレビを消して重い腰を持ち上げた。




バイト先は徒歩10分の弁当屋。

昔ながらという感じの古くて狭い厨房で、今日も一番人気の唐揚げ弁当の唐揚げを揚げる。


「ちょっとー!森川ちゃん急いでー!」

「はい、ただいま」


バイト先のおばちゃん達は、皆良い人ばかりだ。

気の利かない私にいつも厳しくも温かい指導をしてくれる。

最初は焦がしたり、半生だったりをやらかしていた私がメインの唐揚げを一人で任されるようにまで成長したのは、彼女等のお陰。


「はい、唐揚げお待ち」

「はいよ!次、ご飯詰めて」

「はい!」 


唐揚げが上手に揚げられるようになった事や、使えなくてもクビにされなかった事が嬉しいのは当然だけれど、何より従業員のおばちゃん達がお笑いコンビのまんぼうライダーを知らない事が何よりも嬉しく思える。

鈍くさい私がお笑い芸人だなんて、微塵にも思っていないだろう。


「森川ちゃん、電話鳴ってるから出て!」

「はい!」


一時人気を博したお笑い芸人が弁当屋でバイトに明け暮れているなんて知られたら、恥ずかしい事この上ない。

仕事が減り始めてから、副業程度に始めたバイト。

週1が週2に増え、いつの間にかフルでシフトに入ってしまっている。

弁当屋の仕事は嫌ではない。

皆良くしてくれるし、頑張ったら頑張った分だけの収入はある。

でも、時々何故か無性に泣きたくなる。

私、何やってるんだろう?って。

仕事が暇になったのは、途中でマネージャーが代わったからだとか、休みが欲しいと駄々を捏ねたから事務所が仕事量をセーブしてくれたんだとか…

自分に都合の良いように理由を付けてみたけれど、実際はそんなに甘いものじゃない。

単に世間から飽きられただけで、もう私には需要がないという事を最近になって漸く受け入れられるようになった。

芸能界というのは、サイクルが早い。

そして、世間が飽きるのはもっと早い。

特にお笑いに関してはそれが顕著だ。

次から次へと色んなタイプの芸人が現れては、すぐに消えていく。

芸人なんてのは、掃いて捨てる程居る上、使い捨ての消耗品と同じ。

この世界で生き残れるのはたった一握りで、私はその一握りに入れないらしい。


そんな私とは対照的に、間宮はピンで活躍するようになった。

元々要領が良く、頭もキレる。

自分の魅せ方を知っているし、自己プロデュースにも長けている。

大御所から可愛がられるキャラクターも相俟って、コンビでいる時より精力的に活躍の幅を拡げていった。

心なしか、ピンの方が生き生きしているように見える。

バラエティー番組は勿論の事、話題のアニメのゲスト声優、朝の情報番組のコメンテーター等。

最近じゃ、ドラマの仕事もあるらしい。

月9の恋愛ドラマでヒロインの親友役に抜擢されたと聞いて、自分との格差に溜め息が止まらなかった。

相方の活躍は嬉しい。

でも、それを心の底から喜べないでいるのは、胸の内にある焦燥感と嫉妬の所為か。

私も光り輝く場所に居たい、私だって……そんな思いばかりが膨らんで、萎んでくれない。

どんなに強く願っても、間宮の居る場所は遠い。

だからといって、状況が変わる見込みもなく、それを変えられる術を私は持たない。

コントのネタは間宮任せだったし、トークも間宮がフォローしてくれたから生きた。

今思えば、間宮が居たからこその“まんぼうライダー森川”だったんだと思う。

こんなんじゃ駄目だって事は嫌って程分かってる。

だけど、何も出来ず、相方の活躍を視聴者として見る屈辱。

このまま人知れずひっそりと引退するのか?それとも、間宮からの解散宣言を待つか?

いや、それよりも先に、事務所から切られるのが先かもしれない。

私は、見えない恐怖に怯えていた。
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