売名恋愛(別ver)

江上蒼羽

文字の大きさ
4 / 46

売名計画

しおりを挟む


「………」


忍足さんの申し出は、起死回生の大きな一歩となるだろう。

でも私は、 どうしても売名という言葉に抵抗を感じて仕方がない。


「………折角の申し出なのですが……売名行為っていうのは、ちょっと抵抗が……」

「と言いますと?」


忍足さんからの問いに、これを言葉にしていいのだろうか?と自問しながら、躊躇いがちに言葉を発する。


「なんていうか………やり口汚くないですか?売名なんて、私…」


今まで散々色んな企画をやらされてきた。

汚れ仕事から何から何まで。

お茶の間にみっともない姿も晒してきたけれど、一丁前にプライドだけは持ってた。

なのに、売名行為って………


「みっともなくないですか?」


プライドを溝に捨てるような真似はしたくないし出来ない。

売名行為なんて卑怯者がする行為だと思っている私にとって、忍足さんからの申し出は有り得ない事でしかない。

プライドを溝に捨てるような真似はしたくないし出来ない。

売名行為なんて卑怯者がする行為だと思っている私にとって、忍足さんからの申し出は有り得ない事でしかない。


「非常に申し訳ないんですけど…」


丁重にお断りの姿勢を見せた時、忍足さんの表情が変わる。


「売名行為に抵抗を感じているのは俺も同じです。けれど、他に方法はありますか?この厳しい業界で生き残る方法が」


冷酷さを孕んだ冷笑。

今までとは違うその表情に私は言葉を紡げなくなった。


「森川さんは、ご自分の今の立場を理解していらっしゃいますか?」

「…っ、」


心臓を乱暴に鷲掴まれたそうな錯覚がして、急に鼓動が早くなる。

心なしか、呼吸も苦しい気がする。


「貴女は崖っぷちに立たされているんですよ?それなのに……売名は嫌だなんて甘い事を悠長に言えるんですね」


今の今まで下手に出ていた癖に、急に強気になった忍足さんに私は奥歯を強く噛み締めた。



川瀬さんは忍足さんを救世主と言った。

でも今目の前にいる彼は、救世主ではなく悪魔に見える。


「マネージャーを通じて、森川さんが地方への営業の仕事を頑なに拒否していると耳にしました。今の貴女に仕事を選ぶ権利あるんですか?」

「っ…」


営業の仕事なんて、メディアの仕事がない落ちぶれた人間がやる仕事だと思っている。

わざわざ荷物抱えて新幹線に乗って移動して、ど田舎のスーパーやパチンコ屋に出向いて客の前でネタ見せやトークなんかをする。

田舎のスーパーなんか年寄りしか居ないし、パチンコ屋なんてパチンコに夢中でネタなんか誰も見やしない。

愛想笑い、冷やかしのお子様やヤンキーの弄り、お情け程度の疎らな拍手……どれをとっても屈辱でしかない私は、辛うじて来る営業の仕事を全て断っている。

だって嫌で嫌で仕方がないんだもの。


「業界から干されている状態で贅沢言っていられるなんて凄い神経だと思いますよ」

「っ……」


返す言葉が何もない。


「売名が嫌だと言うなら、いっそ枕営業でもしますか?」

「やっ、そんな……」


枕営業なんて、売名よりも嫌な言葉だ。


「体を汚して仕事を獲ります?局の上層部と愛人契約という手もありますよね。まぁ年齢的に厳しいだろうけど」


初めの頃とは別人のように残酷な言葉を吐く忍足さんは「それとも……」と続ける。


「相方の間宮さんとの格差を埋められないまま、一人寂しく消えますか?」


忍足さんの口から出てくるのは、どれもこれもエグい事ばかり。

確かにこのままでは静かに消えていくだけ。
そして、何年かして『あの人は今…』なんて追跡番組にひょこっと顔出して、こんな奴もいたな…と、懐かしがられるようになって……

そう思ったら目の奥がつんと熱くなる。


「ふ……っ、」


突如溢れ出てきた涙。

泣くつもりなんかなかったのに、次から次へと流れ出てくる。

厳しい現実を突き付けられ、これ以上ないってくらいドン底に叩き付けられた。

泣いても現状が変わる訳ないのに涙は止まらない。


「……っ…うっ、」


お絞りを目元に押し当て、声を圧し殺して泣く私の耳に冷淡な声が届く。


「………いい大人が泣くんですか?」

「ひぅっ、っ……」

「非常に見苦しいですよ」


彼の言う通り、20代後半、三十路に向かって一直線の女の涙は重くて見苦しい。

だからといって、その言い草は酷過ぎる。


「ふっ、っ……」

「……早く泣き止んで下さい。話を進めたいんで」


悔しい。

心の底から悔しくて堪らない。

でも、忍足さんは悪くないし、彼の言う事は尤もだ。

ただ私が心のどこかでいつかきっと……と甘い考えを抱いていただけ。

ただ私がつまらないプライドを掲げて意固地になっているだけ。

いつかまた私にも光は当たる………いつかまた……なんて思っているだけで、何の行動も出来ずに現状に不満を抱えているだけの私が悪い。

こんな風に初対面の人の前で泣いて、より一層惨めさを演出して……

凄く、もの凄く馬鹿みたいだ。

間宮と同じ光輝く場所に立つには、何らかのアクションが必要だ。

実力があっても生き残る事が厳しい世界で、私みたいな何も持たない奴が輝きを放つのは困難を窮める。

今の私に何が出来るのか、何をすべきかを泣きながら自らに必死に問い掛け、答えを探る。


「………」

「森川さん……協力頂けますか?」


一頻り泣いて落ち着きを取り戻し、涙に濡れたお絞りを置いた。


「…………ご協力します」


悩み悩んで出した答えを述べる時、声が震えた。

崖っぷちに立たされている自分。

崖が崩れ落ちるのを待つのも、自ら崖下に飛び降りるのも嫌だ。

それなら、羽根を生やして飛び立つのみ。

たとえ、その羽根が鶏の羽根であっても、飛べると信じて地面を蹴ろうと思う。


「売名同盟締結ですね」


渋々ながらも承諾した私に、忍足さんがホッとしたような笑顔を見せた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

バイトの時間なのでお先に失礼します!~普通科と特進科の相互理解~

スズキアカネ
恋愛
バイト三昧の変わり者な普通科の彼女と、美形・高身長・秀才の三拍子揃った特進科の彼。 何もかもが違う、相容れないはずの彼らの学園生活をハチャメチャに描いた和風青春現代ラブコメ。 ◇◆◇ 作品の転載転用は禁止です。著作権は放棄しておりません。 DO NOT REPOST.

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

Marry Me?

美凪ましろ
恋愛
 ――あの日、王子様があたしの目の前に現れた。  仕事が忙しいアパレル店員の彼女と、王子系美青年の恋物語。  不定期更新。たぶん、全年齢でいけるはず。 ※ダイレクトな性描写はありませんが、ややそっち系のトークをする場面があります。 ※彼の過去だけ、ダークな描写があります。 ■画像は、イトノコさまの作品です。 https://www.pixiv.net/artworks/85809405

子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちだというのに。 入社して配属一日目。 直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。 中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。 彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。 それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。 「俺が、悪いのか」 人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。 けれど。 「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」 あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちなのに。 星谷桐子 22歳 システム開発会社営業事務 中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手 自分の非はちゃんと認める子 頑張り屋さん × 京塚大介 32歳 システム開発会社営業事務 主任 ツンツンあたまで目つき悪い 態度もでかくて人に恐怖を与えがち 5歳の娘にデレデレな愛妻家 いまでも亡くなった妻を愛している 私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?

距離感ゼロ〜副社長と私の恋の攻防戦〜

葉月 まい
恋愛
「どうするつもりだ?」 そう言ってグッと肩を抱いてくる 「人肌が心地良くてよく眠れた」 いやいや、私は抱き枕ですか!? 近い、とにかく近いんですって! グイグイ迫ってくる副社長と 仕事一筋の秘書の 恋の攻防戦、スタート! ✼••┈•• ♡ 登場人物 ♡••┈••✼ 里見 芹奈(27歳) …神蔵不動産 社長秘書 神蔵 翔(32歳) …神蔵不動産 副社長 社長秘書の芹奈は、パーティーで社長をかばい ドレスにワインをかけられる。 それに気づいた副社長の翔は 芹奈の肩を抱き寄せてホテルの部屋へ。 海外から帰国したばかりの翔は 何をするにもとにかく近い! 仕事一筋の芹奈は そんな翔に戸惑うばかりで……

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

私が素直になったとき……君の甘過ぎる溺愛が止まらない

朝陽七彩
恋愛
十五年ぶりに君に再開して。 止まっていた時が。 再び、動き出す―――。 *◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦* 衣川遥稀(いがわ はるき) 好きな人に素直になることができない 松尾聖志(まつお さとし) イケメンで人気者 *◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*

結婚する事に決めたから

KONAN
恋愛
私は既婚者です。 新たな職場で出会った彼女と結婚する為に、私がその時どう考え、どう行動したのかを書き記していきます。 まずは、離婚してから行動を起こします。 主な登場人物 東條なお 似ている芸能人 ○原隼人さん 32歳既婚。 中学、高校はテニス部 電気工事の資格と実務経験あり。 車、バイク、船の免許を持っている。 現在、新聞販売店所長代理。 趣味はイカ釣り。 竹田みさき 似ている芸能人 ○野芽衣さん 32歳未婚、シングルマザー 医療事務 息子1人 親分(大島) 似ている芸能人 ○田新太さん 70代 施設の送迎運転手 板金屋(大倉) 似ている芸能人 ○藤大樹さん 23歳 介護助手 理学療法士になる為、勉強中 よっしー課長(吉本) 似ている芸能人 ○倉涼子さん 施設医療事務課長 登山が趣味 o谷事務長 ○重豊さん 施設医療事務事務長 腰痛持ち 池さん 似ている芸能人 ○田あき子さん 居宅部門管理者 看護師 下山さん(ともさん) 似ている芸能人 ○地真央さん 医療事務 息子と娘はテニス選手 t助 似ている芸能人 ○ツオくん(アニメ) 施設医療事務事務長 o谷事務長異動後の事務長 雄一郎 ゆういちろう 似ている芸能人 ○鹿央士さん 弟の同級生 中学テニス部 高校陸上部 大学帰宅部 髪の赤い看護師(川木えみ) 似ている芸能人 ○田來未さん 准看護師 ヤンキー 怖い

処理中です...