売名恋愛(別ver)

江上蒼羽

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カフェにて

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ある程度人目に触れた後、デートらしく自由が丘のお洒落なカフェでお茶をする。

当然、席は目立つように窓際。

ガラス越しに道行く人達の視線を浴びる。

気取って頼んだラテマキアートが喉に支えそうだ。


「……恥ずかしながら、上京してからプライベートでこういったお洒落なお店に入った事ないんですよね」


同じくラテを味わっていた忍足さんが意外そうに目を丸くさせる。 


「へぇ……初めてづくしですね」

「仕事では何度かありましたけど。取材とかで」


高校卒業を機に田舎から都会へ出て来て早10年。

私はまだまだ都会の人間にはなれそうになさそうだ。


「いつか本当の彼氏と来れると良いですね」

「…………大きなお世話です」


にっこりと満面の笑みで毒を吐く忍足さんは、柔和そうなイケメンの皮を被った鬼畜だと思う。


「それにしても……凄い見られてますね」


ガラスを挟んで向こう側からの視線に戸惑わずにはいられない。

通りを行き交う人達は立ち止まりまではしないものの、カフェでお茶する私と忍足さんの様子を窺って過ぎ去って行く。

店内で同じくお茶している人達からの視線も熱い。

ここでも私達めがけて携帯を掲げている人もチラホラ。

だから自ずと向かい合う彼との距離が縮み、声量も小さくなる。

端から見れば愛を囁き合う恋人同士に見える……筈。


「……盗撮って犯罪行為ですよね」

「まぁそれが目的ですから」


芸能人の宿命ともいえる盗撮行為に溜め息を吐く私とは対照的に忍足さんは余裕綽々だ。


「大いに撮影して下さい、ネットに上げて下さいって感じです」


そう言って、忍足さんは美味しそうにラテを啜る。


「……ちゃんと恋人同士に見えてるんですかね?」


不安げに彼を見詰めるも、品のある笑顔で返される。


「ギリギリ見えてるんじゃないでしょうか。釣り合っているかはさておき」

「………不釣り合いですみませんね」


刺々しく言い放ってから上品に盛られたパンケーキに苛立ちをぶつけるようにフォークを刺した。


「思っていたより、森川さんの名が効力を残してくれているようでホッとしてます」

「………あぁ、そうですか」

「芸能人オーラなんてもう消え失せてるのに。凄い事ですよ」

「……」


忍足さんは褒めているつもりなのかもしれないけれど、こちらとしては貶されているとしか思えない。 

いくら本当の事でももう少し言葉を選ぶかオブラートに包むかしてくれればいいものを。

ズケズケズケズケ、全くもって容赦ない。  


「この偽装交際を遂行するに辺り、ルールを制定しようと思っています」


ここで忍足さんの声が更に縮小される。


「ルール……ですか。聞きましょう」


同じく声を潜めた私は自然と前のめりの姿勢を取った。


「まず、この計画は他言無用に願います」

「そ、それは勿論」


この事については重々承知している。

川瀬さんから何度も念を押されたし、彼のマネージャーの保科さんからも頭を下げられた。

だから相方である間宮にも話していない。

所属している事務所の人間は知っているのかどうかは分からないけれど、社長位は耳に入れているんじゃないかと思う。


「森川さんには俺の彼女役をきっちり演じて貰いたいのは勿論の事ですが、身なりや行動をしっかり気を付けて頂きたい。恥をかきたくないので」

「それも分かってますよぅ…」


言われなくても今日だって相応に身なりを整えてきたつもりだ。

彼の物言いはいちいち癪に障る。

ムッと頬を膨らませる私を他所に彼は続ける。


「熱愛が報じられた場合、記者からの質問には友人関係であると貫いて下さい」

「それはどうして……?」

「あっさり認めればそれまで。関係性をあやふやにして含みを持たせた方が興味を引きます」

「………なるほど」


保科さんの指示なのか、彼自身が考えた事なのかは分かりかねるけれど、あざといとしか言いようがない。


「あくまでも恋人のフリなので、手を繋ぐ以上の行為は致しませんのでご安心下さい」

「そうして頂けるとーー…」


「ありがたい」と言い切る前に忍足さんが薄く笑みを浮かべて言う。


「恋愛経験の乏しい森川さんには、手を繋ぐ以上の行為は刺激が強過ぎるでしょうし?」

「ぐっ……」


思いっ切り見下し発言。

それを受けて、私はこの人が苦手だと認識した。


「別に、キスくらいどうって事ないですけど?失神したりしませんよ」

「ははっ、無理しないで下さい。それに俺的に嫌なんで」


あーそうかよ!と吐き捨てたい衝動を必死で堪える。

どうせキスするならお綺麗な女優さんやかわいいモデルさんが良いという事だろう。

ムカツク。


「偽装交際している間に本当に私の事が好きになるかもしれませんよ?」


悔し紛れに言った言葉に忍足さんは余裕たっぷりの笑みを浮かべる。


「ドラマや少女漫画での王道展開だし。案外、すぐに私の魅力にメロメロになっちゃうんじゃないですかね」


偽りの関係を始めた二人が、紆余曲折を経て本気愛へと発展させてしまうのがドラマや少女漫画の王道。

だから忍足さんも例外なく私に惚れちゃったりするんじゃない?


「有り得ませんね」


鼻で笑って一蹴した彼は、私に憐れみの視線を向ける。


「森川さんは魅力も何もないじゃないですか。だからこの業界から干されているんでしょう?そんな人に俺が易々と落とされる筈がない」

「ぐぐっ……」


前言撤回、苦手どころか、私はこの人が嫌いだ。


「……それで、この後はどうする予定なんですか?」


これ以上話題を引き延ばしても自分が傷付くだけだと判断し、話題を変えてみた。


「もうすぐカップの中身が空になりますけど」


まさかカフェで一日潰す訳ではあるまい。

私の問いを受け、忍足さんは天井を仰ぐ。


「取り敢えずノープランで来てみたんですが、流石にそれじゃマズイですよね」


お、おいおい……と口から出そうになったのをぐっと飲み込む。


「……案外楽観的なんですね」


散々こけにされた仕返しとばかりに嫌味を言ってやるも、彼は気にも止めない様子で笑う。


「いえ、本命のコとのデートだったら綿密に計画を立てますが、今日はそうでもないので」

「………」


つまりは、相手が私だからテキトーで良いという事らしい。


「あくまでも私を良いように利用するつもりなんですね」


腸が煮えくり返りそうだ。


「最初からそのつもりですし、そういう話だった筈です」


忍足さんは「分かってるだろ?」と言いたげな眼差しを向けてくる。

そんな彼を睨み返してみても何の効果も期待出来ない。


「だから森川さんも俺を良いように利用して下さいね」

「………遠慮なく利用させて頂きますよ」


売り言葉に買い言葉で啖呵を切ったけれど、恋愛経験のない私に上手い事彼を利用しきれるか自信はない。


「取り敢えず、デートらしいデートをしておきましょうか」

「………」


彼の刺々しい発言の数々からやる気を一気になくした私は、このまま解散でもいい位だ。

でもそれだと計画完遂とはいかないし。

せめて今日の服代の元だけでも取らねば無駄に出費しただけになる。

何としても売名を成功させて、収入を確保したい。

カフェを後にして、また手を繋いで街中を移動する。


「あっ!まんぼうの森川!」

「隣のイケメンも見た事ある!うそデート?」


注目され、指を指されて自分は有名人である事を実感する。

ましてや、中身は最悪でも見た目が良い忍足さんが隣に居るから鼻が高い。

彼の方は私が相手で罰ゲーム感覚でいそうだけれど。
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