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遊園地デート2
しおりを挟むスカイサイクルはあまり人気がないのか、短い待ち時間で順番が回ってきた。
係員の誘導に従ってサドルに跨がり、ベルトを着用する。
ゆっくり漕ぎ出してはみたものの、遥か下方にある地面に目眩を覚える。
「け、結構怖い……ゆっくり行きましょうね…」
「じゃあ思いっ切り漕ぎますね」
「え、ちょっ…..人の話、聞いてました?!」
下を見ないよう必死の私に対し、忍足さんは余裕の表情。
というか、意地が悪い。
「すっごい良い眺めですね」
「そ、そうですね……」
忍足さんは、呑気に景色を楽しんでいるけれど、私はそんな余裕など一切ない。
ちょっと風が吹いて揺れようものなら、失神してしまえそうな程の極限状態。
歯がカチカチ鳴っている。
「高い所苦手ですか?大丈夫ですよ、落ちやしないから」
「や、ですが……万が一、設備の不具合とかで、このまま真っ逆さまに……」
「あはは、嫌な事言いますね」
実際、このスカイサイクル自体が古いのか、漕ぐ度にギコギコ鈍い音が鳴る。
それが更に恐怖を煽る。
「お、忍足さん、もうすぐゴールです」
「え、もう?意外と呆気なー…」
残念がる忍足さんとは逆に、ホッと胸を撫で下ろす私。
「もうすぐ、地に足を付けられる…」
「森川さん、ビビり過ぎです」
次はスペースなんちゃらとかいう乗り物。
ロケットのような乗り物が激しく上下しながら回転するという子供が好きそうなもの。
「ぎゃー!風で歯が乾きますー!」
「ぶっ………森川さん口閉じて。笑わせないで」
思いの外激しい動きをするマシンにパニクる私の横で忍足さんが笑いを堪えている。
「この動き、胃液が泡立ちそうです」
「確かに。というか、森川さん……その顔ヤバい」
その後、散々拒んだジェットコースターに、ホラーハウスもクリアした。
ぎゃーぎゃー悲鳴を挙げ過ぎて、酒焼けしたみたいに喉がガラガラ。
其々のアトラクションに乗れるまでの待ち時間は長いけれど、忍足さんとのお喋りでそれも苦にならない。
「ちょっとこれは……パスで」
「いいじゃないですか。折角なんで乗りましょうよ」
「いやいやいや……こういうのキャラじゃないので」
「えぇ?来た時にアトラクション全制覇って言ってたじゃないですか」
「だからって……」
忍足さんが全力で拒否ったのはメリーゴーランド。
私の苦手な乗り物には無理矢理乗せた癖して、自分だけ逃げようったってそうはさせない。
引き摺るような形で白い馬に乗せた。
「これ、マジで恥ずかし……」
「あはは、よく似合ってますよ~」
頬を染めながらポールにしがみつく忍足さんの姿は、今日一番の思い出。
そして、遊園地デートの締めといえば、やっぱり……
「夕日が綺麗ですね」
「そうですね」
遊園地の敷地の中でその存在を大きく主張している大観覧車。
徐々に頂上目指して上昇していくゴンドラ。
外界から隔離された空間にホッと力が抜けたと同時に、小さな溜め息が漏れ出た。
「……疲れました?」
忍足さんからの問いに「いえ……」と返してからすぐに「あ、やっぱり少し……」と言い直す。
「はしゃぎ過ぎちゃったみたいで……それに、人に見られていると思うと気も抜けないし…」
常に誰かからの視線を感じながらの行動は肩が凝って仕方ない。
何だか見張られているみたいだし、一応は芸能人という肩書き故に悪いイメージが付かないよう行動しなければならない。
それに併せて人生初の異性とのデート。
緊張も相まって心的疲労がピークに達しつつある。
それでも……
「疲れたけど楽しかったです、凄く」
ビジネス上のデートの筈が、途中からそれを忘れ、本気で楽しんでしまっていた。
「帰りたくないな………」
不意に口をついて出てきた自らの呟きに驚き、咄嗟に口元を両手で覆う。
「た、ただの戯れ言です」
別に忍足さんとの別れを惜しんでいる訳じゃない。
ただ、現実に戻るのが少し怖いだけ。
「変な意味じゃないんで安心して下さい………すみません」
恥ずかしさから目の前の人物を直視出来なくなり、謝りながら視線を逸らした。
「楽しんで頂けたみたいで良かったです。俺も久し振りにはしゃいで楽しかった」
「それは良かったです」
「森川さんの変顔がインパクトあり過ぎて……夢に出そうです」
「わ、忘れて下さい」
思い出し笑いを堪える素振りを見せる忍足さんに、私の口元がひくつく。
「私は私でイケメン俳優がお馬に乗って楽しそうに回っている貴重な姿を拝見出来て良かったです」
お返しとばかりに言った言葉に、今度は忍足さんが苦虫を噛み潰したような顔をする。
「子供達に混ざって楽しそうでしたね」
「……忘れて下さい」
「中々様になってましたよ」
「………」
私におちょくられるのが屈辱的だったのか、忍足さんが「ともかく…」と早々に話題を変える。
「今日は、思ったより騒ぎにならず動き易かったですね」
「そうですね……もっとワーッと囲まれて揉みくちゃにされるかと…」
「そこまでの人気はないって事ですね。お互いに」
「………嫌な事言わないで下さいよ」
確かに大きな騒ぎにはならなかったけれど、写メとかバンバン撮られたし、握手を求められたりもした訳だ。
落ち目ながら十分な快挙だろうと思う。
「きっと、明日から生活に多少なり変化があると思いますよ」
忍足さん的に今日のビジネスデートに手応えを感じているらしい。
「小さくても、キッカケさえ掴めればいい……」
夕日色に染まる忍足さんの横顔。
その口元は微かに引き上がっていて自信の程を窺える。
「そのキッカケを生かすも殺すも自分次第………俺はこの売名を利用して、上を目指します」
力強く宣言する忍足さんは、私に挑発的な笑みを向ける。
「売名の恩恵は長くは続かない……どうか、それをお忘れなく。今後のご活躍を期待してます」
馬鹿にしている風ではないにしろ、嫌味っぽく聞こえてしまうのは私の心にゆとりがない所為か……
「ご忠告どうもありがとうございます。私もこの売名を利用して、再び芸人として返り咲いてみせます」
若干カチンときたけれど、お陰で私の闘志に火が着いた。
強気な私の発言に、忍足さんが「その意気です」と満足げに笑う。
「いつかドラマなりバラエティーなりで共演出来る日を楽しみしてます。本日はありがとうございました」
「あ………こちらこそありがとうございました…」
「次回の日取りは、またLINEで連絡します。お疲れ様でした」
朝待ち合わせた駅の前に到着すると、私は電車に、彼は徒歩で其々帰宅する為に背を向ける。
「じゃあ、お気を付けて」
「はい、忍足さんも」
初めは普通のカップル風に始まったデート。
最後は味気も色気もなく、ビジネス感を漂わせて終了。
何とも味気ないものだ。
余韻も何もあったもんじゃない。
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